研修会報告
平成16年度HIV海外研修報告記 (サンフランシスコ)
はじめに
平成17年1月8日から平成17年1月20日にサンフランシスコで行われた研修報告です。
目次(クリックするとリンク先へ飛びます) 報告者
1. 概要 小児科 尾崎 由和
2. HIV母子感染に関連する事項 小児科 尾崎 由和
3. HIV感染と予防教育 看護部 水戸 祥江
4. ブティック管理とチーム医療 看護部 龍 香織
5. HIV検査体制とチーム医療 臨床検査科 溝上 泰司
1.概要
報告者 小児科 尾崎 由和
2005年1月8日から20日まで、HIV海外研修としてサンフランシスコへ行ってまいりました。参加者は当院から4名、国立病院機構の他の病院から医師3名、薬剤師1名の計8名でした。サンフランシスコの現状や主たる研修内容は昨年までに詳しく報告されていますので、本年は研修参加者がそれぞれの立場で今回の研修から得たものを中心に報告します。

研修日程
1月8日 サンフランシスコ着
研修内容、予定について打ち合わせ、オリエンテーション
1月9日 長期感染患者さんとの面談
1月10日 レクチャー:HIVの治療とケアについて
1月11日 病院見学:Kaiser Foundation Hospital(尾崎、水戸、龍)
  ミーティング参加と診察見学
レクチャー:HAARTのガイドライン(尾崎、水戸、龍)*1
見学:Roche(溝上)
1月12日 長期感染患者さんとの面談
病院見学:San Francisco General Hospital
 ラボ見学とHIVテストの講義
 HIV感染症の画像診断
1月13日 レクチャー:HIVケアチームと服薬指導*2
ビデオ:AND THE BAND PLAYED ON
1月14日 病院見学:Kaiser Foundation Hospital
 薬剤師の役割についての講義
病院見学:UCSF Children's Hospital(尾崎)
 病棟カンファレンスに参加
見学:SF AIDS Foundation
見学:Action Point(水戸、龍、溝上)
病院見学:UCSF Children's Hospital(尾崎)
 Prof. Wara と面談
病院見学:Maxine Hall Heatlh Center(水戸、龍)
1月17日 見学:Cole Street Clinic
  STI予防におけるPeer Educationのデモンストレーション
1月18日 まとめとディスカッション
1月19日 サンフランシスコ発
(*1:講師Jason Tokumoto氏と) (*2:講師YokoTsukamoto氏と)
今年も現地では、コーディネートと通訳をしてくださった小林まさみ、David Wiesnerご夫妻、そして寺尾あきこさんに大変お世話になりました。また研修に参加するにあたっては、病院内外の関係の方々にご迷惑をおかけし、またいろいろとお世話になりました。ここにお礼を申しあげます。
(小林まさみ、David Wiesnerご夫妻と水戸)
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2.HIV母子感染に関連する事項
報告者 小児科 尾崎 由和
1. 母子感染予防に用いられる薬剤の副作用について
背景:
現在日本では分娩前の母親にHAART、児にAZT投与、さらに36週前後で帝王切開をし、母乳を禁止するという母子感染予防対策が行なわれており、このすべてを全うした症例には児の感染は見られていない。しかし自験例10例では、全ての児で早期から貧血を認め、1カ月の時点で貧血はさらに進行するため、規定どおりAZTを6週間投与することが可能であった例は皆無である。うち1例では貧血のため2週間目で投与中止を余儀なくされ、さらに2カ月時に原因不明の突然死をした。これらのことから、AZTが骨髄抑制をきたすのみでなく、さらなる副作用をもたらすのではないかと危惧している。
研修内容:
According to Dr Tsukamoto
・HIV陽性の小児は2500人いるがSIDSの率は正常児と変わらない。
・ミトコンドリア障害は長期投与しないと起こらない。
According to Dr Tokumoto
・フランスからのレポートで、NRTIにはミトコンドリアDNA-Pに対する毒性があり、5人の小児に神経症状を発症、うち2人が死亡したというものがあるとうかがった。
According to Dr Wara
・当院のキャリア母からの出産例10例について検討をしてもらった。日本では先にのべたようにきちんと管理すれば感染しないものと考えられているので、一般的に母子感染はしないものだと考えるくせがついているが、Dr Waraは2カ月以降2回の陰性を確認しないと陰性とは認めてくれず、追跡できていない1例、突然死した1例については「これはわからない」と言われた。突然死の症例については「これはAIDSを発症しているのではないか。CD4も低値だと思う」と言われ、そのようには全く考えていなかったので驚いた。
・非感染例の新生児で突然死した症例はないとのこと。
・AZTの投与期間が4週間になってしまっていることについては「OK」と言っていただいた。
まとめ
 母子感染予防のAZTの副作用は特に問題にはならないとの報告があるのは知っていたが、日本で2例の突然死があったことから、アメリカの実地医家はどう考えているのか直接聞くことができ大変有意義であった。特にDr Waraから突然死の症例がAIDSではないかと言われたことは、考え方を大きく変える必要があるかもしれない。
2. 母子感染例においての告知の問題について
背景:
 大阪医療センターではHIV陽性小児患者は1例で、まだ4歳なので告知の問題には直面していないが、他の病院の先生に聞くとかなり試行錯誤をしておられるようで、今後日本でも大きな問題となってくると思われる。
研修内容:
According to Dr Tsukamoto
・告知は5-7歳頃行なう。
According to Dr Wara
・7歳から考えはじめ、9歳頃から実際に告知をはじめる。10歳にはしてしまわなければならない。(法律的には12歳までに終了しなければならない。)アメリカでは12歳頃から性的活動が始まるため。
・告知の前に家族と何度も会談を持つ。誰が話すのかも決めていく。Drがお願いされる場合も多い。
・告知の実際
 Dr「どうして薬を飲むのかわかる? どうして私に毎回会いに来るのかわかる?」
 Pt「血液の病気があるのでしょう?」
 Dr「血液でうつる病気があるんだ」
 Dr「治療はとてもいい、毎日ちゃんと薬を飲むことで元気でいられる」
 Pt「薬は一生飲むの?」
 Dr「わからない。でも少なくともこの数年は必要」
・HIVそのものについては何年もかけて伝えていく。
・どうしてこうなったのについては「生まれたときにかかった」と言う。「母からうつった」とは言わない。「母も感染している」と言う。"Share"しているという言い方。
・児は angry about secret になる。できるだけ早く伝えたいが、6歳以下では理解できない。
まとめ:
 告知の方法、問題点などを直接うかがうことができ、非常に役に立ったと思う。今後勉強を続け、また日本の他の先生とも議論をして、よりよい告知の方法を検討していきたい。
 
