研修会報告
平成22年度HIV海外研修報告記(サンフランシスコ)
平成23年1月27日〜平成23年2月11日にサンフランシスコで行われたHIV海外研修に、当院スタッフが参加しました。
研修期間 平成23年1月27日(木)〜平成23年2月11日(金)
メンバー (あいうえお順)
薬剤科 河合 実 (薬剤師)
看護部 鈴木成子 (看護師)
感染症内科 谷口智宏 (医師)
企画課 (医事部門) 藤田知宏 (入院係)
救命救急センター 星 寿子 (看護師)
リハビリテーション科 村川雄一朗 (作業療法士)
目次(クリックするとリンク先へ飛びます) 報告者
1. 概要
2. ワクチンの視点から日本の医療を考える
谷口智宏 (医師)
3. HIV海外研修に参加して
河合 実 (薬剤師)
4. 長期療養患者支援に必要なこと
鈴木成子 (看護師)
5. HIV陽性者とそのリスクがある若者へのエンパワーメント
星 寿子 (看護師)
6. HIV感染症研究者海外研修報告書
村川雄一朗 (作業療法士)
7. HIV感染症研究者研修を受けて
藤田知宏 (入院係)
1. 概要
 
月日 場所  
1/27 (木) サンフランシスコ着  
研修センター オリエンテーション、日本・自施設の状況報告等
カストロ地区散策  
1/28 (金) 研修センター プログラム説明
UCSF、SFGH訪問  
1/31 (月) RecycledAIDS Medicine Program SFにおけるHIVケアシステムについて講義
Tom Waddell AIDS clinic 院内視察
2/1 (火) Immune Enhancement Project HIV臨床薬剤師によるHIV薬物療法講義
2/2 (水) Tom Waddell AIDS Clinic free sexual health servicesについて講義
Kaiser HIV team meeting見学
Kaiser Medical Center AIDS治療の傾向、resistance testingとARTについて講義
2/3 (木) Tom Waddell AIDS Clinic HIVとエイズの放射線学について講義
Maxine Hall Health Center HIVソーシャルワークに関する講義
2/4 (金) Saint Anthony Free Medical Clinic 院内見学
HIV患者の診療について講義
2/7 (月) Positive Resource Center 雇用プラグラムについて
Tom Waddell AIDS Clinic HIV患者との面談
2/8 (火) 研修センター AIDS Lifecycle volunteer講義
ビデオ鑑賞
2/9 (水) 研修センター 個別プレゼンテーション
Graduation ceremony
2/10 (木) サンフランシスコ発  
2/11 (金) 大阪着
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2. ワクチンの視点から日本の医療を考える
感染症内科 医師 谷口智宏

 サンフランシスコにおけるHIV研修を、ワクチンの視点からみることで気づいた日本の医療の問題点を報告します。

 まず日本はワクチン接種に関して後進国です。接種できるワクチンの種類が少なく、費用もかかり、接種率も低いからです。例えば小児に髄膜炎を起こすインフルエンザ桿菌タイプBに対するHibワクチンは2008年に、小児用の肺炎球菌ワクチンは2010年に認可されたばかりで、世界的には10年遅れました。これらは任意接種のため1回につき8000円ほどかかり、日本では複数同時接種はほとんど行われないため、保護者は平日の小児科クリニックへ何度も足を運ばなければなりません。HIV診療におけるワクチン接種については、B型肝炎ワクチンは積極的に接種しており、インフルエンザワクチンも毎年ほぼ全員に接種を呼びかけていますが、A型肝炎は希望者にしか接種しておらず、肺炎球菌ワクチンも、高齢者、呼吸器疾患や脾摘者などにしか接種していません。

 サンフランシスコでは、町を歩くといたる所にインフルエンザワクチン接種を呼びかけるポスターがあり(写真1)、町の薬局(写真2)やスーパーマーケットの中で、週末でも予約なしに接種できます。現地の日本人会で聞いてみても、65歳を超えた高齢者の方たちの8〜9割がインフルエンザワクチンを接種していました。HIV診療では、新規のHIV感染者は減少傾向で、高齢化は日本以上に進んでおり、とにかく外来でのケアや予防を重視します。ワクチン接種にも非常に積極的で、A型とB型肝炎は混合ワクチンによる同時接種が可能、肺炎球菌ワクチンも年齢などに関わらずルーチンで行われていました。クリニックによっては、冬になるとインフルエンザだけでなく、百日咳ワクチンを接種するところもありました(表1)。訴訟大国のアメリカで、ワクチン接種にここまで積極的になれるのはなぜでしょうか。

