独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター

〒540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14
TEL:06-6942-1331(代) FAX:06-6946-3652

 

研修会報告

平成21年度HIV海外研修報告記(サンフランシスコ)

平成22年1月7日から1月21日にサンフランシスコで行われたHIV海外研修に、当院スタッフが参加しました。

画像:平成21年度HIV海外研修報告記(サンフランシスコ)

研修期間 平成22年1月7日(木)~平成22年1月22日(金)

メンバー(あいうえお順)
リハビリテーション科 梅田佳秀(理学療法士)
看護部 梅原美加子(看護師)
感染症内科 笠井大介(医師)
薬剤科 櫛田宏幸(薬剤師)
救命センター 下野圭一郎(医師)
看護部 沼田絵里(看護師)
臨床心理室 森田眞子(心理療法士)
1.概要
月日 場所  
1/7(木) AIDS Healthcare Foundation ツアー及びエイズヘルスサービス、試験、調剤に関しての話
カストロ地区散策  
1/8(金) ホテル プログラムについてのオリエンテーション
マグネット(STD検査センター) コミック・リーディング・オープニング
1/10(日) グライド教会 (ホームレス向けHIV総合サービスを提供している母体である教会)
1/11(月) UCSF ACC Heidi Engel and Mike Glover,物理療法とエイズ
API Wellness Center Rachel Matillano,アジア人HIV陽性者のサポート
ホテル AIDS Care System Part Ⅰ
Maxine Hall Health Center Catherine James, MD: Case conference
1/12(火) ホテル AIDS ケアシステム
Shanti Project 講義:”ライフスタイルと生活態度を変え免疫を強化する。”
テンダーロイン視察  
ホテル AIDS ケアシステム Part Ⅱ
1/13(水) UCSF HIVチームミーティング (薬剤師2人)
Jennifer Cocohoba:臨床観察(薬剤師2人)
Kaiser Medical Center 他の参加者:ビデオ鑑賞 And the Band Played On”
ホテル

Kaiser HIVチームミーティングの視察:Dr. Follansbee short talk:”AIDS 治療の傾向”

Kaiserの薬剤師:”resistance testing と ARTについて”

Ed Chitty,RN,HIVコーディネーター(看護師+希望者)

1/14(木) SMaxine Hall Health Center

Jay Sheffield, MSW: Social worker

Catherine James, MD: Clinical observation for 2 doctors

Shiela Kerr, RN: Nursing and HIV, tour of clinic

2 nurses shadow nursing staff

1/15(金) Cole Street Clinic STI and HIV prevention education
Tom Waddell AIDS Clinic

Aaron Chapman, MD: psychiatric manifestations of AIDS

Barry Zevin, MD: Care of multiple diagnosis HIV patients

Open Hand

Claire Gerndt: Why I volunteer to help people with AIDS; Tour of Open Hand

1/18(月) ホテル Meeting with S: Japanese HIV patient
1/19(火) ニューリーフ
(カウンセリングサービス)
講義:ゲイ、レズビアン、トランスジェンダー、バイセクシュアルのカウンセリング
Lyon Martin Dawn Harbatkin medical director: Lyon Martin services for women with AIDS
1/20(水) ホテル Final presentations(15 minutes each)
Graduation ceremony

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2.HIV海外研修レポート

感染症内科 笠井大介

 感染症内科の笠井と申します。1/7から1/22にかけてHIV海外研修としてサンフランシスコ(SF)に滞在してきましたので報告させて頂きます。

 SFはカリフォルニア州北部に位置する都市で人口約77万人の風光明美な港町です。観光資源に恵まれており、米国本土の都市としては地理的に日本に近く、航空路線も豊富なことから訪れたことのある方も多いのではないでしょうか。またSFは米国の中でもリベラルな気風を特に強く持っている街として知られており、このリベラリズムを背景として世界最大のゲイコミュニティーを有する街としても知られています。そのため1980年代には世界で最初にHIVのパンデミックを経験しており、数多くの死者を出しそれらを乗り越えてきた歴史を有しています。現在でもSFには数多くのHIV患者が生活しており、患者をサポートする様々な医療体制が整っております。

 私達は多くの病院や保健所、NPO法人やボランティア団体を訪問してその活動を見学してきたのですが、中には日本ではまずお目にかかれないであろう訪問先も数多くありました。ご存じの通り米国は先進国では唯一国民皆保険制度を採用していない国のため、低所得層のみならず中間所得層にも数多くの保険未加入者がいます。日本でもHIV患者は社会的・経済的に困窮している方が多いのですが、米国においてもHIV患者の多くが貧困層に属しており、また薬物濫用者でもあります。このように貧困・薬物・無保険(低所得者向けの公的保険もあるのですがそれにすら加入していない患者が多いそうです)の状態では当然のように医療へのアクセスが困難になってしまいます。しかし、SFでは寄付や一部の公的資金・財団の運用益などで運営されている、数多くのNPO団体やボランティア団体が存在しており、彼らが最貧困層に属しているHIV患者達に対して様々なサービスを無料もしくは非常に安価に提供しているのです。提供するサービスは団体毎に異なっており医療そのものを提供する団体もあれば、薬物離脱プログラムを提供するもの、住居の斡旋や公的保険へのアクセスを支援するものもあります。また、対象者も施設ごとに異なっており、ゲイやレズビアンを対象にした団体もあれば、ヒスパニックやアジア人などの特定の人種を中心にサービスを展開しているもの、中にはトランスジェンダー(日本語では性同一性障害に近いニュアンスです)のみを対象にしているものなど多岐にわたっております。これらの施設が社会的背景の異なる日本でもスムーズに受け入れられるとは思いませんが、日本にはあまりないシステムであり非常に興味深いものでした。

