臨床研究部

部長 是恒之宏

 

平成17年度より国立病院機構内で新たな研究業績評価が開始されたが、当院は平成17年度1位、平成18年度2位を獲得した(翌年度に前年度の評価を行なうため平成19年度には18年度の結果が示される)。この業績評価は、治験、臨床研究プロトコール作成、特許の取得、競争的研究費の獲得、論文著書、国内外の学会発表などの総合力で分析される。日常臨床が多忙を極める中で、治験を含めた臨床研究への積極的な大阪医療センターの取り組みが評価されたものと考える。平成16年より研究室の構成ならびに室長は変更がないが、文部科研に応募を希望する医師については、併任発令を行い、これに対応した。また、院内の多くの医師が臨床研究に携わっていること、本部からの研究助成金を研究業績に応じて一部分配することにより研究推進を図る目的で、平成18年度より医長以上の併任、英文論文筆頭著者併任をおこなうこととした。

平成19年度の構成は以下のとおりである。

 

 

政策医療基盤技術開発研究室 山崎麻美部長(併任:先進医療部長、統括診療部長)

                                             森内秀祐医長(併任:脳神経外科科長)

                                             正札智子専任研究員

免疫感染症研究室           白阪琢磨部長(併任:HIVAIDS先端医療開発研究センター長)                                                  山本善彦専任医員

                                        牧江俊雄医員、渡邊大医員(併任:免疫感染症科医員)

                                        伊東宏晃医長(併任:産婦人科医長)

医療情報研究室             楠岡英雄院長(併任)

                                         岡垣篤彦医長(併任:産科医長)

                                         三木秀宣医員(併任:整形外科医員)

                                         宮本隆司医員(併任:整形外科医員)

分子医療研究室             中森正二部長(併任:がんセンター情報管理部長)

                                         辻仲利政科長(併任:外科部長)

                                         増田慎三医員、石飛真人医員、宮本敦史医員(併任:外科医員)

黒川幸典医員(併任:外科医員)

                                         山崎秀哉医長(併任:放射線科医長)

                                         吉田謙医員(併任:放射線科医員)

                                         上田孝文医長(併任:整形外科科長)

                                         真能正幸部長(併任:医療技術部長)

臨床疫学研究室             是恒之宏臨床研究部長(併任)

                                         定光大海部長(併任:総合救急部長)

                           

 

臨床研究部長の下では、循環器疾患のEBM確立のための大規模調査研究、病態生理学的研究、オーダーメイド実現化プロジェクト、核医学の臨床的研究、ならびに治験管理センターに関する業務、受託研究審査に関する業務、病院情報システムの機能拡張に関する活動がなされている。また、各研究室において、ガン・先天性水頭症などの分子生物学的研究、神経幹細胞を用いた再生医療の基礎研究、幹細胞バンク事業、HIV感染症に対する総合医療的研究、循環器診療のアウトカム評価研究が行なわれている。

 臨床研究部において実施した大型多施設共同研究としては、国立病院機構が行なうEBM推進のための大規模臨床研究による「心房細動による心原性脳梗塞予防における抗血栓療法の実態調査」(主任研究者:是恒之宏)、「急性心筋梗塞全国悉皆調査による臨床評価指標とその評価(主任研究者:楠岡英雄)、循環器病研究振興財団指定調査研究による「虚血性心疾患における心電図同期SPECT(QGS)に関する国内臨床データベース作成のための調査研究」(分担研究者:是恒之宏)、文部科学省科学研究費補助金による「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」(分担研究者:廣島和夫院長、施設内担当者:是恒之宏)、

等が実施されている。各研究室の業績はそれぞれに記載されており、ここでは臨床研究部長を中心に行なった研究について述べる。

 

1. 個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド実現化プロジェクト)

1.委託業務の目的

 オーダーメイド医療を実現化するためには、数多くの疾患を対象とする体系的な患者サンプルの収集と、網羅的な遺伝子やタンパクの解析が不可欠である。また、経年的な病態変化、薬剤応答性・抵抗性および副作用発現等を把握するために、定期的な血清収集および診療情報収集も不可欠である。本研究プロジェクトの目的は、これらの研究を実施する上の基盤となる、数十万人レベルを対象とする体系的な診療情報と血液サンプル(DNA・血清)の収集システムの確立、それらを保管・管理するバイオバンクの構築にある。

