独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

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研修会報告

平成15年度HIV海外研修報告記

はじめに

平成16年2月21日(土)~平成16年3月5日(土)にサンフランシスコで行われたHIV海外研修報告です。

目次(クリックするとリンク先へ飛びます) 報告者
概要 免疫感染症科 長谷川善一
地域での受け入れ 免疫感染症科 長谷川善一
外来見学記「プライバシーに配慮」 免疫感染症科 長谷川善一
感染予防啓発 看護部(東5) 池田すみ枝
母子感染の予防 看護部(東5) 池田すみ枝
放射線部門での感染予防・ユニバーサルプリコーション 放射線科 藤崎 宏
日和見感染症の画像診断 放射線科 藤崎 宏
HIV感染症診療における診療放射線技師の役割 放射線科 藤崎 宏
薬剤師から見たHIVとサンフランシスコ 薬剤部 永井聡子

1.概要

報告者:長谷川善一

渡航先: アメリカ合衆国 サンフランシスコ市
日程: 平成16年2月21日~3月5日
参加者:

全国エイズ診療拠点病院から[大阪4名 名古屋3名 仙台2名 札幌・道北(旭川各1名)]

職種別
医師5名(外科2 泌尿器科1 呼吸器科1 内科1)
薬剤師3名 助産師2名 診療放射線技師1名
大阪医療センターからの参加者
  • 長谷川善一 医師
  • 永井聡子 薬剤師
  • 池田すみ枝 助産師
  • 藤崎 宏 診療放射線技師
訪問先:
カイザー病院
  • プライマリ・ケア外来(HIV)
  • HIVチームカンファレンス
  • 放射線科・外科・手術室業務
サンフランシスコ総合病院
  • 院内感染予防管理・薬局業務
  • 放射線科(画像提示)
Tom Waddell AIDS Clinic
公立病院でのHIVプライマリケア
UCSF
周産期感染対策
Cole Street Clinic
STI予防におけるPeer Educationのデモンストレーション
Westside Cmty. Mental Health
AIDSケースマネジメント
Continuum
HIV陽性者デイケアセンター
レクチャー:
  • サンフランシスコのAIDS今昔
  • 米国に於けるヘルスケアシステム
  • ハームリダクション
  • 抗レトロウィルス療法
  • 耐性検査
  • 女性患者との面談
  • 感染妊婦との面談
  • 映画「運命の瞬間」鑑賞
  • 各施設の概要

KAISER PERMANENTE San Francisco(カイザー病院)

 会員制医療保険サービス機関Health Maintenance Organization (HMO)の一つ。企業・政府機関・教職員などの雇用者と契約し、 社員の健康管理を行う。日本で言えば健保組合立の病院が該当するが、原則として会員以外は利用できない。健康な会員を多数抱えることで低廉な会費を維持し、予防・健康教育にも力を入れている。

 来院者は原則的に定職に就いている人なので、経済的にも安定していてインテリジェンスも比較的高い。外来のほかに入院設備もあり、外来と入院の治療の継続性が重視されている。

 中国系・スペイン語系の会員も多いので人種・宗教など多様なアクセスを担保するためにDiversity Coordinatorが配置されている。

 病院としての方針を決定するAdvisory Boardでは患者代表も参加している。

 プライマリ・ケアは「第1」から「第4」に分かれており、その一つでHIVの診療を主に担当している。どの科でもHIVを診ることになっているが患者は専門外来に集まる傾向がある。

 HIV専門チームミーティングは毎週火曜8:45~9:30に開かれる。

 HIVコーディネーターは看護師と薬剤師の2名、外来は医師5名・ナースプラクティショナー

※注3名、ほかに薬剤師2名・リサーチナース・カウンセラー・行動療法士が参加する。

 問題となっている患者の症例検討と情報交換、最新学会の話題報告などが手短に行われる。
 KAISERにおける最近のHIV新規患者は年間で数人しかおらず、慢性疾患ケアとしての位置づけになりつつある。

