独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14
TEL:06-6942-1331(代) FAX:06-6946-3652

 

研修会報告

平成20年度HIV海外研修報告記(サンフランシスコ)

平成20年度HIV海外研修(サンフランシスコ)報告です。

研修期間 平成21年2月12日(木)~平成21年2月27日(金)

メンバー(あいうえお順)
免疫感染症科 大谷成人(医師)
医療相談室 岡本 学(ソーシャルワーカー)
消化器科 葛下典由(医師)
麻酔科 佐藤正典(医師)
看護部 中野志麻(助産師)
看護部 前川由紀子(看護師)
外科 宮本敦史(医師)
臨床心理室 安尾利彦(臨床心理士)
目次(クリックするとリンク先へ飛びます) 報告者
概要 大谷成人(医師)
海外HIV研修に参加して 葛下典由(医師)
手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について 宮本敦史(医師)
サンフランシスコにおけるHIV診療の変化 大谷成人(医師)
SFにおけるHIV/AIDS患者サポート 佐藤正典(医師)
HIV感染症研究者海外研修に参加して 岡本 学(ソーシャルワーカー)
サンフランシスコにおける心理的支援サービス 安尾利彦(臨床心理士)
HIV予防教育に対する助産師の課題~性教育の視点から~ 中野志麻(助産師)
SFにおけるHIV陽性者の支援と予防活動 前川由紀子(看護師)
1.概要

免疫感染症科 大谷成人

2/12(木)

大阪発→サンフランシスコ着

オリエンテーション

Group1 Maxine Hall Health Center(Catherine James, MD: 診察見学)

Group2 Pets are Wonderful Support(PAWS: Support services for people with HIV and pets)

2/13(金)

Makiko Miyata, Pharm. D: ART briefing 講義

Masami Kobayashi: Program explanation; Epidemiology and prevention 講義

SFGH, Building 80, 4F (Explanation of SFGH's outpatient HIV clinical care, Brad Hare, MD, Michael Vincent) 講義、見学

2/16(月)

Masami Kobayashi: Community Healthcare Network. AIDS Care System 講義

Group1 HIV患者さんのインタビュー、A氏

Group1 HIV患者さんのインタビュー、B氏

2/17(火)

Group1 SFGH Radiology Library (Alex Rybkin, MD: Radiological manifestations of HIV and AIDS)

Group2 市内エイズ関連組織ツアー

Group3 UCSFマウントザイオンキャンパス(手術室と手術の様子を見学)

Public Authority(HIV感染高齢者を含めた障害者の公的介護システムについて) 講義

2/18(水)

Group1 Tom Waddell Health Center にて診察見学

Group2 エイズの歴史を知るドキュメンタリー映画鑑賞: And the Band Played On

Kaiser Medical Center (Kaiser HIV team meeting-CROI会議の臨床要点を解説)

Group1 Kaiser Medical Center (Ed Chitty, RN, HIV coordinator) 講義

Group2 Rick Loftus, MD, Trends in AIDS treatment 講義

2/19(木)

UCSF Center for AIDS Prevention(HIV患者さんを理解する:サバイバルストレスとは, Dr.Leiphart) 講義

Group1 UCSF Center for AIDS Prevention (Jeff Mandell, PhD:ケースワーク)

Group2 UCSF Center for AIDS Prevention (Jeff Leiphart, PhD.ケースワーク)

Group3 UCSFマウントザイオンキャンパス 手術室と手術の様子を見学

Maxine Hall Health Center, 2F (Jay Sheffield, MSW, 外来HIV患者さんのソーシャルワークの実際)

Group1 カストロ地区事情視察、LGBTセンター

Group2 Maxine Hall Health Center, 2F (Jason Tokumoto, MD lecture:プライマリケアで必要な薬剤耐性の知識) 講義

2/20(金)

HIV慢性疾患自己管理のスキルやいくつかの方法について 講義

SFGH meeting room(STD and HIV prevention education, Anita Lopez)

New Generation Health Centerの見学

SF市公衆衛生局会議室(DR. Zevin、トムワデル診療所とテンダーロイン診療所所長の話、その実際と事例など。

2/23(月)

コミュニティ・エイズケアシステム、SF市で使われてきた医療モデルについて 講義

Maxine Hall Health Center (Sheila Kerr, RN: Tour and talk for nurses, trailing Maxine Hall nurses)

UCSF (UCSF、外来ポジティブ診療所の実際、女性とエイズの話しなど Susa Coffey, MD)

Tom Waddell Health Center(Nurses and social workers.)

2/24(火)

Shanti(シャンンティ組織の見学と、HIVプランニングカウンシル事務局見学)

L.I.F.E. program (Lecture: Immune enhancement through changes in lifestyle and attitude.)

メンタルヘルスへの意識向上のための患者教育セミナーを観察

Berkeley (Mr. Yasuo meet Walt Odets, PhD, gay psychologist)

Group1 LGBT Center (Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender Centerの見学)

Group2 Lyon Martin Clinic(HIV女性のサポートグループを訪問、Q&A)

Lyon Martin Clinic (Lecture: Dawn Harbatkin, Medical director:クリニックの歴史、対象HIV患者さんやトランスジェンダー患者の実際)

2/25(水) 卒業発表会、Graduation ceremony
2/26(木) サンフランシスコ発
2/27(金) 大阪着

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2.海外HIV研修に参加して

消化器科 葛下典由

 平成21年2月12日から2月27日までの約2週間、当大阪医療センターから医師4名、看護師2名、メディカルソーシャルワーカ1名、心理療法士1名、さらに仙台医療センターから医師1名、道北医療センターから1名の計10名が、米国サンフランシスコでのHIV海外研修に参加いたしました。研修の内容は、講義、施設見学、実際の診療見学、ロールプレイなど多彩で、サンフランシスコでのゲイから拡がるエイズの歴史、それを援助する患者支援活動、医療や行政の対応、エイズ患者が抱える今後の問題点について色々勉強することができ、大変有意義な研修を終えることができました。

