研修会報告
平成14年度 HIV海外研修報告記  浅野 智子
HIV海外研修報告
〜助産師として学んだこと〜
国立大阪病院 西5階病棟 浅野 智子
はじめに
今回、この海外研修に参加させていただきアメリカでHIV患者に関わる多くの医療者やコミュニティーで活動している様々な人たちとお会いし、お話を聞かせていただきました。どの方々も豊富な専門的知識をもち、とてもパワフルに活動されていました。その中でたった2週間の研修でしたが、本当にたくさんの事を学び、感じそして元気をもらって日本に帰ってくることができました。
学んだことがたくさんありすぎて、まとまらなくなりそうなので、今回は助産師として私が一番印象に残ったHIV陽性で2人の子を出産、子育てしている方との出会い、コミュニティーで予防活動をしている若い女性というより少女たちとの出会いから学び、感じたことを書きたいと思います。
 私は「イラク戦争がいつはじまるかしれないのに行っても大丈夫?」との家族や友人、病棟の方々の言葉やメールに「うん!きっと大丈夫、元気に行ってきます」との言葉を残し、2月15日関西国際空港からサンフランシスコに向けて飛び立ちました。9時間あまりの飛行機はこれから始まる研修に向けての期待や不安があったにもかかわらず、よく眠れてあっという間の時間だったように思います。
時差ぼけしないようにといろいろな方からアドバイスをいただいていたのですが、普段三交代の勤務をしているのが幸いしたのか、時差ボケの心配も全くなく、医師3名(内1名仙台から参加)、検査技師1名、私を含めた看護師2名、薬剤師1名(札幌から参加)の多職種からなる合計7名で研修が始まりました。


1.予防教育について
私たちはハックルベリー財団が主催して12才〜24才という若い人達を対象に活動を行っている場所を訪れました。ここが行っている活動はHealthサービスと医療サービス、サイコソーシャルサービスの3点でした。
各々を具体的に説明するとHealthサービスではHealth Presentationとして中学校や高等学校に行き、自分たちの体がどのようになっているのか、性行為感染症を防ぐためにはどうすればいいかの話をしたり、OUT REACHをして街中で声をかけ質問し、コンドームを配る。Health One Know Oneといって基本的な知識を持ってもらうために小さな部屋で小人数もしくは個別に質疑応答しているそうです。
医療サービスではクリニックが付属していて、Primary サービスとして予防接種を行ったり、喘息などのケアもしているそうです。そしてSensitive サービスでは生殖機能に問題が生じた場合に受診して、妊娠反応の検査、HIVテスト、相談、治療、情報の提供を行っています。
サイコソーシャルサービスでは精神的にケアの必要な人に対して専門家がケアにあたっていました。原則的には無料で行っていて、もしお金が必要な
場合でもできるだけ安く治療を提供するそうです。
一番重要なこととしてここを訪れる人たちのコンフィデンシャルを守るということです。そのために検査の結果は若年であっても本人に伝える。
結果が陽性であった場合、親にも言いなさいねとアドバイスはするが、本人の考えに任せるそうです。
そして、もし親から「子供がそちらに行っていると思いますが、どうなのでしょうか」という内容の問い合わせがあっても「子供さんから直にお聞き下さい」と対応して、たとえ親であっても検査の結果や何のためにきているかなどの情報を与えることはないそうです。
本当にコンフィデンシャルを守るために徹底した方法が取られていると感じました。
私たちも日常の業務の中で患者様の自宅に電話することがありますが、前もって「ここの電話番号には病院からといって電話してもいいですか」などと
聞くことは希であり、患者様からここには電話しないで欲しい、病院の名前を出さないで欲しいとの要請があればそのようにしますが、そのような要請のない方にはご本人に確認しない状況で病院の名前を出して電話しているのが現状です。
しかし、今後は全員の方に電話連絡の必要ができた場合、病院からですがと言って電話してもよいか外来初診時や入院時に確認していくことが必要だと
いうことを改めて強く感じました。
また、ここの特徴として対象が12〜24才の人たちなので、中で働いているカウンセラーも若い人たちが多くいました。
実際に中学や高校に出向いて活動するのはPeerカウンセラーといって同じような年代の人たちから話をするようにするそうです。
実際学生たちは大人たちから言われると反発を感じたり、本当の気持ちが言いにくくても、同じ年代のカウンセラーだと言いやすかったり、話を受け入れやすかったりするようです。80年代にこの様な同世代からの予防活動をすることに対して費用が出るようになって、ここサンフランシスコには同じような活動をしているグループがたくさんあるそうです。
Peerカウンセラーたちは自身が学生時代にサマースクールとしてきている中で教育をうけて、その後本人の希望で卒業後、働き始めるそうです。
働き始めた動機としては自分自身の周囲で若年で妊娠して誰にも相談できずにいる姿などをみて、この活動で色々な事を学び、予防活動が重要だと思い、カウンセラーになったと明るくそして自信をもって話をしてくれました。こういったカウンセラーの教育や色々な活動のとりまとめはコーディネーターがいて行っていました。私たち7人は実際にここのカウンセラーが行っている予防活動のいくつかを見せてもらいました。とても具体的で例えばコンドームの使い方などは見せて説明するだけでなく、実際に袋をやぶって、装着そして使い終わってごみ箱に捨てる所までを実演させるのです。
またHIVはどの体液によって感染するのかをゲーム形式にして楽しく理解できるような工夫がしてありました。
サンフランシスコには子供に自分の体を守ることを教えなければならないという法律があり、学校は性教育をする義務があるそうです。
しかし話の内容は繊細なことなので、保護者にはいつこんな内容の授業をしますというお知らせをだしておき、子供たちが受講するかしないかは親たちの
考えに一任されています。
ここでの活動をみて、予防教育の大切さとその方法には工夫が必要だということを痛感しました。
私は普段は助産師として、出産後の方を対象に家族計画という点でコンドームの使い方やその他の避妊方法について話をしています。
しかし実際には実物をみせて、使い方については口頭の説明のみです。これでは本当に正しい方法や使い方が理解できているか疑問が残ります。
これからはもっと具体的に話しをしていかなければと日々の活動を反省しました。
また私が日々接している母親達に少しでも感染予防やHIVについての正しい知識を伝えることで、いま産まれてきた子供たちが思春期に達したときに母親から少しでもその情報が伝わるように、母親が子供たちには正しい知識を与えなくてはいけないと思い、行動していってくれるように退院前の話には感染予防という点も強調して伝えていきたいと思いました。


