研修会報告
平成17年度HIV海外研修報告記 (サンフランシスコ)
平成17年2月16日から3月3日にサンフランシスコで行われた研修報告です。
1.概要 (竹田雅司)
2月16日 大阪発、当日サンフランシスコ着
オリエンテーション
Maxine Hall Health Center (他院医師2名訪問)
2月17日 ミィーティング・Ms Masami Kobayashiの講義(研修の進め方他)
カストロ見学
2月20日 Ms. Susan Conrad講義(Healthier Living Program)
Mr. Joe (HIV-positive patient, SFにおけるGay community, AIDSの
背景・歴史、SFのHIVの現状について)
Mr. Charlie (Counselor, Gay patientのカウンセリング)

2月21日 Kaiser Medical Center訪問(HIV clinic, HIV team meeting and Lecture)
Kaiserが運営する医療保険に加入している中産階級の患者を主な対象とする医療機関。
Dr. Jason Tokumotoの講義(日和見感染の病態とその治療)
2月22日 Tom Waddell Health Center訪問
(HIV clinic, HIV team meeting and Lecture)
低所得者層に対するプライマリケアおよび治療継続のためのサポート
Westside Care Management訪問・講義
(Total support for HIV patient by NS and SW)
住居・精神衛生・医療補助などを総合的に評価、援助を行っている
SF AIDS Foundation訪問(AIDS予防とサービスネットワーク)    
2月23日 Tom Waddell Health Center訪問
(HIV clinic, HIV team meeting and Lecture)
Tenderloin Resource Center(HIV team meeting)
低所得者層に対する生活全般のサポート
2月24日 Pets Are Wonderful Support(PAWS)訪問
 ペットの有用性を評価し、HIV患者のペットにかかる世話や食料の供給

Quan Yin訪問(東洋医学薬学、他院の薬剤師が訪問)
SF General Hospital訪問
施設見学と総合的な解説、放射線画像の講義、栄養士による講義
2月27日 Project Open Hand訪問(栄養士によるツアーと講義)
低所得者に対する食材・調理済み食品の供給
Lyon Martin Women’s Health Survices訪問
HIV陽性女性患者に対する包括的サポート
UCSF訪問(栄養士の実際についての見学)
2月28日 HIV栄養士の講義
Dr. Jason Tokumotoの講義(抗HIV療法・PEPなどについて)
3月1日 最終発表会・修了式
3月2日〜3日 帰国・大阪着
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2.看護師として印象に残ったこと (垣端美帆)
看護師として印象に残った事柄をピックアップして感想を絡めてご報告いたします。
■一番の驚きと喜び
  サンフランシスコを訪れて最も驚いたことは HIV 陽性者の90%以上が全く日和見感染を持たないということでした。そして長期生存のために慢性疾患化し、 HIV そのものよりも加齢に伴う生活習慣病や抗ウィルス薬長期内服による副作用の方が問題になっていることを知り、にわかには信じられませんでした。
それはひとえに抗体検査の浸透で早期に HIV 感染を発見し、しかるべき治療や経過観察が行われていることを示しています。当院では日常生活に支障が出てから受診→診断されるケースが少なくありません。日和見感染が重篤な状態になると生死の問題となり得、治療が効を奏しても長期の入院や療養が必要となり一時的に社会的役割を果たせない時期が発生します。身体ばかりでなくそういう面からも苦悩されていることも多く、早期発見・対処の大切さを再認識しました。
■予防啓発活動: STOP AIDS PROJECT
サンフランシスコにはゲイの町『カストロ』があり、その地区の事務所を訪問しました。男性が性の対象の男性(以降MSMと表記)が他の地域よりも多く集まるということで事務所内には教育資料だけでなくMSM向けの新聞、MSMが集まる人気の店のパンフレットやイベントの紹介なども行なっていました。
コンドーム無料配布もしていました。ノーマルなものもありますが
・ オーラルセックス時の不快感を軽減する潤滑剤フリーコンドーム
・ ゴム剤を損傷しないためのオイルフリー潤滑剤
・ 蛍光コンドーム:暗闇でも相手が装着していることを確認できる
あくまでも感染予防が目的で、いかに安全にMSMライフを楽しむか、MSMであることを否定しない姿勢が伝わってきました。
  