 高校の修学旅行いらいの団体行動だったこと、院内でもあまり面識のない様々な職種の方も多く、正直、心配、不安もありました。あいにく、2月のサンフランシスコは雨季、週末以外はほとんど雨模様であり、研修にはもってこい?と思いましたが、雨が降ると気温が下がり、体感温度はかなり低く、体調を崩された方も数名おられました。それでも全員無事、充実した研修を終え、元気に帰国することができました。

 ここで、私が研修中、1番印象に残ったレクチャーについてお話したいと思います。そのレクチャーは、貧しいHIV患者さんを中心に診察されている、トムワデル診療所のDr. Zevinの苦労話です。サンフランシスコのHIV患者には、ゲイ、アルコール中毒者、覚醒剤中毒者が多く、その約40%がHCVにも重複感染しています。トムワデルの歴史は長く、100年以上も続いている公立の病院です。1980年頃は、ゲイの間で流行したHIV患者さんを中心に診ていたのですが、1990年くらいからは、ホームレスや、貧困のためプライベートクリニックや大学病院を受診できない患者を受け入る、特殊な公立病院として機能するようになりました。診療所には、色々な問題を抱えている患者を効率的に診察できるように、ナースプラクティショナー(処方箋が出せるなど内科医的な仕事もできるナース)、メディカルアシスタント(主に採血などを行い医療をサポートする職種)、メディカルソーシャルワーカ、心理療養士など、多職種が協力してチームとして機能しています。HIV患者さんに対する、アプローチは20数年前に比べ大きく変化しています。後天性免疫不全症(AIDS)の原因がHIVであると判明した当時は、AIDSを発症したターミナルケアを中心に診療を行っていました。理由は、皆さんご存じのように、その当時は有効な治療法が全くなかったからです。しかし現在は、HAART(多剤併用による抗HIV治療)により、HIVに対する有効な治療法が確立されています。しかし、トムワデルに来院する患者さんの中には、病気のことや、治療内容を理解することができないために治療を拒否し、病気が進行し、緩和医療になってしまう患者さんもいます。ここの病院に来る患者さんは、以前に他の病院で不愉快な思いをした方が多く、なかなか人を信じようとはしません。ここで重要な役目を果たすのが多職種です。HAARTを有効にするには、アドヒアランスを良くすることが重要ですが、教養のない人、風変わりな人、人を信じない人に対して、それを良くするのは、実際にはすごく大変なことなのです。特にそのバリアーになるのが、薬剤に対する考えはどうか?、病気の知識はあるか?、サポートはあるか?、鬱病があるか?、ドラッグをしているか?、ホームはあるか?などです。それらバリアーを克服するには、医師、看護師だけでなく、多職種がチームとなって、患者と関わり合い、バリアーを打ち破らなければならないのです。Dr.Zevinの患者さんの中には、皮肉なことに、ヘロインの常習者が、ヘロインの使用時に必ず抗HIV薬を服用することで、HIV薬服用のアドヒアランスが上がることも実際にあったそうです。今回のHIV研修では、文字通り、その多職種の医療関係者が共通の研修を行なったことで、それぞれの役割、チーム医療の重要性を再認識できたように思います。今後、日本においても、医師、看護師、薬剤師、メディカルソーシャルワーカ、心理療法士などの多職種が、お互いの立場、役割を理解し、チームとして患者さんに真摯に向き合っていくことで、色々な理由で治療困難である患者さんとの相互理解を深め、適切な医療を提供することができるものと確信いたしました。

画像:Dr.Zevinとレクチャーの後で
(Dr.Zevinとレクチャーの後で)

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3.手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について

外科 宮本敦史

今回の2週間にわたる海外研修の中で、2009年2月17日および19日の2日間、University California San Francisco Medical Center at Mount Zionの手術室を見学しました。見学の目的は、HIV陽性患者が多いSan Franciscoにおいて、その中核的な病院の手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について見学・インタビューを行うことでした。

画像:手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について 01

 まず、手術室に入って印象的であったのは、入り口に近い掲示板に感染対策に関する様々な掲示がなされていたことです。例えば、術式別に手術部位感染サーベイランスの結果がグラフ化されて掲示されており、経時的な感染率の推移が一目で分かるようになっていました。また、「Kick Bugs Out of Play」と記された手指衛生に関する注意喚起のポスターが掲示され、その下には速乾性の手指消毒薬が設置されていました。このポスターはWHOが2005年10月に開始した「Clean Care is Safer Care」というキャンペーンに関連したものであり、国際的な院内感染予防の取り組みに積極的に参加している様子がうかがえました。

画像:手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について 02 画像:手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について 03

 我々が見学した手術はHIV陽性症例に対するものではありませんでしたが、手術室スタッフに確認したところ、HIV陽性症例であっても特別な感染予防対策は取っていないとのことでした。これは、「すべての症例に対して標準予防策が取られており、HIV陽性症例に限って特別な対策を追加する必要は無い」との考えに基づくものでした。 実際には、輸液ルート確保、麻酔導入など手術の準備段階において、ほとんどの医療従事者はディスポーザブルの手袋を着用していました。また、手術開始後も患者さんや患者さんの血液・体液が付着している可能性のある物に接触する際には同様に手袋を着用していました。
 一方、術野に入る外科医および直接介助の看護師は原則として滅菌手袋を二重に着用しており、これは針刺し・切創事故が起こった際の感染リスクを低減させるために提唱されている対策を取り入れたものでした。

 医療従事者の針刺し・切創事故は、「HIV非感染者がHIV感染者もしくは感染状況が不明の者の血液・体液などに曝露した際の感染予防対策(PEP:post exposure prophylaxis)」の対象と考えられており、実際に事故が起こった際の予防的内服治療についても研究がなされています。
 我々が見学した病院では、鋭利器材による針刺し切創が起こった際には院内のホットラインで担当者に連絡することになっており、その連絡先は手術室内に設置された連絡先一覧の中に「Needle Stick Hotline」として表示されていました。針刺し・切創事故が発生した際にはホットラインでの報告がなされ、感染リスクやPEPの必要性に関する評価が行われるとともに、必要に応じて当事者である医療従事者のカウンセリングも行われる体制が取られていました。実際にHIV陽性症例の手術で針刺し事故を経験した看護師にインタビューしたところ、事故直後にNeedle Stick Hotlineで事故報告を行い、抗HIV薬の予防内服を行ったとのことでした。

