独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

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研修会報告

平成19年度HIV海外研修報告記(サンフランシスコ)

平成19年度 HIV海外研修(サンフランシスコ)報告です。

研修期間 平成20年1月31日(木)~平成20年2月15日(金)

メンバー(あいうえお順)
看護部 礒元則子(看護部)
看護部 鍛治弘子(看護部)
眼科医師 阪本吉広(眼科医師)
消化器科医師 戸高 明(消化器科医師)
免疫感染症科 富成伸次郎(免疫感染症科医師)
薬剤科 矢倉裕輝(薬剤科)
目次(クリックするとリンク先へ飛びます) 報告者
概要 阪本吉広(眼科医師)
サンフランシスコ総合病院にみるHIV診療と感染症医の役割 富成伸次郎(免疫感染症科医師)
サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状 矢倉裕輝(薬剤科)
HIV/AIDSの予防活動 礒元則子(看護部)
HIVと眼 阪本吉広(眼科医師)
HIVと緩和医療 戸高明子(消化器科医師)
手術室における感染防止と安全管理について 鍛治弘子(看護部)
HIVとドラッグ依存症 富成伸次郎(免疫感染症科医師)
研修を終えて 鍛治弘子(看護部)
1.概要

眼科医師 阪本吉広

1/31(木) 大阪発、サンフランシスコ着
  1. オリエンテーション、final presentation打ち合わせ
2/1(金)
  1. 講義:Ms Masami Kobayashi
  2. 講義:Mr. Joe(HIV patient)
  3. UCSF School of pharmacy見学
    講義:Opportunistic infections in patients with HIV(Jason Cocohoba、Pharm D)
2/4(月)
  1. San Francisco General Hospital見学
    講義:The role of the infection control doctor(Lisa Winston, MD)
  2. 講義:video: AND THE BAND PLAYED ON
  3. 講義:Medical management of HIV disease(Jason Tokumoto, MD)
2/5(火)
  1. San Francisco General Hospital見学
    講義:Radiological manifestations of HIV and AIDS (Alex Rybkin, MD)
  2. 講義: HIV psychiatry (Dr. Akihiko Oda)
  3. 講義:Medical management of HIV disease(Jason Tokumoto, MD)
    Option 1)UCSF Medical Center at Mount Zionにて手術室見学
2/6(水)
  1. Kaiser Medical Center見学
    見学:HIV team meeting
    Option 1)UCSFにてHIV team meeting見学
    Option 2)Tom Waddell Health Centerにて診察見学
    Option 3)Kaiser Medical CenterにてEd Chitty, RNの講義
2/7(木)
  1. UCSF見学
    講義、見学:Palliative care(Dr. Eva Chttenden and Jane Hawgood, MSW)
  2. Maxine Hall Health Center見学
    講義:Lecture on eye issues and HIV(David Heiden, MD)
    Option 1)UCSF Medical Center at Mount Zionにて手術室見学
    Option 2) Maxine Hall Health Centerにて診察見学
2/8(金)
  1. 講義:Ms Masami Kobayashi
  2. VA Medical Center見学
    講義:Issues of Hepatitis coinfection (Alex Monto, MD)
  3. Tom Waddell Health Center見学
    講義:Case studies in patient compliance difficulties (Barry Zevin, MD)
2/11(月)
  1. San Francisco General Hospital見学
    講義:Clinical discussion
    HIV primary care 見学
  2. 講義:Ms Masami Kobayashi
2/12(火)
  1. 講義:Ms Masami Kobayashi
  2. Stonewall project見学、講義(Michael Siever, director)
2/13(水)
  1. Final presentation and graduation ceremony
2/14(木) サンフランシスコ発
2/15(金) 大阪着

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2.サンフランシスコ総合病院にみるHIV診療と感染症医の役割

免疫感染症科 富成伸次郎

 サンフランシスコ市には推計で約1万8000人のHIV感染者がいるとされていますが、人口80万人の都市に日本のHIV感染者報告数を大きく超える人数がいることを考えると、非常に多い数字といえます。また現在でも、年間約1000人の新規感染者が出ており、感染者は増え続けています。サンフランシスコでHIV診療を提供しているのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)をはじめ、UCSFの関連病院とも言えるサンフランシスコ総合病院(SFGH)や退役軍人病院、市立の診療所であるトムワデルなどいくつかのヘルスセンター、民間のカイザー・パーマネンテなどがあります。それぞれ特色がありますが、今回の研修中、最も多数のHIV感染者を擁しているSFGHを見学しました。HIV診療のディレクターであるDr.Brad Hareらに会い、またSFGHの伝統的なHIV診療棟である「Ward86」や検査室等を訪れました。またDr. Lisa Winstonには、院内感染対策などのHIV診療以外の感染症医の役割について話を聞きました。

(1)SFGHにおけるHIV診療

 SFGHの「Ward86」には1983年に世界で初めて設けられたHIVの専門外来があり、現在3000人を超えるHIV感染者が通院しています。サンフランシスコはもともと人種のバラエティに富んでいますが、SFGHのHIV感染者のうち50%はアフリカ系・ラテン系・アジア系などのマイノリティに属する人種、また20%が女性です。またアルコール以外のヘロインや覚醒剤などのドラッグ依存者が50%を占めます。それを反映してか40%の人がHCV感染を伴っていますが、ほとんどは静脈薬物注射針の共有、いわゆる回し打ちによる感染です。日本では、静脈薬物使用が原因のHIV感染は少ないとされており、またHCV感染者は血友病の方以外にはこれほど高率にみられない点、対照的と思われました。

