独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14
TEL:06-6942-1331(代) FAX:06-6946-3652

 

研修会報告

平成13年度HIV海外研修報告記 上田 千里

サンフランシスコHIV感染症海外研修記

免疫感染症科医員 上田 千里

研修日程
1月7日(月 午前) 研修オリエンテーション 講師 小林まさみ(HIV感染症研修コーディネーター)
1月7日(月 午後) 地域HIV外来診療の実際(トムワルデヘルスセンター)
1月8日(火 午前) HIV感染症外来診療研修 講師Tsukamoto Yoko(ナースプラクティショナー(NP)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)HIV専門外来)
1月8日(火 午後) HIV感染予防介入 講師Saori Miyazaki(HIV予防テスター、Asian Pacific Islander Wellness Center(APIWC))
1月9日(水 午前) HIV感染症入院患者研修 講師Mitchel Feldman(医師、UCSF内科助教授)
1月9日(水 午後) 注射針交換 講師Lisa Moore(公衆衛生学博士、サンフランシスコ州立大学(SFSU))
1月10日(木 午前) SFGH外来内視鏡検査 講師John Cello(医師、SFGH検査センター内視鏡室室長)
1月10日(木 午後) 地域HIV外来診療の実際 講師Catharine James(医師、マキシンホールヘルスセンターHIV専門外来)
1月11日(金 午前) 院内感染管理 講師Sue Felt(看護師、SFGH感染管理室)。
1月11日(金 午後) HIV患者在宅看護(症状管理)講師Celi Adams(看護師、マキシンホールヘルスセンター)。
メディカルソーシャルワーク 講師Bill Pearse(メディカルソーシャルワーカー、マキシンホールヘルスセンター)
1月14日(月 午前) 患者からの視点(出産を契機にHIV感染症が診断された女性の闘病記)講師Paula Peterson(主婦、SF在住)
1月14日(月 午後) 妊娠とHIV感染症 講師Maureen Shannon(NP、UCSF)。
1月15日(火 午前) AIDSケースマネイジメント 講師Laila Hinkle(ソーシャルワーカー(SW)、カリフォルニアパシフィックメディカルセンター(CPMC))
1月15日(火 午後) HIV感染症薬物療法 講師Jason Tokumoto(HIV専門医師、NationalHIV/AIDSClinician Consultation Center)
1月16日(水 午前) HIV感染症神経症状診断治療 講師Dawn McGuire(神経内科医、CPMC)
1月16日(水 午後) 研修総括
1月18日 帰国

研修を駆け足で書きたいと思います。

1月5日(土)出発。

関西空港に着いて驚いた。搭乗手続きの為に長蛇の列。列の終わりが見えない。前年9月のニューヨーク爆破テロ事件の影響らしい。
航空会社も米国向けの便には神経質になっているので、結局搭乗手続きに2時間近くかかってしまう。

1月5日(土)到着。サンフランシスコ(SF)到着

関空を土曜日午後に出て、SFに土曜日早朝に到着。眠い。SFは曇り空。SFは霧で有名、曇りの日が多いようだ。
空港を行き交う人々の服装も、冬の日本から来た我々から見ると少し変。短パンに、草履で上はセーター。
寒いの?暑いの?空港から一時間ぐらいでSF日本人町にある滞在先MIYAKO INNに到着。
SFはモザイクの様に中国人街、イタリア人街、南米移民街が点在している。
民族での色分けでなく、文化、価値観を同じくする人たちの地区もあるとのこと。面白そうだけど眠い。
時差呆け解消の為なるべく寝ないようにと言われていたが早速ベッドへ。この土日はひたすら睡眠。

1月7日(月、午前)研修オリエンテーション
講師 小林まさみ(HIV感染症研修コーディネーター)