画像:手術室における感染予防対策および針刺し・切創事故対策について 01

 上記のように、我々が見学したUCSF Medical Center at Mount Zionでは、手術室の感染対策として標準予防策が徹底されており、HIV陽性症例に限った特別な対策は行われていませんでした。また、世界的な感染対策の取り組みに病院を挙げて積極的に参加しており、それに関連したポスターなどを掲示することにより関係者の注意喚起が図られていました。
 針刺し・切創事故に対する対策に関しては、事故が発生した際の報告、予防的内服やカウンセリングなど事故の当事者に対する対策が適切に実施されるような体制が構築されていました。

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4.サンフランシスコにおけるHIV診療の変化

免疫感染症科 大谷成人

 アメリカでは通常プライマリ・ケア・システムが取られています。つまり、具合が悪いとまず自分の「かかりつけ医」に予約を取って診てもらい、必要あれば総合病院などの専門医に紹介してもらうシステムです。

画像:サンフランシスコにおけるHIV診療の変化 01
画像:サンフランシスコにおけるHIV診療の変化 02

 1980年代、サンフランシスコではエイズを疑うと大学病院かSan Francisco General Hospital(SFGH)に紹介してくる状態だったため、患者の著しい増加に対してこれらの病院だけでエイズに対応するのは徐々に難しくなり、特殊な検査や複雑な治療、まれな日和見感染症を伴う場合は、SFGHのエイズ外来で診るが、プライマリケアは地区ごとの保健所に外来を作りそこで診療するという役割分担をサンフランシスコ市が決定しました。このような過程において、保健所にプライマリクリニックが併設されるようになったようです。80年代半ばを過ぎてくると、University of California San Francisco(UCSF)付属のメディカルセンターやカイザー・パーマネンテの会員においても発症者が増えてきたため、これらの関連施設でもエイズを受け入れるようになってきたようです。

画像:サンフランシスコにおけるHIV診療の変化 03

 アメリカにおけるHIV診療は1980年代後半から90年代初めにかけて、どういう訓練や背景をもつ医師がHIVの患者を診るかという議論がなされた時期があったようです。当時は、HAARTが始まる前で、発症した場合の死亡率も高く、不治の病に対する偏見や差別などもあり、多くの医師が診療したがらないなどの背景があったようです。90年代後半にHAARTが始まって以降、死亡率は低下し、HIV診療を行う場も、「HIVプライマリケア」として独立する傾向があり、多くの患者が「HIV診療所」またはHIV専門のヘルスセンターなどで診療を受けるようになりました。サンフランシスコでHIVプライマリケアを開業している医師の背景は血液、感染症、皮膚、内科、家庭医、腫瘍内科など様々です。しかし現在では、薬剤の使い方も複雑になっており、総合内科医、または感染症内科医などでHIVのトレーニングを受けたものが、HIVを診療するのが通常となっているとのことでした。しかし、アメリカでも地方においては、HIV専門の医師がいない場合も多く、HIVを専門的にみているチームが揃っているサンフランシスコにHIV患者が集中している現状はあるようです。

 現在では、サンフランシスコ市内に多くのHIVを診察する施設があり、また慢性期病院などに転院する場合、HIV陽性という理由で断られることはほとんどないようです。サンフランシスコ研修を通じて、サンフランシスコにおけるHIV診療体制は、20年以上の歴史をかけて作り上げられたものであって、すぐに出来上がったシステムではないということを今回の研修を通じて改めて知ることが出来ました。

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5.SFにおけるHIV/AIDS患者サポート

麻酔科 佐藤正典

 今回私は、サンフランシスコのHIV患者がどのように社会福祉サービスを利用しているか、その相互関係や利用のしやすさについて重点的に話を聞きましたので、感じたことを交えてレポートします。

 まず、現在の時点においては、HIVという疾患を認識し受容することができればほとんどの医療サービスを享受できるのだということがサンフランシスコの前提としてあります。HIVと診断されたら、あるいは迅速検査などでHIV陽性とわかったら、どこであれHIV患者をサポートするような施設へ出向けばcase managerという名の担当者がつき、HIVやAIDSとはいったいどういう病気なのか、これからどうすべきなのかなどについて詳細な情報が得られ、相談相手となり自分自身の行動を決定する手助けを得られます。case managerとなるのは医師はもちろん、看護師やNurse Practitioner、ソーシャルワーカー、心理カウンセラーなどがなることが多いようですが、特別な資格が必要なわけではないので患者自身が話しやすい人をcase managerに選ぶことができます。あとはcase managerを通して患者が抱えている問題を解決するのによい手助けとなる団体などを紹介してもらうなどしてサービスを受けることができます。HIVプライマリケアを提供している病院の中でもUCSF(カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校)やサンフランシスコ総合病院(SFGH)など大きな病院は、その施設内にソーシャルワーカーや心理カウンセラーを抱えているので医療サービスについてはその施設内で完結してしまうようです。HIV/AIDSを治療しようという意欲のある患者については広くサービスが普及していると考えてよいようです。