 HIV外来を担当しているのは感染症医とプライマリケア医ですが、HIV感染者のための皮膚科・精神科・呼吸器科などの専門科外来や、曜日によっては女性専用のクリニックや、ヘロイン中毒者のために代替麻薬メサドンを目の前で飲んで貰うDOT(Direct observed therapy)を行うクリニックがあります。ほか、カウンセリングや、6人のスタッフによるソーシャルワーク、ナースプラクティショナー(医師の監督下で処方も行うナース)が立ち上げたHIV/HCV共感染者のサポートグループがあります。医療機関がHIV関連のサポートグループを主催するというのは珍しいように思われます。また、院外のサポートグループへの場所の提供もしています。Ward86の廊下には感染者と病院スタッフが一緒に移った非常に大きなポスターが貼られていたのが印象的でした。

 抗HIV治療の発達により長期的に免疫能力を維持することが可能になったため、以前のような重症の患者が減り外来に定期通院するHIV感染者が増え、外来は非常に忙しいようです。しかし通院者数が多いところを活かして、臨床研究も積極的に行われており、そのテーマもHIV急性感染における抗HIV治療の効果・長期未発症者について・HIV/HCV共感染の治療・ドラッグ依存者など多岐にわたり、20ほどの研究が進行中です。

 入院診療では、SFGHの入院患者の実に15%がHIV感染者です。以前は20~25%であったので、これでも減少しているとのことです。入院患者ではニューモシスチス肺炎、クリプトコッカス症や結核といった日和見感染症のほか、移民が多いため、本来は中米に多いヒストプラズマなど珍しい感染症もみることがあります。最近の傾向としては、ホームレス・薬物依存症・精神科疾患・家庭の問題などを持った人たちが多くなってきているとのことでした。

 ところでCDCは2006年よりガイドラインにおいて医療機関を受診する13歳~64歳の人に対して、本人が拒否しなければ口頭の同意のみでHIV抗体検査を行うこと(Opt-outスクリーニング)を推奨していますが、SFGHにおいても最近この制度が開始されました。FDA承認の迅速検査であるUni-Gold® Recombigenを、この目的の為に採用しています。迅速検査で陽性という結果が出ればEIAとWestern blotでその確認をします。1ヶ月に約1500検体を調べていますが、たとえばSFGHの救急外来を受診する人のHIV抗体陽性率は既に感染が分かっていた人を含めると8%もおり、このスクリーニングで初めてHIV感染が分かる人も0.9%いるとのことでした。このスクリーニングを行うことにより、とくに診療の現場でトラブルが起こったりはしていないとのことでした。

画像:左奥の建物の中にWord86がある
左奥の建物の中にWord86がある
画像:HIV診療スタッフと共に
HIV診療スタッフと共に
画像:感染者とスタッフが一緒に写っているポスター
感染者とスタッフが一緒に写っているポスター
(2)その他の感染症医の役割
①院内感染対策

 SFGHには院内感染対策を担当している2人の感染症医と、専属ナースプラクティショナーおよびナースが1人ずついます。医療従事者の手洗いやアルコール製剤による手指衛生の促進を行っているほか、中心静脈カテーテル感染症、抗菌薬術前投与、手術後感染症、人工呼吸器関連肺炎などについても業務を行っています。不要な尿道カテーテルや中心静脈カテーテルをはやく抜くといったことも勧めています。採血業務における感染対策は、手袋の使用、リキャップをしない、安全器具を使う、より安全な器具が存在する場合はそちらを使わなければならないという法律を遵守する、すべてを使い捨てにする、などです。また、できるだけ採血専門の採血師に任せて、医師、ナースの採血を少なくしています。

 結核・バンコマイシン耐性腸球菌・ESBL産生グラム陰性桿菌などの薬剤耐性菌・クロストリジウム・ディフィシル陽性者など、隔離を要する患者の対応も行っています。院内の耐性菌のサーベイランスも行っており、研究対象に病院疫学を選んだUCSFの大学院生の指導をしながら遺伝子解析なども行っています。

 サンフランシスコは全米で最も頻繁に結核が起こる場所ですが、現在新規に出るのは、移民が母国で得たものの再発がほとんどとのことで、SFGHでは結核の患者は年に20例程度あります。陰圧室は12室あるのですが、もっとも性能のよい陰圧室が分娩室と同じ病棟にあるのが悩みとのことでした。入院患者は結核の可能性によって高レベル、低レベルに分けられ、高レベルは陰圧室へ入り空気感染対策、低レベルは通常の個室で医療従事者はN95マスクをつけて入室するといった対応になります。陰圧室の数や場所については、今後病院が改築され解消される見込みのようです。

画像:目の高さにある針捨てボックス
目の高さにある針捨てボックス
②感染症診療コンサルテーション

 SFGHでは、入院患者は、内科・外科・ファミリープラクティスのいずれかの主治医チームに属すことになります。眼科などのマイナー科や感染症科は主治医チームから24時間体制でコンサルテーションを受けています。新規の相談は1日に4件程度あり、コンサルテーションの返答は推奨される診療をカルテに記載するという形で行い、実際の処方は主治医チームのレジデントが行います。SFGHでは臓器移植と心臓のバイパス手術をしておらず、これらは必要であれば大学病院であるUCSFで行われます。逆に大学病院にはないSFGHの特色はHIVと外傷が多いことで、これが感染症医への相談内容にも反映されているようです。コンサルテーションがなくても感染症医が治療に介入するのは、黄色ブドウ球菌の敗血症患者の場合で、感染症を専門とする薬剤師が細菌検査室の結果をチェックしており、異常な結果があれば感染症医に連絡が入るようになっています。