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3.HIV感染と予防教育
報告者 看護部 水戸 祥江
はじめに 

世界のHIV感染者数3,940万人(2004年末の生存者数)となり、この15年間で約4倍増の感染者数が報告されています。先進国の「感染者は横ばい、患者は激減」とは対照的に、日本では「HIV感染者・エイズ患者も増加」しています。
今回、1980年にエイズが流行し、90年代後半までは子供と高齢者以外の年齢層の死因第1位、現在ではエイズ予防に成功したといわれるサンフランシスコで研修をさせていただきました。エイズ医療から地域での予防教育活動まで多くの学びを得た中で、日本との差を実感した予防教育活動について報告します。
 
地域でのエイズ予防活動

予防活動には大きく分けて以下の2つに分けられる
1)広く浅く情報提供‥住民全体にPRする方法
ポスター、新聞、パンフレット
2)ハイリスク者への予防教育活動
感染のリスクのある人たちの集まる場所でのリスクのあり方に合わせた活動
AIDS FOUNDATION、STDクリニック
 
1.ゲイコミュニティでの情報提供

ゲイコミュニティのカストロ地区を歩けば、多数の無料新聞があり、ゲイの人たちのライフスタイルに合わせた情報を提供する新聞である
≪新聞の内容≫
男性のヌード写真や過激な内容の他に、「治験の案内、予防法の開発、エイズ予算の動き、新薬、感染者の生の声など」患者向けの教育資料
2.病院・診療所での情報提供
待合室には、パンフレット、ニュースレターなどを置き、関心のある人が情報を取れるような環境になっている
3.AIDS FOUNDATIONの活動
1980年、ゲイコミュニティから始まった組織で、ゲイ・人種による差別はない
◇経営基盤 : 90%以上は個人からの寄付であり、政府からの補助は5%以下である
         ⇒政治的圧力は受けない
◇対象の特性 : ホームレス・浮浪者住宅者が多い
          ドラッグユーザーが多く、中流階級患者とは違う
◇メンバー : スタッフ60名、ボランティア80名

◇活動内容 :
①国・州に対するアプローチ
患者にとって良くないことは、国・州と話し合い変えていこうとする
例えば、サンフランシスコがエイズに関する資金を300万ドルカットしようとしたが、話し合いの結果、300万ドル以上の資金を得た
②予防教育
ゲイ・鬱の人に対して、教育指導を行なう(safer sexの方法など)
③情報提供
④ソーシャルグループの提供
⑤カウンセリング
⑥Needle Exchange
使用済み針を持ってきたら、その分程新しい針を渡す
サンフランシスコには10箇所あり、ホームレスや貧乏人が住んでいる所にある
*HIVを減らすことには役立っている(街への針投棄も減少した)
*反対派‥ドラッグユーザーを増やしているのではないか
⑦ホットライン
匿名の電話サービスで、カウンセリング、必要時、病院へのリファー
⑧コミュニティへの情報提供
年間25回、お祭りなどでブースを設け、情報提供を行なっている   
☆AIDS FOUNDATIONの活動は、エイズ予防に効果をもたらしている
成功の秘訣‥『患者が何を必要としているかを優先させ、政府の制御に関わらず、それを提供しているから』