今回の研修を企画してくださった小林氏より米国におけるHIV感染症の変遷と最新事情について教えて頂く。
米国ではHIV感染症患者の新規発生数、HIV/AIDS関連死亡者数が年々減っている。
SFでは全米平均を上回る勢いで減っている。
しかし最近憂慮される事は異性間性交での感染者、女性感染者新規発生数の減少率の鈍化及びHAART導入以前の予後が悪かったHIV/AIDS患者さんの姿を知らない若年世代での感染率減少の鈍化。あの病気は恐れるに足らずと言うことか。
しかし米国では確実に新規発生数は減っている。特にSFにおいてはそれが顕著である。翻るに日本では?
日本では毎年、“過去最高の新規感染者数”と報告されている。
米国において1970―80年台にHIV感染症は特定の人たちの病気と見なされ対応が遅れ、今日のような感染の蔓延をみたと聞く。
あの時期に適切な対策が取られればという後悔がある。日本では未だ罹患率は少ない。
米国の教訓を生かす時期は今しかないのでは。日本の現況はこのゴールデンタイムを逃しつつある様に見える。

1月7日(月、午後)地域HIV外来診療の実際 トムワルデヘルスセンター 後述
1月8日(火、午前)HIV感染症外来診療研修 講師Tsukamoto Yoko(NP)

全米屈指の病院でのHIV外来診療を研修する為にUCSFを訪れる。UCSFは我々の滞在先からバスで30分位の距離。
ちなみにSFではUCSFとサンフランシスコ総合病院(SFGH)を中核に各地域にヘルスセンター(日本でいう診療所を併設した保健所)が設置され公的な地域医療ネットワークが形成されている。
UCSFは、HIV感染症の臨床/研究に関して全米No. 1に位置づけられている(大学学部卒業生が大学院進学にあたって参考にするデーターベースより)。
UCSF外来棟訪問。建物に入ってまず目についたのはUCSFの理念と患者の権利を掲示してあったこと。
要約すると“UCSFでは法律で保証された個人の自由と権利を尊重し、地域の住民の健康を守る為に、そのニーズに応え高度な医療を提供する用意がある”と言うこと。
このような掲示はその後訪れた病院SFGH、カリフォルニア太平洋医療センター(CPMC)にもあり、SFGHでは英語、中国語、スペイン語で書かれていた。
またCPMCではエレベーター内に“我々はエレベーターの中で患者の話はしません”とも書かれていた。
次にHIV感染症外来フロアーに着いたとき目に飛び込んで来たのはソーシャルワーカー、カウンセラーと表札の掛かった部屋が2室。
社会経済的、精神心理的問題の解決に援助し、安心して治療を継続出来るよう手助けをしてくれる職種の部屋がそのフロアーだけで2室もある事には驚いた。
日本ではソーシャルワーカー、カウンセラーという職種に対する認知度も低くその必要性が議論される事もあるというのに。
私が勤務する病院(700床)では病院全体で非常勤のソーシャルワーカーが数名いるのみである。絶対数が足りない。
診察室の前には壁一面に掲示。臨床研究参加募集、アクションポイントの案内、ヨガ参加、職業訓練の呼びかけ等情報交換が用意されていた。
Tsukamoto氏の案内で診察室に入る。残念ながらこの日は実際に患者さんと接する事は出来ず。
診察室は6畳ぐらいの広さに机、コンピューター端末、診察台が配置。検査、投薬、予約はon line化されていた。
診察台は内診も可能なように設計されており、シーツ紙は患者一人診察毎に取り替えられるようになっており清潔が計られていた。
また注射針等は写真で見て頂ければわかるように目の高さに設置された半透明な容器に入れられていた。
この容器はいったん入った針は飛び出さないように入り口が工夫されていた。
日本では床に置いた金属製の缶に注射器を入れている事を話すと、一言“それは危険ですね”と言われた。

写真

誤って缶を転かしたり、小さい子が手を突っ込んだり、針を入れる際に跳ねて飛び出してきたり、考えれば危険でしょう。
確かに。
でも危険だと思ってなかったな。

Tsukamoto氏HIV診療チェクポイント。
下記を念頭に置きながら診察にあたっている。

  1. 肛門診、膣の内診。細胞診提出とパピローマウイルスの有無検討。
  2. ワクチン;肺炎球菌、A,B型肝炎、破傷風。
  3. 患者の社会保障、医療保障チェック。
  4. 慢性疾患としてのHIV長期管理の準備。
  5. カスタマーサービスを意識。
  6. 患者との関係構築。
  7. T細胞数とウイルス量。
  8. アレルギー。
  9. 再感染。
  10. HIV耐性:ジェノタイプとフェノタイプ。
  11. 薬剤副作用

UCSFでは数年前にHIV外来診療医の公募があり、それに応募し採用された事、NPは医師と比較し患者満足度が高いという調査成績がある事、今診療と並行して研究を行っている事など、自信を持って今の仕事に取り組みキャリアアップに励んでいることを話してくれた。
米国ではその必要性に応じて組織が大幅に改組されるため数年先をにらみながら常に方向を修正しなければならないようだ。
切磋琢磨?朝三暮四?