カリフォルニア州大学サンフランシスコ校(UCSF)

 人材の供給元として、ヘルスサイエンス分野の大学院のみの集合体。 また、サンフランシスコ最大の医療システムを構成。

 メディカルセンター(大学病院)はプライマリケアから先端医療までを提供。他にER・専門外来診療所・検診センター・日帰り手術センターなどが市内18箇所に散在し、これらは専用巡回バスで結ばれている。

 UCSFでもHIVの有無に拘わらず臓器別の疾患として扱い、当初よりHIV/AIDS専門病棟は設定されなかったが感染予防マニュアルやナース育成プログラム等の作成に寄与した。

 1990年代半ばにようやくエイズクリニックが開設されるも既に閉鎖され、現在は補助金でPositive Health Clinicを開設。ここでは有色人種や低所得者層などさらに困難な状況の人々に医療を提供している。

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Community Hearth Network

 サンフランシスコ総合病院(SFGH)を頂点に市内に9カ所のPublic Health Center があり、このうち3ヶ所でHIVを診療している。Tom Waddell AIDS Clinicもそういった診療所の一つ。

 プライマリケアでは比較的低所得者が多く、日和見感染発症者もまだ多い。

 SFGHの病棟ではHAARTの処方ミスが研修医に多発したことから処方シートを作成し、半年ごとにUpdateしている。ただし入院中は原則として新規のHAARTを開始せず、外来通院が可能になってから処方する。

 なるべく一日一回服用で剤数の少ないものが選ばれる。

 精神疾患と薬物中毒患者のHIV感染者・AIDS発症者も多数診療している。精神病院への入院率は日本よりかなり低いのためか、ホームレス化し低栄養状態が多い。

 薬物中毒者(IDU)は軍隊経験者に多くC型肝炎の合併が問題となっている。これについてはIFNの適応だが、最近では肝臓のセカンダリが満杯なのでHIVプライマリでもIFN療法を実施している。但しコストの負担が問題となっており、別予算枠で対応しているという。

  • 地域での福祉ソリューションの活用
  • カウンセラー
  • 食事の宅配

など

※注 ナースプラクティショナー(Nurse Practitioner)
  • 管理医師の監督の下でプライマリケア外来の「ありきたりの」診察・診断・処方・処置を医師同様に行うことができる看護師。
  • 看護師で一定の臨床実務経験を積み資格試験に合格したもの(州毎の資格)
  • 患者はかかりつけとして医師またはNPを選択できる。

2.地域での受け入れ

報告者:長谷川善一

 KAISERの場合、HIV拡大の初期段階において対応が分かれた。

 すなわち、HIV感染者はなるべく専門医の所に集める、という南加州(LAなど)と、どの分野の医師でも感染者の診療を行う、という北加州(SF)とに分かれた。

 後者では全ての医師にHIVの基本的知識や最新の情報を普及させる努力がなされた。こういった努力がHIVに対する「無知から来る偏見」を減弱させ、HIV患者にとって医療を受けやすい環境が成立した。

 その結果、他地域から北加州のKAISERに来る患者が増加するようになったという。尤も現在では、患者もHIV専門医の外来を選んで通院する傾向が大きいが、各科の医師もHIV患者と言うだけでHIV専門医の所に送ったりすることなく自分で自分の分野は診療している。

 感染が判明した途端に拠点病院に送ってくることが多い日本の現状とは大いに異なっていると感じた。

 我が国でも全体としての取り組みがさらに必要であろう。

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3.外来見学記「プライバシーに配慮」

報告者:長谷川善一

1.「呼び込み」がない。

 日本では昔から大抵このようなシステムだと思われる。患者は広い待合室で待っていて「○○さん、何番の診察室にお入り下さい」と呼ばれて診察室に入っていく。これでは誰がどの医師の診察を受けているかが他の患者にも分かってしまう。尤も、近頃の整容を主に扱うクリニックなどでは「個別の待合室を要しているので他の患者と会う心配はありません」を宣伝しているところもあるようだが。