画像:SFにおけるHIV/AIDS患者サポート 01
画像:SFにおけるHIV/AIDS患者サポート 02

 一方、HIV/AIDSが感染症であるという点で、感染者が治療に対して関心がない、あるいは自分自身が感染しているかどうかさえも知らない、ということを看過するわけには行きません。それはすなわち感染の拡大を助長する、少なくとも拡大を食い止めることができないからです。HIVに感染するポピュラリティはある程度限定することができ、またそのような市民層は何らかのコミュニティを形成していることが多いので、そのコミュニティに働きかければより効果の高い啓発活動ができます。とはいえまだまだHIV/AIDSに対して偏見があるというのも確かなので、隠したがる患者の心理もわからないではありません。今回の施設訪問の中で印象的だったことのひとつに、PAWS(Pets Are Wonderful Support)というペット飼育支援の団体がありました。PAWSはHIV/AIDS患者だけにかかわらず高齢者や低所得者、健康問題などによりペットの継続飼育が困難になった人たちに対して餌の提供や散歩のボランティアなどをしています。ペットを飼う人の中には自分自身の健康や食事よりペットのことを優先してしまう人がいるようで、配給でもらった食事を自分で食べずにペットにあげてしまうこともあるそうです。彼らは自分の健康状態が悪くなってきても病院などを受診せず(支援を受けることへの抵抗感はもちろん病院への不信感や金銭的問題もある)、いよいよペットの飼育さえ困難、となって初めてPAWSのような団体の支援を求めるそうです。そこでPAWSはペットの支援を通じて飼育者の健康問題や住居・金銭的問題を認識し、HIV/AIDSの問題をかかえているとわかれば、受診行動を促したりするそうです。HIV/AIDS患者を支援しているジョー・リン氏にお話をお伺いしたときにも同じようなことをおっしゃられていました。やはり上からモノを言う形では伝わらないし、拒否感が先に立ちそれ以上話を聞いてもらえない。傍に寄り添っておなじ目線で、本人が自発的に行動するように後押ししてあげるのが大切なのだとおっしゃられていたのが印象的でした。HIV/AIDSは今や長期予後が得られる慢性疾患となってきました。完全な治癒が得られない慢性疾患の場合、患者は時々無力感や絶望感を抱きがちです。その際に継続治療の重要性を説くよりも、その気持ちを汲み取ることのほうが患者の気持ちを楽にすることも多いでしょう(その点に関しては医師よりもカウンセラーの方たちのほうが長けているでしょう)。

 上記のことは、特に患者が集中するここサンフランシスコだからこそできることなのかもしれません。もっと患者が少ない地域ではここまで多様でたくさんの支援団体が存在することはないでしょうし、活動を続けられるだけの予算が得られるとも思えないからです。ただし、急激にHIV/AIDS患者が増加している、一部の施設に患者が集中するという大阪現状は少し前のサンフランシスコの状況と重なるところも多く、非常に参考になるのではないでしょうか。

画像:SFにおけるHIV/AIDS患者サポート 03

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6.HIV感染症研究者海外研修に参加して

医療相談室 岡本 学

 2009年2月12日~27日までHIV感染症研究者海外研修に参加させていただいた。

 当院ではHIV感染症治療においては、患者さんを中心としたチーム医療体制をとることを目指し、医師・看護師・薬剤師・臨床心理士・医療ソーシャルワーカー(以下MSW)の他に、精神科など他診療科医師、栄養士、リハビリテーション科スタッフなど、患者さんに応じて必要なスタッフがチームを組みその治療と支援にあたっている。

 私は、2005年1月より当院の医療相談室にてHIV陽性者の対応を中心に勤務をさせていただいており、長期療養支援や地域生活支援など複数の厚生科学研究補助事業に参加させていただき、また、陽性者サポートグループや支援団体の活動にも微力ながら手伝わせていただいている。

 日々の業務・研究の中で、行き詰まりを感じることも多く、何かヒントがつかめればと思い、今回この研修に参加させていただいた。

 サンフランシスコで過ごす中で興味を引いたのが、「ソーシャルワーカー」という職種に対する他職種からの理解と評価、患者さんからの理解と評価だった。

 日本では「ソーシャルワーカー」はそれほど認知されているとは思えず、「どんな仕事ですか?」「何ができるのですか?」と言われることもあり、HIV関連領域では時に「医療費の手続きをしてくれる人」と認識をされてしまっていることがある。もちろん医療費の手続きを行う場合もあるのだが、本来の業務はもう少し広く、その人自身の「心理・社会的」問題を取り扱うこと自体が仕事である。特に医療においては、傷病に伴う心理・社会的問題や療養生活の支援を心理・社会的側面から行うことが業務だということは意外に知られていない。

 「ソーシャルワーカー」という言葉が「何をする人」だという意味を含めて伝わることがとても心地よく、同時に大阪に戻ったらもう少し丁寧に伝えていく作業を繰り返していかないとなぁと毎日のように考えていた。

 さて、この研修を通して、医師・看護師・MSWなどの職種に限らず話題に上がるのは、「クライエントセンタード」「ノンジャッジメンタル」「ハームリダクション」「モチベーショナルインタビュー」という対人援助の基本姿勢と援助技術に関するものであった。

画像:HIV感染症研究者海外研修に参加して 01

 「クライエントセンタード」に関しては、ソーシャルワークの技術として「ケースワークの原則」の中で「個別化」として論じられているものがそれに相当すると理解をしている。Maxine Hall Health CenterとTom Waddell Health Centerのソーシャルワーカーが「respect」という言葉を何度も用いながらこの概念を説明していたことが何よりも印象的であり、日々の業務の中で数百名に及ぶHIV陽性者と対面する中で、どれだけ「個別化」への関心と配慮がなされてきたかということを振り返る機会となった。

 MSM(Men who have sex with menの略:男性と性的接触をする・または経験のある男性)やトランスジェンダーら性的少数者や、薬物乱用者や外国人などマイノリティと称される方々のそれぞれの背景に目を向けながら、「その個人」に対して対応することはソーシャルワークの基本でありながら、十分に意識付けされていなかったことがあるかもしれない。近畿ブロック拠点として地域のソーシャルワーカーに対し研修の機会を提供する中で、あらためて「個別化」という概念とその必要性を伝えていきたいと考えた。

画像:HIV感染症研究者海外研修に参加して 02

 「ノンジャッジメンタル」についても同様に「非審判的態度」として、倫理綱領にも明確に位置付けられているものであるが、相談・支援を提供するにあたり、いかに重要であるかを改めて実感することができた。

 この二つが基本となり、次に「ハームリダクション」の概念を踏まえ「モチベーショナルインタビュー」という技術を用いるこにより、HIV陽性者の長期療養における健康増進に向けた行動変容の促進を効果的に行うことが可能となるのだと知らされた。

