循環器科
是恒之宏

 循環器疾患は癌とともに国民の健康を脅かし生命及びQOLに多大な影響を及ぼす最大の疾患群である。日本社会はグローバル化によるビッグバンに曝され、壮年層では益々ストレスが増加する一方、若年層では食生活がさらに欧米化しつつあり、循環器疾患は今後も増加の一途をたどると予想される。

虚血性心疾患
 狭心症、心筋梗塞は年々増加し、発症年令も若年化しつつあり、これら虚血性心疾患の制圧は循環器病対策の中で最も大きな課題である。
 循環器科では、24時間体制でCCUを運用し、心臓血管外科と協力して急性期虚血性心疾患の治療に最重点を置いている。
 一方、虚血性心疾患は生活習慣病の一つであり、啓蒙活動を強化することによって、発症・進行(一次予防)と再発(二次予防)を抑制することが可能であるので、今後は、心筋梗塞の二次予防のみならず、高血圧や糖尿病患者、喫煙者を対象とした健康教育の場を設け、一次予防にも積極的に取り組んでいきたい。

心原性脳塞栓の予防
 高齢者の一次予防で重要なものに心原性脳塞栓がある。心原性脳塞栓のうち約半数は非弁膜性心房細動(NVAF)が原因であり、70才以上の高齢者でNVAFが飛躍的に増加することから、この疾患群における脳梗塞の予防は極めて重要である。1998年4月より塞栓予防を目的とした「心房細動外来」を開設し、ハイリスク患者に予防的にワーファリンを使用することにより一次、二次予防に努めてきた。心房細動患者で脳梗塞、TIA(一過性脳虚血発作)の既往、高血圧、心不全の合併、経食道エコーによる左心耳内血栓検出症例にワーファリンを処方し、心房細動外来での脳硬塞年間発症率は0.6%と良好な成績を得ている。高齢者におけるワーファリン服用を支援するため、ワーファリン教室を定期的に開催し、本人および家族への教育を行っている。7年前に大阪地区で実施された前向き調査で、非弁膜症性心房細動患者722例における無投薬での脳梗塞年間発症率が4.5%であったことから、予防的なワーファリン使用の有効性がうかがえる。

重症心不全
 拡張型心筋症は難病(特定疾患)の一つであるが、循環器科では、本疾患を含む重症心不全治療を重点課題の一つとしている。本年2月に、わが国において臓器移植法施行後はじめて心臓移植が施行されたものの、レシピエントに比しドナーの絶対的不足解消は悲観的であり、今後、幸運に移植を受け得る患者は重症心不全患者のほんの一握りにすぎないであろう。現時点では、内科的に重症心不全患者をいかに安定した状態に維持するかが重要であり、ACE阻害剤はもちろん、β遮断薬療法、アミオダロン療法、カテコラミン間欠投与法などを駆使して取り組んでいる。循環器科では、重症心不全外来を開設し、重症心不全患者の系統的・専門的治療と追跡調査に科をあげて最善の努力を行っている。

根拠に基づく診療(EBM)と臨床治験
 循環器科では「電子カルテシステム」が導入され、診療記録がデータベース化されている。一方、国立病院の政策医療ネットワークにおいて、本院は「循環器病における基幹医療施設」に位置づけられ、HOSPnetを介した臨床研究(EBMに基づくガイドラインの作成など)や共同臨床治験において中心的役割を担っている。新GCPにもとづく治験も管理センターの充実により、全国国立病院でも有数の契約数となっているが、循環器科でも日本における新薬開発承認に積極的に参加することにより、社会に貢献したいと考えている。
 一方、拡張型心筋症に対するBatistaの手術、循環器病における遺伝子治療等の先進的医療については、心臓血管外科と連係をとるとともに、国立循環器病センター、大阪大学との交流を密接にして貢献できるように努めたい。

診療規範(パス法の導入)
 循環器科は、1998年より、チーム医療の円滑な実施、インフォームドコンセントの充実、狭心症診療の標準化とバラツキの縮小などに目的に置いて、狭心症患者の治療計画ガイドライン(パス法)を作成し、これに基づいて入院診療を実施している。急性心筋梗塞についても1999年よりパスを導入し、特に軽症の心筋梗塞早期退院に威力を発揮している。このパスは全国国立病院における急性心筋梗塞に関する厚生科学研究において採用され、全国の国立病院においても在院日数短縮に貢献している。