■ HARM REDUCTION
『被害を減らす』ことで対象が今よりも少しでも良い状態になるようにという概念です。静脈注射を使用するドラッグユーザーに対使用済み注射針を持ってきたら新しい針と交換する(ニードルエクスチェンジ)という取り組みは、本当はドラッグをやめてほしいのだけど、やめられないならせめてまわし打ちではなく新しい針を使って感染拡大を防ぎたい・・」という考えで、当初ドラッグ使用を擁護する行為だと非難もあったようですが、活動により確実に新規感染者の数が減少したために今ではしっかり根付いているとのことでした。
■その他の支援プログラム
ライオンマーチン:女性の HIV 感染者の支援施設。売春婦やドラッグ中毒者の他に旦那さんや
家族に疾患のことを言えずに悩むヘテロセクシャルの女性もいて、日本の患者さんとの共通性を感じました。
オープンハンド:愛情込めて作った食事(食材)を無料配給。『 meal with love 』
PAWS :心の支えとなっているペットの世話をすることで患者をサポート。
トムワデル・ TARK :貧困層を対象に活動する最後の受け皿的存在の施設。ホームレスやドラッグ中毒もあり治療にのらない人が多く、定期的なカンファレンスや外回り(アウトリーチ)を行なって患者とつながっていくことを大切に取り組んでおられました。スタッフが燃え尽きないための工夫もされていました。
ウエストサイドケアマネジメント: 20 人ほどの修士号レベルの学位を持つスタッフのいる在宅生活支援。ドラッグ使用者で HIV により失明したケーススタディを行ないました。
アクションプラン:同じような悩みを持つ人が集まり、問題解決のために目標を設定し数週間かけて評価修正しあうプログラム。 HIV の薬の飲み忘れないためにどうしたら良いか・・・など当事者同士だからこそ思いを共有し、解決策を見出すことが出来るそうです。
PEER も活躍。
クヮンイン:東洋医学を用いて薬の副作用や精神問題の軽減をはかる施設。
いろんな側面から HIV 陽性者を支えるシステム整っていて驚きました。これらのシステムをそのまま日本に持ってきても、 HIV やボランティアに関する概念が異なるため全て上手く機能するとは言えないかもしれません。
■日本とサンフランシスコの違い
☆ プライバシーの概念:日本では疾患名を『知られること』がプライバシーの侵害ですが、サンフランシスコは知られた上でなにか被害(実害)を被った場合をプライバシーの侵害と考えるそうです。 HIV 陽性者対象のプログラムに参加者が躊躇なく参加できるのもそういう概念が浸透しているからだと思いました。
☆ 民族性:サンフランシスコには移民が多いので『色んな人がいて普通』という個々を認める文化があります。その点日本は島国なのでマイノリティを受け入れるのが不得手なのかもしれません。
☆ カミングアウトの習性:サンフランシスコではゲイ平均15歳・レズビアン平均17歳だそうです。日本ではまだまだできていないことが多いですが HIV や同性愛に対する偏見や差別がなくなればもっと増えるのだと思います。
■勇気と希望
そんなサンフランシスコにも HIV/AIDS が解明されて間もない頃には偏見や差別が在ったそうです。その中で最初に HIV/AIDS 病棟を立ち上げたサンフランシスコ総合病院では徹底的に全スタッフ(メッセンジャーや掃除担当なども含む)に対してスタンダードプリコーションの教育を行ない、どうしたら感染予防できるかを理解することで疾患や患者に対する恐怖心を払拭させたそうです。それは今でも続いており、新規採用のスタッフには導入時に、既存のスタッフにも毎年 1 回は全員参加のレクチャーを開いているとのことでした。そういった個々の努力や国を挙げての感染予防教育もあり、今では町場の医療資格を持たない人の口からも『スタンダードプリコーション』という言葉が聞けるほど地域にも浸透していました。
現地コーディネーターによると、『肝炎は怖くないけど HIV は怖い』と言う日本人研修生(含医師)が研修の最後には『 HIV を知らなかっただけなんですね』と改心するということが今でもあるそうです。医療者でもそうなのだからそれ以外の人はどんなにか・・・と思います。偏見や差別の多くが知識不足からきていると思います。今回サンフランシスコ総合病院での実績を聞くことができ、教育が確実に偏見や差別を軽減することがわかり今後 HIV 医療に関わっていく身としては大変な勇気と希望をもらった気分でした。

■患者が望む医療者像
常日頃より患者を心身の両面からサポートしたいと考えているものの、どこまで踏み込んで良いものか躊躇してしまい、身体的な症状緩和しかできないこともしばしばあります。
そんな自分を空回りだと思いますし、情けなく思うこともあります。
サンフランシスコで長期生存の HIV 陽性患者さんに、どんな医療者が患者を支えることができるのか・どんな医療者を患者として希望するかを尋ねと

1) Non Judgement (裁かない人)
2) 自分の考えではなく、必要な情報を提供してくれる人
3) 自分が自己決定するのを助けてくれる人

という明確な回答がありました。
疾患を持つことや、本当のセクシャリティを公表しないで(偽って)社会生活を営むということはそれだけで大変なストレスであり、医療者はそれを理解した上で患者と関わる必要があると教わりました。逆に言うとカミングアウトしていない人にとって病院という環境は、そういった情操ストレスから解放される場所になり得るともアドバイスいただきました。彼らを傷つけたくないという思いからどこかで変な遠慮が働いていたように思います。改めて『個人と向き合うことの大切さ』を実感しました。

サンフランシスコの 10 年遅れていると言われている日本ですが、 HIV/AIDS が慢性化し疾患に対する偏見が払拭され、あらゆるセクシャリティの堂々とのびのび生活できる日が 1 日も早く訪れることを願って、今後も HIV/AIDS 医療に携わっていきたいと思います。
今回研修の機会を与えてくださった関係職員の皆様、素晴らしいプログラムを組み、コーディネートしてくださったディブさん、マサミさん、タカヨシさんに感謝いたします。
 