1月8日(火、午後)HIV感染に対するNGOの活動  講師 Saori Miyazaki(テスター)

在SF環太平洋諸国出身有色民族(日本人、韓国人、中国、インドネシア、環太平洋の島々等を起源とする黄色、赤褐色人種)を対象にHIV感染症対策活動を行っている。
その国の言葉を話し、文化を理解する人がその属する民族を対象に活動している。
この団体は15年前に発足した。当時白人、黒人、ヒスパニックを対象として活動する団体はあった。
しかしアジア人、環太平洋の島々出身民族を対象とした団体は無く、その唯一性が高く評価され始まった。
その後活動の範囲を広げ医療以外のHIV感染症対策全般に関わっている。
今回は彼らの活動の一つであるHIV抗体検査の実際を話してもらった。
APIWCでも、街頭に於いても希望者にHIV感染の有無を判定している。
APIWCでは感染テスターを養成し、彼らテスターが感染判定、カウンセリング、感染予防に当たっている。
方法は歯ブラシのようなもので歯茎をごしごしとこすりつけoral fluidを採取することで採血せずに判定が可能となる。
これを受ける際には匿名でも良く後日結果を聞きに来ることになる。
その際に本人が望めば社会援助制度、治療機関紹介、予防カウンセリングを行っている。
また同時に活動を検証する意味でもUCSF等と協力しながら臨床研究を行っており、よりよい方法を模索している。
活動資金は政府機関からのグラント、企業、個人からの寄付で賄っている。
構成しているメンバーは環太平洋諸国由来民族に属する若い人が多く、有給、無給を含め多士済々である。
日本でアイデアと若さだけのアジア人に政府がお金を出すだろうか?
独自の考えを持った自発的な若者に機会を与える事が重要であることは以前から声高に言われてはいるが。

1月9日(水、午前)HIV感染症入院患者研修 講師 Mitchel Feldman(UCSF内科医師)

UCSF再訪。本日は病棟研修。
病棟へ行く前にFeldman氏から入院医療の話。特に末期医療について。
余談ですが、米国の保険制度ではUCSFのような病院は3,4次にあたり最重症患者を収容する事が多いようである。
この為病棟は準ICU化し、慢性的な看護師不足を抱えているようである。
さて、HIV感染症患者が治療の甲斐無く多くが死んでいったのは今となっては昔の話。
以前ラグナ病院に有ったHIVホスピス病棟も現在では閉鎖され、サンフランシスコ総合病院のAIDS病棟も縮小されている。
しかし現今の治療では完治を望めず、薬剤耐性ウイルスに感染している患者さんにとって状況は昔と変わらない。
そのような患者さんが入院対象となったときどの様に接するか。
深い悲しみを持って患者に接し、患者が迫る死を受容出来るように周知教育し、残された期間肉体的苦痛に苛まれないように治療する。
末期医療には他の分野と同じく末期医療に精通した医療従事者が担当する事が望ましい。
また米国では事前指示を残すことが多く、一つの例としてFIVE WISHESを挙げた。

FIVE WISHES
  1. the person l want to make care decisions for me when l can't
  2. the kind of medical treatment l want or don't
  3. how comfortable I want to be
  4. how I want people to treat me
  5. what I want my loved ones to know