 これらを見学する一方で幾つかの病院を訪問してHIV診療の現場を見学させて頂く機会もありました。そこで受けた印象としてはHIVの診察や検査・治療自体は基本的に米国も日本も殆ど変わらないというものでした。今日では米国で使用されている抗HIV薬は殆ど全て当院でも採用されていますし、保険制度が充実して患者負担の少ない日本の方がむしろより緻密で質の高い検査や治療を行っているようにも思われます。今回はHIVの診療現場のみの見学でしたが、他の多くの診療科においても日本の医療は米国と同等かそれ以上の水準を有しているのではないでしょうか。一方で今回見学した病院の中でも一定以上の規模を有する病院では数多くの臨床試験を実施しており、これらのデータを効率よく収集・発信するための素晴らしいシステムが整っていました。中には電子カルテなど院内のオンラインシステムを充実させるために、システム会社そのものを買収してプログラムを構築している病院もありました。当院で行っているHIV診療の質は米国の同規模の病院よりも高いのではないかと感じた半面、その素晴らしさを伝える発信力でははるかに及ばないものがあるように感じました。私個人ができる仕事には限界がありますが、今後日本の医療の良さを少しでも世界に発信できるように頑張っていきたいと思っています。

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3.サンフランシスコにおける貧困層に対するHIV診療の実際

救命センター 下野圭一郎

 今回、私はHIV拠点病院の救命センターの一員として、サンフランシスコの救急現場におけるHIV診療の実際を知りたいと考え、研修に参加させていただいた。残念ながら現地で救急医療の現場を見学する機会はなかった。しかし、病院のみならずHIV診療に関わる様々な施設を見学させていただく中で、HIV診療を支える多くの人々に接し、様々な職種の人々がチーム医療でHIV診療に取り組んでいるということを実感した。特に印象に残ったのは、経済的困窮者に対するHIV診療の実態である。アメリカは国民皆保険制度がなく、路上生活者を始めとした経済的困窮者は、医療の現場では切り捨てられているのではないかという思い込みがあったが、実際には、熱意を持った人々によってチーム医療の輪が形成され、そのような人々に対する医療の門戸が開かれていた。今回の研修で特に印象に残ったMaxine Hall Health Centerでの診療の実際を含め、報告したい。

 サンフランシスコは市内を9つの区域に分けて保健医療を展開していて、それぞれに公立保健所とそれに併設されたプライマリケア診療所がある。その中で特にHIV陽性患者が多い3つの地区にHIV primary care centerが設置されている。Maxine HallHealth Centerはそのうちの1つであり、中間所得層が多い地区に設置されていて、有色人種・ヘテロセクシャルのAIDS患者が多いのが特徴とされている。診療の対象はプライマリケアを必要とする一般患者はもちろん、地域の特色に伴いAIDS診療も主要業務の1つとしていて、take everybodyの理念のもとに、No job, no money, no insurance, no choiceの患者を含めた経済的困窮者に対しても無料で医療を提供している。

 我々はこのMaxine Hall Health CenterでDr.Catherine JamesやHealth education outreach workerのLee Jackson氏にお会いし、実際に話を聞いたり、診療現場を見学したりする機会をいただいた。Dr.Catherine Jamesはこの診療所において75人のHIV陽性患者を担当されており、その中には路上生活者を含めた経済的困窮者も数多くいる。そういった患者は多くの場合、様々な問題を併せ持った「難しい」患者であることが多く、対応に苦慮することはめずらしくないという。具体的な問題点としては、①医療へのアクセスがない(どこへ行けばいいかわからない)②医療費が払えない(と思っている)③医療不信・思い込みの強さ(いわゆる“セルフメディケーション”・通院や服薬の拒否など)④薬物中毒の併存(なかなか離脱することができない)⑤不法滞在者や犯罪者であることもある、などが挙げられる。このような患者一人一人に対して、こちらの考えを押し付けるのではなく、相手の考えを尊重する態度で我慢強く診療に臨んでおられるようであった(Dr.Catherine Jamesは“no judge”の姿勢が大事だ、と強調されていた)。そういった態度で患者と接し、少しずつ信頼関係を構築していくことで医療から離れがちなこれらの患者達を繋ぎとめる努力がなされていた。また、Lee Jackson氏のHealth education outreach workerというユニークな職業もHIV陽性患者を医療に繋ぎとめるのに一役買っていた。社会的に低階層に属するHIV陽性患者達のリストを持っており、自ら足を運んで患者の近況を確かめに行ったり、受診を促したりするとのことであった。また、毎週1回刑務所を訪問し、服役中のHIV陽性患者に対してアプローチを行い、服役後も医療へのアクセスをなくすことがないように努めている。患者の定期的な受診を促すために予約通りに外来を受診した患者には食品や日用品の購入が可能な10ドル相当のプリペイドカードを提供したりもしている。医師のみならず、ソーシャルワーカーやLee Jackson氏のような人々の努力により、貧困層に属するHIV陽性患者を何とか医療現場へ誘導しようとしているのであった。

 今回の研修で印象に残ったのは、アメリカ特有の医療保険制度やHIV診療に関わる様々なNPOの存在、日本ではあまり普及していないトランスジェンダーに対する医療もさることながら、Maxine Hall Health Centerで目の当たりにした医療スタッフの熱意であった。Dr.Catherine Jamesは、「難しい」患者達への対応に頭を悩ませなせ、治療としての成功を収められない場合も非常に多いにも関わらず、今の仕事を長年に渡って続けている。Lee Jackson氏も「なぜこのような大変な仕事(※Health education outreach workerはMaxine Hall Health Centerには一人しかいない)を続けるのか」という問いに対し“passion”という言葉で返答してくれた。このような人々の熱意がなければ、どんなに立派な医療システムを完備してもHIV診療は成り立っていかないだろうと感じた。アメリカであろうと日本であろうと、医療の現場において最も重要なのは、医療者の熱意・患者との信頼関係なのだと実感し、それを知ることができただけでも今回の研修に参加した意義があると考えている。今後は、今回の研修で得た知識や考え方を診療の現場で役立てたいと思う。未だHIV診療の現場にまともに立ち会ったことのない自分だが、そんな自分だからこそ今回の研修に参加して得るものも大きかったと感じているし、HIV診療に関わっていきたいというモチベーションも上がった。このような貴重な体験をさせていただいたことに心から感謝申し上げる。