 
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3.研修報告 (治川知子)
1. 研修内容

1) エイズケアシステム
米国における医療システムのイメージについて討議
その中から以下 5 点についてまさみさんから講義

  (1) HIV 患者の手術がスムーズに受け入れられ、進行すること
日本で外科医が手術に困惑するのは知識不足によるものである。
外科医のみならず、看護師が感染症患者の対応が難しいと思い込むのも知識不足 からくるもので、正しい知識が補充されると受け入れがされやすくなる。医療者 から知識を補充していくことが重要。
日本では患者数は増加しているものの、上記の困惑から臨床で治療にあたる機会 が極めて少ない。米国では歴史も当然長いが患者数が多く、臨床経験も確実に養 われ、現在の様に様々なステージの患者に対応できている
また、医師が医師に相談できる制度(フィジシャンズウォームライン)

(2) 1人の患者にかける時間が長い
は日本と比して患者の外来診察頻度が少ない。そのため年間2〜4回の患者
へのケアとなる場合もある、そのため、米国は 1 人の患者に対し時間をかける。
1人あたりの患者の診察時間は、保険制度によって異なるが 15 〜 60 分である。

(3) 経済面がシビア
米国の保険制度の講義
米国は疾患や重症度や疾患によって保健負担が変わってくるのではなく、個人の
希望や出来高によって変わってくるため、不公平さは否めない

(4) プライマリーヘルスケア
1 人の人間を 1 人の人としてみる→プライマリーケア
身体の一部分に対してケアする→セカンダリーケア
専門性のある知識、技術を活用してケアする→トリダリーケア
より高い専門知識を駆使してケアする→クオータナリーケア
1 st 〜3 th は総合病院、3 th 〜 4 th は大学病院で担っている
プライマリーケアを行う医師をジェネラルプラクティスといい GP と略す
GP は患者の全責任を負う。患者の病状や必要に応じて GP は患者を他施設に紹
介するが、患者にとって GP という存在は一貫してあり続ける。
現在 GP は専門分野ではないが、専門化していこうという意見もある。
日本では、患者は他院へ紹介されるのは情報の流出等を懸念し困難な現状にある
ことからプライバシーについて意見を述べ合う

(5) チーム医療
上記と同様

2) 慢性疾患自己管理プログラム
  Ms.Suzan からの講義
メトロポリタンチャーチから派遣
自身も慢性疾患を抱えて生活しており、 Peer として関わる一方、リーダーのプログラムを経て、リーダーとして慢性疾患のクラスを担当している。

<プログラムの効果>
- このプログラムを経た慢性疾患患者は、自己管理能力・アドヒアランスが向上し、人生をより快活に過ごすことができている
- 医療者のセルフエデュケーターが介入するよりも、患者( Peer )自身たちが介入し、リードしていくほうが慢性疾患管理に有効である

<クラスの実際>
- 3時間のクラスを週に1回、全7回で行う
- 2人の Peer リーダーの下、セッションを行う
- クラスの参加者は 10 〜 12 人
- Chart 1〜 7 までのセッションを学んでいく
- 参加者は、次のクラスまでに可能な短期の行動目標と、 3 〜 6 ヵ月後の長期目標を自分自身で設定する。毎日実施しなければならないような目標は、実現が困難になることが多く、達成できる目標を設定する
- 次のクラスで、行動目標は達成されたか、達成できなかったのはなぜかを考える。必要時、他の参加者やリーダーも加わりアイデアを出し合う。同じ慢性疾患を抱えている同志として、気持ちの共有も行われる
- 目標を達成していくよりも、考えて問題解決の自分自身で取り組むというプロセスが重要
- クラスを進行していく中で、有効に話し合いが行えるようにリーダーが関わると共に、必ず守るべきルール(グランドルール)をきめて部屋に張っておく
このクラスでは、医療機関にかかるにあたって、患者として必要な知識や技術も学ぶことができる。
- 症状の記録(症状の増悪・改善のバイオリズムのどの位置に今の患者が位置しているかを把握することによって治療、指導が異なってくる)
- 医療関係者に聞きたいことのメモの必要性
- 自分自身も医療従事者と信頼関係を作ろうとすること
- 受けた説明を自己の言葉で繰り返す
- 受けた説明を紙面に下ろしてもらい、持って帰る
- どういった症状の時が緊急受診するタイミングか

HIV / AIDS であるから、という特殊な慢性疾患の管理ばかりでなく、他の慢性疾患と合致する内容が多い。

3) HIV 陽性ゲイ男性のカウセリング
  カミングアウトする平均年齢は 80 年代ではゲイが 21 歳、レズビアンが 23 歳である。カミングアウトしてから初めて感情年齢が成熟していくとされており、カミングアウトした時点で 13 歳、いわゆる思春期から性も成熟度を増していく。ケアする側は、社会年齢を知るとともに、感情年齢を知ることが重要であり、その年齢に応じて予防教育やカウンセリングを行っていく。また、ストレスコーピングできる能力を知るために、愛情をどの程度注がれてきたかのバックグラウンドも情報収集していく。

4) San Francisco General Hospital
  世界で初めてのエイズ病棟を開設した病院で、スタッフ教育について学ぶ。
日本では、ブロック拠点病院に患者が集中しまう傾向にあるが、その現状を打開していくために重要なものは、ユニバーサルプリコーションの教育である。院内の新採用者へのレクチャーの内容に院内感染、血液媒体の恐れのある検体の取り扱い等を徹底して教育、また全職員に対して結核予防法も教育している。 HIV のみでなく HCV 、 HB への職務感染予防方法を十分に学ぶことによって、 HIV / AIDS 患者へのケアを恐怖心なく行えるようになる。
また、この 20 年、様々なバックグラウンドがある患者に対して、慈悲の心でイコールケアを目指す看護というものを HIV から学んだ、との事

