第11号 平成22年12月21日


今年度3回目の臨床研究推進室Newsをお届けします。今回は、治験・臨床試験の責任医師としての経験も豊富で、IRB委員としても臨床研究に関与している消化器科科長の三田先生の寄稿を掲載しています。
その他の内容
■p2、3  学会、研修報告
■p4 治験のABC:臨床研究における健康被害の補償について
治験クイズ


治験と肝疾患

消化器科科長   三田 英治

 「昔 結核、今 肝炎」と言われるほど、肝炎は日本人にとって国民病とも言える疾患です。中でもC型肝炎ウイルスは日本人の150〜200万人が感染しており、その治療法の確立は急務と言えます。日本のC型肝炎の半数以上を占めるジェノタイプ1型・高ウイルス量の患者さんでは推奨治療によるウイルス排除率は50%にとどまり、それ以外の患者さんの治療効果が90%であるのに対し難治性です。この難治例に対し標準治療であるペグインターフェロン・リバビリン併用療法に加え、プロテアーゼ阻害剤など抗ウイルス剤を追加する治療法の第U・第V相試験を当院では実施しています。新薬の治験を行えることは難治患者さんにとっての福音であり、また我々医師にとっても多彩な副作用がつきものの最新治療を経験できることは大きな財産になっています。10年先には複数の経口薬だけでC型肝炎をコントロールできる時代が到来する予感を感じます。一方、B型肝炎は1986年の国の母子感染防止事業の成果でキャリアの発生は激減しています。また核酸アナログが導入され、B型慢性肝疾患はコントロール可能な時代に入りましたが、核酸アナログ多剤耐性の超難治例が報告され、新規治療薬が切望されています。現在の核酸アナログの治療効果が
良好なため、超難治患者さんの総数が日本全国でも約3000人と推定されます。そのため製薬会社主導の治験が実施されないという皮肉な問題がでてきました。これはオーファンドラッグと似た状況と言え、今後の治験行政の課題です。肝細胞癌に対する治療薬ではこの数年、分子標的治療薬の治験がさかんに行われています。重篤な副作用に比べると効果が限定的であることが周知され、あらためて癌治療・マネージメントのむずかしさを認識することになりました。 これからも肝細胞癌撲滅を目標に地道な肝炎治療を行うとともに、治験を通して肝炎制圧にむけた努力を積み重ねていきたいと思います。





 毎年、治験・CRCが関連する3つの学会に演題発表をしています。今年は、@当院の治験実施状況を継続して毎年評価している結果、A最近増加している入院での薬物濃度測定を必要とする治験での他部門との連携のあり方、BIRBでの安全性情報の審議に関して、の3つをテーマに取り上げて発表しました。当院は拠点医療機関並びとしての役割を担っており、学会での発表は注目度も高く、会場では多くの質疑応答があり活発な意見交換が行われました。


2010年10月1〜3日 ビーコンプラザ(大分県別府市) 発表者:石山薫
『治験実施状況の評価  ―治験手続きスピード、組入れスピード、実施率の全国平均値との比較―』
 当院では、治験実施状況が全国水準に達しているかどうかを検討するため、2002年度以降定期的に治験実施状況の評価を行っています。今回は2008年度に終了した12課題について、治験依頼から最後の被験者登録(LPI)までの期間と実施率をベンチマークとして、日本製薬工業協会が調査している全国の施設平均値と比較しました。
【結果】1.治験手続きスピード(依頼〜IRB,IRB〜契約,契約〜治験薬搬入)…
    2.被験者組み入れスピード(契約〜FPI(最初の被験者登録),FPI〜LPI)…
    ただし、課題により0〜305日と差が大きくあり、305日要したのは対象疾患患者が年間数例
    しかいない課題で、この課題を除く平均は79.5日で全国平均より短いことがわかりました

2010年11月26日〜27日 福岡国際会議場他(福岡県福岡市) 発表者:小野恭子
『入院による薬物動態試験実施症例のプロトコール遵守のための院内調整を経験して』
 当院では治験参加中の患者様も通常と同じように各部門の職員が対応しています。最近、薬物動態試験(頻回な薬物血中濃度測定)など、スケジュール管理が煩雑な治験が増えている傾向にあり、しばしば関連部門の精神的負担となっています。その中で正確かつスムーズに実施できるよういかに調整していくかは臨床研究コーディネーター(CRC)に求められる重要な役割であると考えています。今回入院による薬物動態試験実施症例を通して関連部門との調整のあり方を考えました。結論として、1.CRCは実施者の視点に立ち、実施者自身の行動がイメージ化できるように調整すること、2.CRCと実施者が共に確認できる体制をとることが実施者の不安感を軽減するために役立つこと 3.スタートアップ開催時期に実施部門の長と治験の進め方を打ち合わせすることが
治験実施のための適切な業務配分、人員配置につながることが明らかになりました。今後も、治験に対する関連部門の負担感や不安感、緊張感を軽減できるようにコーディネートしていきたいと思っています。