 今回見学したKaiser(会員制クリニック)・公営診療所(低所得者対象)どちらでも、患者は先に診察室に案内され、待っているところへ医師(またはNP)がカルテを持って入ってくる。従って待合室で待っている他の患者に、自分の名前や担当医師が知れることはない。

2.完全な個室で診察

 診察室は完全な個室になっており、ドアの造りもしっかりしていて外に声が漏れることは無い。

 日本でよく使われる引き戸は構造上防音性が不十分で外に会話が聞こえてくる所さえある。

 また当院でもそうだが診察室どうしが後ろで繋がっているところが多いが、これは診察を介助する看護師の便を図ってのことと思われる。こちらでは診察に看護師は同席せず、医師が診察・処方箋は勿論伝票の記載まで全て一人で行う。

 完全な密室であるから安全面での不安は無いのだろうか、と一寸気になった。尤もドアのすぐ外にはスタッフが大勢いるのだが。

 今回見学したところでは窓のある診察室は殆ど無かった。他の部分が広々としているのと天井が高いのでよけいに狭く閉塞感すら感じられた。文化の違いであろうか、快適性という面では我が国の診察室に軍配を上げたい。

画像:外来診察室(KAISER)
外来診察室(KAISER)

3.椅子が違う

 診察室の椅子といえば、医師は大きく座り心地の良い肘掛け付きで患者用は丸椅子、というのが日本の常識か。此方では患者用の椅子の方が立派で、医師のは腰掛け程度である。聴診など所見を取るときは別の診察台(ベッド)に患者を上らせる。高齢者など移動に支障のあるような患者は最初から診察台に座らされている。

 診察台の横には血圧計や検眼鏡など必要なもの全てが壁に取り付けてあり、伝票類も壁の票差しに入っていて機能的に配置されている。機能性を高めるために敢えて診察室を狭くしているようにも思った。

 医師は立ち上がって診察台の周りをぐるぐる廻って所見を取りながら話もしていく。医師は腰を落ち着けることがないので腰掛け程度で十分である。

 帰国してから試してみたが上等の椅子は頻繁に立ち座りするには不向きなことがよく分かり、目から鱗であった。一度お試しあれ。

画像:医師用デスク
医師用デスク

 一人で診察しているが指示を出すだけで、例えば「次の受診日はいつ頃」「それまでに超音波検査と血液検査」とだけ書く。

 診察が終わると医師はさっさと診察室から立ち去り、別の控室でメモを元に電子カルテを入力する。

 具体的な診察・検査日時の予約や詳細な説明は看護師らその他のスタッフが後で別に行う。

 医師が記録している間に患者の入替が行われ、準備が済むと控室の医師に連絡が行き次の患者の診察となる。

 このあたりの流れは日本の歯科の治療室が近いイメージである。

 一人あたりの診察時間は約15分、記録を含めて1時間に3人のペースなので午前中だけで10人ぐらい診ている。かなりゆったりとしている。

 外来診療では、総じてプライバシー関係を中心に見習うべき点が多いように感じられた。

 我が国ではHIV等一部の分野ではかなりプライバシーに配慮した態勢が整いつつあるが全体としてはまだまだと思われる。

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4.感染予防啓発

報告者:池田すみ枝

サンフランシスコの背景

  1. Drug(注射器)使用者の存在・・・新感染者の25%(全米平均)
  2. 社会的弱者(ホームレス等)の存在
  3. MSMの存在・・・新感染者の42%
  4. 医療現場での感染はほぼ皆無
  5. 新たなHIV陽性者1000名/年

 対象は12歳~規定では12歳。当地では完全に「成人」となる最終の年齢が12歳と規定されているため。

 実際には中学生・高校生が主な対象。スタッフが市内および近郊の各学校に出張し、10人程度の小グループにして実施される。

 プログラムの内容は、まず感染危険行動に関する基礎知識の確認。

 参加者には握手・皿の共用・キス・セックスといった行為を書いたボードが渡され、それぞれの感染リスクに応じたパネルの前に集まるように指示される。そしてスタッフが確認していき、誤りがあれば正しいところに移動する。