画像:サンフランシスコにおける貧困層に対するHIV診療の実際

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4.HIV/AIDS患者によりそうためのアプローチ

看護部 梅原美加子

はじめに

当センターへ通院しているHIV/AIDS患者は日々増加しており、約1700名にも上ります。そして、それにつれ入院を要するHIV//AIDS患者も増加し、全科で対応しています。そんな中、HIV/AIDSのブロック・拠点病院であるにも関わらず、HIV/AIDS患者の対応に悩む若いスタッフの姿があり、またPMLやHIV脳症等でADLのみならず認知レベルにも障害を来たし、症状が安定しても多くのケアを要し自宅へ帰ることができず、そしてHIV/AIDS患者だということで、受け入れ先を見つけることも困難な状況にあります。今回、私は少しでもこのような状況を変えたいという思いもありこの研修に参加させて頂きましたが、研修での学びからその示唆をえたので報告させて頂きます。

1.HIV/AIDSの歴史の理解
  1. ビデオ鑑賞「And the Band Played On」

    これは研修が始まってまもなく、施設訪問のない時に見せて頂いた映画なのですが、HIV/AIDSの始まりから、世界中にひろがっていく様子を知ることができました。

  2. 「砂時計のなかで HIV/AIDS訴訟の全記録」島本慈子著

    これは今回の研修のコーデイネーターの方に研修初日に、一部朗読し紹介して頂いた本ですが、血友病患者の方がどのようにHIVに感染し薬害の問題が起こったのか、またそのことに関わる人たちの思いの一端を知りました。上記の2点については海外研修という視点においては関連がなく、このような事柄はHIV/AIDS看護に携わるものとして、事前に知っていて当然のことだと思いますが、私自身勉強不足であり今回の研修で初めて知りました。このことは日常「薬害」という言葉を使われますが、HIV/AIDSや患者理解という点で、その事柄を知る努力をしなければならないと考えます。

2.セクシャリテイの理解と受容
  1. Cole Street Clinic

    1992年に未成年のシェルタークリニックとしてハックルベリー財団により設立されたクリニックであり、12歳~24歳の若者を対象にピアヘルスエジュケーター(高校生、大学生)が予防活動や情報提供を無料で行っています。具体的な支援としては、HIVやSTD、子宮がんの検査、プラマリケア、カウンセリング、家族やドラッグの問題の相談です。またスタッフが、高校にも出向きHIV予防等についての教育も行っており、学校側の要請によりsexual orientation(性的指向)についての教育準備もあると聞きました。

  2. NEW LEAF

     レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)の人たちを対象に、ドラッグやHIV/AIDSの予防問題、不安症や鬱等の精神衛生の問題についての個人対象のカウンセリングやグループセラピー等の支援を行っています。
     そして、そこで働くスタッフのセクシャリテイも様々だと聞き、クライアントには自分のセクシャリテイを告げるように指導しているとのことでした。研修に来ていろいろなセクシャリテイがあることを身近に感じ、上記のいずれの施設においても、対象の置かれている状況や思いがわかる人がスタッフであることが特徴のように思いました。そのことも含め、日本でもまだまだいろいろな差別や偏見があり、ここサンフランシスコのようになることは遠い先のように思いますが、セクシャリテイについての教育が必要であると思います。

3.HIV/AIDS患者への接し方
  1. Kaiser Permanente HIVプライマリーヘルスケア部門

     上記施設でHIVコーデイネーターをされているエド氏に会い、患者との初回面接の場面を見学させて頂きました。

    ①カジュアルに、インフオーマルにするため白衣は着ずに、お茶やコーヒーでもてなし、雰囲気づくりを大切にする。
    ②一方的に聞くのではなく、患者には選択する権利があることを伝え、了解を得る。
    ③医療者は患者のためにいるが、患者は医療者のためにいるのではないことを理解する。
    ④決して批判しない。→ノン・ジャッジメンタル
    ⑤静かに話し、決して大声で話さない。

  2. Maxine Hall Health CenterのMSWであるジェイ氏に患者との接し方について話をして頂きました。

    ①言葉の使い方について

     専門用語を使うことにより患者と距離を取ることがないようにし、「患者に参加してもらうために」「患者に本当のことを言ってもらうために」言葉を選ぶ。

    ②患者が躊躇したり、不快な思いをさせないように、またそれが難題であっても「過去に経験があるから驚かない」という態度で普通のように聴く。例えば、「ドラッグを使っているの?」と聴くのではなく、「どんなドラッグを使っているの?」と聴く。普通のことのように聴き自分の領域に入れる、ノーマライズさせる。

  3. NEW LEAFにてサイコセラピーの方にHIV/AIDS患者が抱える問題について話をして頂きました。

     NEW LEAFはサンフランシスコベイエリアのレズビアン、ゲイ、バイ・セクシャル、トランスジェンダー(LGBT)の人々に対して個人対象カウンセリングやグループセラピー等を行っている所です。

    ①HIV陽性者が抱える問題
     HIVが陽性になると、告知するかしないのか、するならいつ誰にどのように。しないなら、しなかったらどうなるのか。人生での重大事を家族や大切な人に隠して生きていくことになり、孤立感や孤独感がある。そして、重大事を隠していることにより、うそを重ねなければならないこと、その辛さや罪悪感、そしてありのままの自分をだすことができず、心が休まらない、安全な場所がない。そしてこれらのことにより、人間関係がうまくいかず、うつになってしまうという問題がある。その他、雇用、孤独、トラウマ、そして心のバランスを保つために薬物を使用する等がある。
    ②セクシャリティが抱える問題
     問題の中心は特別なものはなく、それを取り巻く事柄が個々に事情があり、教えてもらう姿勢で注意深く聞いていくことが大切であると言われていました。
     接し方についての学びを述べてきましたが、患者に安全な場所だと思ってもらえるために、共感し信頼関係が作り出せる対応を個人だけでなく、チームで考えていくことが大切であり、よりそえる看護師の育成つながるのではないかと考えます。
4.まとめ
  1. 1)HIV/AIDSの歴史の理解
  2. 2)セクシャリテイの理解と受容
  3. 3)HIV/AIDS患者への接し方

