免疫感染症科
白阪琢磨
 

平成9年4月に当院が近畿ブロックのエイズ診療におけるブロック拠点病院に選定され、エイズを専門に診療するグループとして総合内科内に免疫感染症グループが新設された。平成13年4月には独立した診療科として免疫感染症科が誕生し、主にHIV感染症、免疫性疾患、感染症の診療を行っている。ただ、当院は感染症指定医療機関ではないので、感染症法に定める第一類、第二類感染症の診療は行わないし、排菌のある活動性肺結核症も診療対象ではない。
 当院を受診した新規HIV感染者、AIDS患者数は平成8年度まで4名、平成9年度53名、平成10年度56名、平成11年度59名、平成12年度62名、平成13年度90名、平成14年度96名、平成15年104名(平成15年12月末日)で累積患者数は500名を超えた。年齢別では30代が最多、20代、40代が多い、性別では9割が男性であった。一日平均患者数も平成9年度以降、1.9人、4.6人、7.0人、9.4人、12.2人、13.1人と上昇を続け、年間延べ患者数も平成14年度は3000人を超えた。この外来受診患者数の増加傾向は、30日を超えた処方が可能となってからも続いており、新規患者数も毎週2人前後が紹介されている。HIV感染症は早期に発見されれば抗HIV療法の適切な継続実施によって、慢性疾患として捉えられる様になり、患者数増に対応するには外来機能の充実が重要である。当院では早くから外来看護師のコ?ディネ?タ?機能の充実をはかり、昨年度からはエイズ専任コーディネーターナースが配置された。服薬は外来のHIV診療の要であるので、当院では薬剤師による外来での服薬相談を早くから実施してきた。さらに、以前はプライバシーの観点から抗HIV薬は院内処方のみであったが院外薬局の理解と努力によって院外処方も実現している。患者は病気になった事によって心理的、社会的、経済的支援を必要とするケースが多いが、エイズにおいては社会的偏見や差別が他疾患より根強く残っており、これらの支援のニーズは高いので、病院の通常の診療機能に加えて心理的、社会的、経済的支援がいっそう必要である。当院では関係各位のご理解とご協力を得られ、カウンセラー、情報担当官、MSWが配置され、支援にあたっている。コーディネータ?ナースは文字通り患者の診療、院内外支援のコーディネートの核として機能している。
 平成9年4月1日から平成15年12月31日までに442名のHIV感染症患者が入院した。診療科は免疫感染症科(総合内科)がほとんどであるが消化器科、産婦人科、外科など10科におよんだ。平成9年当初は全科対応の考えから院内の6病棟に感染症病床を7床整備し対応してきたが、HIV感染症治療、ケアの専門化、患者数の増加から、内科系の一病棟に感染症病床の集中化を行うこととなり、当該病棟のエイズ看護の専門化も進められている。これまでに入院した理由として、AIDS発症は92名であった。その他、抗HIV剤の導入や変更での入院が350名であった。年齢では30代が最多(39.1%)で、20代(29.8%)、40代、50代が続いた。退院患者437名の中で18名が死亡退院だった。平均在院日数は平成15年の1年間で36.0日であった。
 HIV感染症は全身疾患であり全科対応が原則であるが、HIV感染症の診断や治療などの診療を主に行う科として当科が誕生した経緯があり、これまではHIV感染症を中心に診療を行ってきた。院内でも全科の協力を頂けた。臨床検査科では国内でもいち早く薬剤耐性検査を立ち上げ、薬剤の選択や変更に大きな威力を発揮したし、薬剤科では薬剤の血中濃度測定により適切な服用を選択できるなど、近畿ブロック拠点病院である当院のHIV診療は全国でも有数のレベルを維持してきた。
 さて、国内で毎年千人近いHIV感染者、AIDS患者が報告され、今後も新規患者数は増加を続けると考えられる。2010年に国内の有病者数が5万人になるとの推定がある。潜伏期間が5年〜10年であるので、早期に発見されなければ2020年頃には5万人近くがAIDSを発症し医療機関を訪れると予想される。近畿の感染症患者は全国の概ね15%、大阪府が概ね5?6%であるので、この予測は2020年頃には近畿で7500人、大阪府で2500〜3000人がAIDSを発症し医療機関を受診する事を意味する。今後もエイズ診療の充実・整備が必要と考えられる。診療を担う医師について見ると、国内の医学系大学には感染症の講座が少なく、感染症を専門とする医師も少ないので、HIV感染症など感染症専門若手医師の育成が急がれる。HIV感染症は病期によって様々な免疫不全症状を呈し、種々の日和見感染症、日和見悪性腫瘍を合併する。HIV感染症は免疫不全症あるいは感染症全般の診療経験を深めるに格好の場である。当科でも診療の充実・整備に加え、今後、感染症の後期研修の場として充実をはかりたいと考える。
 今後、当科はHIV感染症のみならず、一般の感染症、免疫疾患を対象に、診療、教育、研究そして情報発信を行っていきたい。とりわけ、HIV感染症については、近畿のみならず、わが国にとっても深刻な病期となっていくと予想せざるを得ず、当院は近畿を中心に西日本のエイズセンターとしての機能を充実、整備していく必要があると考えられ、当科はその中心的役割を担っていきたい。

