研修会報告
平成14年度 HIV海外研修報告記  細木 拓野
サンフランシスコAIDS/HIV研修成果を当院のホームページにのせる原稿が最終になってしまいました。
今回の研修内容については、すでに他の方々の報告で網羅されていて、私が何を報告してよいのか困りましたが、二点ほど付加させていただきます。
一点は、(1)針刺事故に対する対応、もう一点は、(2)私がOptionでみることができたAIDS/HIV患者診療の実際です。

(1)については、Dr. Jason Tokumotoの話を簡単にまとめます。
氏はSF General Hospital などで長年AIDS診療の経験があり、全米の医療関係者からAIDS診療についての電話相談受けています。また医療関係者の医療事故への対応、処置に関してのホットラインを運営しています。全米で針刺し事故によりHIV陽性になった例が54件ありますが、1年間で60万から80万件ある針刺し事故があることを考えると感染率は低く、例えばHBVと比較すると、30分の1以下にすぎないことを認識すべきです。
その上でHIV感染者に使用した針の事故の場合、リスク評価のポイントは二点あるとのことで、
1)どのような傷か?
①傷の深さ。
②針に血液が付着していたか否か。
③血管損傷の有無。
④中空の針か否か。

2)針付着体液がどのようなものか?
唾液、汗、涙、尿、糞汁については、目に見える血液の混入がなければ安全と考えてよい。
このような事項を勘案してHIV感染のリスクがあり、当事者が望む場合は、抗HIV薬の予防投与を行います。


(2)サンフランシスコの公衆保険センターは各区にあり、総合病院の分院のように機能しています。その一つの公衆衛生局と同じ建物の一階を裏口から入って使っているホームレスのためのプライマリケア診療所Tom Waddell Health Centerにある、女性医師Dr. Martinezの診察室を訪れ、四人の患者の診療現場に立ち会うことができました。

患者1。メキシコ人の若い女性で、Needle Exchangeの場所でDr. Martinezがみつけてきた。しばらくは麻薬をやめられなかったが、その後医師の指導でやめ、抗HIV薬を服用している。精神不安定と背部痛の訴えがあり、腎結石の疑いで検査をうけることになった。彼女は多弁で知性が高く、見知らぬ外国人の前でも率直に自分の意見を医師に述べていたのが印象的であった。

患者2。ホームレスでC型肝硬変の男性で、かってアルコール中毒であったが、事故を契機にアルコールをやめ、今は正常な人間関係を保てるようになり、仕事をする意欲もわいてきたことを話していた。一見陽気にみえるも、心の闇は深そう?

患者3。Transgender(性同一性障害者)の男性で、HIV感染が心配で検査を行ったが、陰性だったので喜んでいた。精神統合失調症で精神科にもかかっている。麻薬をやめる施設で暮らしており、性ホルモンとマリファナを医師に要求していた。陽気ではあるが、とても文句の多い人との印象をうけた。

患者4。黒人男性。高血圧症で受診している。彼は抑うつ的で表情に乏しく、また見知らぬ外国人が傍にいることに対し、気に食わない様子にもみえた。

以上、診療のほんの一部を垣間見ただけですが、患者層の多様性、抱えている問題の困難さは、日本のそれとは比較にならないほど大きいようです。
そのような患者に対し、私と比べてもかなり若い女性医師が対応し、信頼を勝ち得ているのは驚きであり、大学卒業後すぐに医者になり、人生・社会経験の乏しい日本の多くの医者には、まねのできないことではないでしょうか?
AIDSが慢性病になって患者が長生きするようになり、AIDSプライマリケアの医師は、AIDSの治療、抗HIV薬の副作用や薬物中毒ばかりではなく、成人病、癌、精神病の治療についても対応が求められており、医師間の連携の必要性を感じました。  
また、患者と医者が治療方法についてDiscussionして決めていく方法が私にとっては斬新で、状況に応じて外来で鎮痛以外の目的で麻薬を処方できることなど、医療側の思い切ったHarm Reductionに基づく治療の実践については驚きと同時に、国民性の違いも感じました。
以上、サンフランシスコの2週間の研修の間に、多くのことを学ばさせていただきました。これも小林まさみ・Dave夫妻のよく練られた研修プログラムと適切な解説、当地の様々な人達の協力があったためであり、感謝いたしております。 
最後に、私達一行を暖かく送り出していただいた当院の人達にお礼を申し上げ、またできるだけ多くの人達が、今後もこのような研修ができることを願いまして、締めくくりとさせていただきます。
 
 
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