画像:ボードを持って知識の確認
ボードを持って知識の確認

 こうして頭だけではなく体を使うことによって、知識が確固たるものになるという。

 次に各種感染予防用具の実物を使用して説明。コンドームの正しい装着は張り子を使用して実演。

 お手本のデモンストレーションの後1組に分かれて装着競争。これも競争形式ですることにより羞恥心を軽減する効果があるという。こうして自分の意思で境界線を作れるように働きかけていく。

画像:ピア エデュケーター
ピア エデュケーター

プログラムのポイント

  • ゲーム感覚
  • ハームリダクション
  • ピアエデュケーターの活躍 同年代の指導者から同じ目線で押し付けない説明
  • 監視役を設けない
  • このほかにもクリニックでは抗体検査をはじめとしたHIV対策が行われている。
  • 工夫されたHIV検査(クリニックでは無料で受けられ、クリニックは若年者の集まる場所への設置)
-遊びに行く感覚で来院できる-
  • 指導方法-教材を用いゲーム感覚で覚えられる、自分たちで考えながら参加する環境になっている
  • 痛みのない検査「orasure」(採血を嫌がる人がいるため)
  • ハンバーガーショップの無料引換券が貰える
  • 検査前後に効果的な説明を行っている

感じたこと

 感染の予防教育には、若い年齢から必要だと感じた。特に日本では若年の女性が増加しているため重要だと言える。

 指導する場合は学んだハームリダクションを行い、対象者が段階的に行動改善できるように働きかけていきたい。

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5.母子感染の予防

報告者:池田すみ枝

 日本ではHIV感染者が増加傾向にある。特に若年女性の増加が危惧されており、今後HIV陽性の妊婦も増加することが予想され、母子感染予防に努めなければならない。

母体の管理

  • HIV陽性者からの出産7000件/年 母子感染率0.9%(全米平均)
  • ウイルス量を可能な限り低減させておく
  • HAARTメニューはアドヒアランスを第一に考えて選択←つわり、その他の副作用により制限が多い
  • EFVは妊婦初期には使用しない←催奇性が疑われている
  • ウイルス量が1000copy/ml以上は帝王切開を推奨、1000未満であれば自然分娩
  • 38~39週で分娩(日本では36~37週で選択的帝王切開)
  • 分娩時AZTを点滴

新生児の管理

  • 母乳から感染の可能性があるため、母乳は禁止
  • AZTシロップの内服は出生後6時間から6時間毎に6週間
  • 抗原検査:出生直後・6週間後・6ヵ月後
  • 抗体検査:18ヵ月後

分娩における感染のリスク

  • 破水時間が長い(4時間以上)
  • 経膣分娩
  • 陣痛開始から分娩まで治療なし
  • 羊水の感染
  • 外陰部に感染症がある
  • 会陰切開

新生児のリスク

  • 早産(34週以前)
  • 混合授乳
  • 児の治療なし
  • 母体の血液を飲みこんだ場合

症例

妊娠32週 1経産婦

HIV陽性10年前に彼氏がHIV陽性、AIDS発症し半年で亡くなる。本人も検査し陽性と分かる。現在の夫は陰性。

第1子:

妊娠希望し精子をシリンジで膣内に自己にて注入
3ヶ月で妊娠

帝王切開を薦められて、帝王切開で3年前に出産。NVP・ddI・d4T内服(初期は内服せず)

第2子:

第1子と同様の方法で妊娠
妊娠希望したが1年以上かかった。

ウイルス量が少ないので、自然分娩も可能と医師より説明を受けるが、帝王切開のほうが母子感染のリスクが低いので本人の意思により39週で帝王切開予定。NVP・ddI・TDF内服(現在は初期内服可と説明受けたが、本人の意思により第1子同様初期は内服せず)