【平成15年度研究業績発表】
A-0
YAMAMOTO Y, TERUYA K, KATANO H, NIINO H, YASUOKA A , KIMURA S, OKA S. Rapidly Progressive Human Herpesvirus 8-associated Solid Anaplastic Lymphoma in a Patient with AIDS − Associated Kaposi Sarcoma, Leukemia & Lymphoma 44(9):1631-1633

A-4
白阪琢磨:後天性免疫不全症候群。総合臨床52:1066-1072

上平朝子、白阪琢磨:AIDSの日和見感染症。総合臨床52:1954-1960

白阪琢磨:HIV感染症/AIDS。大阪府医師会医学会雑誌37(2):20-27

白阪琢磨:HIVの薬剤耐性検査の考え方とその利用について。感染症33(4):13-18

白阪琢磨:HIV感染症の治療法の変遷。Medical Science Digest30(1):10-13

佐藤功、伊藤俊広、岡慎一、田沼順子、永井英明、山中俊郎、白阪琢磨、山本政弘:HIV感染症に合併するSTD。Progress in Medicine23(9):59-64

B-1
白阪琢磨:日本のHIV 医療体制整備の歴史、現状と課題について。麻薬とエイズの国際会議、アルゼンティン、2003年10月

B-3
白阪琢磨:HAARTにおける初回療法の組み合わせ。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

白阪琢磨:性感染症エイズの実情と予防。日本性教育学会第31回全国研究大会、大阪、2003年3月

B-4
上平朝子、藤純一郎、上田千里、織田幸子、白阪琢磨:当院受診患者におけるHIV感染者の診断動機の検討。第77回日本感染症学会総会学術集会、福岡、2003年4月

上田千里、木本美和、上平朝子、藤純一郎、大谷成人、織田幸子、白阪琢磨:HIV感染者におけるサイトカイン算出の検討。第77回日本感染症学会総会学術集会、福岡、2003年4月

木本美和、上田千里、上平朝子、藤純一郎、小田原史知、白阪琢磨:超高度逆転写酵素活性測定キットを用いた抗HIV薬剤感受性検査の検討。第77回日本感染症学会総会学術集会、福岡、2003年4月

白阪琢磨、日笠聡、岡慎一、川戸美由紀、山口拓洋、吉崎和幸、木村哲、福武勝幸、橋本修二:血液製剤によるHIV感染者の調査成績 第一報 CD4値,HIV-RNA量と治療の現状と推移。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

川戸美由紀、橋本修二、山口拓洋、岡慎一、吉崎和幸、木村哲、福武勝幸、日笠聡、白阪琢磨:血液製剤によるHIV感染者の調査成績 第二報 AIDS発病とCD4値、HIV-RNA量、抗HIV治療と関連性。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