 「ハームリダクション」の概念については、すでに市川誠一先生(名古屋市立大学)らとともに、MSMへの予防介入・支援相談の中で行動変容を支援するために取り組んできたところであり、また、井上洋士先生(放送大学)らとともにHIV陽性者の健康増進へ向けたアプローチに導入しているところである。

 「モチベーショナルインタビュー」については精神保健や健康教育の分野では知られているが、HIV感染症領域で話題にされることはあまりないように感じている。今回の研修において、慢性疾患として長期に向き合っていくことを必要とされる状況で、アドヒアランスの維持・向上とさまざまな健康行動についての行動変容を支援する上で「モチベーショナルインタビュー」が有効な技術であることが示され、この技術の習得を急ぐ必要があると感じた。

 また、地域にはNPOなど多くの社会資源があり、陽性者の語りからは必要な時にそれら資源が利用できる状況にあることの大切さが示唆された。医療機関を含めたネットワークがHIV陽性者にとって、必要な時にいつでも利用ができ、長期療養生活をよりよくするために役立つよう、ソーシャルワーカーの役割として、今後も陽性者サポートグループやNPOなどの活動を直接・間接的に支援していきたい。

 英語アレルギーと時差ぼけには苦しみましたが、得るものが多く、なにより「元気」になることができ、とても有意義な日々を過ごすことができました。

 最後になりましたが、今回の研修を受けるにあたりご尽力いただいたみなさまに御礼を申し上げるとともに、長い日程をともに学び、ともに飲み食いし、支えてくださった方々に感謝申し上げる。ありがとうございました。

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7.サンフランシスコにおける心理的支援サービス

臨床心理室 安尾利彦

はじめに

 この度、サンフランシスコにおけるHIV感染症の治療や支援のシステムについて実地研修をする機会を頂き、サンフランシスコの包括的なHIVケアシステムが発達してきた歴史と現状について学ぶことができました。ここではその中でも、サンフランシスコにおいてどのような心理的支援が提供されているのかをまとめてご紹介いたします。

サンフランシスコにおける心理的支援の状況

 「この街では、石を投げたらセラピスト(心理療法家)に当たる」・・・そう言われるほど、サンフランシスコには心理療法家が多くいるそうです。病院で働く心理療法家もいれば、私設相談室を運営する心理療法家、またコミュニティの非営利団体で働く心理療法家もいて、少し注意して街の中を見れば、それらの心理的支援に関するポスターやチラシが目に入ってくる、というような状況でした。

画像:サンフランシスコにおける心理的支援サービス 01
(LGBTセンターにて。人種・年代・性的指向別に細かく分かれた資材や支援の情報。
もちろんカウンセリングや心理療法に関する情報もたくさん並んでいます)
医療機関における心理的支援

 訪問した各医療施設において、HIV感染症患者に対してカウンセリングが提供されているという話を聞くことができました。感染告知直後の心理的危機状態への介入や、健康を損なう可能性のある行動に対するリスクリダクション、抑うつや不安の高いクライアントに対する心理療法が提供されているようでした。各施設の医療従事者がごく当たり前のこととして、カウンセラーとの連携の必要性や、HIV感染症患者の心理社会的側面への関心を持つことの重要性を口にされていることが印象的でした。また、この疾患の治療法が確立される以前に次々に人々が亡くなっていくのを目の当たりにした医療従事者が、身体の治療以外のサポートの必要性、チーム医療を実践することやコミュニティ内の資源を活用することの必要性に対する理解を、自然と身につけてくるプロセスがあったことを教えてくださったある専門職の方もおられました。

コミュニティにおける心理的支援

 サンフランシスコで驚いたことのひとつは、コミュニティにおける心理的支援の資源が非常に豊富であることです。人種・セクシュアリティ・年代などクライアントの背景ごとのサポートグループや、そのグループが直面する問題に特化した個別カウンセリング、また自殺や薬物に特化した介入、HIV抗体検査時の支援、HIV感染症患者やその周囲の人々に対する夜間電話相談など、人々が直面する心理的テーマごとに支援サービスが細かく分化しています。またそれらの支援の情報が利用者に届きやすくなるよう、アウトリーチ活動も熱心に行われている様子でした。ここでは今回の研修で実際に詳しく話を聞くことができた、Shantiという非営利団体が行っているL.I.F.E.プログラムについてご紹介します。

画像:サンフランシスコにおける心理的支援サービス 02
(Shantiの看板。この建物には、HIV関連の支援団体がほかにも2つ入っています)

 L.I.F.E.プログラムのL.I.F.E.とは、Learning Immune Function Enhancementの略で、「免疫機能を高めることについて学ぶ」ことを目的とした、HIV感染症患者を対象とした心身の健康のための教育的なカウンセリングとピアサポートのプログラムです。参加者はこのプログラムの中で、HIVポジティブの健康増進(免疫力の維持)と関連するCofactor(補助的な要因)を理解していきます。Cofactorの中には、身体に関する要因(HIV医療従事者との関係、食事・運動・睡眠・薬物使用・保健行動などの習慣)、心理に関する要因(危機状態におけるコーピング、悲嘆や抑うつへの対応、持続的なサバイバルストレス、疾患の進行に対する信念など)、霊的な要因(人生の目標、博愛の精神など)が含まれており、それらを講義とワークを通して理解する作業を行い、それによって参加者が自らの生活習慣や保健行動、心理状態を振り返るようでした。同じ心理的支援サービスとは言え、我々臨床心理士が普段行っているカウンセリングや心理療法に比べて教育的な要素の強い、非常に構造化されたプログラムですが、心理状態が免疫力の維持に関連していることを明確に打ち出している、非常に興味深いサービスでした。

私設相談室におけるカウンセリング

 我が国にも存在しますが、サンフランシスコでは個人で心理相談室を開設・運営している心理療法家が少なくありません。ここでは今回ゆっくりお話を伺うことができた心理士、ウォルト・オデット氏の臨床経験をご紹介します。