心臓病の包括医療と地域医療連係
パス法は入院期間中を対象としたプランであるが、患者・家族は、退院後の医療やケアについてのプランも与えられることを望んでいる。一次予防から退院後の社会復帰に至る包括医療のプログラムが用意され、このプログラムを役割分担する施設の連携システムが円滑に機能することが、患者を安心させるだけでなく、心臓病の予防、再発防止、治療成績の向上に寄与するであろう。今後、心臓病についての包括的医療プログラムを提案し、地域医療連携の充実を図ることが国立大阪病院循環器科の課題の一つだと考えている。安定した患者の積極的な逆紹介と急性期24時間体制での受け入れは紹介率のアップに繋がっている。

2、循環器科臨床研究
1)心房細動関連
1997年以前の循環器外来における非弁膜性心房細動患者の脳梗塞発症率と1998年以降心房細動外来における発症率との比較
ワーファリンコントロールの程度とTAT, DDの関係
右心系のもやエコーと肺塞栓
低侵襲左心耳結紮術MILAAL (Minimally Invasive Left Atrial Appendage Ligation)
ワーファリンコントロール不良例の原因検索(薬剤部)
心房細動時の冠循環
循環器学会治療ガイドライン
2) 不全関連
1) 心不全の運動療法
2) 透析心における心不全の予防と治療
3) 心機能回復の予測
dobutamine stress echo, tissue characterization, volume reduction
4) ROAD study (persantine) 阪大との共同研究
5) Milrinoneintermittent therapy 
6) Milrinoneの腎機能低下例における検討
7) アンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与方法とBNPの変化
3)狭心症関連
1) 薬物によるpreconditioning効果獲得の試み
2) flow wireによる糖尿病性微小循環障害の検出
4)心筋梗塞関連
1) OACIS study(疫学調査)阪大との共同研究
2) COAT study (adenosineの梗塞縮小効果) 阪大との共同研究
3) 全国国立病院大規模調査(厚生科学研究)

 以上、現在進行中、今後のテーマを折り込んだが、スタッフには総会、国際学会、シンポジウムにも積極的に応募を推奨。レジデントには地方会、総会、できれば3年目に国際学会がめざせるテーマを持たせる。また、症例報告も含め、研究の論文化を推進し、支援する。

【平成14年度研究業績発表】
A-0
TAKEMURA K, YASUMURA Y, HIROOKA K, HANATANI A, NAKATANI S, KOMAMURA K, YAMAGISHI M, MIYATAKE K: Low-dose amiodarone for patients with advanced heart failure who are intolerant of beta-blockers. Circ J 66: 441-4

HIROOKA K, HANATANI A, NAKATANI S, YASUMURA Y, BANDO K, MIYATAKE K, YAMAGISHI M. Huge saccular aneurysm in a coronary-pulmonary fistula fed by the left and right coronary arteries. Circ J 66: 525-7

HIROOKA K, YASUMURA Y, TSUJITA Y, HANATANI A, NAKATANI S, HORI M, MIYATAKE K, YAMAGISHI M. Enhanced Method For Predicting Left Ventricular Reverse Remodeling After Surgical Repair of Aortic Regurgitation: Application of Ultrasonic Tissue Characterization. J Am Soc Echocardiogr 15: 695-701

TSUJITA-KURODA Y, NAKATANI S, HIROOKA K, ANDOH M, NAKASONE I, YASUDA H, KANZAKI H, KAWAMURA A, HANATANI A, YASUMURA Y, YAMAGISHI M, MIYATAKE K. Bicuspid aortic valve stenosis complicated by descending aortic dissection mimicking coarctation of the aorta. J Am Soc Echocardiogr 15: 994-6

HIROOKA K, NAITO J, KORETSUNE Y, IRINO H, ABE H, ICHIKAWA M, YASUOKA Y, YAMAMOTO H, HASHIMOTO K, CHIN W, KUSUOKA H, INOUE M, HORI M. Analysis of Transmural Trends in Myocardial Integrated Backscatter in Patients with Progressive Systemic Sclerosis. J Am Soc Echocardiogr in press