4.STDクリニック
サンフランシスコのSTDクリニック
①公立で市の公衆衛生局が直営しているCity Clinic
②市の総合病院管轄にある各種の18のクリニックにSTDクリニック
③NPO、民間開業医、民間病院経営のクリニック
コール・ストリート・クリニック
1992年未成年者のシェルタークリニックとしてハックルベリー財団により、ヒッピー発祥の地であるヘイト地区に設立された
◇特徴 : 若い人たちへ、ピアヘルスエデュケーター(10代の少年少女)が予防活動、情報提供を行なっている
     *若者に対して、若者が若者の感覚でわかりやすい方法(ゲームなど)で教育することで効果をあげている
◇サービス対象 : 12歳〜24歳
◇利用者数   : 年間約7,000人
◇サービス料金 : 無料
◇サービス内容 : 
①HIV検査と治療
②その他各種のSTD検査と治療
③妊娠検査
④家族計画、避妊方法などの相談と対応
⑤プライマリケア
⑥カウンセリング
⑦ピアヘルスエデュケーターの養成
*HIV・STD検査・妊娠反応検査は、親の許可なくできる)
5.予防教育に大切なこと
若い人たちに情報啓発していくこと
①効果のある性教育を、年齢に応じて段階をあげてリピートしていくこと
②親子間で、性や性行為、性感染症についてオープンなコミュニケーションが継続的にあること
③医療機関の中で、患者の特性に応じた感度のよい患者指導を行なうこと
医療機関での患者教育
1.情報をリスクアセスメントし、STD・エイズの予防教育
◇情報のリスクアセスメント
まず情報。HIV・エイズ以外で受診した場合も、日和見感染症で受診した場合は、HIVのリスクを想定して情報をとる。問診時に性行為のタイプを知り、HIVの可能性が高ければ、予防方法・感染症状について説明する。プライマリDrの指導が効果的である。
◇チーム医療
エイズ医療に重要なことは、チーム医療・アプローチであり、自分を守り、患者を守るために不可欠である。医師・看護師・薬剤師・ケースワーカーなど、いろんな人が関わる中で、患者が話しやすい人に思いを伝え、情報を伝えることができる。患者と医療者との関係が重要であり、気軽に何でも話せる関係が大事である。
2.パートナー告知義務制度
HIV陽性とわかったとき、患者はパートナーに告知しなければならない。告知しなければ、病院は公衆衛生局に報告する義務がある。これにより、予防・早期発見につながる。
PEP(HIV/HBV/HCV暴露後感染成立予防薬処方)
PEPはHIV感染予防の一つである
①医療現場の労働災害としてのPEP
針刺し事故や感染源に暴露した恐れがある場合
②労働災害以外のPEP
コンドームが破れたなど感染のリスクのある性行為や行動があった場合
1.医療機関の体制
・ホットライン(24時間体制)で、医師・ナース・ナースプラクティショナーが対応している
・チーム医療‥針刺しをした当事者のメンタルケアが大事
・針刺しをしたと言える職場環境が大事
2.抗HIV薬の内服
・暴露後72時間以内に内服を開始すれば96%感染は抑えられ、72時間を過ぎれば効果は薄い
・28日間の内服継続が必要である
・内服メニューは、感染源の患者の内服メニューと同じ薬剤を内服する
・リスク評価をし、感染のリスクが高ければ内服を開始するが患者は拒否する事もできる
・感染の方法、感染源のウイルス量により絶対的内服を決める
3.PEPの問題
・「感染のリスクのある性行為をし、ERへ駆け込む」を気軽に繰り返す人がいる
・継続して薬を飲まない人がいる
HIV感染を予防するために日本がするべきことは?
①感染ハイリスク者への予防啓発活動の充実 ‥ ハイリスク者が集まる場所での活動
②少年少女時代の性教育の充実 ‥ 家庭・学校での性教育