その後病棟回診。UCSFの病棟は巨大であり、建て増しに次ぐ建て増しなのか迷路のようになっている。
案内してくれた助教授が、エレベーター待ちの為に勤務時間の大半が費やされると言ったのには笑えた。
どこも同じである。それぞれの棟にはその建設に際し寄付をしてくれた人の名前がついている。
残念ながら入院患者接する機会は無く病棟見学のみとなった。病室は個室か2人部屋であった。
設備は日本と比べ目新しいものは無かったように思えた。
ただここでも各病棟にソーシャルワーカーが常駐していた。
最後に助教授にHIV感染症に関する教科書の推薦をお願いすると、無いとの返事であった。
変化が激しく教科書はすぐ古くなってしまう、UCSFのホームページを参考にすると良いと宣伝された。
付け加えて数年前までメールアドレスを持っている日本人は限られていたが、最近ではみんな持っている。
インターネットを使いホームページにアクセスすることは難しくないはずだと日本の事情にも詳しいところを披露された。
確かに当院の若い先生はネット上で必要な医療情報を簡単に探し出してくる。
アップデイトな情報…。臨床で最新情報は検証されていない事も多いだけに、どの様に取捨選択したものか少し途方に暮れる。
特に増えたといってもまだまだ症例数の少ない日本では。

1月9日(水、午後)注射針交換 Lisa Moore(公衆衛生学博士)

HIV感染経路の一つに薬物使用者(drug user)間での注射針の共用がある。
つまり注射針の数が足りないために一度使った針を使い回す訳である。
感染者の血液が付着した場合、その針を再度使った人にHIVが感染する可能性がでてくる。
drug userにdrugは体に害があり、法律で禁止されていると言っても一朝一夕には問題は解決しない。
喫煙者に煙草を止めろ、高血圧、糖尿病患者に食事制限、運動をしろというのによく似て、その理念は正しくても直ぐ実行できないことも多い。
長期的に段階的に健康に害の有る習慣の改善を目指す一方で、現実的に肝炎ウイルス、HIV感染の機会を減らそうということで注射針の無料交換を始めたそうだ。
Moore氏はこのような行為をハームリダクションと呼んでいた。
当初常識的な人々からは、薬物使用を認め、使用者数の増加につながると強硬な反対があったようだがSFでは緊急的に法律を作成し、時限立法化し針交換を認めたようである(小林氏談)。
結果として薬物使用者数の有意な増加は認めず、drug userのHIV感染率は減少している。
訪れた針交換場は、古い建物の一階にあり、ボランティアによって運営されていた。
ほとんどが20代と思える若者であり、日本で考える麻薬という暗いイメージとはほど遠く、屈託なくまるで菓子を配るかのようであった。
針を交換にやってくる人は千差万別であり、中には普通のOLさんのように見える若い女性も混じっていた。
その人に麻薬は駄目だから止めなさいと腹の中でつぶやいている私はこのハームリダションという考えの反対側にいるのだろうかと、苦笑してしまった。
しかしこの運動が、この地区での注射器を介するHIV感染を減らしたのだから、そのアイデア、実行した勇気は称賛される。

1月10日(木、午前)SFGH外来内視鏡検査 講師 John Cello(医師)

tertiary center であるSFGHでの外来検査及びICU見学。
プライマリケアを担当する施設より紹介されて外来検査を行っている。
検査前感染検査(B型、C型肝炎ウイルス、HIV、梅毒検査)は行っていない。
その為の費用を医療保険で請求出来ない。SFGHでは患者は感染性微生物陽性と考え対応している。
それで大腸内視鏡検査においてS字鏡は全て使い捨てのものを使っている。
ICUはIE化が進んでおり、物品補充も自動化されている。患者モニターも24時間記録されており必要な情報を瞬時に呼び出せる。

写真
1月10日(木、午後)地域HIV外来診療の実際 講師 Catharine James(医師)

地域医療の第一線を担っているトムワルデヘルスセンター、マキシンホールヘルスセンターを訪問。
日本で言う保健所+診療所に相当するんでしょうか。
そこでは週2-3日のHIVプライマリケアクリニックが開かれている。
HIV診療に経験豊富な医師(年間32時間HIV関連医学継続教育を受講し登録)が診察にあたっている。建物に入って直ぐ玄関右手に籠にいっぱい無料のコンドームが置かれていた(翌日訪れた時には無かった。HIV外来の日のみ置かれているようだ)。
James氏の診察室は4畳半ぐらいのスペースで決して広いといえるところでは無かった。
そこに診察台、机が有るのみでUCSFの外来と比べると殺風景な部屋であった。
この日は5人の診察予約を入れていたが2人しか現れなかった。予約と支払いを守るのが患者の義務なのだが。
1月7日午後のトムワルデヘルスセンターの外来患者さんと併せて以下に記す。プライバシーの問題より診察した患者の実際を改変したものである。