5) AIDS 包括的ケア
  治療が進み、慢性疾患として位置づけられているこの疾患は、慢性管理もさることながら、罹患を防ぐ予防が重要となってきている。
しかし、ホームレス等の低所得者は疾患の予防を行うことは生活上困難であり、 2500 人のホームレスを対象に調査したところ、 10.5 %が HIV 陽性であったという研究結果も得られている。
低所得者が集まりそうな場所に出向き、声を掛け( Out Reach )、抗体検査を進めるという活動も行っており、医療につながるような機会を作っている。
医療機関は様々だが、金銭的に余裕がない患者にとって医療を受ける最後の砦としてあり続けるよう日々奮闘している。医療チーム、ボランティアと協力してすべての人に適切なケアを受けていただくという目標達成を目指し、どういった状況においても、患者を尊敬しつづけ、人間的に見て興味深いという視点で支援している。
ホームレスの方々にも同様に、薬物、性行為、ハウジング、経済状況等問題は山済みであるが、ハームリダクションとして、より 1 歩でも健康に( Healther )という精神で包括的なケアを行えるように活動している

6) 女性への支援
  当初、ゲイの男性間で流行した疾患のために、偏見が社会の中に根強くある。パートナーからの感染、薬物、不特定多数との性行為で感染した女性たちは、まさか自分が…と考えている人も多く、 HIV が陽性であった場合、女性は自分への恥を感じ、自己価値が下がる場合が往々にしてある。住宅において、精神においての不安定さが 1 番医療につながり続けることを困難とする。住宅においては、国や Peer と連携して支援していくが、精神面においてはリラックスできる場所が必要となってくる。 Lyon Martin という女性専門のクリニックでは、ランチを食べながらコミュニケーションをとったりして、そんな女性の慰安の場となっている。その中で、チーム医療による包括的ケアを実施したり、カウンセリングの中で自己価値をあげるように関わったりしている。女性がより健康になるために、マッサージなどの東洋医学と連携して全身へのアプローチを行っている。
 
2. 研修を通して

日本よりも歴史が長いサンフランシスコでは、HIV/AIDSの包括的ケアが確立されているという印象を強く受けました。病院で行われる急性期・慢性期のケアのみならず、地域において生活するという視点で、医療従事者や多くのボランティアが全人的に患者を支援しているという体制を深く学べました。ハームリダクション、イコールのケア、ノンジャッジメントの精神等、HIV/AIDSケアに関わるすべての方々が同じ姿勢で取り組んでいることを知り、自身を振り返る機会となりました。
日本において、HIV/AIDSは今も差別が払拭できない現状が続いています。私達と同じ医療仲間でさえ、まだまだ深く根付いています。米国の様に患者が質の高い医療、全人的なケアを受けるために、乗り越えなければならない壁が日本には多く存在しています。しかし、患者数が増加の一途を辿っている今日、この問題を解決していく事は急務であると思います。患者のQOLを向上できるケアの提供が実現していくために、看護師としての責務を果たしていかなければならないと強く感じました。

今回、この研修を行うにあたって御指導頂いた、院長・白阪部長、その他病院職員の皆様、現地で親身にコーディネートして下さったまさみさん、デイブさん、貴さん、 SF の HIV ケアに携わる皆様に深く感謝いたします。
 
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4.サンフランシスコにおけるHIVと栄養 (藤田朋子)
A) UCSF Medical Center の栄養部門

職員数:管理栄養士( RD ) 16 名、栄養士 14 名、調理師 24 名、他。
栄養管理サービスとフードサービスは明確に分かれている。

◇栄養管理サービス( RD の業務)
・ ADA ( America Dietic Associate )のガイドラインに従い栄養管理
・主な診療科ごとに栄養士が 2 名づつ配属されその場で栄養管理を行っている
・入院 72 時間以内に栄養評価・管理計画作成
・医師の方針に沿って、食事は全て栄養士が管理
・管理栄養士は医師、看護師とともに毎朝回診に同行
・外来、入院患者の栄養相談( HIV 患者については外来のみ。入院患者は現在ほとんどいないとのこと。)
研修制度や資格制度に日本とかなり差はあるが、医療の中で栄養士に対する認識やレベル
が非常に高いという印象を受けた。

◇フードサービス
450 名/日の患者に食事を提供。内容は、糖・脂質・塩分調整など日本とほぼ同様であるが、
食種の数が全部で 10 種とかなりシンプルだった。
① Regular (一般食)② Soft (軟菜食)③ Sod Control ( Na 制限)
④ Carb Control (糖質調整)⑤ Fat Control (脂質調整)
⑥ Renal Control (腎臓食)⑦ CRI Adult (がん・ HIV 患者用)
⑧ Dysphagia (嚥下食)⑨ Gluten Free (小麦アレルギー)
⑩ Kosher (ユダヤ教)

