耳鼻咽喉科

川上理郎

従来の臨床耳鼻咽喉科学は、額帯反射鏡を用いた聴器・鼻副鼻腔・咽頭・喉頸などの視診

による器箕的疾患の診断学から始まっており、その治療学も、額帯反射鏡下の炎症性疾患

の外科的治療が主な地位を占めていた.しかしながら近年の日本の疾病構造の変化による炎症性疾患の減少とともに、急速な高齢化や依然とした高頻度喫煙が原因となり、頭頚部外科学と称される、喉頭癌・口腔癌・中咽頭癌・下咽頭癌などの頸頚部癌の臨床が重要となっている.また最近の内視鏡や手術用顕微鏡のめざましい進歩と時を同じくして、聴覚障害・嗅覚障害・味覚障害・睡眠時呼吸障害(いびき)など、感覚器に対する機能改善医学や、音声言語障害など音声コミュニケーション障害に対する改善医学が社会的にも求められてきている.

国立大阪医療センター耳鼻咽喉科では、耳鼻咽喉科の象徴であった額帯反射鏡に頼った臨床から脱却して、各種の硬性および軟性の内視鏡と手術用顕微鏡を積極的に活用し、それらに最新のAV機器とレーザーやシェーバー、ナビゲーションシステムなどを併用することにより、肉眼のみでは対応が不可能な微細な異常所見に対する他覚的かつ定量的な診療をめざしている.臨床面では、頭頚部悪性腫瘍疾恵を対象とした頸頚部外科学に主力を置いているが、その術後治療成績の向上をめざすだけでなく、外科、形成外科、放射線科などとチーム医療を行うことにより、各症例に応じた術後のQOLの改善に力をいれている.

また、耳鼻咽喉科特有の聴覚や平衡機能から音声機能までの、視覚を除いた主な感覚器に

対する機能改善医学にも力を注いでいる.現在重点を置いて検討している臨床の研究テーマは頭頸部腫瘍の術前リンパ節転移診断で、超音波断層検査と穿刺吸引細胞診を用いて頸部郭清術で摘出したリンパ節の病理学的検討結果と照合することによりその限界を明らかにすべく努力している。

嚥下障害に対しては輪状咽頭筋切断術、喉頭挙上術、喉頭気管分離術などを行うにとどまらずレジデントの二村医師を中心にNSTにも積極的に関与し貢献している。

 

【将来展望】

炎症性疾患患者数の減少と頭頸部腫瘍症例数の増加

我々の場合、入院患者はほぼ全員手術患者であり、手術件数が患者数に直結するわけであるが、近年、癌などの重症症例および難易度の高い手術が増加しているため、副鼻腔炎、喉頭ポリープ、慢性扁桃炎などの良性疾患を今までのようにこなすことが困難になってきている。しかし、頭頸部腫瘍手術を良性疾患手術と並行してこなせるだけのマンパワーも手術枠も今のところない。また、頭頸部腫瘍の術後は慢性炎症などの良性疾患に比較し、はるかに「手がかかる」ため、入院患者数、手術件数自体は減少しているにもかかわらず、スタッフ、レジデントとも病棟での仕事量自体は逆にかなり増加している。その中でもナビゲーション下の副鼻腔手術、嚥下改善手術、誤嚥防止手術、音声外科手術など耳鼻咽喉科としての専門性の高い手術も行えるよう努力している。以前に比べても全体としてはバランスの取れた国立病院にふさわしい高度な臨床が実現できつつあると確信している。

【平成18年度の耳鼻咽喉科スタッフ】

耳鼻咽喉科医長:川上理郎(日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本気管食道科学会認定医)

耳鼻咽喉科医員:寺田哲也(日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本アレルギー学会専門医)

 

【平成18年度耳鼻咽喉科退院実績】

 退院患者数:耳鼻科の入退院患者数は手術件数に大きく依存しており、手術の重症化に伴う手術件数の減少を受け、退院患者数は減少すると思われる。

 

【平成18年度耳鼻咽喉科手術実績】

総手術件数:359

頭頸部腫瘍症例:129

甲状腺腫瘍症例:21

唾液腺腫瘍症例:20

慢性副鼻腔炎症例:61

鼻中隔湾曲症症例:23

慢性扁桃炎症例:29

音声外科症例:51

先に述べたように耳鼻咽喉科の手術症例は高度化、重症化しており、今後、ここ数年のように年間300例を確保し続けることは現状の常勤医2名体制のもとでは困難と思われる。

 

【2006年1月〜3月研究発表業績】

吉村勝弘、林伊吹、林歩、川上理郎、牟田弘:篩骨洞結石の1例。耳咽頭頸78:317-319.2006

 

林伊吹川上理郎西川周治櫟原崇宏、吉村勝弘:Ejnell法をおこなった最近の3症例。21回西日本音声外科研究会、吹田、20061

 

西川周治川上理郎櫟原崇宏林伊吹:転移性扁桃腺癌の1例。16回日本頭頸部外科学会、久留米、20061

 

林伊吹川上理郎西川周治櫟原崇宏長谷川恵子、吉村勝弘:耳下腺腫瘍手術症例の検討。16回日本頭頚部外科学会、久留米、20061

 

