HIV陽性者の長期療養の現状

ここでは、このホームページの対象となる長期療養者=何らかの原因で,治療経過の中で身体障害や認知症など要介護の状態を伴うことにより、たとえ免疫機能は落ち着いていても、介護や支援を必要とする人の置かれている現状についてお知らせします。

根拠となるのは,以下の3つの調査です。ここではその概要を簡単な説明とパワーポイント資料によりお伝えします。より詳しい内容については資料集のページにアクセスして下さい。

全国のエイズ拠点病院における長期療養者の実態
「拠点病院における長期療養者の受け入れ体制に関する研究」
平成16〜17年度厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策研究事業
「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」分担研究(主任:木村 哲)

特別養護老人ホームや療養型病床、老人保健施設などの受け入れの実態
「長期療養が必要なHIV感染者の実態調査と療養支援対策の検討」
平成16〜17年度国立病院機構共同臨床研究 (主任:永井 英明)

障害者施設、児童養護施設等の受け入れの実態
「HIV感染者の社会福祉施設利用受け入れに影響するサービス提供者側の要因」
平成15年度科学研究費補助金萌芽研究(小西 加保留)

調査1、全国のエイズ拠点病院における長期療養者の実態
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2004年から2005年にかけて、厚生労働科学研究事業により、全国のエイズ拠点病院に「長期療養」を余儀なくされているHIV陽性者に関する実態調査を実施しました。この調査における「長期療養者」の定義は、「HIV医療の進歩により、免疫機能は安定しても、身体障害や知的障害や認知症等の障害が残存し、在宅生活が困難で、主治医が入院治療の必要がないと判断した後も病院で長期療養を継続する感染者」としました。

方法: 2004年度にエイズ拠点病院を対象に、長期療養事例の経験の有無、数、転帰などについて、アンケート調査を行い、2005年度には同意を得た病院に対し、入院期間、必要入院期間超過の有無等について、郵送により再調査しました。また事例の背景について7病院の医療スタッフに対して、半構造化面接を実施しました。

結果: 2004年度では、回答した221拠点病院の内、52病院で131例の経験がありました。また2005年度に32病院から得られた82事例中、68事例で必要な入院期間を超過した事例があり、超過した平均月数は9.1ヶ月、最長で96箇月入院を継続していました。長期療養に至る要因には、医学的要因、医療機関の問題、患者・家族、制度・システム等の課題が、至らないための要因としては、万全の診療体制、豊富なネットワーク、コーディネーターの存在、トップのリーダーシップ等の要因が示されました。

考察: HIV感染症に特有の課題として、1.初期診断・初期治療の遅れ 2.院内外連携、受け入れ困難 3.家族支援の困難性 4.制度・システム上の困難が指摘されました。このような課題の基底には、この病気に対する否定的イメージが大きく影響していると考えられます。HIV感染者が地域で安定した療養生活を送っていくためには、HIV治療の進歩に見合った適切な医療を提供することは最低限保障されるべきですが、それだけでは不十分で、地域での社会生活を視野に入れた支援体制を積極的に構築することが必要不可欠であることが明らかになったといえます。但し抽出された課題は、単にHIV感染者支援に止まらない要素を持つことにも留意すべきです。即ち、昨今の医療制度改革による医療費削減を最優先目標としたそれらの改革の流れの一方で、医療の進歩を一つの背景として、介護と医療の必要性を併せ持つ患者の数は減ることはありません。このような患者が生活する地域において、医療・福祉の両面から可能な限り安定した生活の場を支えることは、医療の効率化にも繋がる課題であるに違いありません。

 

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調査2、特別養護老人ホームや療養型病床、老人保健施設などの受け入れの実態
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この調査では長期療養が必要なHIV感染者を受入れる側の施設として、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、療養型病床保有施設、障害者施設等入院基本料の施設基準取得病院に対して、実態調査を行いました。

方法: 2005年9月から2006年1月、HIV感染者の入所依頼の有無,実際の受け入れの有無,受入れたことによる困難,受入れなかった理由、受け入れ基準などについて、郵送によりアンケート調査を実施しました。

結果: 約1/3の施設から回答があり、受け入れ依頼のあった65施設中,実際に受入れたのは27施設(41.5%)でした。受け入れた施設中12施設で、受け入れ後に色々な困難が生じたと回答しています。例えば、針刺し事故に対する不安、総合病院でないための対応困難などでした。また受け入れ基準を設けている施設は1.6%に過ぎず、75.5%は受け入れを考えていないことも分かりました。実際に受け入れ依頼があっても受け入れなかった理由としては、院内感染のリスク、診療経験がない、職員不足、設備・環境が整っていない、医療費の問題・機能が異なるなどでした。