第1子と第2子の3年間で変化したこと
  • 薬の変化
  • 妊娠初期も内服可
  • ウイルス量1000未満であれば経膣分娩可
困ったこと
  • 妊娠、女性の情報が少ない。インターネットおよびサポートグループ「WROLD」の情報誌で情報収集した。
    (インターネットでサポートグループも知った)レズビアンの雑誌から情報収集した。(「WROLD」より情報をもらった)
  • 家族に帝王切開の理由、母乳をやれない理由を聞かれて困った。
    返答の内容については担当助産師に教えてもらった。(HIV陽性については夫・妹のみ知っている)
  • HIV外来はプライマリーケアのため、担当医師は予約患者のみの診察で、緊急時に診察してもらえなかった。
アメリカと日本の違い
  • 薬を1回に90錠処方してもらえる。3ヶ月に1回の受診。薬は薬局に配達してもらっている。
  • プライバシーに日本ほど気を使わなくてすむ。
  • 患者に治療法を選択させる。

感じたこと

 日本での分娩は帝王切開を行っているが、今後アメリカのガイドラインのように自然分娩を行うようになるかもしれない。

 マニュアルの作成や母子感染の機会をつくらないように、ユニバーサルプリコーション徹底に努めたい。

 母親の一番の不安は母子感染であることが分かった。妊娠前から出産、育児までサポートできるようにしたい。

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6.放射線部門での感染予防・ユニバーサルプリコーション

報告者:藤崎 宏

 放射線部門ではHIV感染者に対する感染防御策は、看護部のユニバーサルプリコーションに倣っているが、サンフランシスコでは、どのような感染防御策がとられているのか視察した。

 カイザー病院、SFGHともに、血管撮影以外の一般撮影、CT、MRI等の画像診断部門では、感染の可能性はほぼなしと判断しているのか、とくに感染防御はしていなかった。

 造影剤の投与の際、少なからず血液暴露の可能性を考慮していたが、その可能性は極めて低いと考えられた。

 とくに、Sue Felt女史(UCSF)のレクチャーで、針刺し事故防止のために病院(行政)が、多大な予算を計上することにより、医療用具メーカーがさまざまな医療器具を開発し、これを導入することで針刺し事故が防止できる、といったシステムが紹介され、日本との大きな違いを感じた。

 また、血管撮影部門では、カイザー病院で肝臓のIVRを専門としている医師に話を伺ったが、HIVの感染力はHCV、HBVよりも低く、ユニバーサルプリコーションを確実に行うことで、院内感染は皆無に等しくなった。昔は、カルテに印などがあり、HIV・AIDS患者も多かったそうであるが、現在は少なくなったそうである。質問として、ここで治療しているHIV患者数を訊いてみたところ、少し考えて、たぶん年間30~40例ぐらいだろうと回答された。その考える様子をみて、ここではHIVという病気を特別視していないことを窺がうことができた。

画像:Sue Felt女史と針刺し事故防止器具の実演
Sue Felt女史と針刺し事故防止器具の実演

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7.日和見感染症の画像診断

報告者:藤崎 宏

 小林まさみ氏(コーディネーター)によると、サンフランシスコでは、カポジ肉腫、トキソプラズマ脳症はほとんどみられなくなり、それに取って代わるように悪性リンパ腫が増加しているそうである。

 これは、抗HIV薬の開発、HAART療法の確立等の治療法の変遷に一致しており、なんらかの関係があるのではないかと専門家はみているようである。また、日和見感染症の診断について、日本では、喀痰検査、気管支洗浄等で病原体が検出されない場合でも、画像診断を重要視し確定診断を下す場合があるのに対し、サンフランシスコではそのようなことはなく、喀痰検査での陽性率がかなり高いということであった。