患者1
1997年T細胞486、ウイルス量感度以下、2001年末それぞれ274.2万。T細胞数が比較的高く、ウイルス量が少ないのでHAARTは始めていない。
患者2
1998年T細胞30、ウイルス量50万、クリプトコッカス髄膜炎罹患。2001年T細胞283、ウイルス量感度以下。
HAART(3TC、ABC、nevirapine) 抗真菌剤、抗カリニ肺炎予防薬内服。5年に一度の肺炎予防ワクチン(ニュウーモバック)接種。
患者3
T細胞数、ウイルス量結果不明。HAART(Trizivir(AZT, 3TC, ABC3剤合剤))痴呆を合併していたが、HAART開始後軽快。
3ヶ月前に歩行障害出現(歩行時すぐ横に転びそうになる)、プロテアーゼ阻害剤追加にて軽快。
今回外来受信時に主治医が同じ話を彼が理解するまで何度も繰り返していた。
患者4
T細胞750、ウイルス量感度以下。結核の既往あり。現在肥満(体重130㎏)による腰痛あり。
毎日無料で食事をHIV患者に配達するサービス「オープンハンド」を希望し、書類作成を主治医に依頼。
オープンハンドは、親切なおばさんが近所の身寄りの無いHIV患者さんに食事を届けたのが始まりで活動している非営利団体。
患者5
決まった住居を持っていない。最近痩せが進行した。主治医成長ホルモンを奨める。3ヶ月の院外処方を出す。
バンネス通りとマーケット通りの角の薬局ライトエイドではホームレスの人には3ヶ月処方薬を保管し、2週間分づつ詰めてその都度本人に渡している。
患者6
帯状泡疹に悩まされている。1年前に結核を疑われ紹介されSFGHで胸部単純レ線、CT検査を受ける。 最近経済的な問題あり、今日主治医よりソーシャルワーカーを紹介される。
現在職業訓練(JOB/VOCATIONAL/SCHOOL)の支援を受けている。
ヘルスセンターではHIV感染症在宅医療・社会的自立を支援する看護師、ソーシャルワーカーが常駐している。
1月11日(金、午前)院内感染管理 講師 Sue Felt(看護師)

SFGHでは院内感染管理のために専属のコントローラーを設置している。
設立動機の一つは入院患者の院内感染対策のため。
米国では全入院患者の5-10%が入院中に日和見感染に罹り、年間6万人がその為に死亡し、追加的に1兆円の医療費が失われていると予測されている。感染コントローラーが院内感染の実態を詳細に調査する。
器具、抗生物質使用歴、発生部署固有の原因を解明し、その結果を公表し、医療従事者を教育している。
その結果SFGHでは院内における同一の抗生物質連続使用を36時間迄とし、それ以上の長期使用を原則禁止している。
最近SFGHではMRSAの発生が極端に減っている。
また医療従事者による病原体の媒介を防止するには、簡単な事ではあるが病室入室時の手洗い、退室時の手洗いに勝るものは無い。
しかしこれが出来ていない。ことある毎に医者、看護師に周知徹底している。
二つ目の動機は、医療従事者の健康を守るため。
1980年代のHIV感染症に対する情報不足、無知、特に感染経路様式が不明であった事は医療従事者にHIV感染患者に対する盲目的な恐怖を引き起こした。時にはHIV感染患者診療拒否に発展した。
その反省より彼らは考えを変え、Universal Precautions を導入した。
つまり全ての人はHIV、B型C型肝炎ウイルスに感染している可能性があると考える。
そして人の血液、体液に触れる事が予想される時には、それらから必ず体を防御するようにバリアーをもうけている。
まず手袋であり、必要が有ればメガネ、マスク、前掛け、長靴である。針刺し事故も後を絶たない。
ともすれば事故を個人の資質の問題とし、原因をそこに求めがちであったが、それでは何の解決にも為らなかった事は明らかだった。
そこで新たな器具の開発工夫に取り組んでいる。
使用後針が注射筒の中に自動的に入ってしまう注射器、針抜去時に針先がカバーされる翼状針等器具の開発を進めている。
(後日、病棟勤務中針刺し事故でHIVに感染した米国看護師の講演が有りました。その方の集計によるとこのような器具は針刺し事故の感染予防に効果を発揮しているようです)。ただこのような器具は従来のものと比べ数倍から10倍ぐらいの値段がする。
その為経営者である病院管理職は安全器具の導入に難色を示す。
だから新たに従業員の健康を守る器具を入れる際には病院側に任せてはいけ無いとも付け加えていました。
医療従事者の健康を守る事は議論の余地がない。
しかしその費用を誰に負担させるかという問題はまだ解決していないようである。