③検査の普及 ‥ 夜間・休日およびハイリスク者の集う場所周辺での検査実施の拡大
④医療機関体制の整備 ‥ HIV・エイズ?を疑って診ることができる病院の増加
治療に加え、患者教育ができる病院の増加
まとめ
今回、HIV・エイズの診断・治療・検査・予防教育・地域での予防教育活動など、多くのことを学びました。HIV・
エイズは自己管理が重要な慢性疾患であり、患者にとって効果のある治療の確実な継続が必要であり、患者のアドヒアランスを低下させないために医療チーム個々、地域社会で患者をサポートしていくことが重要であることを学びました。また、地域での予防活動は活発であり、ボランティアが中心となり、情報提供等を行ない、特にハイリスク者の多い地域では、地域の特性に合わせた活動が行なわれていました。予防活動は、HIV・エイズに関心のある人には有効であり、関心のない人、医療を信じない人(国民性・宗教などの理由)への予防教育が難しく、HIV・エイズ 医療・予防教育が進んでいると言われているサンフランシスコでも、まだまだ多くの問題があることを知りました。
日本では、地域における性感染症・HIV・エイズに対する予防活動・広報活動はまだまだ進んでいない状況です。
ハイリスク者の多く集まるゲイクラブ等での予防活動・情報提供や、ハイリスクな性行為を行なった場合にすぐに相談・受診できる医療機関の整備がHIV感染者を減らす方法の一つであり、国として予防教育に力を入れる必要性を実感しました。
今回、海外研修という貴重な経験をさせていただきました。研修にあたりお世話になった方々に深く感謝いたします。本当にありがとうございました。
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4.ブティック管理とチーム医療
報告者 看護部 龍 香織
ブティック管理とチーム医療
2004年からは慢性疾患管理型モデルとして生活習慣病の対応に似てきました。これをブティック管理とたとえられています。個人の特性やニーズを総合的に考慮し、それに合わせてデザイナーがトータルファッションを描くように、HIV医療も体内の総合的なバランスを見て、様々な薬の管理をしています。
例えば、抗うつ剤・抗ウイルス剤・副作用対策・生活習慣病予防剤・日和見感染症予防薬・栄養バランス補助品・それに男性ホルモンやバイアグラまで、HIVプライマリケアで患者さんの個性に合わせて処方されています。抗ウイルス剤の副作用や他の薬との相互作用も見ています。HAARTの普及により長期生存の事実はどの患者さんにとっても嬉しいものになりました。
しかし、エイズを抱えて生きていく人が増え、年齢が上がるにつれて合併症が増えていくことも予想がつきます。心臓病、糖尿病、がん、C型肝炎から肝機能障害などで亡くなる人が増えてきています。患者・多くの長期生存患者はドクターに「エイズでは死なず、死ぬなら生活習慣病か遺伝によるものだろう」と言われているようです。 
言うは易く行ない難し、と言いますが、規則正しい生活で暴飲暴食を避け、食事療法やエクササイズ、禁煙とあらゆる面に影響を持つ「ライフスタイル」を変えることをしなければなりません。HIVを抱えて長生きするとなると最も必要なことだが難しいことです。
医療者は、患者に及ぶ危険やリスクを最小限度にとどめ、薬剤やエクササイズ、食事療法などからの利益を最大限取り入れ、個人の意思や選択への尊厳を考慮し、自立した生活の中でそれぞれが選ぶクオリティ・オブ・ライフをサポートすることが重要になっています。医師をはじめとするチームが一丸となり、医療が発揮される時代へと突入しています。患者の協力なくしては成り立たないのが医療であります。この研修では米国の患者の医療に参加する意識の高さと積極性が伺えました。
 