 以上3点について、この研修で大切だと感じもっと知らなければならないと思ったことについて継続して自己学習し、ここで改めて再確認したことや学んだ患者への関わり方についてスタッフや院外研修で伝達し、HIV/AIDS患者によりそえる看護師の育成に努力したいと思います。そして、このHIV/AIDS看護の充実が大阪医療センターの看護の質の向上につながるものだと思います

5.謝辞

この度は、お忙しい中このような研修に参加させて頂きましたこと、皆様に深く感謝いたします。ありがとうございました。

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5.サンフランシスコにおけるHIV患者の社会的サポートと医療の繋がりについて

看護部 沼田絵里

 私はサンフランシスコにおける“HIV患者の社会的サポートと医療の繋がり”と“HospitalとClinicにおけるHIV患者に携わる看護師の役割と仕事の実際”について報告したいと思います。

1.HIV患者の社会的サポートと医療の繋がり
画像:HIV患者の社会的サポートと医療の繋がり 01

 患者さんは支援団体に自ら抗体検査に行ったり、医療機関に受診したりします。サンフランシスコには日本に比べ支援団体がたくさん存在します。支援団体の種類はたくさんあり、抗体検査、薬物中毒の離脱プロジェクト、高校生などの若い世代の性教育、食事配給サービスなど様々な支援団体があります。自らそのような支援団体に行く人もいれば、医療機関から紹介され支援を受ける場合もあります。また支援団体によってはコミュニティの場となり、サービスを受ける人達の居場所になったり、情報を得られる場になったりもします。また、日本よりボランティア活動をする人が多く、例えば独居の死期の近づいた人が自宅で最期を過ごしたいとボランティアにサポートをお願いすると何人ものボランティアが支援に手挙げをしてくださるそうです。このような現状から、病院に入院をするとしても短期間で、また自宅で療養できるシステムができています。

画像:HIV患者の社会的サポートと医療の繋がり 02
2.Kaiser Medical Center(Kaiser Permanente)

 Kaiser Medical Centerは会員制のHospitalです。会員制というのは会員費を支払えば系列病院で受診が可能になります。米国は日本のように国民保険制度はありません。米国の診療費はとても高額で、1泊入院しただけで日本では考えられないほど高額な入院費を請求されると言われています(日本では3割負担で医療費を支払いしますが米国は全額負担になります)。その為、各個人で保険会社やKaiser Medical Centerなどの医療機関と契約するシステムで成り立っています。

 今回Kaiser Permanenteにおいて、HIVコーディネーターナース(以下CNとする)が初診の患者さんと面接をする場面を見学させてくださいました。彼の診察室に私たち看護師は患者さんと 一緒に入らせて頂きました。患者さん(以下A氏)は50歳代男性、MSM(Man who have sex with menの略、男性と性的接触をする男性)で緊張した面持ちで入って来られました。CNは笑顔で彼を迎え入れました。まず自己紹介をして、患者さんに最初に伝えたことは「患者には選択する権利があること、have toは私は言わないこと」と話していました。そして、問診票を出し「この内容に沿って質問をさせてもらうがよいか」と了承を得てから面接を開始しました。

<質問内容>
  • 食事について
  • 運動について
  • 連絡先
  • 同居人の有無の確認と連絡時にその人に伝えていいのかの確認
  • 職業
  • 性交の対象の確認
  • 性交の方法
  • 月にどの位性交をするのか
  • コンドーム使用の確認
  • STDとその他の疾患の既往歴
  • 無自覚症状のSTDの発見のため定期的に検査を受けるかどうかの確認
  • 家族構成と家族へ告知をしているか
  • 性交時に自身のHIVについて伝えているかどうか
  • 鬱はあると思うか
  • 何のドラッグを使用していますか
  • 心配なことは

など…

 A氏は、HIVに20年ほど前からかかっていましたが怖くて病院に来られないでいました。どんどん痩せていき、1年前からHCVに対してインターフェロン治療を受けている為さらに体力・精力の低下を認めており辛いと話していました。20年同居しているパートナー(疾患についても知っている)が生まれ故郷へ帰るため別居になるため精神的にも不安定な状況であるとのこと。性交はパートナー以外の男性と月に3回程行っているが、oral sexしかしていないと話されていました。その際、コンドームは使用していないと話されたため、CNはオーラルセックスでもHIVやSTDに感染することを説明し、国が出している資料を提示しました。しかし、A氏は「国の言っていることは信用しない」と言われパンフレットを手にとろうともしませんでした。CNは特にそれ以上何も言わず、面接を続行しました。性交のパートナーは不特定で、A氏はsexをする際に自分がHIV感染者であることを伝えているとのことでした。

なぜならば、A氏はHCVを感染させられた相手に“どうしてHCVがあることを言ってくれなかったのか”という思いがあり「コンドームをつければHCVにならなかったのに」と自らoral sexの際にコンドームを使用するべきだったと発言されていました。A氏はHIVのことを家族に話してから疎遠になっているとのこと。母親に“自分で生きていくように”と言われているそうです。また友人に「いつでも買い物やドライブに付き合うから」と言われていたのに、誘うと「忙しいから無理だ」と言って避けられることが多く、人を信じられなくなり気分的にも落ち込みが激しいと話されていました。CNが「何かドラッグを使用していますか」の質問に現在の治療薬のことや抗不安薬の使用について話された。そして昔sexパートナーに勧められ薬物を使用していたことも話されていました。心配なことを聞かれA氏は「持病(HIV)があればこの病院の保険が切られると思って来られなかった。だから今回の受診したことをカルテに書かないでほしい」と言われました。CNは保険が切られることはないことを説明しました。