2010年12月1〜3日 国立京都国際会議場(京都府京都市) 発表者:坂本泰一
『IRBでの安全性情報の審議改善への取り組み』
 治験実施中には治験依頼者から医療機関に対し、治験薬により発現した副作用等の安全性に関する情報が国内・海外を問わず逐次報告されてきます。IRBはこれらの情報から、被験者の安全性を守るために治験継続の可否について判断を行う役割を担っています。当院ではIRB委員の方々が安全性情報について十分審議が行えるようIRB事務局でわかりやすい資料作成を工夫しています。
平成20年2月のGCP省令改正により、効能・効果等の一部変更申請のための治験においては、外国で発現した副作用情報の規制当局への報告が不要となりました。しかしその結果、従来報告されていた副作用の詳細な情報が医療機関に伝達されない場合が多くなっています。
特に未知で死亡・死亡のおそれに至った症例については、情報不足の場合も多く、効率的な審議のためには審査資料のあり方を検討していくことが必要と感じています。また、全ての重篤な副作用等を治験依頼者が6ヵ月毎に集積し、規制当局および医療機関へ伝達する定期報告が導入されました。定期報告内容は副作用の件数のみであるため、今までと比べて増えているのか減っているのかがわかりにくく、記載方法について検討していくことが必要と思われます(図1)。
今後とも、IRB委員がより理解のしやすい審査資料作成を目指したいと考えています。


『CRCであり続ける、ということ』  演者:森下典子
 某製薬企業のランチョンセミナーに出演する機会を得ました。ランチョンセミナーで話をするのは2回目ですが、聴衆の方々がお弁当を食べている姿を檀上から眺めながら話をするのはとても不思議な感じです。講演依頼は、今までの私のキャリアについて語るということでした。何をどう話そうかと発表直前まで悩みましたが、どうにか50分話終えることができました。
難しいテーマでしたが、CRCになってからの自己を振り返る良い機会ともなりました。これからも1歩1歩ステップアップしていきたいと思います。

「平成22年度GCP研修会」
    平成22年10月22日 御堂会館
          受講者:西村和雄
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)・日本薬剤師研修センター主催による研修に参加させていただきました。約500名が参加するという賑わいでした。GCP等関係法令の基本と最近の改正点、実地調査における留意点などについてPMDAの担当者計9人から1人約20分ずつ講義を受けるという研修形式で、GCP等についてあまり知識がなかった自分にとっては、最初の一歩としてよかったと思います。
 


「平成22年度 治験・臨床研究コーディネーター
               スキルアップ研修」
  平成22年10月15日〜16日 国立病院機構本部
               受講者:木島かおり
1年以上のCRC経験を有する者を対象とした本研修会に、国立病院機構の施設から34名が参加しました。製薬企業であるファイザー社が担当された講義が4つあり、医療機関に対していかにスピードを求めているかを強調されていました。症例エントリーが3か月ないと契約を打ち切られる例もあるそうです。また、データをウェブ上の報告書へ入力する早さの順位を、どこの医療機関の誰かが分かるような表にして提示されていました。実施症例数を確実に遂行し、収集されたデータを可能な限り早く報告書へ入力する努力がいっそう必要です。
治験クイズ答え:C



改正された「臨床研究に関する倫理指針」は平成21年4月1日より全面施行されています。本指針では、研究者等の責務として医薬品または医療機器を用いた介入を伴う研究を実施する場合には、あらかじめ、当該臨床研究の実施に伴い被験者に生じた健康被害の補償のために、保険その他の必要な措置を講じておくこと、補償内容について予めインフォームド・コンセントを受けることが義務付けられました。補償内容としては、既に治験において実績があると考えられる医薬品企業法務研究会(医法研)が平成11年
3月16日に公開した「医法研補償のガイドライン」程度の内容であれば問題ないと考え
られます(図1)。なお、重篤な副作用が高頻度で予想される抗がん剤等の薬剤については、補償保険の概念に必ずしもなじまない場合も想定されます。このような場合には、臨床研究で使用される薬剤の特性に応じて、補償保険に限らず医療給付等の手段を講じることにより実質的に補完できると考えられますので、実際の補償に係る方針や金銭的事項について被験者に対して予め文書により説明し、同意を得ておくことが必要です。最近では、臨床研究に関する賠償責任保険も整備がすすんできていますが(図2)、その補償範囲は限定的なものであることを理解しておく必要があります。
図1 図2



治験責任医師の責務についての記載の中で、間違っているものが1つあります。それは何番でしょう??

@治験責任医師は、当該治験に係る治験分担医師又は治験協力者が存する場合には、分担する業務の一覧表を作成しなければならない。

A治験責任医師は、治験に継続して参加するかどうかについて被験者の意思に影響を与えるものと認める情報を入手し、説明文書を改訂する必要があると認めたときは、速やかに説明文書を改訂しなければならない。

B治験依頼者が治験を依頼する場合にあっては、治験責任医師は、治験薬の副作用によると疑われる死亡その他重篤な有害事象の発生を認めたときは、直ちに実施医療機関の長に報告するとともに、治験依頼者に通知しなければならない。

C治験責任医師は、治験を終了したときは、治験依頼者にその旨及び結果の概要を文書により報告しなければならない。
アンケートご協力のお願い
 現在、治験推進室ニュースに関するアンケートを
 配布させて頂いています。回収締切りは12月27
 日(月)です。ご協力よろしくお願いします。
TV放映予定
 日時:2011年1月8日(土) 14時〜15時
 放送局:NHK教育
 TVシンポジウム
 「よい新薬が使えるように〜
       どうする?日本の治験〜」
 コーディネーター:ジャーナリスト 池上 彰氏
 出演:楠岡院長他
★治験等受託研究事務研修会
日時:2010年1月14日(金) 11:00〜16:30
 場所:大阪医療センター
編集後記
もうすぐクリスマスですね。子供の頃、プレゼントを開ける時、ドキドキ、ワクワク幸せな気分になったことを思い出します。「治験は未来へ
の贈りもの」というフレーズがあります。皆さんと一緒に最高の贈りものを患者さんのもとにお届けできるよう頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。次回のNewsは、3月に発行予定です。


発行:独立行政法人 国立病院機構
大阪医療センター 臨床研究推進室




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