患者が主体となる医療
患者が主体となる医療について考えてみました。サンフランシスコでは、患者が情報の収集をネットや医療者からと幅広く活用し、治療の選択にも参加しています。医療者もまた、患者の意思決定に対してサポートし、信頼関係を築き上げようとする姿勢を垣間見ることができました。これが継続治療の上で重要なウエイトを占めることだと考えます。
日本ではどうでしょうか。医療者側からはこのような運動について掲げてはありますが活かされているでしょうか。国民性の違いもありますが、患者が主体性を持つような働きかけとはどういったものなのか、医療者側からの様々な立場から患者へ情報を提供・共有・確認することだと思います。
 
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5.HIV検査体制とチーム医療
報告者 臨床検査科 溝上 泰司
1. カストロ地区散策
サンフランシスコ到着日、アメリカのゲイ文化の発信地と知られるカストロ地区を散策した。到着後最初に訪れたので、他の地区との違いをこの時はあまり感じなかったが、ゲイを対象としたショップが多く、この町の象徴であるレインボーのフラッグやモチーフがいたる所に見られた。
 
2. HIVの臨床的概観と近年の問題
1981年ロサンジェルスで5人のホモセクシャアルの男性がPCPなどのまれな日和見感染と診断されて以来、サンフランシスコやニューヨークでも同じような患者が続発した。1982年AIDSの定義を決定。1985年からは抗体検査が始まり、二年後には抗HIV薬AZTが登場した。日和見感染対策やHAARTの登場により1995年からAIDSによる死亡数は減少するようになった。1996年にはウイルス量検査が認可され、また、HAARTの効果か数々の研究で証明された。しかし、現在、長期抗HIV薬服用に対する副作用や耐性ウイルスの出現が問題となっている。HIV感染が進行すると抗HIV抗体が産生出来ない程悪化し、HIV抗体検査では陰性となる症例もあり早期検査の重要性を再認識させられた。
また、100%死ぬと言われたAIDSも発生から24年経ち、医療の急速な進歩で現在では慢性疾患となった。しかしその反面、若者の間では産まれた時からあるこの病気に対する恐怖心は少なく、多くの情報が溢れる中、服薬の困難さを知らず薬を飲めば発症しないなど安易な考えを持っている者も少なくはなく、情報が正しく理解されない場合もある。
3. ロシュ見学
日本でのHIVウイルス量検査のほとんどがロシュのPCRキットで測定されており、アメリカ全土でも約75%がこのPCRキットで測定されている。平成16年の日本での新規HIV/AIDS患者数は1000を越え、増加の一途をたどっている。当院での患者も2年後には1000人を越える見込みであり、現在の方法では、検体処理数も少なく技術や熟練も必要とし今後の検体増加に対する不安がある。今回、ロシュで開発中の全自動PCR検査装置を見学する機会を得た。これは血清での測定(血漿よりウイルス量低値)、検体量の増加などの欠点があるが、核酸の自動抽出、検体処理能力の向上、測定レンジの拡大、多種類(HIV・HCV・HBVなど)の同時測定、オンライン化など多くの利点があり、より迅速な結果報告が可能で早期登場が望まれる。
 