 オデット氏は20年以上に渡ってサンフランシスコ郊外のバークレーという街で私設相談室を運営している心理士です。クライアントの約半数がHIV陽性であるとのことでした。HIV/AIDSの治療法が確立される以前は、クライアントがHIV陽性であるか陰性であるかによって心理療法のテーマには大きな違いがあったそうですが、近年はだんだんとそのギャップが埋まってきており、HIV陽性であれ陰性であれ、これからどのように生きていくか、いかに他者との人間関係を構築していくかということが主要な心理療法のテーマであるそうです。クライアントの大部分はゲイの方だそうで、性的指向がどのように家族の中で取り扱われるかを含めた親との関係や、思春期以降の親密な人間関係を作っていく上で異性愛者のようには周りから自然なサポートが得にくかった傷つきの体験などをクライアントとともに振り返りながら、今その人が直面している困難の本質を理解していくそうです。オデット氏の豊富なご経験から、私自身が心理臨床を行う上で多くの具体的な示唆とサポートをいただきました。

私設相談室におけるカウンセリング

 サンフランシスコという街には、人々がHIV/AIDSの長くすさまじい歴史をくぐり抜けてくるプロセスの中で、クライアントの個別のニーズに合わせた多種多様な支援サービスのシステムが生みだされ、根付いてきています。また、クライアントを尊重する姿勢や、希望を見失うことなく関わり続けようとする姿勢が多くの援助者に浸透しているように感じました。サンフランシスコで学んだことや感じ取ったことを、日ごろの心理臨床の中で少しでも還元できるよう努力したいと考えています。

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8.HIV予防教育に対する助産師の課題~性教育の視点から~

看護部 中野志麻

1.はじめに

 今回、この研修に参加するにあたって、助産師という職責をどのように活かしていくかということを考えました。

 当初は、HIV陽性女性の妊娠・出産に関連したケアを中心に研修を進めていきたいと考えましたが、ちょうど、この研修への参加が決まった頃から、比較的若い方が妊娠をきっかけにHIV検査を受けられて、HIV陽性疑いで当院に紹介されてくるケースがありました。

 また、出発を控えて1週間ほど前に20歳にも満たない若年妊婦との出会いがあり、彼女A氏との出会いが、「サンフランシスコの性教育の実態を知って日本で活かせたら…」と強く思うきっかけとなりました。

 A氏に限らず、直近のケースでは、妊娠をきっかけにHIV検査を受けられ、HIV陽性と告げられた方が続きました。彼女たちのHIVに対する認識としては、「死ぬ病気だと思っていた」「長くても5年くらいしか生きられないものと思っていた」「死なないならこのまま赤ちゃんを産みたい」といったものでした。

 これらのケースのみならず、2008年の日本のHIV感染者の現状として、新規HIV感染者1113件、新規AIDS患者432件となっています。また、主な感染経路として性交渉があり、同性間性的接触が69.4%であり、この中にはバイセクシャルも含みます。異性間の性的接触は19.7%で、年齢別にみると30代がもっとも多く、38.1%をしめます。ついで多いのが20代の29.6%で、20代から30代だけでまさに約70%を占めます。

 こうした日本の現状から懸念されることは、今後ますます妊孕性をもつ世代の感染者の増加と、妊娠して初めてHIV感染を知る女性とそのパートナーの増加があるだろうということです。

 こうした妊孕性を持つ世代に助産師としてどのように関わっていくべきか、今回の研修は自分の助産師という仕事の専門性を見つめなおし、狭まれていた視野を広げ、今後の可能性を見出すとても有意義なものとなりました。

 日本における助産師とは「厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、褥婦もしくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子のこと」と保健師助産師看護師法に明記されています。この保健指導とは、「母親となるための課題達成における援助、および父親・家族参加への援助」が含まれており、「女性のライフサイクル全般にわたる保健指導」つまり「性教育・思春期相談・月経に関する相談・新婚学級・家族計画指導・母親学級・不妊相談・育児相談・更年期相談」などを意味します。

 したがって、妊孕性をもつ世代の女性だけではなく、男性に関わっていくこともれきっとした助産師の使命であるのです。

 そこで、保健指導を通して妊孕性を持つ世代への啓発活動を行い、その中で、もし、危険行動を生じたら自主的にチェックを受けられるように関わっていく必要があります。

 サンフランシスコでは、こうした妊孕性を持つ世代のひとつ若い世代における性教育の分野がとても進んでいるように感じました。サンフランシスコにおいて成人男性の3分の1がゲイであることから考えても普通の性教育で追いつかないことは火を見るより明らかです。そこで、サンフランシスコでは、青少年の興味を引き、知的好奇心を満たして性について学べるようにさまざまな工夫がされていました。

画像:SFにおけるHIV/画像:HIV予防教育に対する助産師の課題~性教育の視点から~ 01
画像:画像:HIV予防教育に対する助産師の課題~性教育の視点から~ 02

 学校教育におけるプログラムの充実や、医療機関での予防活動が盛んなこと、NPOや実際の感染者からの啓発活動が盛んなこともそのひとつだと思います。

画像:HIV予防教育に対する助産師の課題~性教育の視点から~ 03

 HIVを性感染症の一つとして捉えると、性教育における予防活動に助産師が関わることは自然な流れです。しかし、病院で働く私たち施設助産師は、自分が思っている以上に病棟の中に閉じこもって外に出ない存在だと気付きました。ケアの対象も妊産婦さんがほとんどです。これでは、専門性は活かしきれません。もちろん、最終的には地域交流を深めた予防教育を行っていくことができれば最適ですが、地域交流とまでは、いかなくても、HIVの専門病棟に入院された感染者の方に性教育を行うことや、そこで働く性教育に不慣れな若いスタッフの方や、ピアエデュケーターの方に性教育の方法についてアドバイスを行うことは少しの努力で実現可能な事だと思います。

 もちろん、これらは、助産師の視点から見た予防活動の一つとしての性教育のみを捉えていて、性教育がHIVの予防活動の全てという訳ではありません。そのため、今後、他の専門家の方々と協力体制を構築し、若い世代の新規感染を少しでも減らしていく為の手助けをすることが、私の助産師としての課題であると思いました。