 SFGHで神経放射線科医のDr. Christian Sonne(UCSF助教授)とフランスでHIV患者を診察していたというDr. Pierre-Alain Cohen(UCSF臨床教授)に日和見感染症の画像診断について講義を受けた。

 当然のことながら、読影法については日本の文献とほぼ一致しており、ここでの知識が世界に発信されていることを改めて実感した。PML(進行性多巣性白質脳症)についてもMRI-FLAIR画像でHigh Signalとなることを述べられていたが、後で知ったのだが、少なからず誤診があるそうである。

 これは、SFGHではなく、民間の在宅医療施設(Westside Cmty. Mental Health)で聴いた話であるが、誤診によって被害を受ける患者が少なからずいるそうである。この背景には、日米の医療保険制度の違い、延いては画像診断にかかるコストの違いが大きく関わっているのではないかと考える。

 日本では低コストで受けられるCT、MRIもアメリカでは、自由価格でCTが約1500ドル(約16万円)、MRIが約2500ドル(約27万円)となっている。患者は任意に医療保険に入るか、会員制の病院に入りこれらの費用をまかなわなければならないという点で、日本の医療とは全く異なる諸問題を抱えているようだ。

 われわれ放射線技師は、これらの情報を的確に捉えた上で診断に有用な画像を提供していかなければならないことを痛感した。

画像:Dr. Christian Sonneの講義風景
Dr. Christian Sonneの講義風景

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8.HIV感染症診療における診療放射線技師の役割

報告者:藤崎 宏

 診療放射線技師という職種は、病院において最も多種多様な患者を診療する職種であるが、ひとりひとりの患者単位でみると、最も関わり合いの薄い職種であるとも言える。

 したがって、HIV診療についても放射線技師としての役割は大きくは感染予防と日和見感染者の画像診療、悪性リンパ腫の放射線治療といった影の薄い役割であるが、何れもこれなしではHIV診療は成り立たない。

 感染予防については、当院は、エイズ治療の近畿ブロック拠点病院でもあり、HIV感染者も比較的多いため、医療従事者全体で感染予防は万全を期している。一方、SFGHでは、入院患者の15%がHIVであろうと推定されており、このようになった場合、診療上の役割の大小を問わず、ありとあらゆる職種への啓発活動が必要であろう。

 Sue Felt女史(UCSF)も述べていたが、職員1人が院内感染を起こすと、病院は多大な損害を被ることとなるそうである。

 ある病院で実際にあった例を引き合いに出して、損害額を検証し、そこから感染予防のための予算を引き出すことができたということであったが、我々は、その前例を糧に、なんらかの対策を打ち立てる必要がある。

 画像診療については、日和見感染症の画像診断のための画像作成(CT,MR等)といったごく限られた役割ではあるが、放射線科医が診断しやすいような画像を提供するためにHIVに関する十分な知識を必要とする。

 前述もしたように、日本では、医療費が安いということもあり、様々な画像を作成できるため重要視される傾向にある。

 また、最近増加しつつある悪性リンパ腫の放射線治療については、今回の研修で話を聞くことはできなかったが、これからもHIV診療における放射線技師の役割は大きくなりつつあるようだ。

画像:SFGHの放射線技師たちと
SFGHの放射線技師たちと

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9.薬剤師から見たHIVとサンフランシスコ

報告者:永井聡子

*1.院外処方箋について

 サンフランシスコ市内のドラッグストアーを見学した。店舗の一番奥が処方箋受付で、その横に薬の受け渡し場所がある。

 その受付のガラス張りの奥に、薬剤の棚がところ狭しと設置してあり調剤が行われている。

 基本的に錠剤・散剤・水薬・外用剤共にボトルで交付されており、個別包装はしていない。

 散剤にはプラスチックのティースプーンが一緒に渡され、X杯=Xg計算となっていた。

 ドラッグストアー全体として見ると、入り口の近くにはその土地のポストカードや人気の縫いぐるみ、スポーツ用品や普段着る簡単な衣服等が天井に届くぐらい陳列されている。おおよそドラッグストアーとはわからない。