 このため、独立行政法人国立病院機構大阪医療センターでは、国立大学法人東京大学医科学研究所と共同でDNA・血清サンプルおよび臨床情報の収集に関わる業務を実施するものである。

 

2.平成19年度の実施内容

21 実施計画

 今年度は、本機関の倫理審査委員会にて承認された研究計画に基づき、以下の業務を行った。

@ DNA・血清サンプルおよび臨床情報の収集

 提供対象となる患者から適切なインフォームド・コンセントを取得し、血液サンプル・臨床情報の収集を実施した。また、追跡調査のための血清・臨床情報の更新を実施した。さらに臨床情報についてバイオバンクジャパンでの検索の際に不足する情報を、下半期においては重点的に充実させた。

 また、プロジェクト最終年度にあたり、サンプル及び臨床情報の収集に係る入力状況について整理・集計した。

A 匿名化システム・臨床情報入力システムの運用

 初年度に開発した匿名化システムおよび臨床情報入力システムを用いて、これらの円滑な運用を行った。また@で追加収集された臨床情報の入力作業について、下半期においては重点的に実施する。その運用にあたっては、個人情報に十分な配慮を払って実施した。

B メディカルコーディネータ(MC)の育成

 昨年度育成したMCの更なるスキルアップを図った。また、新たなMCの育成も行う予定であった。

 

 

22 実施内容

@ DNA・血清サンプルおよび臨床情報の収集

 昨年度と同様、提供対象となる患者への説明に際しては、玄関2箇所に当院がこのプロジェクトに参加していることを掲示、さらに院内に3箇所の液晶スクリーンを設けDVDによる広報を行った。平成17,18年度と同様、DNA・血液サンプルおよび臨床情報の収集を継続した。追跡調査のための血清・臨床情報の更新も並行して実施した。患者には、初回の同意取得時に、フォローアップ予定の期間を記したフォローアップ用カードを渡すとともに、主治医にはフォローアップ時期に来院した患者にオーダーメイド医療実現化プロジェクト受付に行くよう個別に渡す用紙を作成し、フォローアップ率の向上に努めた。対象科は循環器科、総合内科、消化器科、外科、泌尿器科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、産婦人科において症例同意取得に努めた。フォローアップ採血はできるだけ他の診療上の検査とあわせて行なうようにし、患者の負担を軽減することに努めた。具体的には、フォローアップのために受付に訪れた患者の近々の検査予定をチェックし、院内検査分も採血チューブを取り寄せ、オーダーメイドの採血時に患者説明ブースにおいてまとめておこなうようにした。

 新規IC獲得のため、外来待ちの患者にコーディネータがアプローチすることも昨年度から開始した。平成19年度は、新規IC数が減少しているが、フォローアップ数が昨年度よりさらに増加し、こちらから予約時間にあわせて外来各待合に出向いてアプローチをすることも多かったことから、新規の患者にアプローチする時間に制限があったことがひとつの理由と考えられる。

 

平成19年度

4

5

6

7

8

9

10

11

12

1

2

3

合計

IC実施数

22

26

26

24

25

20

20

13

38

37

34

0

285

IC取得数

22

25

25

24

24

18

18

12

34

33

34

0

270

追跡調査数

94

110

117

89

163

126

210

158

160

162

133

141

1663

 

A 匿名化システム・臨床情報入力システムの運用

 初年度に開発した匿名化システムおよび臨床情報入力システムを用いて、これらの円滑な運用を行なった。その運用にあたっては、個人情報に十分な配慮を払って実施した。昨年度と同様、同意の得られた患者につき匿名の上、臨床情報の入力をおこなった。特に、本年度は臨床情報の入力作業を着実に実施し、最終年度のデータ入力遅延を来たさないよう最大限の努力を払った。

 

B メディカルコーディネータの育成

 昨年度と同様、院内の非常勤職員2名、派遣2名にて業務をおこなった。コーディネータが入力するデータにつき、疑問点が生じた場合には定期的なミーティング時にまとめて是恒が相談をうけ、専門外の不明な点については主治医あるいは専門医に相談することにより質を確保した。本年度は、特にコーディネータの入れ替えはなく、新たな育成の必要はなかった。