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3.サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状

薬剤科 矢倉裕輝

 今回、訪問した複数の施設の中でUCSF(University of California , San Francisco)とSFGH(San Francisco General Hospital)の2施設において、臨床薬剤師より日和見感染症に対する薬剤使用方法のレクチャーおよび実際の服薬相談に同席、見学させて頂きました。

画像:サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状 01
画像:サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状 02
臨床薬剤師による日和見感染症に関する講義

 UCSFにおいて、博士号を持つ臨床薬剤師から日和見感染症(ニューモシスチス肺炎、ト キソプラズマ脳症、非結核性抗酸菌症、サイトメガロウイルス網膜炎、クリプトコッカス 髄膜炎)の初期症状と、現在のガイドラインに基づいた予防法および治療法、リスクファ クターについてのレクチャーを受講しました。日本において未承認の薬剤が幾つかありま したが、内容の多くはガイドライン通りの内容であり、各日和見感染症の初期症状とリス クファクターについても日本と大きく異ならないことが確認できました。

HIVチーム内における臨床薬剤師

 UCSFのHIV感染症外来では毎日、各職種から情報交換の必要がある症例が提示され、診療開始前に1時間程度、医師、ナースプラクティショナー(NP)、臨床薬剤師、MSW、カウンセラーが主メンバーで構成される、チームミーティングを行っているとのことでした。

 見学を行った日は、アドヒアランス不良により多剤耐性を獲得した症例がナースプラクティショナーから提示されました。チームミーティング終了後、臨床薬剤師からNPへ耐性検査について、検査の種類、いつ行うべきか、結果の評価方法についてレクチャーがあり、その後ミーティング時に提示された症例についてどの薬剤が使用可能であるかについて検討を行いました。

画像:サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状 03
画像:サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状 04
画像:サンフランシスコにおける臨床薬剤師の役割と抗HIV薬の現状 05
服薬相談の実態

 SFGHでは実際に服薬相談に同席しました。

 CD4が高値を示しており経過観察を行っていましたが、低下してきたため主治医がHAART導入を行うため、服薬相談の依頼に臨床薬剤師のオフィスに来られました。面談場所は診察室で、患者は中年男性。主治医からは、現在サンフランシスコにおいて最も多く処方されている、TDF+FTC+EFVの合剤のメニューが提示されていました。説明内容は薬剤の服薬方法(1日1回1錠、服薬数時間後にふらつきが発現する可能性あるため眠前に服薬)、副作用(膨満感、ふらつき、発疹等)について症状の程度、好発時期について、また、服薬遵守の重要性および耐性ウイルスの発現機序についても併せて説明がありました。日本において現在私たちが行っているものと大きく異ならないことが確認できました。

ハームリダクション支援施設における臨床薬剤師

日本と比較して、サンフランシスコでは覚醒剤等の薬物使用者が多く、HIV感染症患者においても同様であるとのことです。薬物使用の減量・脱却を試みる手段として、使用者自身が予定を計画し段階的に薬物使用量の減量を試みる、ハームリダクションという手法を支援する施設を見学し、現状について説明を受けました。薬物使用者には抑うつ症状のある人が多く、支援施設には精神科医、臨床薬剤師がスタッフにいるとのことです。この施設にいる臨床薬剤師は精神疾患についてトレーニングを受けており、初診時は精神科医が薬剤の処方を行いますが、その後は臨床薬剤師が処方することが多いとのことでした(アメリカにおいては薬剤師にも処方権があるとのことです)。

サンフランシスコにおける処方状況・新薬情報
よく選択されるHAARTメニューについて
→最も多いのがTDF+FTC+EFVの合剤、次いでTVD+ATV、TVD+FPV/r(RTVは100mg、日本の用量は200mg)の順であり、日本と同様、1日1回服薬メニューが多く選択されているとのことでした。
問題となっている相互作用について
→日本では処方箋医薬品に指定されている胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプインヒビターであるオメプラゾールがATVとの併用が禁忌となっているが、OTC医薬品として販売されていること。
新薬に関する情報
→NNRTI:TMC-125 EFVと同じカテゴリ。現在臨床試験中で服薬している人もいるが、神経症状の発現はなく、他の副作用も軽度の消化器症状のみとのこと。
→インテグラーゼ阻害剤:Raltegravir 1日2回の服薬であるが軽度の消化器症状のみとのこと。

 今回の研修の中で臨床薬剤師の業務を見学させて頂いたり、様々な職種の方からレクチャー等を受けたことにより、チーム医療の中での各職種の役割が明確化されており、チーム内においても積極的に情報交換が行われている印象を非常に強く受けました。