永泉圭子、山元泰之、青木眞、味澤篤、岡慎一、木村哲、白阪琢磨、高田昇、花房秀次、三間屋純一、松宮輝彦、福江英尚、福武勝幸:国内未承諾エイズ治療等を用いたHIV感染症治療薬及びHIV感染症至的治療法の開発に係る応用研究。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

小田原史知、河野武弘、木本美和、今村茂行、白阪琢磨、佐野浩一:超高感度逆転写酵素活性測定法を用いたHIV感染者血漿中の逆転写酵素活性。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

高濱宗一郎、谷岡理恵、上田千里、上平朝子、白阪琢磨:右心房内腫瘤をきっかけにHIV感染が明らかとなった一例。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

古金秀樹、安尾利彦、織田幸子、桑原健、白阪琢磨:近畿ブロックHIVカウンセリング研究会終了後のアンケート調査実施と今後の方向性。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

安尾利彦、白阪琢磨、織田幸子:自殺念慮及び抗HIV薬開始への強い躊躇を示したHIV感染者殿カウンセリング課程−「生きていてはいけない」から「生きるためなら死んでもいい」への心の変容。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

上平朝子、吉野宗宏、高濱宗一郎、森正彦、谷岡理恵、長谷川善一、下司有加、織田幸子、上田千里、白阪琢磨:当院における免疫再構築症例についての検討。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

常見幸、徳川多津子、澤田暁宏、長谷川善一、角田ちぬよ、丸茂幹雄、日笠聡、末廣謙、難波光義、垣下榮三:HAART開始後に複数の自己免疫疾患を発症したHIV陽性血友病Bの一症例。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

谷岡理恵、上平朝子、森正彦、長谷川善一、上田千里、白阪琢磨:Central pontine myelinolysisを認めたHIV感染症の一例。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

山中晃、青木眞、味澤篤、岡慎一、木村哲、白阪琢磨、高田昇、花房秀次、三間屋純一、佐々木昭仁、永泉圭子、山元泰之、西田恭治、福武勝幸:HIV陽性C型慢性肝炎血友病患者に対するインターフェロンα-2bリバビリン併用療法の中間経過報告(厚生労働省エイズ治療薬研究班治療研究)。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

上田千里、木本美和、上平朝子、森正彦、谷岡理恵、白阪琢磨:HIV感染症患者におけるG型肝炎ウイルス重複感染の影響。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

澤田暁宏、末廣謙、徳川多津子、常見幸、長谷川善一、角田ちぬよ、丸茂幹雄、日笠聡、垣下榮三:難治性腹水、再発性食道静脈瘤に対し経静脈的肝内門脈肝静脈短絡術が奏功したHIV/HCV重複感染肝硬変合併血友病Bの1症例。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

常見幸、日笠聡、木本美和、白阪琢磨、垣下榮三:HIV感染者におけるTh1、Th2、CD4+CD25+制御性T細胞の解析。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

桑原健、吉野宗宏、井門敬子、畝井浩子、工藤正樹、榊原則寛、下川千賀子、小林雅子、寺門浩之、長岡宏一、白阪琢磨:抗HIV薬の副作用に関するアンケート調査結果。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

西田恭治、福武勝幸、青木眞、味澤篤、岡慎一、木村哲、白阪琢磨、高田昇、花房秀次、三間屋純一、福江英尚、山元泰之:新しい抗HIV薬Viresd(tenofovir)による治療研究の経過報告(厚生労働省エイズ治療薬研究班治療研究)。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

吉野宗宏、永井聡子、桑原健、下司有加、織田幸子、谷岡理恵、森正彦、長谷川善一、上田千里、上平朝子、白阪琢磨:初回療法におけるABCとEFVの使用成績。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

織田幸子、下司有加、繁浦洋子、上平朝子、白阪琢磨、榎本てるこ、青木理恵子:当院受診外国人患者の抱える問題への対応と課題(HIV-NGO・NPOとの連携を通じて)。第17回日本エイズ学会学術集会・総会、神戸、2003年11月