 

平成19年度で終了予定であったが、バンク事業を継続して維持していく必要性から、平成20年度よりさらに5年間期間を延長して研究継続の予定である。

 

2.日本における心房細動の治療戦略に関する研究(J-RHYTHM試験)

発作性心房細動および1年以内の持続性心房細動において、リズムコントロールとレートコントロールのいずれがQOL改善、生命予後に良好な戦略であるかを明らかにするために日本心電学会が中心となり計画された。海外で行なわれたAFFIRM試験では両群で生命予後に有意差がなく、QOLも差がなかったと報告されているが、本試験ではハイリスク症例のみならずローリスク症例も含めたこと、心房細動特異的なQOL評価法を使用したこと、発作性と持続性を分けたこと、初回心房細動患者は除外したこと、ハイリスク症例では洞調律が維持されていてもワーファリン投与を原則としたことなど、日本の事情に即し、QOL評価に重きを置いている。本年度は、この結果がアメリカのHEART RHYTHM学会のLate Breaking Clinical Trials、日本心電学会、循環器学会総会で発表された。今回の症例群では、60歳以上を原則ワルファリンコントロールとしたことから脳塞栓の合併は極めて少なく、両群とも予後は良好であった。AFFIRM試験ではリズムコントロールにアミオダロンが主として使用されていたことから副作用も多く出現したが、本試験ではより副作用の少ないI群薬が主として使用されたため、抗不整脈薬による予後の悪化は認めなかった。発作性心房細動では、患者の希望によりレートコントロール群から脱落する率がリズムコントロール群に比し有意に高く、リズムコントロールがより望まれる治療との結果であった。

 

3発作性心房細動の慢性化予防にアンジオテンシン受容体拮抗薬は有効か(J-RHYTHM 2試験)

発作性心房細動の慢性化予防にアンジオテンシン受容体拮抗薬が有効であることは、実験的には報告されているが、臨床的にはいまだ明らかでない。本試験では、高血圧を合併する発作性心房細動を対象に、下記エンドポイントにおけるアンジオテンシン受容体拮抗薬によるレニン・アンジオテンシン系抑制の発作性心房細動に対する影響を高血圧に対して同様に高頻度に用いられているカルシウム拮抗薬を対照として比較検討する。

1)            一次エンドポイント 1年後に記録された1ヶ月間の発症日数と登録後1ヶ月間に記録された発症日数の差

2)            二次エンドポイント 

@    発作性心房細動の慢性化あるいは除細動の実施

A    心血管事故

B    AFQLQによる患者QOL

C    経胸壁心臓超音波検査による左房径

D    症候性心房細動の発症日数

E    カルディオフォンで記録された発症日数の1ヵ月毎の比較を計時的に解析

目標症例数400例のうち現在300例まで登録がされており、20083月までの登録予定であったが、さらに期間を延長して、研究を継続している。

 

4.心房細動による心原性脳塞栓予防における抗血栓療法の実態調査(J-NHOAF.EXT)研究

 非弁膜症性心房細動患者における抗血栓療法の実態調査を国立病院機構で全国規模で行なうことにより、基礎疾患別、発作性・持続性別、ガイドラインに示されている脳塞栓リスク別、病院別、専門領域別による抗凝固薬の使用実態を調査し、どのような理由で十分使用されていないのかを明らかにする。研究は平成16年度から開始された国立病院機構のEBM推進のための大規模臨床研究として採択され、3年間の研究期間で評価する予定である。本年度は主に平成1712月までに登録された1580例のフォローアップ期間であり、1812月まで最長18ヶ月、最短12ヶ月の経過観察を行なった。登録症例は平均年齢69歳で、比較的リスクの高い症例が多く含まれており、高率に抗血栓療法が施行されていた。

また、CHADS2スコアごとにワルファリン投与率を検討したところ、リスクが高くなるに従い、投与率も上昇していることが明らかとなった。

平成19年度よりNHOAF研究での症例をさらに継続してフォローするためNHOAF.EXT研究が採択され、平成20年度より3年間の予定で実施予定である。

 

なお、業績については臨床疫学研究室の項でまとめて記載する。