訪問研修について
はじめにお話があったときはどう思われましたか?

市役所から「エイズの人の受け入れをお願いしたい」というお電話があったときは、エイズという病気が、どのようなレベルでどのような状態でどのように進んでいくのかというイメージがなかったのですね。「発病(※1)した状態では、受け入れてくれる病院がないのですか?」と聞いたら、“八方塞がりなんだ”といわれました。それでおたくなら受け入れてくれるのではないか、と(笑)。なんでうちなんだ、という思いはありましたね。チームでケアにあたりますので、職員の本音のところが大事、陰でボソボソと言い合うようではいけないと思いました。

施設としてのお考えはいかがでしたか。

私どもの施設の理事長は、本当にずっと理念がぶれないんです。以前、MRSAが問題になっているころ、その人がお元気な状態であっても「MRSAだから」となんの根拠もなくサービス利用を断わる施設の話を多く耳にしました。そのころからも、「どんな病気なのか?何が問題なのか?どのようにしたらそのかたをサポートできるのだろうか」と、われわれの力量ではお断りしなければならない時もあると思いますが。
  現実、重度の認知症や気管切開のかたなど、ほかの施設では受け入れ困難ケースをわれわれは多く受けてきました。そのことはわれわれのケアの実績となり自信につながってきました。いまでは“困難なのが当たり前”でしょうか。大変さはありますがその結果、状態がよくなってお帰りいただくケースが多くなることで、市役所のかたのようにわれわれへの期待が高くなるんです。

不安や怖さは間違った知識から生じる 最初はどのように動かれたのですか?

まず受ける受けないではなくて、いちどお話を伺いましょう、ご本人の状態も把握しましょう、ご家族の気持ちも伺いましょう、と考えました。今回のケースに限らず、家族に介護力がどれくらいあるのかもみます。アセスメントして予測ができていないと難しいと思いましたので。

具体的な準備はどのようにされたのでしょうか。

ケアにあたる職員に聞くと、不安だと言います。どうして不安なのかと聞くと、怖いというのですが、さらに聞いてみると、それは全部誤った知識にもとづくことが多かったのです。触って感染する、お風呂はダメ、とか。そういう不安を全部聞くことからはじめました。それで、エイズ拠点病院に講義を受けました。さらに厨房や事務職をふくむ全職員を対象に、ナースが講師になって独自の研修会をやりました。

実際に受け入れてからの変化はありましたか?

スタッフもおそるおそるという面はあったと思います、口には出さなかったですけれども。でも、ケアをしているうちに、受け入れたそのかたの表情が変わってきたり、自分がアプローチした音楽で歌を歌うようになったり、一人でボーとしていたのが部屋から出てくるようになったりとか、そういうそのかたらしさが見えるようになってきてからは、スタッフも少しずつ知らずと普通に腕を組んでいたりだとか、手をつないでいたりだとか、そのへんが自然になってきたように思います。
  認知症の人もそうですが、その人らしさってなんだろうかと考えたとき、以前に輝いていたときを知る。その上でその人の今がある、そういう捉え方をしてケアしています。それに知識―――ケアする方法とか手段を知っていれば大丈夫。あとはその人らしく生きていくことがあればよいわけです。最初は「エイズの病気の人」という見方を十のうち八はしていました。でも、それがだんだん人として見られるようになってきた。新たな困難事例を私たちが解決していくこと自体が喜び、やりがいに繋がりました。
  そのかたが亡くなられたときに、「また(HIV陽性の人を)受け入れることになったらどうする?」とスタッフに質問をしました。そうしたら、やっぱり怖いと言いました。でも、これからこういう人って行き場がないから来るかもしれない。私たちもちゃんとやればできる、と言ってくれました。

拠点病院と連携してターミナルまで看取る 入居中の医療についてはどうされましたか?

私たちのところでどっぷり抱えなくてはいけないというのがしんどかったですね。常勤の医師もいますが、いざとなれば、私たちの力量でできないので、エイズ拠点病院と連携して、何かあればいつでもご相談してください、医療が必要であればいつでも手を貸しますよとおっしゃってくださった。ああいうサポート体制はすごく嬉しい、ありがたいですね。

他に入居者や家族に配慮されたことはありますか?

家族のかたは、エイズにかかったその方を最初は許せなかったんです。エイズといっても血液で感染するほかの病気とおなじで、B型肝炎の入居者のかたもなかにはいらっしゃいます。そこで病気について正しい知識をお話し、理解していただく。私たちもそのようにして学び、理解してきたのですから。

今回の体験を通じて、伝えておきたいことや提言などはありますか?

三つポイントがあると思います。まず正しい知識を学んでその人らしさを見つめながら介護をしたこと、いざというときには専門病院との連携を図ること、そして家族を理解することです。これからは、一つの施設だけ突出してやってもダメです。一気には難しいでしょうが、その地域でできる人たちができることを耕していかないといけないと思います。そして、正しいケアを実践できる人やスーパーバイズする人も必要だと思います。
  医療に関しては、バックアップ体制がちゃんとしていないと難しいです。また、職員が困ったときにすぐに指示を受けることができる上司やナースが二十四時間いる存在は大きかったと思います。
  今後、ターミナルのケアを行なっていくにも、医療・福祉のネットワークが不可欠と思います。

(※1)発病:HIVも感染したあと、免疫能力が低下し、さまざまな合併症を発病するようになった階段をエイズ発症、あるいは発病と呼んでいる。現在はさまざまな薬剤や治療法の発達により、死に至らず回復することが多い。

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