A-2
市川 稔、是恒之宏:1−b.フォレスターIV型と心不全対策「改定第2版 急性心筋梗塞の呼吸・循環管理 集中治療の基礎と臨床」133-138、2002年4月

A-3
楠岡英雄、是恒之宏、井上通敏:塩酸チクロピジン投与開始時の副作用監視の実施状況ー診療支援システムを用いた検討ー。Jpn J Clin Pharmacol Ther 33:35S-36S

楠岡英雄、東堂龍平、是恒之宏、岡垣篤彦、山崎邦夫、井上通敏:長期診療支援システムの構築とその利用。BME 16:44-50

市川 稔、陳 若富、安部晴彦、入野宏昭、吉本幸子、河崎 敦、安岡良典、山元博義、廣岡慶治、橋本克次、楠岡英雄、是恒之宏、井上通敏:発作性心房細動における早期自然除細動後に発症した腎動脈血栓塞栓症の1症例。大阪ハートクラブ28(4):5-10

A-4
是恒之宏:Suggestion 治療ガイドライン。治療学36(4):387

市川稔、是恒之宏:心不全の治療 βblocker療法。呼吸と循環50:525-528

安岡良典、是恒之宏:抗凝固薬療法の意義と適応 心房細動・粗動へのアプローチ。臨床医28(6):717-719

廣岡慶治、是恒之宏:III群抗不整脈薬アミオダロンによる心不全治療「特集/心不全と不整脈。循環器科 52(7月号): 38-42

A-6
是恒之宏:シンポジウム心房細動のリスク管理 抗血栓療法。Nikkei Medical(1月号):149-151

是恒之宏:心房細動治療のトータルマネージメント(第18回日本心電学会学術集会ファイアサイドカンファレンスIII)3、脳梗塞症のマネージメント。Medical Tribune(1月31日号):23

井上通敏:平成13年度厚生科学研究健康科学総合研究成果発表会-HOSPnetを用いた急性心筋梗塞多施設共同調査研究-入院中の死亡率は12.4%。Medical Tribune(2月7日号):8

是恒之宏:医療相談室 心電図検査で「完全右脚ブロック」判明「検診で指摘されたのに治療はしなくていいと言われました。本当に治療不要ですか」。読売新聞3月11日版

植田俊夫、陳若富、是恒之宏:母国の医師と共同診察 国立大阪病院、クロアチアと遠隔実験。朝日新聞5月18日版

植田俊夫、陳若富、廣岡慶治、是恒之宏:母国の医師と共同診察 国立大阪病院、クロアチアと遠隔実験。NHKニュース5月18日放送

是恒之宏:第11回日本心血管インターベンション学術集会ランチョンセミナー ワーファリンとアスピリンをどう使うか?。Medical Tribune 11月7日号

B-2
KORETSUNE Y, CHIN W, HASHIMOTO K, HIROOKA K, YASUOKA Y, OKAZAKI T, ICHIKAWA M, KUSUOKA H, INOUE M: International normalized ratio of 1.5-2.5 with warfarin is effective and safe to prevent ischemic stroke in high risk Japanese patients with nonvalvular atrial fibrillation. The genomics revolution: Bench to bedside to community, and the 42nd annual conference on cardiovascular disease epidemiology and prevention. Honolulu Hawaii, April 2002

KORETSUNE Y, KUSUOKA H, INOUE M: The rate of silent cerebral infarction in cortical/subcortical area is three times high in patients with nonvalvular atrial fibrillation. The genomics revolution:Bench to bedside to community, and the 42nd annual conference on cardiovascular disease epidemiology and prevention. Honolulu Hawaii, April 2002

KORETSUNE Y, KUSUOKA H, INOUE M: Cost/benefit and mortality/morbidity for patients with acute myocardial infarction designed for national hospitals network (CAMPAIGN) study. International symposium on cardiovascular remodeling and function, Osaka, Oct. 2002

CHIN W, UEDA T, SADAMITSU D, KORETSUNE Y, KLAPAN I, SUGIMOTO H, INOUE M: Tele-medical Support for the Overseas Resident Compatriot between Croatia and Japan by New Telecommunication System via ISDN Line. China-Japan Medical Conference 2002, Beijing China, Nov. 2002