 今後当院において、更なるチーム医療の向上に寄与できるように、より積極的に情報の収集・交換・提供を行っていきたいと思います。

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4.HIV/AIDSの予防活動

看護部 礒元則子

 HAARTの登場によりHIV感染症は長期生存が可能な慢性疾患となりました。感染経路がはっきりとわかっていることから予防可能な感染症である一方で、予防行動にはセルフコントロールが非常に重要である側面をもっており、サンフランシスコでも毎年約1000人もの新規感染者の報告があり、HIV/AIDSの予防活動にはまだ多くの課題を残しているといえます。日本においても新規感染者は増加の一途をたどっており、性感染症・HIV/AIDSに対する地域での予防活動や広報活動はまだまだ進んでいない状況です。

 今回、サンフランシスコにおけるHIV/AIDSの予防活動について学んだことの一部を報告します。

<医療・保健機関>
1.PEP(HIV暴露後感染成立予防薬処方)
  • ① 医療現場の労働災害(針刺し事故)としてのPEP
  • ② 労災以外のPEP・・・・・ハイリスクの性行為で暴露した人にPEPをする
  • ③ 陽性と陰性のカップルにprePEP(暴露前にテノフォビルをのむ)
2.パートナー告知義務制度

HIV陽性とわかったとき、患者はパートナーに告知しなければならない。
告知しなければ病院は公衆衛生局に報告する義務がある → 早期発見

3.HIV抗体検査
4.救急や妊婦の陣痛で病院に搬送されてきた場合

 患者本人に口頭でHIV抗体検査を行うか確認し、承諾が得られれば検査を行う → 早期発見

5.ホットラインの設置

 匿名の電話サービスで24時間、ドクター、ナース、ナースプラクティショナーがカウンセリングや必要時に病院への紹介をしている。

画像:HIV/AIDSの予防活動 01
<メディア>
~ゲイコミュニティにおいて~
  1. ポスター:ターゲットをしぼってセーファーセックスやHIV抗体検査を受けることを勧める内容のもの
  2. 無料新聞:治験の案内、予防法の開発、予算の動き、新薬、感染者の声など
  3. インターネット:出会い系サイトやチャットグループを利用してセーファーセックスを強調したり、それについて話したり、相談を受けるサイトを紹介したりする。サイトをオープンにしてカウンセラーを常時在中させ、交替で返事に当たっている。また、ポピュレーション毎に使いやすいようなサイトを作って呼び込んだりしている。
  4. その他:ゲイパレードや環境の日のイベントで教育や予防啓発している。
画像:HIV/AIDSの予防活動 01
画像:HIV/AIDSの予防活動 02
<教育機関>
  1. 学校での性教育の一環として同時にHIV/AIDS予防についても教育する。(年に2回ほどで親の許可のない子供は欠席をする)ナースが出向いて病気について説明する。
  2. STIについて10代のアウトリーチワーカーたちがロールプレイをしたりゲームをしたりして子供たちの知識を確かめながら教育する。
  3. 大学ではさまざまなイベントの時にブースを出して教育や予防啓発に努めている。
<例えばAIDS財団からの資金で運営しているStonewall Projectでは>

MSMでドラッグユーザーに対する予防教育を中心に、ハームリダクションの手法に基づいて作られたプログラムで、1対1のカウンセリングやグループミーティングを行っている。

その他
  1. ① HIV抗体検査、STIスクリーニング、HB・HAワクチンの接種
  2. ② アフリカ系、ラテン系民族のHIV陽性者へのサポートプログラム
  3. ③ ホームレスに対するハウジングの提供
  4. ④ 新針交換
  5. ⑤ 年中無休24時間対応のHIV/AIDSホットライン
  6. ⑥ 教育出版物

などがある。

画像:HIV/AIDSの予防活動 04

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5.HIVと眼

眼科医師 阪本吉広

眼組織とHIV

HIV患者における眼合併症の主なものは以下のとおりである。
(Dr.David Heidenによる講義より。)

★前眼部・眼瞼
  1. 伝染性軟属腫
  2. 結膜扁平上皮癌
  3. カポジ肉腫
  4. 水痘-帯状疱疹ウイルス感染症
★後眼部
  1. HIV retinopathy
  2. サイトメガロウイルス網膜炎(CMV retinitis;CMV網膜炎)
  3. 水痘-帯状疱疹ウイルス感染症による網膜症(急性網膜壊死)
  4. クリプトコッカス
  5. トキソスラズマ症
  6. 梅毒
  7. リンパ腫
  8. 結核

 前眼部・眼瞼の病変においては視力障害を訴えることは少ないが、後眼部に病変が起こると大きな視力障害がおこる。その中で頻度が多く、問題になる疾患はサイトメガロウイルス網膜炎である。

 1990年代、サイトメガロウイルス感染症は50%程度あったが、現在は5-10%程度に減っている。そのうち、サイトメガロウイルス網膜炎は90%をしめる。リスクファクターはCD4が50個/μl以下の場合である。理由はよく分からないが注射によるドラックユーザー、homosexual menもリスクファクターになると言われている。

画像:HIVと眼 01
アジア、アフリカにおけるHIV感染症と眼

 アメリカにおいては、プライマリーケアーの医師は、直像鏡をつかっての眼底検査をしている。今回研修で見学させていただいた全ての診察室、また、処置台の横に1ベッドにつき一つずつ直像鏡が備え付けられていた。しかし、見学した限り、年配の医師は使用していたが、若い医師は使っておらず、使用するか聞いたが、ほとんど使わず、眼の症状を訴えたときは総合病院の眼科に受診するようにすすめるとのことであった。日本では、一応、医学部において直像鏡の眼底検査の教育は行なわれているが、実際の診療現場で使うことは少なく、アメリカでも同じようになりつつあるようである。