下司有加、織田幸子、大平仁子、繁浦洋子、上平朝子、白阪琢磨:社会的環境を整備しながら在宅支援導入に至った1症例。第58回国立病院療養所総合医学会、札幌、2003年10月

上平朝子:当院カリニ肺炎症例についての検討。第58回国立病院療養所総合医学会、札幌、2003年11月

B-8
白阪琢磨:HIV感染症/エイズ診療の最前線。HIV等感染予防講習会、大阪、2003年1月

白阪琢磨:HIV感染症/エイズ診療の最前線。関西労災病院エイズ院内研修会、兵庫、2003年1月

白阪琢磨:高校生の生と性〜学校・家庭・地域でエイズ教育をどう進めるか〜。エイズ教育(性教育)に関する講演会、大阪、2003年2月

白阪琢磨:HIV感染治療の現状。国立京都病院附属看護助産学校特別講義、京都、2003年2月

白阪琢磨:HIV感染症/エイズ診療の最前線。宝塚市立病院エイズ診療に関する院内研修、兵庫、2003年2月

白阪琢磨:HIV診療の現状と職場におけるHIV感染症対策について。平成14年度HIV感染症に関する研修会、大阪、2003年3月

白阪琢磨:HIV感染症。関西学院講演会、兵庫、2003年5月

白阪琢磨:HIV感染症 治療・診療の基礎知識。国立療養所千石荘病院特別講義、大阪、2003年5月

白阪琢磨:HIV感染症/エイズ診療の最前線。西陣地区医師勉強会、京都、2003年6月

白阪琢磨:HIV感染者の外来管理。大阪STI研究会、大阪、2003年7月

白阪琢磨:HIV感染と人権。教職員人権教育研修会、大阪、2003年7月

白阪琢磨:HIV/AIDSに関する基礎知識について。茨木市立忍頂寺小学校性教育学習、大阪、2003年7月

白阪琢磨:HIVとエイズ。茨木市立北陵中学校HIVとエイズ学習、大阪、2003年7月

白阪琢磨:HIV、エイズについて。大阪府立羽曳野病院院内感染防止勉強会、大阪、2003年7月

白阪琢磨:HIV感染症/エイズ診療の最前線。国保日高総合病院院内感染予防研修会、和歌山、2003年7月

白阪琢磨:HIV/AIDSについて。茨木市立忍頂寺小学校院内研修、大阪、2003年7月

白阪琢磨:HIV感染症の診療について。第29回O.I.D.CONFERENCE、大阪、2003年9月

白阪琢磨:エイズの最新治療と課題。エイズカウンセリング研修、大阪、2003年10月

白阪琢磨:HIV感染症の治療について。社内勉強会、大阪、2003年10月

白阪琢磨:HIVの基礎知識と院内感染対策。社団法人明石医師会立明石医療センター講演会、兵庫、2003年10月

白阪琢磨:症状マネジメント AIDS患者の緩和ケア。社団法人日本看護協会緩和ケアナース養成研修、兵庫、2003年10月

白阪琢磨:抗HIV薬の副作用と治療薬の変更。学術講演会、大阪、2003年11月

白阪琢磨:新興感染症−エイズとSARS。地域医療講演会、京都、2003年11月

白阪琢磨、森正彦:化学療法とエイズ。平成15年度HIV/AIDS対策モデルコース、大阪、2003年11月

白阪琢磨:SARS流行の現状と対策。第4回医療セミナーinわかやま、和歌山、2003年11月

白阪琢磨:「HIV」に関連した感染管理について。国立奈良病院院内感染防止講演会、奈良、2003年11月

白阪琢磨:エイズと地域医療活動について。大阪府立看護大学、大阪、2003年12月

白阪琢磨:HIVエイズと青少年の性行動、エイズ教育(性教育)の現状とそこから見えてくるもの。青健協大会・シンポジウム、大阪、2003年12月

B-9
白阪琢磨:感染症の諸注意。KBSラジオ番組「京都医療ウォッチング」、2003年8月7日・14日・21日・28日放送

白阪琢磨:SARSに備える。読売テレビ放送ニューススクランブル、2003年12月