1月11日(金、午後)HIV患者在宅看護(症状管理)講師 Celi Adams(看護師)。
メディカルソーシャルワーク 講師 Bill Pearse(メディカルソーシャルワーカー)

北野、岩見氏研修記に詳しいので印象だけ。
訪れた医療機関ヘルスセンター、総合病院、大学病院全てにソーシャルワーカー、カウンセラーが常時配属されているようであった。
医師、看護師、ソーシャルワーカー、カウンセラー誰一人かけても包括的な患者支援が成り立たないように思えた。
さらにこの中に民間非営利団体が独自のアイデアで加わってくる。
結果としてSFはHIV感染症医療に関して全米のモデルたりえている。

1月14日(月、午前)患者からの視点(出産を契機にHIV感染症が診断された女性の闘病記)Paula Peterson(SF在住主婦)

北野、岩見氏研修記に詳しいので参照して頂きたい。
中産階級白人女性は多くはHIV感染症と無縁と考えられている。
出産後体調不良を主訴に医者を転々とし最終的に前出M. Feldeman先生にHIVと診断された女性より話を伺う。
彼女が医療関係者に望むことは、高等教育を受けた独立した個性である私を尊重し、それぞれの高度な専門性を持ってして私に医療サービスを提供して欲しいということ。
私は、今全米で最高水準のHIV医療サービスを提供してくれるSFを離れられない。
そして私は子供の成長を見届けたい。

1月14日(月、午後)妊娠とHIV感染症 Maureen Shannon(NP)

女性とHIV感染症についても北野、岩見氏研修記に詳しい。
HIV感染陽性女性の妊娠維持、出産、垂直感染予防については最近のガイドラインを参照して頂ければ良いと思う。
ただSFでは、このガイドラインに先駆けて治療を実施し最近何年かはHIV陽性新生児を認めていない。
胎児期にAZT暴露された子供たちも16年追跡されているが現在の所AZTの副作用は認めていない。

1月15日(火、午前)AIDSケースマネイジメント Laila Hinkle(SW、HMO)

HMOは日本にない医療保険制度なので一口で説明は難しいし、何度聞いても分からなかった。
帰国後、恋愛小説家という映画を見ていた時に主人公の一人である喘息の子供を抱えたバツイチの女性がHMOのくそったれと叫んでいた。そのHMOの施設であるCPMCを訪問。
小林氏によるとケースマネイジメントは、日本でのケアー・マネイジに似ているということである。
患者さんが出来るだけ長く自宅療養が出来、家庭生活、社会生活を上手く続けていけるように援助していく事である。
結果として医療経済効率が上がることが期待されている。 今回紹介されたThe AIDS Case Management and Medi-Cal Waiver Programsにおいても病状が進行し自立出来ない患者さんを対象に、患者さんが在宅で生活の質(QOL)を損なうことなく、治療を継続出来る事を目的としている。
具体的にはソーシャルワーカーと看護師がチームを組み患者さんのサービスプランを立てる。
その中には家の構造検討(バリアフリー)、患者栄養評価、金銭援助等が含まれる。週3日患者宅を訪れ、看護、介護し、患者が抱える在宅医療上の問題点を探り解決している。
その為に1-2ヶ月に1回チームで検討会を持つようにしている。
違った専門職の視点から見て問題点をあぶり出すようにしている。
Hinkle氏が行っているプログラムでは現在10数名の患者を抱えている。
彼女のプログラムは施行後5年になるが、好評であり予約待ちの状態である。
このような在宅患者を支える目的を持ったプログラムは種々あり、在宅医療を希望する患者がその中から選ぶことになっている。
もちろん患者の要求に応えられず消えていくプログラムもあり、選択淘汰されている。
患者さんの満足度と経済効果を追求して試行錯誤が繰り返されている米国、日本でも医療資源の問題から在宅医療を推進する方向になっているがAIDSケースマネイジメント理解を計る必要性を痛感するとともに、その特殊性ばかりが強調されなければ良いと思った。

