独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

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研修会報告

平成13年度HIV海外研修報告記 北野 千代美

HIV/エイズ海外研修記

東8階病棟 北野千代美

はじめに

今回、HIV/AIDS海外研修の渡航記を書いてほしいと依頼を受けたとき、“何をどう書いたら伝わるのだろう”“上手く伝えることが出来るのだろうか”と考えました。HIVの治療などに関しては、本やインターネットで詳しく知ることが出来ると思いますので、私は、感じたことを書きたいと思います。文才のない私ですので、わかりにくい文章になってしまうとは思いますが、ご了承ください。

昨年9月に起きたアメリカ同時多発テロ事件も記憶に新しい14年1月5日に、私はサンフランシスコへ出発しました。テロ事件もあり、本当に“大丈夫か”“やめたほうが良かったかな”など不安と、ましてや正月気分も抜けきれない5日の出発に、私は複雑な気持ちで関西空港に行きました。荷物チェックなどで時間がかかるとの前情報にかなり早く到着したのですが、結構待たされたあげく、いつもとあまり変わりないチェックでちょっと拍子抜けした出発でした。

サンフランシスコ

9時間近い飛行でサンフランシスコに到着。やや肌寒い気温の中、コーディネーターのMasamiさんのご主人と息子さんの出迎えを受け、ホテルまでタクシーで向かいました。ホテルはサンフランシスコのダウンタウンからバスで10分ほどの、後々食事でとても便利なJAPANTOWNにあるホテルでした。初日は顔合わせと日程説明で終了。昼はみんなでdowntownへ行きサンドイッチを食べ、街の散策をして夕食は、カストロ地区でタイ料理を食べ、本当に私達は研修に来ているのかと思うほど、観光客してました。時差ぼけを早くなくすためのMasamiさんの心遣いで翌日もフリー、またもや私達はケーブルカーに乗ったり港めぐりの船に乗ったり、これから始まる研修の日々を忘れるくらい観光三昧でした。

今回は私を含め看護婦3名医師3名の計6名でこじんまりした研修メンバーでした。

1、研修のスケジュール
1月7日 オリエンテーション
HIVのビデオ鑑賞
1月8日 外来プライマリーケア(UCSF)
アジア・太平洋諸島コミュニティーの予防プログラム
1月9日 大学病院の見学 外来と病棟の看護
「疫学」
Harm reduction
(Needle Exchange の現場の見学)
1月10日 Action Point(ホームレス対象内服指導)
1月11日 Infection Control(感染管理)
在宅ケア
ソーシャルワーク
1月14日 女性とHIV
妊娠とHIV
1月15日 ケースマネージメント
AIDS Medical Care
1月16日 Final Presentation

 以上のように、サンフランシスコのHIVの歴史から疫学・外来診療・在宅ケア・サポート体制・予防教育まで、幅広く研修することが出来ました。

 私は、大阪病院のHIV看護プロジェクトメンバーとして、看護職員の教育に携わる役割から、教育に必要なものは何かを課題に研修に取り組むことにしました。

2、サンフランシスコでの予防介入とサポート体制

 まず、初めにアメリカでのHIVの歴史をわかりやすくまとめている映画を見せて頂きました。文章や話では歴史や疫学的なことは理解しているつもりでいたのですが、影像で見るとまた違った印象を感じました。私は、すでに対策を取っているアメリカの現状しか知らなかったのですが、そこに至るまでに多くの患者の死があり、危機感を感じ、周囲の人々の戦いがあったことを改めて理解できました。その歴史があり、予防に対する考え方や患者をサポートする組織が発達しているのだと思いました。

 予防介入において特徴的なのが、Harm Reductionの考え方でした。Harm Reductionはrisk reductionと殆ど同じ意味で、理想とする状況に一気に持っていくのではなく、効率的な手段を使いながら少しずつ理想に近づける考え方です。例えば、ハイリスクの集団にコンドームを配ったり、ホームレスの状況を改善するサポート行動やハイリスク集団の中に行き予防行動の教育をすることなどがあります。その中でも日本では考えられないと感じた「needle exchange」というのがありました。Needle exchange すなわち針の交換です。HIV感染の原因の一つに薬物常用者間の注射針の共用があります。たとえ薬物を使用していても健康であってほしい、新しい清潔な針があればその人の健康を守り周りへの二次感染を防ぐことになるという考えのもとneedle exchangeを行っています。またリサーチでの「何があれば貴方の健康が維持できますか?」の質問に清潔な針と答えた人が多かったことからもこのプログラムが生まれたとの事でした。needle exchangeは、針を交換するだけでなく、交換に来た時に予防行動の教育をしたり、健康チェック・治療をしたり、カウンセリングをするなど、あらゆるチャンスにしています。違法である薬物常用を助けるのではないかという考え方もあり、もっと違う方法もあるのではと思うが、薬物常用者間の感染者の増加は見られないことから、現在は効果のあるプログラムと思いました。罪を犯している人でも、健康になろうとする権利はあります。現状から少しでも健康になるようにサポートする姿勢に私はとても感動しました。そしてその行動を支えている人々は、とても活き活きとしていて輝いているように見えました。私もそんな風に生きていきたいと思いました。

サポート体制としては、様々なものがありました。食事の宅配サービス・在宅ケア指導・内服支援・人種や様々なコミュニティーを対象とした予防プログラム・ホームヘルパー・送迎ヘルパー・通訳などなどあらゆる面でのサポートがあり、人として生きることが出来るようになっていると感じました。そのサポートも政府の保障だけでなく、ボランティアだったりNGOや寄付金などで行われていました。