2.HIV陽性で出産した方とお会いして
今回の研修ではたくさんの方々とお会いしましたが、その中で私が一番印象的だったのは「WORLD」という女性をサポートする組織で活動されていて、自身もHIV陽性とわかってから2人のお子さんを生んだ方とお会いし、出産を考えた時、妊娠に至るまでの経過、出産後の不安な気持ちそして医療者に望むことなど色々お話しできた事です。
この方が子供を産みたいと思った時に一番心配だったのは、子供に感染するかどうかだったそうです。その当時で母子感染の可能性は2/100と聞いて出産することを決意されました。妊娠にあったては感染防止のためにSelf insemination という方法をとられています。日本語でどのように訳せばいいのか私にはわかりませんが、自分で排卵にあわせて、精子を注入する方法だそうです。この方法では妊娠にいたるまでに結構時間を要する場合が多く、中には何年かかっても妊娠せず自然妊娠を選択する人もいるそうです。
この方の場合、出産は帝王切開を医師に薦められて(この当時はそれが良いとされていたそうです)、帝王切開で出産されていますが、現在ではウイルス量が1000以下なら帝王切開でも自然分娩でも感染のリスクは同じだそうです。出産後の心配も子供が感染しているか否かが心配で心配でたまらなかったと言われ、そんな中で夫、家族や友人のサポートが自分には充分あったので乗り切れたそうです。でも中には夫や家族からのサポートが得られず、つらい状態にある人がいるのも事実でそんな人たちの相談に乗り、精神的なサポートを自分たちがすることもある。と言われていました。
現在は出産された、2人のお子さんもHIV陰性であり、自身も薬の内服によって状態は安定しているそうです。色々な質問をさせていただきましたが、「最後に医療者に望むことは何ですか?」という問に対して以下の3点を挙げられました。

1. 守秘義務を守って欲しい。
2. 女性が自分の選択で子供を産みたいと思った時それを尊重して欲しい。
3. 母子の健康を守る上で精神的サポートが重要だということを理解して欲しい。

         
この3点は本当に重要なことであり、日々の仕事に流されて、いつのまにか自分の意識の隅に追いやられがちなことであったなと、この方とのお話で深く胸に突き刺さった言葉でした。守秘義務を守ることは医療者として当然のことです。でも日々の業務の中でも何気なくしていることが、実はと考えさせられました。例えば廊下や大部屋のベッドで話す会話の一つ一つに気をつけていただろうかと考えました。意識できていないこともあったと思います。これからは私一人だけでなく、勤務する病棟で守秘義務を守るためにはどうすればよいのか業務一つ一つについて考えていかなければならないと思いました。
2つ目の女性が出産を選んだ時には尊重して欲しい。これはHIV陽性の妊婦様だけでなくすべての妊婦様に言えることです。色々な背景を持つ方が妊娠して私たち助産師と出会います。きっと喜びや不安をいっぱい抱えてくることでしょう。そんな時私たち助産師はその方たちがどんなケアを望んでいるのか、何を必要としているのかそれを理解し、実践していかないといけないのですが、その重要性を改めて認識したとともに、自分には今までできていたのか、これから実践するためには何が必要か深く考える良い機会になりました。
それと助産師として身体のケアを行うだけでなく、いつでも患者様の気持ちに寄りそい、精神的なケアを行う事を大切にしていきたいと思います。その為にも今後、専門的知識を広げる努力を怠らず、そしてこの方のおっしゃった3つの要望を忘れないようにしていきたいと思います。


おわりに
2週間のアメリカでの研修は色々な知識を学ばせていただくとともに、今までの自分自身の看護を振り返ることのできた素晴らしい日々でした。この学びを生かして助産師としてもっと積極的に予防活動に関わっていくとともに、これから出会う出産を迎える女性が元気な赤ちゃんを抱いて、笑顔で退院していけるような看護ができるように努力していきたいと思います。
最後になりましたがこの場をお借りしてこの研修でお世話になりました皆様に深く感謝いたします。
本当にありがとうございました。
 
 
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