1月15日(火、午後)HIV感染症薬物療法。講師 Jason Tokumoto(HIV専門医)

HIV感染症薬物療法について最近の傾向を教えて頂く。
多剤併用抗HIV療法(HAART)が登場して来た時の熱狂は醒めてきた。
蜜月は終わった。
HAARTによりHIVを体内から根絶する可能性が遠のいた今HIV感染症を慢性疾患として捉え薬剤による副作用を軽減し、ウイルスをコントロールする方法が模索されている。
最近の話題としてはStrategic Intermittent Treatment (STI)を紹介する。
これは、HIVの増殖を抑え込むのに最低限必要なHAARTを施行して、副作用・経済的負担を出来るだけ少なくしようとする試みである。
つまり一定期間HAARTを連日行い、ウイルス量を抑える。
その後、休薬期間を設ける。これは研究者によってそのレジメに違いが有るが、その結果が待たれている。
もちろん結果が出ていないのに、耐性ウイルスを作らないように100%の服薬を奨めている現状では、このような休薬の話を安易に患者に話すのは時期尚早だという意見もある。
実際的にはプロテアーゼ阻害剤(PI)、一部の逆転写酵素阻害剤(NRTI)による脂質代謝異常等の発現などその副作用の多さ、重篤さを考慮し、服薬開始時期を遅らせる方向に治療指針が改定されている。
つまりよりCD4陽性T細胞の少ない、よりウイルス量の多い時期に治療を開始しようとしている。

1月16日(水、午前)HIV感染症神経症状診断治療。講師Dawn McGuire(神経内科医)

昨日訪れたCPMCを訪ねる。
McGuire氏は神経内科専門医でありSFのプライマリケアを担当する医療機関から紹介を受け神経合併症の診断治療にあたっている。
週2回ここで外来診療を行う傍らUCSF(だったと思う、さらにヴェンチャー企業の社長もしている。やり手です。)で臨床研究を行っており最近もその成果を論文にまとめ学術誌に採用されている。
3人の外来患者さんの診療に立ち会い、その神経症状の診断治療について討論する。
この事以上に印象深かった事がある。
それは、四肢の疼痛を訴えて来院された患者さんである。彼は無表情で、会話も聞き取りにくく、反応も鈍く、失礼な印象ではあるが、一見脳症があるのではという風情であった。
彼にMcGuire氏が他院での投薬内容を訪ねた時に、彼は今服用している9種類の薬品名とその量を答えたのである。
量は何錠とかではなく、何ミリグラムという単位で答えたのである。
これには驚いた。日本では多くの場合、質問されてその場で薬の量まで答えられる患者さんは少ないように思える。
自分の病気の事は自らコントロールし、治療を含めその方針決定に参加していくという姿勢は前述のPaula Petersonに共通しているように思えた。それを支える医療側の努力も推察され、インフォームドコンセントの一端をかいま見た様な気がした。

1月16日(水、午後)研修総括
1月18日帰国

インターネットの時代である。
海外の情報でも瞬時に捉えられる時代である。百聞は一見にしかず。
SFで教えて頂いた方たちは自分の専門を武器にいろいろな視点からHIV/AIDSに切り込み問題を解決する意志を持っていた。
その自発性、努力には頭が下がる。その熱意、空気はネット上では伝わりにくい。
SF研修に参加出来て良かったと思う。米国の医療は、いろいろ問題をかかえていると思われるが、HIV感染症患者の新規発生数、死亡者数は下がり続けている。それが全てを物語っている。

このページのトップへ