 このような面接が行われた後、CNはA氏にコミュニティや支援団体を紹介ができることをA氏に伝え面接が終了しました。緊張していた面持ちだったA氏は部屋を出る前に、CNにハグをして笑顔で退室されて行きました。

 この面接を通じて、問診をとることや検査を受ける際には説明と了承を得ることが患者の権利を守る為には必要なことであることを再確認することができました。 また、私が病棟に入院してきた患者さんに問診を行う際には今後のsafe sex・日常生活の指導の為にパートナーの有無や性交歴、STDの既往歴、HIV抗体検査の回数など聞いていましたが、 ここではsexの方法を確認することやコンドームの使用についてなどより具体的に問診をしていたことに驚きました。性交の実際を知ることで、より個別性のあるsafe sexの指導が可能となるので今後取り入れて行きたいと 思います。

 「あなたを批判することはない、あなたには選択の自由がある。こちらから~して欲しいなどは言わない」と最初に患者さんにそのままの言葉で最初に伝えていたことにさらに驚きました。短時間の面接であり、患者さんに安心感を与えるためには必要なことです。言葉の通りの態度を示さなければ患者さんの信頼は得られないと思います。この患者さんは最後にCNとハグをして帰られましたので、この面接はCNの言葉通りの面接ができていたという証拠だと思います。

 また、「何のドラッグを使用していますか」という言葉は、違法な薬物の使用をしていないかと直接聞いているのではなく、患者さんも答えやすいと思いました。また、「薬物を使用していますか」と聞くことは違法な薬物の使用を疑っているようなセリフであり、患者さんの気持ちを害さない表現だと思いました。

画像:Kaiser Medical Center(Kaiser Permanente) 01
3.Maxine Hall Health Center

 このクリニックは公立保健所にプライマリケアの診療所が付設されたところで大病院と同じサービスを提供する中の分院です。看護師3名とメディカルアシスタント(看護師ではないが採血などの技術の教育プログラムを受けている人)4名で外来の医師の診療の補助を行っています。HIV/AIDS患者さんの診療は月に50~90人であり1日8〜10人外来に診察に来ます。このクリニックではHIV/AIDS以外の疾患の患者さんも診察に来ています。多忙な中で看護師はHIV/AIDS患者の教育や指導をどのように行っているのか興味があり質問をすると、それらの業務はソーシャルワーカーが行っているとのことでした。ソーシャルワーカーが患者さんへ必要と思われる社会的サービスの情報提供や指導、適応しそうなコミュニティの紹介などしており、Kaiser PermanenteのCNの役割を一部担っていることがわかりました。

画像:Maxine Hall Health Center 01
4.終わりに

 日本のHIV/AIDS医療は米国に負けないくらいの医療技術を持っています。しかし、日本は社会的サポートに関してはまだまだ整っていないのではないかと思いました。病院で入院患者さんと接することが多いですが、米国のような社会的サポートが日本にもあれば退院後患者さんは不安がより少なく生活を過ごせるのではないかと感じました。

 今回、このような貴重な学びの機会を与えてくださった医院長をはじめとした病院関係者の皆様、サンフランシスコでコーディネート・通訳をしてくださった小林まさみさん、ゆみさん、シンディさん本当にありがとうございました。この学びを入院患者さんの看護、後輩育成に活かしていきたいと思います。

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6.サンフランシスコHIV研修に参加して

薬剤科 櫛田 宏幸

 私は、HIVがどんなものであるか理解せずにこの研修に参加したと思う。感染による患者の状態や検査値、治療レジメンなど医学的なものに関しては多少なりとも学んできたつもりでしたが、時代背景や歴史、それに携わる人々の思いなど全く理解していなかった。今回の研修で、学んだこと得られたことを、報告したいと思います。

 アメリカにおいて、HIVは1970年代から感染が発見され、1980年代に入り非常に多くの死者を生み出すこととなった。その後、抗ウィルス薬の発見、さらにはHAARTの開発によりHIV感染によるAIDS発症を強力に抑えることができるようになった。その結果、HIVは慢性疾患と変遷した。現在、AIDSによる死者は急速に減ったが、HIV感染者は増加の一途を辿っている。それは日本でも同じような状況を辿っているといえる。今回の研修の中で、HIVの歴史、現在の治療、患者のサポートで行われていること、HIVに感染するということ、またそれに関わるということをサンフランシスコというHIVとともに歩んできた都市で研修することで、まだ日本でHIV治療に携わっていない私には知ることすべてが興味深く、また机上で学ぶだけでは得られない体験をすることができ非常に良い経験となった。

 サンフランシスコでは、多くの場所に研修に行った。病院だけではなく、コミュニティやNPOといった、おそらく私が日本では関わることができないような場所にいくことができた。その中で訪れた施設の特徴的な点はHIV患者を支援する団体がHIV患者の中でも更なるマイノリティを積極的に支えているといった点だ。例えば、東洋人のための支援団体、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)のための支援団体、女性のための支援団体。HIV自体がマイノリティであると考えていた私にとって、その中のさらにマイノリティを支援するなどといった発想には到底及ばなかったからだ。こういった支援団体のあり方についてはサンフランシスコの土壌がそうなのか、アメリカの土壌がそうなのかはわからなかったが、HIVを受け入れること対して非常に寛大な土地柄であること、それはHIV感染による多くの人を亡くしてきたこの町の悲哀がそういった寛大さを作り出しているのかもしれないが、身をもって知ることができた。

 訪れた団体、病院で積極的に行われているHIV患者に対する教育は当然のことながら充実していた。治療方法、感染予防のための教育、性教育、ハームリダクションなどといったものだ。こういったものは日本でもサンフランシスコに及ばないながらも充実しているように思った。ただ、私が気になった点はこういった教育が、HIV感染後に得る人が多く、逆に言えば感染していない多くの人に知られていないように感じた。そこには私自身も含まれている。多くの団体はHIVの感染のリスクがあるような行為をした人、自分の性に疑問のある人、近くにHIVに関わる人がいる人などと本人積極的に情報を求めて動かない限りなかなか情報が発信することができていないという現状があるように思う。