 この直像鏡による検査は、眼底の後極部分の視神経および黄斑部の一部しか、観察することが出来ず、サイトメガロウイルス網膜炎の初発部位であることが多い周辺部の網膜が診られない。実際、AIDSドクターは、CD4が50個/μl以下の場合はスクリーニングで眼科医の診察を指示するとのことであるが、直接自分でみて、サイトメガロウイルス網膜炎をスクリーニング検査はしていないようである。眼科医では倒像鏡での診察が一般的であり、その検査によると、網膜の広範囲が観察できる。

画像:HIVと眼 02
画像:HIVと眼 03
画像:HIVと眼 04
アジア、アフリカにおけるHIV感染症と眼

HIV感染者で眼に症状がある患者は多い。特にアジア、アフリカ地区では、眼合併症はサイトメガロウイルス網膜炎を筆頭に、先進国に比して非常に多い。しかしながら、そういった場所では、眼科医は極端に少なく、十分な眼科的検査を受けることができない。そこで、今回眼科の講師をしていただいた、サンフランシスコでHIVの眼合併症を中心に診察されている眼科医のDr.Heidenは、ここ数年、アジア、アフリカ地区に出向き、AIDSドクターに対し、眼底検査のトレーニングを指導している。指導している検査の方法は、直像鏡ではなく、倒像鏡の検査を指導している。そうすることによって、早期にサイトメガロウイルス網膜炎を発見し、必要なら眼科医にコンサルトをすることができるし、眼科医がいない場合は自らが治療することができる。また、眼底を見ることによって、結核、クリプトコッカス、梅毒、トキソプラズマ症などの日和見感染症を発見することが出来る場合もある。さらに経時的に診察することによって、治療の効果なども判定することができる。一番のメリットとは、お金がかからないことである。血液検査やX写真などは大掛かりな施設や費用がかかるが、眼底検査は持ち運びのできる少しの機器のみで診察できるのは大きなメリットである。

サイトメガロウイルス網膜炎の治療は、先進国での現在のスタンダードはバルガンシクロビルの内服及びガンシクロビルの点滴である。しかし、アジア及びアフリカ地区では治療薬が十分でなく、薬に非常にコストがかかる。そこで、Dr.Heidenはガンシクロビルの硝子体腔内注射を推奨している。500mgガンシクロビル点滴のパウダーを10ml蒸留水に溶かしたものを、0.05mlずつ1週間に一度の硝子体腔内注射をする。つまり、1バイアルで200回程度注射できるので、1回あたり70セント程度で治療ができる。HAARTが導入される前までは、抗サイトメガロウイルス薬の投与は永続的に必要で、全身副作用のために投与できずに、硝子体腔内注射はよくされていた。HAART導入後、抗サイトメガロウイルス薬は中止することができるようになり、硝子体腔内注射は眼内感染を引き起こす可能性がありほとんどされないようになっているが、Dr. Heidenは現在、サンフランシスコでも、硝子体腔内注射を普通にしているとのことであった。

画像:HIVと眼 05
最後に

サンフランシスコのHIV研修に今回眼科医として初めて参加させていただいた。この研修において、私が最も確認したかったことは、HIV治療における眼科医の立場である。どこまで、投薬などの治療に関わっていくかを、現地の眼科医および他のAIDSドクターにも尋ねたが、現在の大阪医療センターでの立場と同様であった。また、治療方針もほぼ同様であったが、Dr.Heidenは特にガンシクロビルの硝子体腔内注射を推薦していた。現在、バルガンシクロビル内服もしくは、ガンシクロビルの点滴で対処できることがほとんどではあるが、全身副作用が出て使用できない場合、早期に硝子体腔内注射を検討してもよいかもしれないと考えた。また、眼領域における免疫再構築症候群の所見や治療については混沌としているのも同様のようであり、今後、症例を蓄積し、大阪医療センターでの治療に生かしていきたいと考える。

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6.HIVと緩和医療

消化器科医師 戸高明子

 私たちが見学したUCSFの緩和医療の対象は終末期を迎えた全ての患者さんであるため、心不全、癌、AIDSなど様々な疾患を診ます。

 緩和ケア病棟の病室は、残された時間を家族と過ごせるように付き添いのベッドを置くことが出来る広めの個室でした。眺めも良く、酸素や吸引などの器械類は扉のついた棚に収納され目に見えない仕組みになっており家で過ごすのと同じような環境が提供されています。また、多民族の方が生活しているため、宗教に関連したものは多種類取り揃えてありました。

画像:UCSFの緩和ケア病室 1
画像:UCSFの緩和ケア病室 2
画像:UCSFの緩和ケア病室 3
UCSFの緩和ケア病室

 緩和ケアチームのメンバーは医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、チャプレイン(精神的な部分をサポートする役目)、カウンセラー、傾聴ボランティアなどの職種で構成されています。
 チャプレインは日本ではなかなか理解しにくい役目かもしれませんが、HIV診療所の見学のときに、陽性とわかり泣きながら受診に来ていた患者さんに付き添って来院されていたのに遭遇しました。一人では心細いなどの感情にも配慮した制度です。

 緩和ケアにおいて重要なことは痛み、吐き気など苦痛を与える症状のコントロールとコミュニケーションです。サンフランシスコは移民の多い都市ですので病院に通訳の方が常時いることが多く、たとえ言語・文化が異なる間柄でもコミュニケーションを取りやすくする工夫がされています。