 
             (キッチン内)
B) 栄養教育

*医療機関での栄養相談・集団教室
( カイザーメディカルセンターでの集団教室)
栄養士と薬剤師がチームを組み、 1 回/月の集団教室を開催。
HIV 感染外来患者を対象に 10 〜 15 名/回とし、働いている方でも参加できるよう、夕方から行っている。内容は食べ物と薬の関係について。 HIV 感染患者の中には、何でも薬に頼りたがったり、何か症状が出れば薬のせいにする人も多くみられるため、食事がいかに重要であるかということを中心に説明している。サンフランシスコでは、このような教室が多く開催されており、患者間で悩みや体験談を話し合える機会もある。日本においてこのような教室を実施することは、プライバシーの問題など様々なリスクがあり困難ではないかと考えるが、病気が知れる不安と孤独の中で生活している HIV 感染者にとって、患者同士が話し合える場があるということは大変意義があることだと思う。

*地域でのサポート
( プロジェクトオープンハンド)
1985 年設立。教会のキッチンで働いていた元 NS のルース氏が、 HIV 感染者に食事を届けたことが始まり。約 2000 人以上の登録ボランティアを中心に無料で食事の宅配サービスなどを行っている。資金は各種財団や個人からの寄付、政府との契約( $1.5/ 食)などで運営。現在は HIV 感染者だけでなく高齢者や若い癌患者で食事ができない状況にある人にも対象を広げて活動をしている。サービス内容は大きく3つあり、①調理済み食事宅配サービス(約 1500 食/日)② 1 週間分の食材配布サービス(約 2000 人対象)③個人向け、地域向け栄養教育とカウンセリングなどを行っている。これはかかりつけ医のサインがあればサービスが受けられる。管理栄養士(スタッフ)の説明の中で、「このサポートは単に食事に困っている人の経済的な援助が目的ではない。食事はいろいろな人の愛情が込められている。健康と愛情を運ぶことが目的である(= MEAL WITH LOVE )。」という言葉が印象的だった。
(Project Open Hand) (一週間分の食材サービス) (記帳後配布を受ける)
( 管理栄養士 Kim Madsen 氏と )

C) HIV 患者の栄養(保険会社に勤務する管理栄養士より受けた講義内容)
約 10 年前は、体重減少・消耗性症候群などの栄養障害への対応が中心だった。今は HARRT 療法の普及により長期生存が可能となったことで、栄養障害への対応よりも慢性疾患としての管理が中心になっている。

栄養管理のポイント

*体重のコントロール(変動のチェック)
体重減少は単に数字だけでは評価できない。身体のどの部分が減少しているのか、筋肉 や脂肪量の変化が重要で、これにより必要栄養量が変化する。評価方法は、体脂肪計や 上腕の皮下脂肪厚測定、 CT など。

*消化吸収能に合わせた食事
HIV 患者の 88 %は消化器系の異常をきたしている。下痢などの消化器症状は患者のQOL に関わり大きな問題である。消化酵素の減少や微生物、ウイルスによるもの、薬の副作用、高脂肪食など様々な理由が考えられる。脂肪の吸収不良による下痢も多く、患者の 食習慣などをよく把握し、高脂肪食が問題であれば是正していくことが必要である。

*慢性病としての管理
エイズを抱えて生きていく人が増え、エイズでは死なず糖尿病や心臓病など生活習慣病で亡くなる人が増えている。一般的に誰もが気をつけなければならないこと、ライフスタイルや生活習慣病など、慢性疾患としての栄養サポートが必要である。

*感染予防のための食事
CD 4リンパ球数 200 が目安。 200 以下で生ものやきのこ類などを制限。 200 以上であれば、患者個々の症状に合わせて対応を検討。

研修を通して感じたこと

町全体が HIV に対する予防活動が活発で、ボランティアを中心とした、たくさんのサポートサービスが存在することに驚きました。ここで暮らす人々の考え方、生き方から自然に生まれてきたものであるということを肌で感じることができました。 HIV は死なない病気となって、患者にとって効果のある治療や服薬を継続していくことが重要で、治療に対する意識を低下させないためにも、地域社会で患者をサポートしていくことがいかに大切かということを理解することができました。
HIV の栄養に関しては、栄養障害の管理から慢性疾患としての管理が中心になっていること、個人に合わせたサポートが必要であるという考え方が再認識できました。
現在、大阪医療センターでは NST 活動を通して、消耗性症候群や日和見感染症などの食べられない人に対する栄養管理が中心ですが、今後は HARRT 導入前の教育や外来での慢性疾患としての管理が重要になってくると思います。今回、 HIV 研修プログラムに栄養士として初めて参加させて頂き、とても貴重な体験ができました。 HIV 患者にとって栄養はとても大切で、その重要性に目が向けられつつあります。今後、患者のニーズに応じた適切な栄養サポートができるよう、栄養士として専門性を高め、治療に貢献していきたいと思います。

さいごに

小林まさみ氏、 David Wiesner 氏、大山貴祥氏には現地での通訳、研修期間中のコーディネートをしていただき、大変お世話になりました。また研修参加にあたり、病院内外の関係の方々にひとかたならぬご尽力を賜りました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。
 