画像:HIV予防教育に対する助産師の課題~性教育の視点から~ 04

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9.SFにおけるHIV陽性者の支援と予防活動

看護部 前川由紀子

 世界のHIV陽性動向では、2007年末の推計総数は3320万人であり、世界の多くの地域で男性同性愛者、薬物使用者、セックスワーカーなどリスクの高い集団に流行が拡大しています。日本においても、HIV感染者は男性が9割を占め、同性間の性的接触による感染が7割を占めている現状です。今回の研修で、サンフランシスコでは、HIV/AIDSの包括的ケアが確立されており、患者が病院ではなく、地域で生活できるように医療者や多くのボランティアの方々が支援している体制について学ぶことができました。HIV陽性者がより健康な状態で地域で暮らすことができるための支援や予防活動について学んだことを報告します。

☆疾病を抱えたクライアントを支援する活動
1.PetsAreWonderfulSupport(PAWS)
画像:SFにおけるHIV陽性者の支援と予防活動 01

 PAWSは、1986にFood Bank volunteersの中の1つのグループとして始まりました。この事業が立ち上がったきっかけは、配食された食料をペットに与えているHIV感染症患者がいたということでした。現在では、HIVを含む身体障害疾患だけでなく高齢者、低所得者層、精神疾患をもつ患者が、ペットを手放さなくてはならなくなる事態を避けられるように対象を広げています。PAWSは、サンフランシスコ市内の750~800人のクライアントを対象に、週に200人もの利用者にサービスを提供しており、300人以上のボランティアが存在するということでした。PAWSの活動を可能にするためには、個人やコミュニティの寄付だけでなく、ファンドレイジングのイベントを行ったり、補助金への申請を通して資金を得る努力を続けていると話されていました。特に強調されていたのが、HIV感染症患者の場合を含めて何らかの疾患をもつ利用者には、家族や友人からのソーシャルサポートは決して豊富ではなく、中には他人を信用しないという利用者もいるため、ペットの存在は、利用者が自分自身の健康を維持していこうとする動機づけに大きな要素となっているということでした。ペットは利用者のaccompaning animalであり、life lineととらえられており、私自身、ペットをもつ患者の悩みやストレスを聞く機会はありましたが、その人にとってのペットの存在の意味を深く考えることがなかったと振り返る機会になりました。看護者として、利用者のペットに対する愛情を理解し、利用者の健康の維持にとって、何かできることはないかについて考える姿勢が大切であると感じました。

2.Shanti Project(地域社会ベース非営利団体)

 Shantiでは、

  1. HIVケースマネジメント
  2. 乳がんのクライアントを対象にした「ライフプログラム」でのケースマネジメント、ソーシャルワーク
  3. LIFE(learning Immune Function Enhancement)プロジェクト

を行っています。LIFEプロジェクトの運得資金は、CDCから支出されており、Workshop classの16週間コースを無料でクライアントに提供しています。LIFEプログラムとは、クライアントが自己の免疫機能を高めるために自己研鑽プログラムで、サンフランシスコで発達してきた疾病や障害、損失感、喪失感へのコーピングスキルを得て対応することを学ぶところです。プログラムは、週1度LGBTセンターの会議室で開催されており、4か月間で26のコーファクターについてのプレゼンと小グループでのディスカッションで学び、クライアントが自分自身の行動やライフスタイルを改善するためのアクションプランを計画し、遂行する練習を重ねます。プログラムの特徴として、クライアントが免疫機能を高め、自己の健康を維持したり、より良くするためにリスクを伴う行動(危険な性行動や薬物の使用など)をとる回数が少なくなる効果があるということでした。プログラムを通して、クライアントが自分自身でヘルスアクションプランを立て、実行することで自己管理の技術を獲得し、自覚や自信が増進させることが大きな目的であることが理解できました。サンフランシスコでのHIV感染者調査では、コミュニティに積極的に貢献する人は、より健康でより長生きするというスタディでの発見があり、それをもとにLIFEプログラムから生まれた活動の中に、「ライフエクスペリエンス」と言われる社会的な接点をもつための奉仕を行うプログラムや「ライフゴーズオン」と言われる他者に必要とされる存在であることを確認し、他者の役に立つことで自身の生きる意味を回復させるプログラムも行っているということでした。アドヒアランスや健康行動、医療アクセス行動にコーファクターが直接影響を与えていることが理解でき、クライアントのQOLの改善に大きな貢献につながっていると感じました。

3.Lesbian Gay Bisexual Transgender(LGBT)Center

 1993年に設立されたLesbian,Gay,Bisexual,Transgenderが集まる場所を提供することを目的とした非営利団体である。1か月の利用者数は、9000人であり年間10万件ものHIV治療に関する問い合わせに対応。就職やビジネスの支援や地位向上を目的として活動している。

4.IHSS(IN-HOME SUPPORTIVE SERVICES)

 55年前に始まった群としての介護者費用払い戻しサービス。サービスの対象者は、介護を必要とする重度の障害をもった人であり、介護者は特別なトレーニングを必要とせず利用者が雇用契約を結べば血縁者や友人に対しても介護費用の支払い対象になります。HIV/AIDSなど病名に関してのプライバシーは保護され、利用者のニーズに合わせてサービス内容が調整されていました。