HIROOKA K, NAITO J, IRINO H, ABE H, ICHIKAWA M, YASUOKA Y, HASHIMOTO K, CHIN W, KUSUOKA H, KORETSUNE Y, INOUE M: Analysis of Transmural Trend of Myocardial Integrated Backscatter in Patients with Progressive Systemic Sclerosis. American Society of Echocardiography, 13th Annual Scientific Sessions, Orlando FL, June 2002

B-3
是恒之宏:ワーファリンとアスピリンをどう使うか? 虚血性心疾患と心房細動での使い分け。第11回日本心血管インターベンション学術集会ランチョンセミナー、徳島、2002年6月

是恒之宏:Treatment Strategy of Afib Patients & Future Paradigm Shift of Antithrombotic Therapy -心房細動の病態・治療と血栓塞栓予防の新戦略−。第50回日本心臓病学会イブニングカンファレンス、名古屋、2002年9月

是恒之宏:心房細動をどう管理するか:私の戦略と戦術 パネルディスカッション2。第50回日本心臓病学会、名古屋、2002年9月

B-4
中谷大作、佐藤洋、佐藤秀幸、塩谷一成、金城都博、水野裕八、菱田英二、大西洋三、藤井謙司、是恒之宏、堀正二:糖尿病を合併した急性心筋梗塞の病変枝数と院内予後。第50回日本心臓病学会、名古屋、2002年9月

HIROOKA K, YASUMURA Y, HANATANI A, YAMAGISHI M, KITAKAZE M, MIYATAKE K: Carvedilol Treatment Prevents the Attenuation of Left Ventricular Contractile Response to Dobutamine in Patients with Dilated Cardiomyopathy. 第66回日本循環器学会学術総会、札幌、2003年4月

B-6
廣岡慶治:重症慢性心不全に対する間欠的ミルリノン療法。臨床研究会心臓部会総会、2002年3月

入野宏昭、吉本幸子、安部晴彦、市川稔、岡崎太郎、安岡良典、山元博義、廣岡慶治、橋本克次、陳若富、是恒之宏:心原発心膜悪性中皮腫の1症例:剖検を含めた 検討。第167回日本内科学会近畿地方会、大阪、2002年6月

入野宏昭、廣岡慶治、安部晴彦、市川稔、安岡良典、橋本克次、陳若富、是恒之宏、井上通敏、楠岡英雄:上・下大静脈にフィルターを留置した肺動脈血栓塞栓 症例の検討。第93回日本循環器学会近畿地方会、滋賀、2002年6月

安部晴彦、入野宏昭、市川稔、安岡良典、廣岡慶治、橋本克次、陳若富、楠岡英雄、是恒之宏、井上通敏:アミオダロンからβ遮断薬への移行により心機能が著明改 善した拡張型心筋症の1症例。第93回日本循環器学会近畿地方会、滋賀、2002年6月

藤原美都、金子晃、山中ゆか、西山彩子、阪森亮太郎、清水健太郎、里美絵里子、西村善也、道田知樹、結城暢一、山本佳司、加藤道夫、池田昌弘、是恒之宏、倉田明彦:胆嚢癌の治療中、仮性心室瘤を認めた一症例。第168回日本内科学会近畿地方会、大阪、2002年9月

安部晴彦、入野宏昭、市川稔、安岡良典、廣岡慶治、橋本克次、陳若富、楠岡英雄、是恒之宏、井上通敏:アドリアマイシン心筋症に対するβ遮断薬の効果−著明改善例から学ぶこと−。第94回日本循環器学会近畿地方会、大阪、2002年12月

市川 稔、陳 若富、安部晴彦、入野宏昭、吉本幸子、安岡良典、山元博義、廣岡慶治、橋本克次、楠岡英雄、是恒之宏:発作性心房細動における早期自然除細動後に発症した腎動脈血栓塞栓症の1症例。第20回近畿心血管イメージング研究会、大阪、2003年11月

市川 稔、陳 若富、安部晴彦、入野宏昭、吉本幸子、河崎 敦、安岡良典、山元博義、廣岡慶治、橋本克次、楠岡英雄、是恒之宏、井上通敏:発作性心房細動における早期自然除細動後に発症した腎動脈血栓塞栓症の1症例。日本循環器学会近畿地方会 第94回学術集会、大阪、平成2003年12月

B-8
是恒之宏:ACLS講習会。大阪、2002年11月