訪問研修について
医師としてHIV感染症に関わるようになったときの思いを聞かせて下さい。

僕も最初はHIV感染症なんかやりたくない、と当時の院長に断ったんです。十年以上も前のことです。それは、やっぱり怖いというのと、HIVに感染する人は道徳的にもおかしい人、というイメージで捉えていた時期もあったからです。はじめは危険じゃないかとか、(日常生活ではうつらないと言うが)本当はうつるんじゃないかと思っていました。
  でも、医療を行なう行なわないを好き嫌いで決めてはならないし、誰もやらないなら自分がやろうと考えたわけです。人生、嫌だと思うこと、こっちには行きたくないなと思うほうへ行ったほうがいいですね(笑)。行きたいと思うほうへ行っても、それまでの自分の考えの範囲内にある道だから広がらない。嫌だなと思ったほうへ行った方が考えが広がると思うのです。

なぜ考えが変わったのでしょう?

最初嫌だなと思ったことと現実との差が大きかったからです。つまりHIVの人たちから学ぶことが多かったんです。感動する部分もすごく大きかった。いろいろな人に出会いましたが、死を意識し、死を乗り越えている姿に感動したと思います。

HIV感染症が怖いという人が現実にはたくさんいます。

怖いという気持ちをもってしまうことは仕方がないでしょう。それはその人の問題ではなくて、むしろ医療サイドの人間がこの病気について十分に知らせてないのところに問題があるのではないかと思っています。医療者が乗り込んでいって、一人ひとり理解を得るということが必要ではないかと思います。HIV感染者のイメージも植えつけられたイメージである可能性も高いでしょう。

一つひとつの問題をリストアップし、確実に解決 先生の病院ではじめてHIV感染者を受け入れられたわけですが、具体的にどのようにされたのでしょうか。

これまでHIV感染者を受け入れたことはないし、職員たちにもHIVの知識はまったくないという状況でしたので、院内のあらゆる職種の人たちに正しい知識を持ってもらおうと三回ぐらい私が講義しました。でも患者さんの手術が必要になったときは、別の急性期病院にお願いしました(笑)。先方には、「大丈夫、できる!基本的な注意さえ守っていれば絶対、大丈夫」と話して、了解をいただいて手術をしていただきました。また、感染者はウイルスを押さえるための服薬をしますが、その薬はうちの病院には置いてないものですから、昔からよく知っている拠点病院の医師にお願いして出してもらいました。

医療サイドの問題といわれましたが、具体的にどのようにお考えですか。

いかに輪を広げていくのかということが大事だと思います。一人の職員が理解してくれれば、その配偶者や子どもも理解しやすくなります。時間はかかり、能率は悪いかもしれませんが、福祉関係の人とかも巻き込んで下準備をする必要もありますね。いろいろな施設で門前払いしているということですが、いったい何が問題であるのかということを引き出して、それを一つずつ解決していく。いざとなったら病院側が全部責任を持つとか、悪くなったときの相談先などシステム上の問題もありますが、やはり一つひとつの問題をきちんとリストアップして、どういう解決策があるのかということを考えて、一つずつ解決していくことが本当に大事だと思います。そうして引き受けてくださる施設がだんだんと連なっていけば、広がっていくのではないでしょうか。あそこでやっているのだから大丈夫だろう、とね。

患者さんの受け皿はわれわれなんだ! 院長や施設長として大事なポイントはなんでしょうか。

私は職員に、「なにかあれば私に言ってこい」と言ってあります。トップの理解というのはとても大きいと思いますね。誰かに期待してもダメで、ドンと行かないとね。その人の腹の中で「どすん」と落ちるような説明をする。その人が次の人に説明できるような説明をしていかないといけない。そして普通にやっているという実績がいると思います。ただ、僕は世間にたいして、ここでまだエイズ患者を診ましたということを公にできていないんです。患者さんが来なくなるような気がしましてね。でも、いずれこの状況を打破しようとは考えております。

受け入れてからの院内の変化はありましたか。

第一例目の人が上手くいったものですから、これからは受け入れに関しての抵抗はないのではないかと思います。実績があると、同じ施設の職員も安心するのではないでしょうか。ここの土地柄もあるかもしれませんが、おじいさん・おばあさんに接する接し方でも、自分のおじいちゃん・おばあちゃんに接するように、本当によい感じでやる人が多いですね。でも、担当者がかわればリセットということは起こりえますね。これは仕方がないことですが、前任者はこのように協力してくださいましたので、ぜひ協力をお願いしますと働きかけることは大事なことだと思います。僕の経験では、このような場合で拒否された経験というのはあんまりないですね。案外、みんな話を聞いてくれるように感じています。実際、動くほうは大変ですが・・・。

経験を通じて提言したいことは?

誰が、というよりも、それぞれ現場でみんながやらないといけないと思います。全国で患者さんがこれだけ増えてきた状況(約一万三千人)のなかで、患者さんの受け皿はわれわれなんだということをやっぱり言っていくことが大事だと思います。どうしたらよいかわからないという不安を抱く側を支える連携作り、システム作りをすれば、不安は百パーセントではないにしても、半分ぐらいは解消できると思います。拠点病院などが周辺の病院と連携をとることも重要になると思います。
  観念論ばかりを言っていても仕方がないですから、不安を解消するシステムと理解を促進するシステムが同時にあること。そうすれば点が面になっていくのではないでしょうか

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