 奥に進んで初めて、「なんかこの何でも屋さん薬の割合が多いな」と感じ、さらに進むと処方箋窓口が見えてくる。

画像:大衆薬
調剤カウンターに向かう間に大衆薬(日本でいうOTC、処方箋が無くても購入可能)が陳列されている。
画像:処方箋受付・薬剤交付場所
処方箋受付・薬剤交付場所(ガラスの奥が調剤室)

 数件調剤薬局を見たが、なぜか何処もお薬交付場所が一段高くなっていた。

*2.アメリカにおける薬剤師の位置関係について

 日本の病院で薬剤師は(病院の大小はあっても)

  • 薬品を調剤し処方監査する:調剤
  • 薬品管理・納品等:薬務
  • 患者さんへの指導・医療スタッフへ情報のフィードバック:病棟業務
  • 内外部への薬剤の情報提供等:医薬品情報業務

この他に治験・試験等の業務も行なっている。

 アメリカでは、テクニシャン(以下T)・レジスタンス薬剤師(以下PhR)・ドクター薬剤師(以下PhD)にお会いし、今回訪れた病院では、このうちPhDにお話を聞くことができた。

 それによると、

  • Tは、医薬品の納品・整理。各病棟からの医薬品の請求。倉庫からの運搬。各病棟での医薬品整理・調剤。
  • PhRは、主に監査。
  • PhDは患者への薬剤の説明・医療スタッフとの情報の共有・内外部への情報提供。

このような役割になっているという。

 日本であれば、診療科別担当薬剤師が、その部門に関してほぼすべて情報提供(日常の薬剤の変更から医薬品の安定供給・最新の情報等)を行うということである。

 日本の横のつながりに比べ、アメリカでは縦のつながりが徹底している様をすることができた。

 今回見学できた病院が全てではないと思うが、担当と専門性を生かしながら現在ある日本流の横のつながりを残せれば、さらに良い物ができるのではないかと漠然と甘い事を考えてしまった。

見学した病院での業務

発注(PhR)→地下に薬品が納品

※1→検品(地下にて病棟・外来のストックなる)→病棟からの請求(T)→病棟の薬剤は小分け・製剤化(T→PhR監査)、外来は基本的に小分けせずに上げる→各病棟・外来調剤棚へ充填(T)※2

画像:1地下薬品庫
※1地下薬品庫
画像:2病棟薬品棚
※2病棟薬品棚
画像:サテライト(調剤室と無菌調整室)
サテライト(調剤室と無菌調整室)
画像:外来調剤棚
外来調剤棚

 ここの病院では、処方箋は手書きであり、ボトル・輸液のラベル等は、全て手入力であった。

画像:各病棟から退院薬を外来調剤室に受け取りに来る窓口
各病棟から退院薬を外来調剤室に受け取りに来る窓口
画像:外来ラベル入力
外来ラベル入力
画像:外来ラベル
外来ラベル
HIV担当薬剤師について

 今回訪問した病院の外来ではHIV外来担当薬剤師2名(専任)が担当している。

業務の流れ

 NsPまたは外来医師から患者来訪の連絡がくる。(薬剤師からアプローチすることはない)

 ウィルス量・CD4・副作用等を確認して、その薬剤が本当にその患者に適しているのかを評価する。

 その薬剤が適していたとしても、新薬の情報や他のオプションがあることも情報として提供する。

 話しをしてくれたPhDは電話対応もするが、人間関係を保つため基本的には面談にしている。
(フォローは電話で対応する時もあり患者が電話をかけてくるようなシステムにしている)

 その後DrとNsPと情報交換を行う。このあたりに関しては、日本も大きな違いはない。

 患者は面談の相手を医師・NsP・PhDから選ぶようになっている。ただし一件あたりの時間は医師15分に対してNsPと薬剤師は30分となっている。

HIV入院担当薬剤師は1名

 入院は脳症やリンパ腫の合併する場合に限られる。保険の扱いも日本と異なるため、よほどの事でないと入院はあり得ない。専任の病院もあるが、他疾患と併任されていた病院があった。