 
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5.HIV/AIDS診断・治療・経過観察の中の画像診断 (酒井美緒)
Sun Francisco general hospital (SFGH) での lecture より
背景
HAART (highly active antiretroviral therapy) の登場により、 HIV 感染症は医学的にコントロール可能な慢性疾患となった。しかしながら AIDS はいまだに予後不良の疾患であり、早期発見が重要である。このため、診断・経過観察両方の面で、より低侵襲で迅速、再現性のある検査が求められるようになっている。画像検査はこのような要求をみたすものの一つである。 HIV 感染人口が増加し続けていることも含め、日本での HIV 感染関連疾患画像診断の重要性はますます高まると考えられる。
今回の研修ではサンフランシスコの HIV 感染症 / AIDS 治療の中心的役割を果たしている Sun Francisco general hospital (SFGH) で画像診断のレクチャーをうけ、貴重な症例を学ぶとともに、画像診断施行時の注意点について考察した。
研修内容
Sun Francisco general hospital (SFGH)
19世紀半ばに設立された公立病院である。民間の医師が診ないような政府の医療補助しかもたない人たちにも治療をおこない、 1980 年代、エイズが発現してからはエイズ患者の診療に先駆的役割をはたし、世界に知られるようになった。現在も治療方法の研究や薬剤の治験を数多くおこなっている。
サンフランシスコでは保健所所属の外来を地域住民のプライマリケアとして無料または医療補助制度を利用した低料金でおこない、セカンダリーケアやターシャリーケアは総合病院を使うようになっている。これらの施設は UCSF ヘルス・ネットワークに属し、市の公衆衛生局やエイズオフィスも含めて医療プロフェッショナルの人的資源提供責任を UCSF が委託事業として契約している。
SFGH での提示症例:
25 例の HIV 関連疾患について lecture をうけた。
細菌性肺炎、カリニ肺炎、肺結核(初期感染、粟粒結核)、非定型性抗酸菌症、クリプトコッカス症、アスペルギルス症、サイトメガロウイルス肺炎、悪性リンパ腫、肺癌、 HIV 脳症、トキソプラズマ症、腸管悪性リンパ腫、 HIV 胆管炎、腹腔内結核、 abdominal aneurysm rupture (mycotic aneurysm) 、 Protease inhibitor 長期投与による avascular necrosis などの解説、症例提示をうけた。
よく接するものから、これまで接したことのない症例まで盛りだくさんであった。日常診療で最もよく接するのは日和見感染症とのことで、大阪医療センターと同様であった。
SFGH の講義の中で、印象に残っている事項は以下のようなものである。
画像検査は確かに迅速に結果を得られ、比較的特長的所見を呈することが多いものの、たとえば非定型抗酸菌症と肺結核、脳悪性リンパ腫とトキソプラズマ脳症のように画像検査だけでは鑑別が困難なこともある。特に免疫低下状態では画像所見が非特異的であることがあり、画像検査だけでの診断はしばしば困難である。
したがって、より正確な診断に近づくために、臨床情報は非常に重要である。たとえば、 CD4 の値だけでも大体以下のように疾患の予想がつく。
- >200   細菌性肺炎・結核・肺癌
- 50-200  カポジ肉腫・悪性リンパ腫・真菌症・トキソプラズマ症・ Bartonella( 猫ひっかき病の原因菌 ) 、および上記
- <50    非定型抗酸菌症、サイトメガロウイルス感染症、および上記
さらに以下の情報も重要である。
→輸血歴、渡航歴、職業歴、薬物使用歴、買・売春歴
・・・ HIV 感染が強く疑われるか?
→栄養状態、薬物使用、神経性食思不振症
症状について正確な情報
・・・鑑別の絞込み
→使用している治療薬・治療薬変更歴
( 何をどれくらいの期間?変更時期は?)
・・・ avascular necrosis など医原性病変
免疫再構築による所見
DM/ 高脂血症などの可能性
まとめと展望
日本ではまだ「 HIV 関連疾患は特殊」と認識されている面がある。初診では HIV 感染の有無が不明の場合、鑑別診断に挙がらないことも多いと思われる。 HIV/AIDS の感染状況を考えると、まずは HIV 関連疾患を知ること、疑いをもつことが必要と感じた。