 今後、HIV患者の増加を抑えるためには、既存の患者からの感染拡大の抑止、また未感染、特に若年層に対する予防が必要になっているように思う。そのためには若年層に対するHIVに関する教育を進めて行く必要があるように思った。今回訪れた施設の中でHIV教育を行う非常に興味深い団体があった。それはコール・ストリート・クリニックだ。ここでは主に若年層に対する教育を行っていた。ここでの特徴的な点は、エイズピアエデュケーションを行っている点である。ピア(peer=仲間)で教育を行うこと、ある一人が施設でしっかりとした教育を受けその知識を同世代に伝えて行くといった手法を用いている。この手法は同世代が知識を持っているという点、学生であれば教師からでなく同級生から知識を得ることができることは、上から教え込むのではなく、横の繋がりから知識を得ることができるというのは非常にうまく機能するように感じた。ここのやり方は受動的に情報を発信するのではなく、能動的に知識を発信することができるように感じた。それはHIVを”予防”するという意味で非常に有効な手段であると思った。アメリカ、日本の性教育の現場が充実しているとはいえないこの状況において、HIVの拡大を防ぐ可能性のひとつであるように思う。日本でも看護師会や保健所が共同で、すでにこういった試みが始まっている。まだまだ大きな流れではないが、この流れは必ず人を育てまた広く大きな流れになるように期待している。学校教育の中で性教育は依然として、確たるものがなく各自治体、各学校の方針に任されている状態であり、前途多難であるのは確かであるが、STD、HIVの教育を含め、性教育をすることの重要性をもっと多くの人に知ってほしいとこの研修を通じて思うようになった。

 私はこれからHIV治療の現場に実際にたっていく事になる。HIV治療の現場では、予防や教育といったことに携わる機会はおそらくあまりないだろう。だからこそ、今回の研修で得られた知識というのは非常に貴重なものであると思う。そしてただ治療の知識だけでなくHIVに関わってきた人々の思いや歴史を知ることができたことは、今後私のHIVに携わる医療人としての基盤となるような非常に意義のある研修となった。

 最後に、この研修に参加させていただくにあたり、ご尽力いただいた関係者の皆様、病院職員の皆様、SFで貴重な時間を頂いた皆様に感謝いたします。

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7.サンフランシスコにおけるHIV・AIDS患者支援のNPO活動の現状と展望

リハビリテーション科 梅田佳秀

はじめに

 サンフランシスコはアメリカ合衆国西海岸にあるカリフォルニア北部の都市で北米を代表する世界都市である。年シエラネバダ山脈で金鉱が発見され、ゴールドラッシュによって急成長した。その後、港湾都市・物資の集積地として合衆国西部の商業、行政、の中心地となった。文化面にスポットを当ててみても60年代にはヒッピーの集う地となり、70年代に入ると同性愛者の市民権獲得のため運動がいち早く起こるなど新しい価値観を生み出す拠点である。

 アメリカでは選挙権を持つ人は、全員どの政党を支持するのか登録するシステムになっているが、サンフランシスコは4人に1人が無所属であり、一つの党の考え方に限って支持しない自由な視点を好む気質が窺われる。

 サンフランシスコのHIV・AIDS患者の大多数がMSMで、カストロ地区を中心としたゲイコミュニティー発達が影響している。HIV・AIDSの初期の時代から多くの患者が生み出され、亡くなっていった時代を経て、HAARTの登場により、劇的にHIV・AIDSは死なない病気になった。服薬のコントロールによって長く付き合う病気になったが、サンフランシスコでは時代を経てもなおHIV・AIDS患者支援NPO活動が熱心に行われている。今回の研修で訪れた各NPO組織を振り返りながらサンフランシスコのNPO活動について考察したい。

HIV/AIDS患者支援のNPO

 サンフランシスコでは数多くのNPOがHIV/AIDS患者に対して、ニーズに合う様々なサービスを提供している。次に特色のある各NPOの活動を紹介し、後の考察に繋げたい。

AIDS Healthcare Foundation

 貧困所得者に対してHIV・AIDS治療薬の提供、HIV・AIDS検査、カウンセリングを行っている。基金の収入は、連邦政府・州・市からの補助金、寄付、経営する薬局・古着屋の利益である。施設に薬局・古着屋が併設されており、大変ユニークな施設になっている。

Magnet

 カストロ地区の中心に存在し、SF AIDS Foundationにより運営、コミュニティーリーダーや活動家によって企画されている。STD検査センターの役割を持ち、多目的スペースを併設しており、イベントを企画しながらゲイコミュニティーの社会化の場を提供している。

API Wellness Center

 Asian&Pacific Islander Wellness Centerは北米で最も古く、HIV/AIDS患者に対してサービスを提供したNPOである。アジア太平洋地域の人々を対象とし、その多くの地域の言語を話せるスタッフがいる。HIV治療を無料で提供し、メンタルヘルス、薬物濫用のカウンセリングを行っている。HIV予防のためにも無料のHIV・STD検査、ピアカウンセリングなどを提供している。

Shanti project

 HIV/AIDS患者に対して実用的、感情的支援を提供するNPOである。気軽に立ち寄ることのでき、患者同士が話し合える社会活動の場も提供している。

 LIFE ProgramはHIV患者、乳がん患者が免疫機能を高める事を学ぶ。30年以上にわたる医学的調査を基に健康と治癒力にアプローチする方法である。

Open Hand

 HIV/AIDSの人々に対して無料の食事配達サービスや食材配布サービスを行っている。食材はフードバンクから運ばれ、巨大なキッチンで毎日100人のボランティアの協力で運営されている。

New Leaf:

 サンフランシスコベイエリアのレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)の人々に対してカウンセリングや支援を提供する組織である。特徴的なのはLGBTの高齢者に対するサービスが提供されていることである。

