独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

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研修会報告

平成14年度 HIV海外研修報告記 下司有加

HIV海外研修報告

国立大阪病院 看護師
下司有加

1.アメリカにおけるAIDSケア体制

  • HIV:慢性疾患傾向→在宅で生活し続ける(簡単には死なない病気)

    病気とともに生き続ける QOLの問題

  • 保険制度 お金がないと生活できないが・・・実際は貧乏でも裕福でもない階級が困っているのが現状
  • ナースプラクティショナーの存在

    プライマリーケアを提供する専門性の高い看護師。
    慢性病で単独の病因による症状管理などを責任医師のリモートな監督のもとに任されている職種である。
    HIV関連の症状や日和見感染症などであればそれらの診断、治療、処方を責任を持って行う。

役割:
  • 患者の生活おより現実的にアセスメント
  • リーダーシップロール
  • チーム医療のまとめ役

2.カイザーパーマネンテ

 朝のカンファレンスに参加。MD、NP、PDなどが参加していた。4症例について検討

3.ストップエイズプロジェクト

 80年代にとっかかりとしてAIDSに対して政府の補助金なしにコミュニティーベース行うことをモットーに地域の中からグリッドという名前で発足した(地域に根付いた形を大切にしていた)。87年に新規感染患者が0になったため、活動は成功として終了した。

 しかし、HAARTがでたことでAIDSを楽観視して感染者が再び増加(予防活動がうすれた)したため、94~95年にストップエイズプロジェクト開始。

 同性愛者、異性愛者にかかわらず、地域の中の人が中でどう変えていくか、コミュニティーの中に何を返していくかを考えた。

活動内容
①リビングルームワークショップ

自分達が住んでいる場所や家でSafer Sexとは、今後をどう生きていくかなどを話し合い、知識を深める。

②アウトリーチ

人の集まる場所でHIV/AIDSに関するアンケート調査を行い、どのくらい情報をもっていて、どんな行動をしているのかを調べる。

結果は州の公衆衛生局に送る。現在は梅毒の流行についてリサーチしている。(梅毒感染者の1/4がHIV陽性)

③ワークショップでコンドームの使い方を紹介
④ゲイの集まるような店、場所にコンドーム配布
⑤基本理念はゲイの感染防止(サンフランシスコならでは)

なぜか?

他の地域では異性間感染者や麻薬中毒者の感染が多い。

サンフランシスコでは麻薬中毒者には注射針の交換を行っている。

これは、麻薬の使用自体を減らすことはできないが、公園や道に使用済みの針を捨てて一般人や子供が誤って刺してしまうことを防げる。

また、麻薬中毒者も新しい針を使用できる(人の使ったものではなく)ため、HIV感染予防につながる。

サンフランシスコ内に6~8カ所で交換している。

⑥サンフランシスコでは薬がうまく誰にでも使用できる環境であるからこそ、「AIDSになっても大丈夫」という風潮があるのも実際であり、大変な治療を続けていかなければならないことをポスターなどでアピールしている。
⑦小冊子の作成。

情報の提供をして、人々に考え、選択してもらう。

ハームリダクション

リスクとなる行動や要因を少しずつ減らしていくことを目的とした考え方。例えば、注射針の交換も、本来なら麻薬の使用自体を止めることが正当であるが、麻薬使用によって起こりうるHIV感染のリスクを減らしていく。

つまり、針を新しいものに交換して回し打ちをやめたり、道に捨てたりしなくなることが結果的に感染予防にもなっていく。大切なのはそれを自分で考えて実行できることである。

4.HIVプライマリーケア

UCSFにはCDCの資金で運営するクリニカルホットラインがある。

ここは、全米からのエイズ診療上の質問を電話でうけている。

①ナショナルエイズホットライン
エイズ診療の質問(薬剤の選択、耐性の問題など)
②ポストエクスポーションホットライン
感染に関する一般対象のホットライン
③PEPのホットライン
針刺し事故の対応、処置に関するホットライン
針刺し事故に関して

 リスクの評価が大切である。リスク評価のポイントとして、

  1. 事故発生時の状態:傷の深さ、付着していた血液量、針の使用方法
  2. ソースの状態:血液の混入の有無、感染症の有無、人物の特定が可能か

 HIVの感染力は低いため、上記のリスクを適切に評価した上で、予防内服を行うか自己決定できるよう支援する。

 事故発生当初は精神的動揺も大きいため、正しい情報を提供し、カウンセリングで不安の除去に努めていく(落ち着かせることが大事)。

5.コミュニティーサービスについて

アメリカのボランティア活動

提供できるものは何か?