考察: 受け入れを可能にするには、職員に対する積極的な研修・啓発活動が最も重要と考えられます。
また高額なHIV治療を受けている患者が多いので、診療報酬の面から各施設を支援する仕組みが必要であり、合併症に対しては拠点病院との緊密な連携が取れるような体制作りが必要であることも示されました。

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調査3、障害者施設,児童養護施設等の受け入れの実態
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HIV医療の進歩により、介護を要するHIV陽性者が社会福祉施設を利用することが今後増えると思われます。またサービス利用している人が感染している可能性も全くないわけではありません。一方で、実際にはこれまでに施設サービスを希望した感染者がHIV抗体陽性の場合は受け入れを拒否するとしたケースや、入所中の障害者が外出後にHIV抗体の証明を求めるなどの報告例があります。 HIV感染者は、1998年からHIV感染症という疾病による免疫機能「障害者」として認定されており、今後も障害者自立支援法や介護保険などの対象になることが考えられます。この調査は2003年度に社会福祉施設がHIV感染者の受け入れに関して抱える不安や課題となる要因を明らかにするとともに、どのような要因がサービス提供や受け入れ意向に影響を及ぼしているかを分析することを目的として実施されました。

方法: 調査対象は、重度身体障害者更生援護施設、身体障害者療護施設、知的障害者更生施設、児童養護施設、精神障害者生活訓練施設の全数(計2,377)で、調査方法は、自記式質問紙を用いた郵送法、調査期間は2003年10〜11月。調査項目は、@基本属性、 A環境要因、 BHIV感染者の受け入れに関連する83項目、C受け入れ意向に関わる2項目です。

結果:
1)22施設においてHIV感染者の受け入れ経験があることが分かりました。
2)社会福祉施設が抱えている主な不安には以下のようなことがありました。
  1.怖い病気で身近に感じない
  2.具体的対応の仕方が分からない
  3.どのようなときに法的責任があるか分からない
  4.他の保護者や利用者の理解を求めることが難しい
3)サービス利用については、「受け入れに努力したい」が「できれば受け入れたくない」気持ちが両存し,利用者のHIV感染が分かった場合、4割の人は「退所もやむを得ない」と考えていました。
4)受け入れに関連する要因には、表のような内容の12の要因が関係していることが分かりました。

考察: 受け入れを可能にするには、職員に対する積極的な研修・啓発活動が最も重要と考えられます。
また高額なHIV治療を受けている患者が多いので、診療報酬の面から各施設を支援する仕組みが必要であり、合併症に対しては拠点病院との緊密な連携が取れるような体制作りが必要であることも示されました。

抗体検査実施義務 入所申し込み時やサービス利用時にHIV抗体検査を実施し、感染の有無について施設側に告知すること
性への陽性価値観 性を楽しむ権利や情報の理解の重要性を認識している。また性的志向を尊重し、施設内で性の問題について話せる雰囲気が大切
他者への対応困難感 HIV感染者の受け入れに関して地域の理解を得たり、他の利用者の不安、保護者への対応が困難
感染対応理解困難 感染の可能性のある状況や対応への理解
医療体制 医師や看護師の常駐
性への対応困難感 人を好きになる気持ちは尊重したいが、利用者の性的欲求への対応やトラブルへの対応に自信がない。 施設職員全体が共通認識を持つことが困難
性支援システム ピアカウンセリングや、障害を持つ人たちの結婚や性に関する事柄をサポートするようなシステムが重要
法的責任 入所者同士や外出中の感染、職員への感染に対して、施設側に責任が生じる場合がある 
感染発生時不安 利用者の生理時の対応や事故発生時の事後対策に不安
10 健康管理 感染の疑いがある場合の医療機関を受診や感染者の定期的受診
11 自慰行為容認 施設内での自慰行為の容認や場所の必要性
12 コスト保障 医学的対応に対するコスト保障の必要性

5)受け入れに際して,(−)となる要因と(+)になる要因は、以下のようになりました。   
特にどの施設にも影響している主な要因は、(−)要因としては「他者への対応困難感」、(+)要因としては「性への陽性価値観」でした。

(−)となる要因 (+)になる要因
他者への対応困難感 性への陽性価値観
感染発生時の不安 性支援システム認識
感染対応の理解困難 自慰行為容認
抗体検査実施義務  
コスト保障  
健康管理  

結論: 以上のような結果から今後のHIV感染者の受け入れを促進するには、(−)要因を解決し、(+)要因を促進するような働きかけが重要であることがわかります。例えば、「他者への対応困難感」に対しては、具体的な場面を想定した理解の促し方や組織のリーダーシップのあり方の検討、「性に関する価値観や支援システム」に関する学習の機会の提供、「感染発生時の不安」に対する的確な知識の提供、福祉・医療の制度全体にかかわる課題としての「コスト」の問題の考察などです。また、利用者の特性や対応への不安の程度など、施設種別による個別の課題への方策が必要であることもわかりました。

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