4. AIDS長期感染者のQ&A
臨床検査技師としては、患者と接する機会はほとんど無く、患者の経験や心理的なこと考え方など様々な貴重な話が聞けた。
5. サンフランシスコ総合病院(FSGH)
院内感染の講義を聴いたが、感染防止用品も当院で採用されているのも多くあり日本とあまり変わらないようだ。
FSGHの検査室は市の18のクリニックからの依頼も受けており、160人(有資格者85人)のスタッフで24時間体制、年間200万件の検査を行っている。HIV抗体検査は約600件/月、ウイルス量検査は約400件/月測定している。抗体検査はEIA法で測定し、その陽性率は約4%もある。抗体検査陽性検体はHIV-1 IFA法で確認し陽性なら報告、それで陰性ならば外注検査でHIV-1 Western Blot法により確認する。サンフランシスコでのウイルス量検査は、PCR法(50コピー/ml)よりも圧倒的にb-DNA法を採用している施設が多く、最低検出感度もb-DNA法の75コピー/mlに統一されている。FSGHもb-DNA法を用い1人で検査を行っている。予想以上に検体数が少ないことには驚いた。近日より母子検査などにRapid HIV テストを導入予定であるそうだ。日本でもこのような迅速テストを用いて若者の集まる所で検査をすればもっと関心を持ってくれるのではないだろうか。
6. HIVチームケアと服薬指導
HIVの治療は、医師、看護師、薬剤師、ケースワーカー、ソーシャルワーカーなど多種の職種がチーム医療にて行っている。また、アドヒアランスの難しさ大切さを教わった。臨床検査科としてはこのようなチームには属していないが、何か出来る事は無いか考えさせられた。
7. SF AIDS Foundation
SF AIDS Foundationは五つの団体と共同運営で運営資金は寄付やイベントの収益でまかなっている。クライアントへの情報提供、公的な方針とのコミュニケーション、HIVコミュニティーの健康増進、ボランティアベースのプログラム(ニードルエクスチェンジ、AIDSホットライン、Webサイト、アウトリーチ、新人募集とトレーニング)など運営している。その中の一つである服薬指導などをしているアクションポイントの建物を見学した。
8. Cole Street ClinicのDania Sacks March(STD感染についてのワークショップ)
ハックルベリー財団主催で、五つのプログラムを持っている。若い人達を対象に活動しているので、ここで働いているスタッフを14〜21才と若い人を中心にする事により、同世代の人により理解してもらえるようにしている。その一つにSTD感染に対するプログラムがあり体験した。ゲーム形式や実演で非常に分かりやすい内容であった。また、このようなプログラムは日本での若年者のHIV感染予防にも効果が有るのではないだろうか。
帰りにAIDSメモリアルパ−クへ行った。何時もはここで卒業式を行っているそうだが、都合により今回はミーティングルームで行った。
9. 発表と卒業式
テーマ「日本とアメリカの検査の違い」で研修した事をまとめ発表し、無事卒業することが出来た。
10.おわりに
今回の研修に参加して、AIDSの医療体制、患者のケアや支援体制、感染予防活動など非常に進んでいるサンフランシスコに行くことによって、日本に居てはわからない、そこで暮らす人々の習慣、風土、物の見方、考え方など体感し、その中から生まれたAIDSに関する対策や対応など理解し体験できた事は貴重な経験になった。今後この研修で得たことを生かし、微力ではあるが医療の発展に貢献していきたいと思う。
 
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