*3.女性の妊娠とHIV

 講義をして頂いたDrも言われていたが、抗HIV薬を内服している患者の妊娠が判かった場合に注意していかなければと感じたことは、

  • *EFVは神経管に影響を与えるため、変更する
  • *妊娠の発見が遅く第1期を超えている場合には、Ptと相談の上変更するか考える
  • *超音波レベルの検査を頻回に行う

EFVについては、妊娠可能な年齢の女性が内服していれば避妊の教育や妊娠した場合の影響についても情報提供をする。

その他、妊婦に投与する時の注意点(妊娠することによって起こりやすくなる副作用)
  • 貧血(妊娠すると普通でも貧血なりやすい)
  • 肝機能値(3期になると元々妊婦はあがりやすい)
  • 神経痛(元々妊婦に起こりやすいところに、薬剤性の末梢神経障害)

 今後、妊娠症例が日本においても増加してくる可能性は十分にある。妊娠可能な女性には初期の薬剤説明時だけでなく、必要に応じて確認して行かなければならないと再認識した。

*4.治療薬について

●STIについて

 訪問した病院では、情報は伝えるがスタンダードにはしていない。

 希望者にはSTIを行っている病院を紹介する。

●3TCとFTCの効果の違いについて

 研究結果は未だ出ていない。

●ATV(プロテアーゼ阻害剤)

 1日1回2カプセル食直後の内服。

 間接型ビリルビンの上昇に注意が必要。

●T-20(Fusion Inhibitor)

 1日2回皮下注。

 2004年3月の時点で、カイザーでは18例の使用経験。

 10年間ウィルス量が減少しない患者に投与したところ減少した症例もあったという。

 自己注射の手技を覚える必要があり、かなり溶解しにくい製剤でもあるので、導入が内服薬ほど簡単ではない。

 現在のところ価格がかなり高額であるため、遺伝子解析を行うことにより効率的な使用方法を検討している。

 急激なウィルス量の減少が起こるため、免疫再構築症候群に注意しなければならない。

今回の研修でまず感じたこと

 サンフランシスコにおいては、感染者が限定されていない時代となってきている。日本においてもそのようなきざしが見えだし、より各分化した治療がでてくるのではないか。

*5.全体を通して学んだこと

 他の薬剤に比べれば抗HIV薬は日の浅い薬剤ではあるのかもしれない。しかし、今回の海外研修を体験することによりなぜ、このように薬の開発が早かったのか、よい死に方を考える時代から、患者のニーズにあった薬剤を選択ずる時代へ、薬の用法に、人が合わす時代から、人の生活にあった薬剤を選択する、オーダーメードの治療にこれほどスピードが速かった薬は無いと言われたことを実際に肌で感じることができました。

 実際業務の質では、それらを学び考え取り入れながらであるため、SFと大阪病院での違いはあまり無いと感じた。

 しかし、より能率的な部分は導入していかないといけないとおもわれる。そして、HIV感染者の長期生存率が改善し、慢性疾患の様相を示してきた。このことが、今後の薬剤開発の停滞に結びつかないか懸念される。

 今回の研修ほど職種が多様で人数が多いのは初めてと聞きました。確かにこれだけの職種に短い期間の中、希望をかなえるには大変至難の業であったのではないかと考えます。本当に我々が終了後、 その日のディスカッションを聞いて夜中に段取りを考えていただいたのだと感じました。

 他職種が多かったことは、夜のディスカッションで同じ講義を聴講しても、自分と異なった部分にスポットが当たっており、大変勉強になりました。また各分野別での少人数での訪問は、夜のディスカッションにおいて、他職種の方々へ短い時間で理解していただくため、昼の講義にも熱がはいりました。色々とハードでしたが人生において、すごくいい経験をさせていただきました。ありがとうございました。

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