 
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6.Pets Are Wonderful Support (PAWS) (酒井美緒)
背景・はじまり
PAWS ( Pets Are Wonderful Support )は、 1986 年に San Francisco AIDS Foundation Food Bank volunteers の中の 1 グループとしてはじまりました。中心となったのは、 food volunteers です。配布してもらった食料を pet に譲っている人がいるのを発見したのがきっかけで、家からでるのが不自由だったり、独居であったり、重篤な病気の人々にとっての companion animal の重要性が認識されたのです。
1987 年、貧困・病気でペットの世話に助けを必要とする人々を支援することを目的に独立した組織としてPAWSが再編されました。 PAWS はいかなる公的援助もうけず、全て個人・企業・私立財団からの寄付で成り立っています。ここでは PAWS 訪問で見せていただいた活動についてご報告・ご紹介させていただきます。
companion animal の効用
人の寂しさを癒し、親しみをわかせ、安心を与える。医学的・心理学的な効用はよくしられているが、病気で不自由な思いをしている人にとっては特にこの意義は大きい。
companion animal により、人は社会的に順応する力を得たり、ストレスを減らしたりすることができ、うつなど、疾患の診断による二次的な健康上の問題を軽減することができる。
また、 companion animal への責任感や愛情から服薬遵守など、健康を心がけることができるようになる。
PAWS のサービスの対象
設立以来、 PAWS は身体障害疾患によって companion animal とひきはなされることがないようにすることを目的として活動してきた。 2002 年、 PAWS は対象をひろげ、サンフランシスコ在住で医学的障害がある全ての低所得者を対象とするようになった。
PAWS のサービス内容
家を訪問し、 companion animal の散歩を含む世話
Pet food bank と食料配達
対象者が病気になったり強制退去させたれたりしたときの里親を引き受ける、または探す
一年ごとに獣医受診クーポンと助成を支給する
グルーミングとノミよけのサービス
獣医さんやグルーミングへの搬送
受給者(人・ companion animal )にとって適切な条件での家探し
このほか、人畜感染症の教育の知識や専門家が動物がいることによる health benefit 情報を供給したり、免疫低下状態の人における利益情報を供給する。獣医との共同作業によりこれらの情報はさらに研究され、発展され、 PAWS の教育プログラムによってひろめられる。
これらの知識は受給者・介護者・ PAWS ボランティアが、どうすれば健康をおびやかさずに安全に companion animal のケアができるかを理解するのに役立つ。
何ができるか
時間をさいて活動に参加するだけでなく、たとえば募金という形でも参加できる。
2000 ドル:動物 10 匹に一年の獣医代
350 ドル: 10 匹の猫の 1 ヵ月のえさ
150 ドル: 30 匹の猫の 1 ヵ月の猫砂
60 ドル: 2 匹の大型犬の 1 ヵ月のえさ
25 ドル: 2 ヶ月のノミ除け
まとめ
「目の前でおこっていることに対して、自分に何ができるか」を考え、行動することに始まり、同じ考えを持つ人たちが組織になって活動している様子に感銘をうけました。
PAWS のホームページは www.pawssf.org です。
少しでも興味をおもちいただいた方、ぜひ一度、ご訪問ください。
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7.HIV診療における病理診断のかかわりを中心に (竹田雅司)
今回の HIV 海外研修では、 HIV 陽性・ AIDS 患者に対する最新の治療法をはじめとし、その治療を患者に継続させるためのカウンセリング、やサポートプログラム、さまざまなサポート団体の講義、見学を経験した。

最初に、患者の Mr. Joe からはサンフランシスコで HIV 患者が多い歴史的背景から、 1980 年代からの AIDS の広がり、死に至った人たちとのかかわりの実体験・患者サポートの発生過程などを聞いた。カウンセラーの Mr. Charlie からそれらに加え、ゲイの HIV 陽性者に対するカウンセリングの特殊性を学んだ。また、 MCC Healthier Living Program のリーダーである Ms. Susan から「 HIV 慢性疾患自己管理プログラム」についての講義を受けた。

その後、実際の診療現場としては中産階級向けの Kaiser Medical Center で診療システムについての講義、チームミーティング、


Tom Waddell Health Center では低所得者層に対する診療の現場 (Dr. Nguyen による診察 ) を見学した。特に後者では、実際に患者との信頼関係を築くためと思われるが、 Dr が些細なことに対しても患者をほめる姿勢を見せたことが印象的であった。


チームミーティングではどちらの施設でも、医師・看護師・ケースワーカー・薬剤師・カウンセラーなど多職種の人々が参加し、活発な意見交換を行っていた。 HIV ・ AIDS 診療に限らず、今後の日常診療を行う上で参考になる点であった。また、 San Francisco General Hospital では放射線科医である Dr. Rybkin による HIV 陽性患者に多い日和見感染症、あるいは腫瘍の実際の症例 ( 画像 ) を多数解説していただき、今後の診療上考えるべき疾患の指針として有用な講義を受けることができた。


さらに、 Open Hand Project では主に HIV 患者に対する主に「食」のサポート、 Tom Waddell Health Center では「食・住」を含めた全体的なサポート、 Lyon Martin Women's Health Service では女性を対象にした、 HIV 検査を受けさせるところからの全体的なサポート体制について講義を受け、施設の見学をした。

また、 Dr. Tokumoto からは実際の HAART ・日和見感染における考え方の基本点を中心とした、実用的な講義を受けた。合併腫瘍においても、日和見感染においても早期に発見し治療を開始することの重要性を理解できた。

今回の研修では、以上のような様々な施設、団体、個人の見学および講義を経験することで、 HIV ・ AIDS 診療の根底にはそれらが慢性疾患であるという考えが浸透していることが理解できた。すなわち、治療には服薬を続けることが重要で「どのようにすれば治療が継続できるか」そのためには「患者教育をどうすべきか」「生活環境をどのように整えるようサポートすべきか」などに多くの職種の人が、生活のサポート、自己管理の指導、カウンセリングなどさまざまな角度から取り組んでいる状状況であることを知った。さらには長期生存者が高齢になり HIV 陰性の人々と同じように生じる年齢相応の疾患、いわゆる生活習慣病などに対するケアが重要になってきていることも理解できた。そのためには、重要な課題として栄養指導があることも理解できた。


HIV が発見され、治療法が未熟であり多くの人が次々に亡くなっていった 80 年代から 90 年代にかけての時期が終わり、 HAART が行われ多くの HIV 陽性の人々が長く生きるようになった現在では HIV ・ AIDS が、感染蔓延の防止という重要な課題は残しながらも慢性疾患との位置づけになっている。このような状況の中で病理医がどのように HIV 陽性・ AIDS 患者 の診断・治療にかかわることができるかについて考えた。