  • お金
  • 時間
  • 気持ち
  • 体力
  • 技術

ボランティアをする人はどんな人か?

  • (経済的にだけでなく)余裕があると思える人
  • やりたい人

AIDSボランティア(患者がボランティアをしている)の現状

  • 仕事を行う人が増加:HAARTにより普通の生活が送れるようになった
  • 高齢化
  • 危機感の薄れ:AIDSで亡くなる人の減少
  • 社会的に余裕のない人に感染が拡大

結果として、ボランティアをする人が減少している。

6.コミュニティーサービスの種類

①栄養に関するもの
オープンハンド(調理したものを配達)、食材の配布、サプリメントの配布、栄養士クリニック
②健康管理に関するもの
検査、コミュニティーの情報発信、患者からの相談、各種パンフレットの配布
③家
住居の提供や斡旋、改造、引っ越し、ケアホームの紹介
④仕事
就職の斡旋、技術が習得できるような訓練、バディシステム(一緒に付き添って仕事をみる)
⑤衣
洗濯、配給
⑥パートナー
話しをする、ホスピスへの出張、ペットの世話
⑦カウンセリング
ピアサポート
⑧エンターテイメントs
各種エンターテイメントのチケット配布、エスコートサービス

7.ホスピスケア

アメリカにおけるホスピスの流れ
60年代 公民権運動により一般の人が「知る権利」について考え、求めるようになった
70年代初め 自分の命だから自分の情報として知る権利があり、今後どうしていくか「選ぶ権利」があるという考えが強くなる
→ホスピス運動へ 癌患者のためにケアサービスがスタート
80年代初め AIDSで亡くなる人が増加し、ホスピスケアサービスが盛んになる
90年代半ば 薬によりAIDSで亡くなる人が減少し、ホスピスケアをうける人も減少した

 現在、3%の人がHIV/AIDSでサービスを受けているが、HIV/AIDS単独でというより他の癌などを併発してということが多くなっている。

アメリカでは「人生の最期も家で」という希望の人が多い

 そこで、ホスピスケアサービスは、ホスピスという施設に入所するのではなく、在宅にいながら、ホスピスケアサービスをうけるという形。(約80%の人が在宅でうけている。また、アメリカ全体の死亡者の1/3がサービスをうけている)

ホスピスケアサービスの内容
①患者へのケア
インターディスプリナリーチーム
メディカルディレクターとしての存在である医師、看護師、介護士、カウンセラー、ソーシャルワーカー、宗教家などの他職種がいろいろな立場から患者に関わる。
②患者の家族へのケア
ビリーブメントサービス
患者の死後1年を区切りとして関わりの深い看護師が家族の話を聞いたり、ボランティアの参加をうながしたりする。
③サービスを提供している人(職員)へのケア

1ヶ月に1度の割合でキャンドルをともして患者の思いで話しをする

バーンアウトの防止

8.検査科の役割

サンフランシスコジェネラルホスピタルの検査科にて

検査職員:160人
24時間運営 年に240万のテスト

仕事内容
  • ・・・管理事務
  • ・・・各種献体検査
  • ・・・リサーチ管理
  • ・・・コンピューター管理
  • ・・・POCT管理
  • ・・・品質管理
  • ・・・その他:院内で検査科に関係するものの管理
職員の感染対策と教育
  • ・・・オリエンテーションの実施
  • ・・・検査を行う者は、毎年、感染対策のライセンス更新が必要
  • ・・・TB検査(年1回)
  • ・・・ユニバーサルプリコーションの実施
  • ・・・PEP教育
  • ・・・HB陰性者に対するB型ワクチン投与確認