考察

 これだけのNPOの紹介からも各NPOがHIV/AIDS患者に対して独自のサービスを提供していることがわかる。また、サンフランシスコにはこれ以上にサービスを提供するNPOが存在する。それぞれが独自のサービスで行政がカバーできない部分を非常にうまくカバーしている。また、社会では非常に少数派を網からこぼれさせる事なくカバーしているのも特徴的である。前述したように古くから固定された価値感に捉われず自由な視点で物事を考えるサンフランシスコの人々の気質が、ゲイコミュニティの存在を認め、共生する社会を築いてきた。そんな社会に今度はHIV/AIDSが押し寄せてきた。ゲイコミュニティを中心に多くの人々が亡くなる中で、HIV/AIDSに対する支援の動きが起こる。その大きな潮流の中で現在まで続くNPO活動がある。

 運営基盤に関しては、各NPOは連邦政府・州・市からの補助金、寄付を基に運営している。HIV/AIDS関連の補助金はサンフランシスコ市の保健衛生局でそれぞれのNPOに分配される。各NPOは独自のサービスと必要性を訴えながら予算獲得にあたる。

 HIV/AIDSは多くの人が亡くなった80年代から90年代前半から、HAARTの登場により死なない病気になった。服薬によりコントロールが出来れば長く生存可能な病気になった。言い換えれば、患者は糖尿病のように長く付き合わなければならない。そのため、各NPOは断続的・継続的なサービスが求められるようになっている。Shanti projectのLIFE programやNewLeafでの高齢者層に対するサービスがそれにあたる。このようなHIV患者の人生を長期にわたりサポートするprogramの充実が求められる。理学療法士の立場から言えば、歳をとることで衰える体力を維持し、体の抵抗力を高める運動療法指導のprogramなどが最適ではないかと考える。時勢にあったprogramの提供は、対応にスピードがあり、そのコミュニティに根ざしたサービスを提供できる市民レベルのNPOでの介入が最も適している。NPOの活動に多額の補助金を提供しているアメリカ政府の方針は、市民意思、決定を最優先するものである。

終わりに

 多様な文化が融合し、伝統・制度などの既成の価値観に縛られた社会生活が嫌う人々の街、サンフランシスコ。カストロ地区にはレインボーフラッグが誇らしげにはためいている。研修中、あるソーシャルワーカーから「サンフランシスコは魔法がかかった町である」と聞いた。その魔法のようにゲイの人々が空にかけた虹が今もかかっている。私は、次にサンフランシスコの人々はどんな魔法をかけてくれるのか非常に楽しみである。

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8.HIV感染症研究者海外研修に参加して

心理療法士 森田眞子

1.はじめに

 セクシュアリティとメンタルヘルスには深く関連があることは昨今の日本のMSMを対象にした調査研究(日高ら、2003など)からも指摘されており、学童期からの適切なセクシュアリティ教育やサポートが求められているところですが、私自身、日々の心理臨床の中で、同性愛者の方々がそれまでの生育歴の中で抱えてこられた苦悩、生きづらさについてお伺いすることが少なくありません。

 サンフランシスコにはカストロ地区という有名なゲイ・タウンがあり、米国でも有数の大きなゲイ・コミュニティがあることで知られています。世界中からゲイの方々が憧れをもって集う、そうしたゲイ・フレンドリーな風土の基礎は、教育が大きく関与しているのではないかと思っていました。

 そこで今回サンフランシスコに研修に行かせて頂くに当たり、いわゆるセクシュアル・マイノリティ(同性愛者やTG〈トランスジェンダー〉などの性的少数者)に関して、一般的に、どのような教育が行われているのかということについて多少なりとも学ぶことができましたので、ご報告したいと思います。

2.サンフランシスコの同性愛者をめぐる現状と性教育

サンフランシスコは米国の中でも同性愛者などのセクシュアルマイノリティに対し、大変受容的・寛容な都市であることは周知の通りです。約80万人の人口のうち、17%の人々が同性愛者だという説や、TGが人口300万人足らずのサンフランシスコ湾岸エリアに6000人いるとも、サンフランシスコ市内に600人いるとも言われているそうです。日本では同性愛者は全人口の3~5%程度と言われているのと比較しても、非常に大きな数字だということがわかります。サンフランシスコがそのような環境であるのは、学童期からおしなべてリベラルな性教育が提供されているのではないかという思い(予測)がありました。

 ところが実際にお話を伺うと、(カリフォルニア州の場合)高校4年間のうち、エイズ教育は最低1年間に2日分ずつ3年間行わなければならないと州法で定められているそうですが、その教育内容を決めるのは学校教育区の役割であり、また、米国では高校が終わるまで(18歳未満)は親の方針で育てるのが義務であり、権利であるとされているそうです。米国というと子どもの頃からなんとなく自由で、個性を大切にする国だと思っていましたが、少なくとも18歳までは親の教育方針が、日本とは比べ物にならないほど非常に大きな影響を及ぼすことがわかりました。

 学校での性教育も、内容によってはPTA全員一致の許諾が必要だったり、親が事前に教育内容を知った上で許可した生徒のみが授業に参加できるなど、宗教や文化の違いなどが非常に考慮され、親の決定権がとても強いことがわかりました。従って、たとえば具体的なエイズの予防教育などは、子どもが大学生になった18歳以後にほとんど行われるそうです。

 また、大統領(与党政党)が代わると、その方針によって性教育の内容にもかなり大きな変化が生じるということで、私が予想していたのと違い、日本のように都市部も地方も文科省が定めた教育要綱に沿って画一的な教育が行われているのではないことがわかりました。

 公的・画一的なプログラムが義務化されてある訳ではないけれど、なかには外部のNPOが学校や教師から依頼されて啓発や教育を行うこともあるそうで、今回そういった委託を受けている団体や、カウンセリング・サービスを提供している施設を訪れることができましたので紹介させて頂きます。