 AIDS患者に対する緩和ケアにおいて他疾患と異なる点がいくつかあります。

  • 最後までAIDSに対する治療を行うことがあります。時にはホスピスに居ても通常の医療機関に戻ることがあるそうです。
  • 若年者が多い
  • ゲイの方の場合、生まれ育った家族に看てもらえない場合がある
  • そのため付き添う人と医療者との関係が他疾患とは異なることがある
  • 宗教を極端に嫌う場合がある
  • 家族に感染予防の実際の指導をしなければならない

などです。

 AIDS患者さんには、ドラッグユーザーや虐待などのトラウマを持っていることがあります。ハームリダクションという考え方を取り入れその人の背景に沿ったケアを提供することが重要です。

 HIV感染症に関して、1990年代後半よりHAARTが行われるようになってからAIDSの死亡者数は激減しました。サンフランシスコでも次々にエイズホスピスが閉鎖し、現在ではHIV感染症は慢性疾患と考えられています。つまりAIDSという疾患のみで緩和医療を受けることはかなり少なくなりました。

 長期生存が可能になったことによってサンフランシスコ市の男性AIDS患者のうち50歳以上が43.8%を占めており高齢化に伴い多様な合併症を持っています。
 悪性疾患(癌や悪性リンパ腫)、心疾患、腎疾患、高脂血症、糖尿病などです。

 そのためAIDS以外の疾患でterminal stageを迎えることも多くなっているようです。先に述べました違いを理解し診療にあたることが必要でした。

 最後に医療以外で提供されているサービスを紹介します。アメリカならではのものが多数ありました。

  • OPEN HAND:食事の無料配達
  • カウンセリング
  • 患者のペットの世話をする:ペットがいることは生活する上でとても重要だという考えで、病気になって世話が出来なくなったときに散歩などを手伝うシステム
  • オペラ・美術館などの鑑賞をサポート:病気の方への無料鑑賞チケットがある
  • サポートグループ:同じ問題を抱えた数名~10人程度のグループで期間を限定して(8週間程度)集まり、それぞれの話を傾聴し自分も話す。お互いのアドバイスなどは一切無く聞くことのみによって解決の糸口を見出していくミーティング
  • 針交換プログラム:ドラッグユーザーがどうしても覚醒剤などを止めれないならば、せめて清潔な針を使用して安全に注射することが出来るように針を提供するプログラム
  • HIV患者の権利擁護:病院の隣に裁判所があり、緊急時にスムーズに必要な医療が受けられるように代理人のようなものをすぐに選定するシステム
  • HIV鍼灸
  • HIV法律相談
  • HIV職業訓練
  • Out reach:病院、診療所などから看護師、ソーシャルワーカーなどが患者の家に電話をしたり訪問するなどして必要なケアを提供する。

などです。

日本においても今後、様々なケアやサポートが普及することが期待されています。

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7.手術室における感染防止と安全管理について

手術室 鍛治弘子

 当院における手術時の対応との違いを学ぶべくUCSF Medical Center Mt.Zion Hospitalで実際の手術を見学させていただきました。

 患者様の入室は7:30。見学させていただいた症例は46歳、女性、肝外側域先端の手拳大の肝血管腫を腹腔鏡手術で摘出する症例でした。患者様の感染症の有無については非公開でした。

画像:Mt.Zion
Mt.Zion
画像:術中の様子
術中の様子

 入室後、末梢ラインを確保、座位で硬膜外麻酔の穿刺を行い、麻酔導入・挿管、バルン留置と使用する道具や手技に若干の違いはありますが、内容は当院と同様でした。術前の手指洗浄はブラッシングを実施し、洗浄後にアルコール剤による消毒を行っていました。また術者はもちろん器械出しの看護師、麻酔医に至るまで全員がフェイスシールドもしくは眼鏡を着用、グローブは1枚の医師もいましたが、ほとんどのスタッフは2枚装着でした。また、器械出し看護師と術者の間にニュートラルゾーンは設けられておらず、器械の受け渡しは直に行われていました。準備や術中の経過に関しても当院と大差はなく、ほぼ同様のことが行われていましたが、大きく違うのは、術前にルーチンで感染症検査を行わないことです。私たちにお話をしてくださった日系4世のDr.Nakakuraは日本では術前に肝炎・HIV・梅毒に関しての感染症検査を全員に行っていると話すと驚かれた様子でした。サンフランシスコ市内の他院のデータでは患者の7人に1人がHIV陽性であるとの結果も出ており、日本の現状とは異なります。元来、スタンダードプリコーションの概念に従えば、術前の感染症検査は必須ではないと言えます。しかし、予防的な視点から見ると感染症の治療のためには、まずは検査を行い早期発見、そして早期治療出来ることが一番です。そのためには様々な機会を利用して感染症検査を積極的に行うことが感染拡大の予防につながる一手段であるとの助言をいただきました。