3、HIVの診療体制

 UCSFの外来診療Nurse Practitioners (以下NP)の方に会い、外来診療の実際を見せていただきました。アメリカではNurseにも様々な種類があり、N Pは、麻薬処方と開業が出来ない以外は、殆ど医師と変わらず、検査・診断・処方・治療を行う資格をもっています。(Nurse Practitioners が生まれたのは1970年代に深刻な家庭医不足とDrの専門化などから1975年に誕生したとのことでした。)外来のプライマリーケアのNPは、患者の信頼を得ることが必要なため、細心の注意を払い行う必要があります。NPは現状をアセスメントすることが、治療や予後を左右することになるので、確実にアセスメントできるだけの知識が必要です。NPは、日本の看護婦と違って責任を持って行える権限があります。もちろん科学的な根拠に基づいた判断力が必要ですがやりがいのある仕事だと感じました。日本も専門看護婦が増えてきてはいますが、まだまだ活躍できる場所が限られているため、アメリカの体制がうらやましく感じました。

 アメリカでは、医療費は高く日本のように全国民が保険に加入しているわけではないので、入院は急性期のみになっています。そのため病気になる前に健康を維持するための教育に力を入れています。また、在宅で過ごす事が出来るような制度も発達しています。前述のサポート体制にも少し書いてはいますが、人が健康を守るために必要なものが、あらゆる面から援助できるようになっています。その中の一つに抗HIV薬を内服しているが、ホームレスなどで管理が難しい患者に対して、服薬の管理・指導・健康チェックを行っているAction Pointという場所があります。そこでは、nurseやソーシャルワーカーがいます。Nurseは、主に薬の管理、きちんと内服できているか、飲み残しはないか?、このまま内服していて良いのかなどをアセスメントし、時にはプライマリーDrに掛け合うこともあるそうです。Action Pointを利用する人の健康上の問題をサポートしています。ソーシャルワーカーは、クライアントと“何故飲めないのか”を一緒に考え、飲むことの支障になっている問題をサポートしていきます。例えば、サービスが必要か、メンタルヘルスが必要かなど判断し、それぞれの紹介を行ったりしています。時には危機管理にも介入する場合もあるそうです。そして現在このAction PointにきているDrは、Painに対して針治療・マッサージなど薬以外で出来ることをやっていて、治療よりも触れ合うことが大切であると考え、行っているそうです。このAction Pointの総合的な評価はまだ出来てはいないが、救急で運ばれる患者の数は確実に減少していることやプライマリーDrとのアポイントが取れていること・QOLは向上しているという成果は現れているとのことでした。

 また、在宅でケアを行う家族に対して、ある病院ではプログラムを組んで18時間無料で在宅指導を行っています。人生を共にしてきた愛する人が苦しむ姿を前にして何も出来ない不安や申し訳なさを持つことがないように、症状への対処の仕方からケアの工夫、最後をどう迎えたらいいのかまで、詳しい指導をおこなっていました。本当にあらゆる面での支援が考えられているのを感じました。

4、サポートする人々

 今回の研修で多くの方々に接することが出来ました。病院や地域で活躍するDr・NP・NS・ソーシャルワーカー・リサーチャー・教育プログラムをおこなう人・ボランティアなど様々な方が、HIVに関わっています。それぞれの人が自分の力を十分に発揮できる場所を見つけ、誇りを持って活動していました。中でも印象的だったのが、HIVのクリニックでソーシャルワーカーを行っている方でした。彼は自分の役目は、一人の患者がうまく生きていけるように、まわりの調節をすることであり、患者の環境を安定するように社会的資源を使って、患者がパワーを感じるようにもっていくことであると言います。具体的には、医療サービスを使ってどんな目標があるのか、現実的な目標は何かを患者と話し合い、安定して治療が受けられるようにしていくことです。そういった役割を果たす中で、次のようなソーシャルワーカーを続けている意味を見出したそうです。

  1. 医療上危機に陥るような状態を変えることが出来る
  2. 患者と良い接点を持つことが出来る
  3. 自分の視野・知識が広がった
  4. 相手が成長することに関われてうれしい
  5. 相手の大切な時期に関われてうれしい
  6. 死の準備ができれば、良い死に方を迎えることができる。その手伝いが出来る
  7. 今の世の中を知ることができ、自分が生きていることを感じることが出来る

 私は、このことを聞いたときに、いつの間にか忙しさに流されて、自分は何を考えて看護婦をしているのかを考える事を忘れていることに気づきました。看護婦としての喜びや達成感を感じながら生きることの大切さを再認識しました。私も彼のように自分の存在意義に近い意味を考えていこうと思います。そうすれば、この研修で出会った方々のように輝いていられるのではないでしょうか。

終わりに

 今回の研修では、アメリカでの患者のHIV診療やサポート体制医療者としての役割などを学ぶことが出来ました。日本においても、HIV/AIDSは、治療の効果により死の病から慢性疾患として捉えられるようになっています。しかし、感染経路の歴史的背景から、その他の慢性疾患と違って、社会的な誤解・偏見・差別が根強くあります。そのためHIV感染者やAIDS患者は孤立し、病気が知れる不安と孤独の中で生活しています。医療者の知識や体験も不足していますし、予防教育に対しても進んでいない現状があります。そういった状況であることを看護者として理解して看護すること、サポートしていくことを再認識しました。そして、少しでも感染者が減少するように、予防活動に関わることや研修などで疾患の理解を広めていけるように頑張りたいと思います。

 また今回の研修に際して多くの方にお世話になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。そして、私の脈絡のない文章を最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

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