☆医療機関による予防教育、啓発活動
1.UCSF New Generation

 UCSFの産婦人科クリニック部門におかれているクリニックであり、12~24才までを対象にしている。性教育を行うプログラムがあり、クリニック内だけでなく学校の授業時間や放課後の学校に出向いて教育を行っています。カルフォルニア州では、70%の若者が学校で性教育を受けています。(宗教上の問題や親の判断で受けさせない場合があるため100でないということ)授業は、HIVだけでなくSTD全般に関する知識や予防について行われ、8時間のヘルスクラスを2週間行われ、授業形態としては、ビジュアライゼーションという形式で授業を行っているのが印象的でした。生徒が、HIV陽性とわかった時の気持ちを模擬体験できるようにして工夫され、若者がその時の気持ちを語ったり、病気がどのようして感染し、広がっていくのかを目で見て理解できるものでした。生徒ができるだけ理解しやすいように、楽しく学習できる要素を取り入れることで、抵抗感や羞恥心をなくし予防行動つながるように取り組まれていることが理解できました。また、ランチタイムに無料でコンドームを配ったり、コンドームの正しいつけ方をゲームを通して学べるようになっており、日本の性教育との違いを強く感じました。若者への予防教育に関わる際に、大切なこととして①知識を持っていても必ずしも行動が一致するわけではないことを理解して、看護師がリソースになって選択するのは自分たちで決めるという姿勢で関わること②12歳以上になると当事者がどのようなサービスを受けているかは親に報告する義務がないため、プライバシーをきちんと守ってあげること、年齢や社会的状況に応じた話し方をしてあげるということでした。サンフランシスコの13~24歳のHIV新規患者数が増加していて、そのうち13~15歳の報告者数は少ないが、ドラッグなどリスク行動の有無が将来HIV感染につながる要因となることが問題であるということでした。

実際にクリニックに来た若者への看護師の関わり(具体例の中から)
→HIV検査を受けにきた若者に対して

  • 何故検査を受けようと思ったのかを聞く
  • 性行為やコンドームの使用の有無を聞く

このときに大切なことは、HIVについての知識を確認して、知らないことを補ってあげること。相手が性行為やHIVについてどのように考えているかを聞くことが重要。

→性的な接触があってすぐに検査にくる若者に対して

  • ウィンドピリオドについて説明したうえで、検査を受けるか決める。
  • 2,3ヶ月後にテストをすることになった場合

 検査を受けるまでリスクのある行動を修正してもらうようにカウンセリングを行っているが、行動を変容することができなくても自分で決めたことに対して評価しないことが大切だと話され、若者が自分の言葉で話すということが行動を変える可能性につながると信じて励ますように関わっているということでした。そして、若者への予防教育活動を成功させるためには、クリニックに信用できる人がいて安心して通うことができる環境を作ること、クリニックの中だけでなく自分たちがコミュニティへ出ていって活動することが必要であるということを強調されていました。また、若者は年上の人をなかなか信用しないという傾向があるため、ピアカウンセラーやピアアウトリーチパートナーの存在が重要な意味を持つということでした。

画像:SFにおけるHIV陽性者の支援と予防活動 02
2.ハームリダクションと予防介入プログラム

 ハームリダクションとは、危険を少しでも減少させる手段のことです。例えば、リスクのある性行動をとる患者に、いきなりコンドームを使うように渡しても効果はありません。その人が、たとえリスクについて知っていたとしてもコンドームを使わないという場合、そのことを正直に話してくれたことを受け止めて、どうすればリスクを下げることができるかについて一緒に考えるという方法です。HIV感染症の予防においては、コンドームの無料配布やneedle exchangeなどのプログラムが積極的に行われており、カウンセラーがリスクのある行動をとる患者に対して、行動変容をもたらすようなカウンセリングも行われています。日ごろ患者と関わる際に、Safer Sexについて話す機会がありますが、予防のためにはコンドームを使った方がよいという患者にとって理想的なもしくは長期的な目標を考えがちであることを振り返ることができ、患者に対して自分が思うことではなく、患者がどのように考えているかを聞き、リスクを下げるために何が可能か段階をおって柔軟に関わることが大切であると感じました。

☆HIV感染症患者との信頼関係の重要性
・Kaiser Medical Center(RNからNSの役割について)

 お話を伺ったRN(エドさん)が、外来で担当するHIV感染症患者は2000人であると聞き驚きました。新規のHIV感染症患者が診察に来ると、このRNが最初に患者と面談を行っています。面談では、患者がどのようなニーズを持っているのか、どのようなケアを受けたいと思っているのか、HIV感染症に対してどのような恐れを感じているのかを聞くことが大切だと話されていました。また、患者に許可を得た上で、人種や民族に関することや性的指向、薬物の使用なども含めて包括的に患者を理解し、リスクアセスメントが行われています。アメリカでは、クライアントセンターの概念が定着しており、患者は医療チームの中で常に意思決定の中心となり、患者が必要としていることを適切に提供されていると感じました。また、患者にとって質の高い医療を提供するためには、患者との信頼関係が大前提にあり、どの施設やワークショップでも皆さんが話されていたことに、ラポール形成やノンジャッジメンタルの姿勢を大切にしているということを強く感じました。このことは、日ごろの自分自身を振り返り、患者の意思決定を支援する上で、看護師の在り方について考える良い機会となり非常に勉強になりました。

画像:エドさんが患者と面談する様子をロールプレイでみせて頂きました。
↑↑エドさんが患者と面談する様子をロールプレイでみせて頂きました。
研修を終えて

 今回、HIV/AIDSの医療体制や患者支援体制、予防活動、ソーシャルサポートなど様々な学びを得ることができました。HIV陽性者が、地域社会で暮らすために必要なサービスが充実しており、自分自身の健康を取り戻したり維持させるためのサポートプログラムも多く整備されていることに感動しました。HIV/AIDSは慢性疾患となり、患者にとって確実に治療が継続できることが重要であり、アドヒアランスを低下させないために国や医療機関、地域社会でHIV陽性者をサポートしていくことが重要であると学びました。また、サンフランシスコでは地域の予防活動が積極的に行われ、ハイリスク者に対しても社会背景や地域の特性に合わせた活動がありました。日本での予防活動はまだまだ進んでいるとは言えない現状であり、新規HIV感染者をこれ以上加速させないために、家庭や学校での性教育やハイリスク者に対する予防啓発の充実、医療機関や検査体制の整備など国を中心として取り組む必要性を感じました。今回の研修で得たものを生かし、視野を広げて活動できるようにしていきたいと思いました。

謝辞

 今回研修の機会を与えてくださいました関係者の皆様、病院職員の皆様、現地で有意義な研修をコーディネートしていただいた小林まさみさん、デイブさん、シンディさん、SFで貴重な時間を作っていただいた皆様に感謝いたします。

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