まず、 HIV 感染、 AIDS の診断においては HIV 抗体の検出、 CD4-positeve T cell count 、 HIV viral copies などの検査によってなされるため直接関与することはほぼないと考えられる。

次に日和見感染の診断に関してであるが、日和見感染は 慢性疾患としての AIDS の経過中に今でもみられるもので、実際に Tom Waddell で診察を見学した 3 名の患者にはそれぞれ cellulitis 、 penumocystis carinii pneumonia を現在患っているか、過去にその既往を持っていた。それらの早期診断に寄与することはできないかと考えた。

日和見感染の診断は原則としては病原体の検出 ( 培養 ) や抗体価の上昇・ PCR による病原体 DNA の確認などが診断に重要であるが、
口腔内カンジダ症 ( 鵞口瘡 ) :生検・擦過細胞診による真菌の検出
Aspergillosis :気管支鏡下生検・擦過細胞診による真菌の検出
Pneumocystis carinii pneumonia :気管支鏡下生検・喀痰細胞診による原虫の確認
結核症:気管支鏡下生検・リンパ節生検による類上皮肉芽腫の検出
Cryptococcosis :気管支鏡下生検・髄液細胞診による真菌の検出
Cytomegalovirus infection :特徴的な核内封入体をもつ CMV 感染細胞の確認
非定型抗酸菌症:結核症と同様の類上皮肉芽腫の確認
などに病理検査が関与できると思われる。

上記の一部は培養検査より早く結果のわかる場合もあり、そのような時には臨床医に対し早期の information を示すことが可能である。たとえば、喀痰から抗酸菌が検出されない場合、喀痰細胞診によるカリニ原虫の確認などがありうる。また、これらの感染が HIV 感染の判明していない患者の病理学的検査 ( 組織診・細胞診 ) からわかった場合に、そのことから HIV 感染を疑いその可能性を臨床医に伝えることもできうると思われる。

併発する腫瘍の診断に関しては、 Kaposi's sarcoma と悪性リンパ腫の診断が重要であると思われる。

Kaposi's sarcoma :ヒトヘルペスウイルス 8 型 (HHV-8) の感染による血管系の悪性腫瘍。 HIV に対する HAART により近年発生が減少している。

多施設 AIDS コホート研究 (MACS) では AIDS の発症疾患としてのカポジ肉腫の頻度は 1990 年代早期の 100 患者・年あたり 26 例から 1996 年と 1997 年の 100 患者・年あたり 8 例へ減少している。加えて CDC はカポジ肉腫の発生率が 1990 年から 1998 年にかけて年 9 %低下したと報告している。また 8640 人の HIV 感染患者の分析により、プロテアーゼインヒビター (PIs) と非核酸系逆転写酵素阻害剤 (NNRTIs) が HIV 感染者からのカポジ肉腫の発症を同等に防ぐことがわかっている。全体としてカポジ肉腫の比率は 1995 年以前の 1000 患者・年あたり 30 から 2001 年には 0.03 へ低下している (Portsmouth) 。しかしながら、組織診断は HIV 陽性・ AIDS 患者において肉眼診断の確認の役を果たしており、また、 HIV 陽性と判明していない患者に関しては、 HIV 陽性を示唆することができる可能性がある。

悪性リンパ腫 : AIDS 関連リンパ腫はしばしば進行期でみつかり、急速に進行する。リンパ節以外に浸潤していることもよくある。治療後の予後が良好な因子としては、組織学上は Large cell であること、診断時の CD4 細胞が高値であること、リンパ節外病変や日和見感染がないこと、患者の performance status が良好であること、 HAART が良く効いていることなどがあげられている AIDS 非ホジキンリンパ腫 (NHL) はほとんどが B 細胞由来であり、 HIV 患者の約 3 %に出現する。 AIDS NHL は HIV 陰性の NHL 患者に比べ、組織学的に悪性度が高く、病変の広がりが大きい傾向がある。悪性リンパ腫に関しても、 Kaposi's sarcoma と同様いくつかの研究により、 HAART が AIDS NHL の罹患率と死亡率に良い影響をもたらすことが示されている。進行が早いことが特徴のひとつであり、早期治療のためには正確で早い診断が重要と考えられる。

肺癌 : HIV 陽性・ AIDS 患者の肺癌の発生リスクは喫煙者の約5倍とのことであるが、診断については通常の癌診断と同様である。


HIV 陽性・AIDS が慢性疾患と位置づけられるようになり、それぞれの日和見感染、腫瘍の併発が適切な治療により減少した現在、病理診断のかかわりは減少しているように思われる。ただし、病理医は組織標本からいろいろな可能性を考えることも必要であり、皮膚の悪性血管形成性腫瘍や肛門部の尖圭コンジローマなどを見た場合は HIV の可能性を考える必要があることを実感できた。また、今回の研修により HIV ・ AIDS を病理診断の際に考慮することができるようになったといえる。


なお、本研修の機会をお与え頂いた厚生労働省医政局国立病院課およびご指導頂きました独立行政法人国立病院機構本部、国立病院機構大阪医療センター院長・白阪部長をはじめ病院の皆様に感謝いたします。
 
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