林伊吹:手術手技−手術書に書いていないコツ−誤嚥改善手術。17回北摂頭頚部腫瘍懇話会、高槻、20062

 

櫟原崇宏:症例検討 原発不明癌の1例。17回北摂頭頚部腫瘍懇話会20062

 

西川周治:症例検討 診断に難渋した頸部腫瘤の1例。17回北摂頭頸部腫瘍懇話会、高槻、20062

 

林伊吹西川周治櫟原崇宏長谷川恵子川上理郎:当科における耳下腺腫瘍の術前診断と術後合併症の検討。296回日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会例会、大阪、20063

 

櫟原崇宏林伊吹西川周治長谷川恵子川上理郎:特異な経過を示した原発不明癌の1例。296回日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会、大阪、20063

 

【2006年度研究発表業績】

A-0

KAWAKAMI M, HAYASHI I, YOSHIMURA K, ICHIHARA K, NISHIKAWA S, ICHIHARA TAdult giant hemangioma of the larynx: A case report. フォームの始まりAuris Nasus Larynx, Volume 33, Issue 4, Pages 479-482

 

TERADA T, ZHANG K, BELPERIO J, LONDHE V, SAXON AA chimeric human-cat Fcgamma-Fel d1 fusion protein inhibits systemic, pulmonary, and cutaneous allergic reactivity to intratracheal challenge in mice sensitized to Fel d1, the major cat allergen. Clin Immunol. 2006 Jul;120(1):45-56. Epub 2006 Feb 13.

 

TERADA TNew therapeutic strategies: a chimeric human-cat fusion protein inhibits allergic reactivity. Clin Exp allergy Reviews, 6, 96-100, 2006

 

TERADA T, KAWATA R, HIGASHINO M, TUJI M, TAKENAKA HSudden dysphonia due to spontaneous bleeding in secondary parathyroid hyperplasia. Archives of Otolaryngology - Head and Neck Surgery (in press), 2006

 

A-2

寺田哲也、竹中洋:「鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症」についての話題(Current Review1013頁,メディカルレビュー社,2006

 

寺田哲也、竹中洋:小児アレルギーシリーズ 花粉症と周辺アレルギー疾患「ARIAガイドラインによる診断と治療」 3136頁,株式会社診断と治療社,2006.

 

寺田哲也小児アレルギーシリーズ 花粉症と周辺アレルギー疾患「I型アレルギーに対する予防と治療」178179頁,株式会社診断と治療社,2006.

 

A-3

フォームの終わり

荒木南都子、河田了、李昊哲、寺田哲也、竹中洋:口腔癌73症例の臨床的検討-頸部リンパ節転移の診断と治療を中心に-耳鼻臨床9919-24.2006

 

東野正明、河田了、林歩、寺田哲也、竹中洋:外歯瘻症例-顔面神経下顎縁枝の保護-耳鼻臨床99291-294.2006

林伊吹、川上理郎、西川周治、吉村勝弘、林歩、櫟原健吾、清川裕美転移性喉頭腫瘍の2耳鼻臨床99305-311.2006

 

吉村勝弘、河田了、辻雄一郎、李昊哲、寺田哲也、竹中洋:良性疾患に対する顎下腺摘出術における顔面神経下顎縁枝の処理法。耳鼻臨床99653-656.2006

 

吉村勝弘、林伊吹、林歩、川上理郎、牟田弘篩骨洞結石の1耳喉頭頸78317-319.2006

 

辻雄一郎、河田了、吉村勝弘、李昊哲、寺田哲也、竹中洋:耳下腺ワルチン腫瘍54症例の臨床的検討。耳喉頭頸78777-781.2006

 

寺田哲也、竹中洋キメラ蛋白を用いた新しい免疫療法マウス喘息モデルを用いての検討日本鼻科学会会誌 vol. 45 No1, 90-92, 2006

 

寺田哲也キメラ蛋白を用いた新しい免疫療法に関する検討 大阪医科大学雑誌 65 (2)71-73, 2006

 

A-4

川上理郎、林伊吹:DiGeorge症候群。耳喉頭頸78(増):94.2006

 

川上理郎、林伊吹Donohue症候群。耳喉頭頸78(増):95.2006


B-2

HONDA T, TERADA T, NAKAGAWA T, OZAWA K, TANAKA K, TAKENAKA HThe relationship between Japanese cedar pollinosis and expression of mRNA for IL-13 and FceRIa in peripheral blood among schoolchildren in Japan

ITO K, TERADA T, YUKI A, HYO S, TAKENAKA HEffect of ramatroban, a thromboxane A2 antagonist, in the treatment ofseasonal allergic rhinitis conducted in allergen challenge chamber

The 11th Asian Research Symposium in Rhinology, Seoul, Korea, 2006, December

B-4

林伊吹、川上理郎、西川周治、櫟原崇宏、牟田弘:神経筋疾患患者に対する喉頭気管分離術。

18回日本喉頭科学会、熊本市、20064

 