3.Cole Street Clinic(NPO)の性教育への取り組み

ここは公的な資金援助等を受けて活動している若者向けの民間団体で、若者に非常に人気のあるおしゃれな街にあります。地域の学校や教師からの委託を受けて、訓練を受けた、生徒に年齢の近い若者がピア・エジュケーターとなり、出前授業を行っているそうです。

 例えば「エイズの予防教育」がテーマであれば、性に関する言葉や会話に対する忌避感・恥ずかしさなどをゲーム感覚で遊びながら、まず脱感作し、クイズ形式でさまざまな性行為の感染リスクを学んでいくといった出前授業を行っているとのことでした。実際に私たちも生徒役になって体験させてもらいましたが、一見遊びのようなやりとりの中にもしっかり“ハーム・リダクション”の考え方が浸透しており、“知識として”感染しない行為を学んでいくというよりも、実際の場面で少しでも感染リスクの低い予防行動が取れるよう、生徒の自己効力感を引き出すことを重視したプログラムでした。

 「エイズの予防教育」以外にも、学校側からの要望に応じて、STD予防教育や性指向・性の多様性、10代の妊娠・避妊、薬物・アルコール依存、暴力、メンタルヘルス、家出などについても出前授業をしに行くとのことでした。

 サンフランシスコ市内ではペニスに見立てた模型を使ってコンドームの装着方法を教えることができても、わずか橋を渡ったむこうの街ではそれはできないなど、地域(学校やPTA)の保守性に違いがあり、その違いによって教える内容や方法にも規制があるという話は、未成年に対する親の監督権の強さを実感させ、とても驚きました。

 さて、このCole Street Clinicには心理カウンセラーがおり、無料で若者対象に個人心理療法やグループ療法を提供していました。子どもが来談していてもそのことを親に告げないなど、秘密保持は徹底され、たとえば性指向の相談や精神・身体の虐待、家出、自殺、欝などのメンタルヘルス、思春期の親との葛藤など多岐にわたる相談を受けており、必要に応じて家族療法を導入したり、他機関にリファーすることもあるとのことでした。

 教育とは違うサービスですが、子どもが親のことを気にせず、安心して受け入れてもらえる場所で、こうしたサポートを受けられるのはとても素晴らしいと思いました。

5.HIVにまつわるサンフランシスコのこれまでの土壌

 米国ではその文化的背景として、もともと個々人の人種や肌の色、宗教、顔形といった外見的・身体的特徴など、人との違いを話題にするのはタブーであるという基本的・社会的ルール、マナーがあり、これは幼少期から徹底して身につけさせられるとのことでした。一方、偏見・差別やそれらに基づくhate crime(憎悪犯罪)も根強く存在しており、さらに州によっては同性愛が犯罪扱いされている地域もあるそうで、これは当事者にとっては恐怖以外の何物でもないと思います。このように、良くも悪くも「個別性」「個人の価値観」が重視されるのが米国の特徴だと言えるのかもしれません。

 また、サンフランシスコの歴史的背景として、80年代~90年代始めにかけてゲイ・コミュニティを襲ったエイズ禍は、身近な人が次々と亡くなっていくという非常にtraumaticな体験を地域にもたらしました。その後、90年代半ばにHAARTが登場・浸透し、エイズの治療は激変しましたが、慢性病化したとさえ言われる今も、サンフランシスコは過去の悲惨な体験やその時の痛みを忘れずにいることが、今回訪れたいくつもの施設でお会いした関係者の話でたびたび実感されました。例えば、HAART登場後にこの分野に参入した若手の医療者も、自分がその歴史の上にいることを忘れずにいるという発言をたびたび耳にしました。サンフランシスコのHIVへの取り組みには、この経験が今も動機付けとなっていることが十分考えられました。また、80年代の感染拡大と死が支配していた悲惨な日々のさなかにあって、サンフランシスコのゲイ・コミュニティの人々がHIV感染予防を訴え始め、その過程で数々のセクシュアル・マイノリティ向けの活動団体が育っていったそうです。こうした「打たれてもへこたれるだけではなかった前向きの強さ」がサンフランシスコにはあるように思います。

6.おわりに

サンフランシスコのセクシュアリティ教育は、当初私が予想したような理想的なものではありませんでした。つまり、今のサンフランシスコがセクシュアル・マイノリティに対して親和的・共感的であるのは必ずしも教育のおかげではありませんでした。むしろ、教育は政権や地域、学区、保護者の意向を強く反映し、制限を受けることが多々あるとのことでした。しかし地域にはNPOなど学校教育以外のリソースが充実しており、それぞれが特徴的・個性的で、個別性の高いニードにも対応できるフットワークの軽さのようなものがあるように思われます。

 翻って日本の現状を考えると、まだまだ文科省からの画一的な学校教育が主流であり、公的な教育カリキュラムに今後どう、セクシュアル・マイノリティ(とそのメンタルヘルス)に配慮したセクシュアリティ教育を盛り込んでいくかが重要であり、緊急の課題であるのは間違いないと思います。そうすることで社会一般に、まずはセクシュアル・マイノリティへの理解を広める意味は大きいと思われます。

 しかしすべてを公的な教育任せにするのではなく、時にはそれを補完し、あるいはそもそも個別性が高い「人間の性」を扱う上で、多様なニーズに応じていけるようなリソース(施設、サービス、情報、人材など)を充実させていくことも同時に不可欠だろうと思われます。

 今回サンフランシスコでは、ともすれば社会の枠組みの中からこぼれおちてしまうものを、どれだけ拾い上げる環境が整っているかが社会の豊かさのひとつの証であるということをあらためて学んだように思います。私も普段、社会の中で少数者とされる病者を対象に仕事をさせて頂いています。病者にやさしい社会は健常者にもやさしいことは自明の理です。そういう意味でも少数者に配慮した対応、活動を今後一層心がけていきたいと思います。

 今回、多くの関係者の皆様のご支援・ご協力でこの研修を受けることができました。最後にあらためて心よりお礼を申し上げます。有難うございました。

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