9.母子感染予防とHIV陽性者の妊娠出産時のケア

 サンフランシスコ公立総合病院の中にBAPAC(BayArea Pregnant Women&Children’s Program)がある。

 これはUCSFと公立病院の共同プログラムで、サンフランシスコ内9カ所のパブリックヘルスセンターでBAPACが用意されていて、その地区の裕福ではない層の妊産婦ニーズに対応している。サンフランシスコは歴史的にも女性のHIV感染者が少ない地域ではあるが、HIV女性の妊娠は年間100件くらいである。

 母子感染率は0%の年が多いが、全体としては2%弱である。サンフランシスコでは母体の健康度合いを細かくモニタリングし、早期発見早期介入で体内の急性の炎症を最低限に抑えていくなどを行う。出産施設そのものや手術室、未熟児のケアなどには、母親または新生児がHIV陽性であるかないかの区別はない。

 胎児のうちにAZTを浴びた子の20年間モニターリサーチを含め、さまざまなリサーチも並行して行われている。

 一番大切なことは、母親が健康を維持しながら生きていく気力を支えるカウンセリング、それに限りのある体力に応じたきめ細かい対応である。

妊娠方法
  • ①Self insemination
  • ②人工授精
  • ③精液洗浄(カリフォルニア州では禁止)
出産方法
  • ①VL1000以上なら帝王切開推奨
  • ②VL1000以下なら帝王切開でも経腟分娩でも感染率は同じ
医療者に望むこと
  • ・・・守秘義務を守ってほしい
  • ・・・女性が自分の選択で子供を産みたいと思った時にその気持ちを尊重してほしい
  • ・・・emotionalなサポートが多い方がいい

10.STDクリニック

10~20代の人を対象に

①ヘルスサービス
  • STDについてのプレゼンテーション
  • アウトリーチ
  • 健康についての関心深めて、専門的知識をもってもらうことを活動内容としている。
②医療サービス

クリニックで診察(二カ所)

  • プライマリーサービス:予防注射や疾病に対する治療
  • センシィティブサービス:生殖機能の問題、STDについて、妊娠について
③サイコソシアル

精神衛生を行っている。全てのサービスは基本的に無料でプライバシーの保護に留意している。

ここで働くスタッフは若い。理由として、ここに来る人も若いので、話しやすいようにしている。(ピアでの予防)

研修を通して

 

 今回の海外研修では、アメリカの医療制度から現在のHIV/AIDSの診療体制まで多くのことが学ぶことができました。特に、地域社会でのボランティア活動の多さや活発さには大変驚きましたが、患者を地域の一員として考え、サポートしていくシステムはとても重要であり、多くの患者がそういったサポートをうけることで治療の継続や健康管理の実践がおこなえていることを知りました。また、ハームリダクションという考え方で予防活動があり、今まで考えていた予防の視点や捉え方が変わりました。

 

 研修の最後に、患者にとってよりよいQOLを向上させる私たちの関わりについて考えました。患者のQOLを支える要素として、健康・仕事・お金・理解者・宗教・生き甲斐などさまざまです。その全てが満たされていればよりよいQOLとなるかというと、それを決定するのは私たちではなく、患者自身であると考えます。しかし、患者自身がいいといえば、医療者からみてよくない状況でもいいのかというと、そうではありません。健康により近い状態がベースにあったうえで、それ以上に求めるQOLの要素は患者自身が選択・決定していくものであると思います。

 

 ベースとなる健康を(身体的にも精神的にも)かためていくには、医療介入が必要です。その健康を手に入れるためには治療が必要で、治療を受けるためにはお金が必要で、治療を継続するには継続できない要因を減らす必要があります。所々でなんらかのサポートが必要となってきます。

 

 私たち医療者は、「より健康で生きたい」という意志を患者が持ち続けていけるようサポートしていく必要があるのではないかと感じました。ただし、患者全員が生きたいと感じているわけではありません。むしろ、死にたいと感じている人もいると思います。その中で、生きたいと思える何か、自分の存在価値が感じられるなにかをもてるように関わり、それを見つけられるよう支援していき、そのうえで、患者自身が「生きたい」を選択することが重要ではないかと考えます。

 

 ただし、人の気持ち(思考)は一定ではないため、DABDA理論にあるように変化する患者の心理を捉え、何を必要としているのかを把握しておかないとならないと感じました。

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