東川雅彦、伊藤加奈子、二村吉継、兵佐和子、河田了、竹中洋:喉頭肉芽腫の免疫組織学的検討−発症背景による違いについて。18回日本喉頭科学会、熊本市、20064

 

二村吉継、森禎章、乾崇樹、高巻京子、荒木倫利、竹中洋、窪田隆裕:蝸牛内直流電位に対するCO2/HCO3の影響。107回日本耳鼻咽喉科学会総会、東京、20065

寺田哲也、河田了、吉村勝弘、辻雄一郎、荒木南都子、李昊哲、竹中洋:口腔癌73症例の臨床的検討。107回日本耳鼻咽喉科学会総会、東京都、20065

 

寺田哲也、河田了、吉村勝弘、辻雄一郎、竹中洋:当科における下咽頭癌症例の検討。30回日本頭頸部癌学会、大阪市、20066

 

櫟原崇宏川上理郎長谷川恵子二村吉継、西川周治、林伊吹:両側性鼻腔良性腫瘍の1例。45回日本鼻科学会、四日市市、20069

 

TERADA T, TAKENAKA HNew therapeutic strategies, a chimeric human-cat fusion protein inhibits allergic reactivity. 45回日本鼻科学会、四日市市、20069

 

鈴木学、寺田哲也、高巻京子、萩森伸一、竹中洋:突発性難聴が患者のQOLに及ぼす影響。 51回日本聴覚医学会、山形市、20069

 

長谷川恵子川上理郎、西川周治、櫟原崇宏二村吉継、林伊吹:原発不明頸部乳頭癌の158回日本気管食道科学会、札幌市、200610

 

寺田哲也、竹中洋:キメラ蛋白を用いた新しい免疫療法。56回日本アレルギー学会総会、東京、200611

 

寺田哲也、河田了、西川周治、吉村勝弘、李 昊哲、竹中洋:大阪医科大学における中咽頭癌症例の臨床的検討。17回日本頭頸部外科学会総会、松江市、20072

 

李昊哲、河田了、西川周治、吉村勝弘、寺田哲也、竹中洋:甲状腺乳頭癌の頸部リンパ節転移様式に関する検討。17回日本頭頸部外科学会総会、松江市、20072

 

吉村勝弘、河田了、西川周治、伊藤加奈子、高巻京子、李昊哲、寺田哲也、竹中洋:二次性副甲状腺機能亢進症35症例の臨床的検討。17回日本頭頸部外科学会総会、松江市、20072

 

河田了、西川周治、吉村勝弘、李昊哲、寺田哲也、竹中洋:耳下腺手術における顔面神経の同定と保護法の工夫。17回日本頭頸部外科学会総会、松江市、20072

 

B-6

櫟原崇宏川上理郎長谷川恵子二村吉継、西川周治、林伊吹:鼻腔良性腫瘍の1例。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第297回例会、大阪市、20066

 

鈴木学、寺田哲也、高巻京子、萩森伸一、竹中洋:突発性難聴が患者のQOLに及ぼす影響。

日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第297回例会、大阪市、20076

川上理郎:気管切開術(How do I it)-大阪医療センターの場合-18回北摂頭頸部腫瘍懇話会、高槻市、20069

 

寺田哲也:気管切開術(How do I it)-大阪医大耳鼻科の場合-18回北摂頭頸部腫瘍懇話会、高槻市、20069

 

二村吉継:中咽頭癌(前壁型)の1例。18回北摂頭頸部腫瘍懇話会、高槻市、20069

 

長谷川恵子川上理郎櫟原崇宏二村吉継:鼻腔悪性腫瘍の1例。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第298回例会、大阪市、20069

 

伊藤加奈子、寺田哲也、柚木歩、兵佐和子、竹中洋:当科におけるアレルギー性鼻炎に対する減感作療法。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第298回例会、大阪市、20069

 

二村吉継:蝸牛内直流電位に対する炭酸、重炭酸イオンの影響とカルシウムイオンの役割(基礎学術講演)。平成18年度大阪医科大学耳鼻咽喉科学教室同門会八交会学術講演会、高槻市、200610

 

川上理郎:大阪医療センターにおける頭頸部腫瘍診療(特別講演)。平成18年度大阪医科大学耳鼻咽喉科学教室同門会八交会学術講演会、高槻市、200610

 

寺田哲也:鼻アレルギー臨床研究における最近の話題。大阪アレルギー性鼻炎フォーラム2006、大阪市、200612

 

寺田哲也、竹中洋:スギ花粉飛散量と抹消血中IL-13FcεRIαRNA発現についての検討効評価。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第299回例会、大阪市、200612

 

伊藤加奈子、兵佐和子、竹中洋、寺田哲也、柚木歩:花粉暴露室を用いたラマトロバンの薬効評価。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第299回例会、大阪市、200612

 

西川周治、吉村勝弘、李昊哲、河田了、竹中洋、寺田哲也:大阪医大耳鼻咽喉科における口腔癌の臨床的検討。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第299回例会、大阪市、200612

 

長谷川恵子川上理郎二村吉継寺田哲也:耳下腺筋上皮癌の一例。日本耳鼻咽喉科学会大阪地方連合会第300回例会、大阪市、20073