画像:Dr.Nakakura
Dr.Nakakura

 術前の感染症検査は行われていない反面、妊婦の出産時のHIV検査はベビーに対する予防策としてルーチンで行われているとのことでした。サンフランシスコではHIVに比べて肝炎の感染者は少ないため、肝炎の検査に関しては病歴を聴取して感染が疑われる方のみ検査します。HIVは暴露を受けてから早期に予防内服を行うことで感染の成立を防ぎ得ます。またHBVは抗体を持っていないベビーには感染が成立する前にグロブリンとワクチンの投与を行います。しかしHCVに関しては感染が確認されてからの対応になります。サンフランシスコでは、医療機関を訪れる16歳から60歳(CDCの推奨では13歳から64歳)までの市民にHIV検査を行うよう進めており、相手が拒否しない限りは検査が行われています。このような感染拡大の予防策が新たな感染者の増加を減らす一因と言えます。

 また、手術室における安全管理の観点では、ガーゼの体内遺残防止のためバーコードリーダーで使用済みのガーゼを読み取り、手元の高さで10枚毎に処理できる袋に入れてガーゼカウントを行っていました。

画像:バーコード付きのガーゼ
バーコード付きのガーゼ
画像:バーコードリーダー
バーコードリーダー
画像:ガーゼカウント用の袋
ガーゼカウント用の袋
画像:ガーゼカウントを行う外回り看護師
ガーゼカウントを行う外回り看護師

 術中使用する針や手術器材のカウントはホワイトボードに出した数を記載し、確実に回収できるよう工夫していました。また、使用済みの針やメスは専用のケースに回収して廃棄していました。

画像:器材のカウントにはホワイトボードを活用
器材のカウントにはホワイトボードを活用
画像:カウントが記載された針捨てとマグネット付きのメス捨て</p>
カウントが記載された針捨てとマグネット付きのメス捨て

 手術室の様子に関しては当院と大差はなく、医療行為に関しても同様でした。しかし、当院では術前に感染症の有無をスタッフが確認しているため、検査結果を過信し体液曝露に対する対応が十分であるとは言い切れない面もあります。今回、見学させていただいたことで改めてスタンダードプリコーションの重要性を再認識しました。

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8.HIVとドラッグ依存症

免疫感染症科 富成伸次郎

 アメリカではHIVの感染原因としてヘロインなど依存性のある違法薬物(ここではドラッグと記します)の静脈注射行為が日本に比べ格段に多く、全体の2~3割を占めており、HIV感染者のなかにドラッグ依存者が多くいます。ドラッグ依存症では注射行為自体によるHIV感染リスクのほか、ドラッグでハイになって無防備なセックスをしがちになることによるHIV感染のリスクもあり、またHIV治療を受けているドラッグ依存者では抗HIV薬の服薬アドヒアランスが低下するなどの問題があります。サンフランシスコではヘロインのほかに、近年は覚醒剤使用も問題となっており、ドラッグ依存症はHIV診療において避けて通れない問題です。今回の研修でもドラッグ依存症に関連した講義や医療機関・サポートグループ訪問がありました。

(1)ドラッグ依存症に関する講義

 まずヘロイン・コカイン・覚醒剤・マリファナなどのドラッグと依存症についての基本的知識の説明ののち、依存症治療について教えて頂きました。ドラッグ依存症は、以前は道徳の問題でありやめられないのは意思が弱いせいだなどと考えられていましたが、現在は主に以下の2つの考え方で対応がされています。

①疾患モデル「依存症は病気である」という考え方

 依存症は生物学的なもので、原発性、進行性、致死性の疾患であるとする考え方です。治療のコンセプトは、「いますぐ全てをやめる(トータル・アブスティネント)」。具体的には、依存症から回復するための12ステップと呼ばれる原則を基礎に、ドラッグを完全に断ちながら当事者による自助グループ(Narcotic Anonymous(ヘロインなどの依存者の会)、Crystal meth anonymous(覚醒剤依存者の会)など)へ参加します。12ステップに含まれる宗教的な文言に対する抵抗感や、ただちに全てをやめるといったルールの厳しさから、参加者の9割くらいが脱落するとのことでした。

②適応モデル「環境に適応するために人は依存症になる」という考え方

 幼児虐待、レイプや都市犯罪の被害、戦争帰還兵にみられるPTSDといった精神的なつらさを紛らわすために、人は依存症になるという考え方です。治療は、カウンセリング・心理療法などの助けを借りながら「全てをすぐにやめられなくても、徐々に害を減らしやめていく(ハーム・リダクション)」。具体的には、たとえばグループセラピーにおいて「週1回はドラッグでハイにならない日をつくる」などの目標をそれぞれ自分で設定し、うまくいかなければアドバイスし合うといったことが行われています。

 ハーム・リダクションの考えをもとにオランダで始まったのが針交換プログラム(Needle exchange)で、サンフランシスコでも行われています。ドラッグ使用がやめられなくてもせめて注射の回し打ちによるHIVの感染拡大を防ごうと、街頭で使用済み注射針と交換に清潔な注射針を配布するものです。針の他にもドラッグ溶解用の器・蒸留水・駆血帯・バンドエイドまでをセットにして配っています。さらにカナダではドラッグ過量投与による健康被害を防ごうと、医療従事者が配置された「ドラッグ注射場所」の提供をしているところまであるそうです。プログラムのスタッフの思いとしては、針をもらいに訪れるドラッグ依存者とのやりとりをきっかけに、彼らをカウンセリングやグループセラピーにつなぎたいようですが、実際にはなかなか難しい面もあるようです。

(2)HIVを診療している医療機関でのドラッグ依存者に対する取り組み

 トムワデル・ヘルスセンターはサンフランシスコ公衆衛生局直営のクリニックで、ドラッグ依存者の多い経済的に貧しい地区であるテンダーロインの近くにあり、HIV感染症の外来もしています。ドラッグ依存者に対してはソーシャルワーカーが依存症のサポートグループを紹介したり、ヘロイン依存症の患者に合成麻薬であるメサドンによる代替療法を行ったりといった一般的な取り組みもしていますが、このクリニックから始まったアプローチとしてアウトリーチ・ワーカーの存在があります。これはクリニックに通院している以前ドラッグ依存症であった患者さんの中から適当な人にアウトリーチ・ワーカーとしての訓練を受けてもらい、クリニックに来なくなった患者を捜しに行って連れてきてもらったりして診療が途切れないようにするというものです。ドラッグ依存者と同じような体験をもつアウトリーチ・ワーカーは、彼らとコミュニケーションが取りやすい利点があります。ほかにも患者が犯罪で服役した際に診療が途切れないように、刑務所までクリニックのスタッフが出向いてもいます。

 こうした取り組みの結果、バリー・ゼビン所長によると、トムワデルクリニックでHIVの治療を受けてウィルス量が感度未満となっている人の率は他の医療機関と比べても遜色がなく、良好な治療効果があがっているとのことです。実際、診療に立ち会わせてもらった数人のHIV患者はきちんと抗HIV薬を服薬できており、薬剤耐性が問題になっている様子は特にありませんでした。所長が強調していたのは、ドラッグをやっているからといってHIVの治療が出来ないわけではない、ということ。トムワデルのHIV患者は、ドラッグ依存症であること以外にもホームレスであったり無職であったりうつ病であったりと精神的・社会的に二重三重に問題を持っている人が多く、受診や服薬を確実に行うのが困難ですが、それでも継続してなんとか医療機関と関わってもらうよう様々な職種のスタッフが一丸となって働きかけています。はじめはドラッグはやめる気がなくてもカウンセリングや教育を続けているうちに、次第にドラッグをやめようという気になってくる依存者もいます。場合によってはドラッグをやめられず薬剤耐性発現のリスクがあっても必要ならば抗HIV治療を始めるなど(これもハーム・リダクション)、とにかく生きてもらうことが重要だ、とのことでした。

画像:トムワデルの診察室の様子
トムワデルの診察室の様子
画像:所長のバリー・ゼビン氏
所長のバリー・ゼビン氏
(3)ドラッグ依存者のサポートグループ

 Stone wall project は、MSM(男性とセックスをする男性;ゲイ・バイセクシャルなど)でHIV感染している覚醒剤依存者を対象としたサポートグループです。覚醒剤使用者はHIVに感染するリスクが3~4倍高いという研究報告があるため、AIDS基金から資金提供を受けて運営されています。利用者は医療機関から紹介を受けたり、友人に聞いたり、ホームページを見ることがきっかけでこのグループを訪れます。100~120人の利用者がいますが、スタッフもみなMSMとのことです。

 提供しているサービスは、カウンセリング(1対1およびグループ)、臨床薬剤師・精神科医による診療、情報を掲載したホームページの運営(tweaker.org)、また街頭やネット上での不特定多数を対象にしたアプローチなどです。ここでもハーム・リダクションの考え方が基礎になっていて、覚醒剤の使用に関して利用者それぞれに自分のゴールを設定してもらっています。たとえば、ドラッグを完全に使用中止する・ほかのドラッグはやめないけれども覚醒剤はやめる・覚醒剤はやめないけれども安全に使う、などです。最終的には1年かけて覚醒剤使用をやめてもらうことを目標としています。HIV感染者に対しては、以前はドラッグ依存症であることを理由に医師が抗HIV薬を処方しないこともあったようですが、最近はそのようなことは減っているとのことで、抗HIV薬治療の必要性を利用者に説明し、覚醒剤でハイになっていても毎日飲むように指導をしたりしています。

画像:ディレクターのマイケル氏
ディレクターのマイケル氏
画像:<清潔に覚醒剤を打つ方法>を記したパンフレット</span>
<清潔に覚醒剤を打つ方法>を記したパンフレット

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9.研修を終えて

手術室 鍛治弘子

 HIV感染症海外研修に参加させていただき、我々医師・看護師・薬剤師は各自の専門分野における知識や技術向上・追求のみならず、サンフランシスコでの多岐にわたる医療支援活動やHIV/AIDSが抱える今後の課題にも接する機会を得ました。HIV/AIDSの治療には医療的な関わりだけではなく、患者を取り巻く様々なサポート体制が重要であり、そしてまたそこに携わるスタッフの熱意を身近に感じ取ることできました。

 日本国内においてはまだまだ感染者数が増加の一途をたどっており今後もさらなる医療支援が期待される分野であると自負しております。今後もHIV拠点病院の一員として医療・看護の各分野で貢献できるようさらなる研鑽を積んで参りたいと思っております

 なお、今回の研修の機会を与えて下さいました厚生労働省医政局国立病院課および御指導いただきました独立行政法人国立病院機構本部、国立病院機構大阪医療センター楠岡院長・山田看護部長・白阪部長をはじめ各関係者の皆様に感謝申し上げます。現地では小林まさみ氏、David Wiesner氏に研修中のコーディネイト、通訳およびご指導をいただいたおかげで大変充実した研修が送れましたことを深く感謝申し上げます。また研修参加にあたり院内関連部署の皆様に多大なるサポートを賜りましたことをこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

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