 その最大の理由は、免責制度があるかないかの違いだと思います。日本ではワクチンによる後遺症が生じても、医療者やワクチンメーカーの免責制度がありません(表2)。医療に100%の安全を求める傾向があり、ワクチンによって何か問題が生じると、接種した側は訴えられる可能性があるため、どうしても及び腰になってしまいます。一方アメリカでは、ワクチンによる後遺症が生じて国による補償を受ける場合は訴訟ができない、つまり接種側の免責制度があります。ワクチンによる予防は、治療よりもコストが安いことは明らかですが、残念ながら100%安全ではありません。そのことを理解し、アメリカらしく合理的な制度を作っているため、ワクチン接種に積極的になれるのだと思います。

 私は臨床感染症医ですので、感染症で苦しむ目の前の患者さんを診療するのが仕事です。しかしそれだけでは救える命に限りがあります。感染症に罹らないために、ワクチンを始めとした予防を広めていくことも、これからの感染症医がやるべき仕事の一つです。そのためには、このような情報をまずは院内に、さらには地域社会に発信していきたいと考えています。

 最後に、このようなすばらしい研修を提供してくださった大阪医療センターの皆さんと、現地のコーディネーター小林まさみさん、Daveさん夫妻に感謝致します。今後もこの研修を続けていただき、HIVを始めとした感染症に理解のある職員がさらに増え、それが日本全体の感染症のレベルアップにつながっていくことを願っています。

  日本 サンフランシスコ
B型肝炎 HIV患者と医療者が中心 HIVに限らず乳児から打つ
皮下注射 筋肉注射
HBsAbがつけばそのまま(?) HBsAbが陰性化すれば再接種
A型肝炎 希望者のみ MSMなら打つ
B型肝炎と同時接種可
インフルエンザ 同じ 同じ
肺炎球菌 高齢者、呼吸器疾患、脾摘のみ クリニックによってはルーチン
HPV 行っていない ごく限られた症例のみ
帯状疱疹 帯状疱疹ワクチンはない 行っていないが研究中?
水痘ワクチンも禁忌
百日咳 成人に追加接種はしない クリニックによっては冬に接種

表1: HIV診療におけるワクチンの日米比較

  日本 アメリカ
何に重点を置くか? デメリット=後遺症
(100%の安全を求めがち)
メリット=安いコストで予防できる
(合理的)
無過失補償制度 定期接種は予防接種法による
予防接種健康被害救済制度
国からの補償
任意接種は医薬品医療機器総合機構法による
医薬品医療機器救済制度
補償の財源 定期接種は税金
(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)
ワクチン一本あたり75セントの税金による基金
(後遺症は起きるとの前提に立つ)
任意接種は製造販売業者からの拠出金
免責制度 ない
(補償金を受け取っても訴訟を起こせる)
あり
(補償金を受け取るなら訴訟はできない)
医療者や製薬会社の気持ち 訴えられる怖れあり 訴えられるリスクは低い
消極的に 積極的に

表2: 後遺症への補償と免責制度に関する日米比較

バス停のポスター

写真1: バス停のポスター

薬局前のポスター

写真2: 薬局前のポスター

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3. HIV海外研修に参加して
薬剤科 河合 実

 2011年1月27日から2月11日までの約2週間HIV海外研修に参加させていただいた。サンフランシスコにおけるゲイから拡がるエイズの歴史、それを援助する各種支援システムの現状、医療や行政の対応、エイズ患者が抱える問題点について学ぶことができ大変貴重な経験となりました。HIV感染症はHAARTの登場により長期生存が可能な慢性疾患となったことから服薬支援など薬剤師の重要性は高まっている。今回、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)をはじめ、サンフランシスコ総合病院、民間のカイザーHMO総合病院で臨床薬剤師から薬剤師の役割と抗HIV薬の現状について話を伺う事が出来たので報告致します。

臨床薬剤師によるHIVケアにおける薬剤師の役割について

UCSFの臨床薬学博士からHIVケアにおける薬剤師の役割について講義頂く予定でしたがスケジュールの都合上スライドによる学習となりました。 以下はスライドからの抜粋で薬剤師の主な役割です。

   1) Treatment advocacy
      ・Adherence case management
      ・Improve access to medications
   2) Medication consults/Drug Information
      ・Drug interaction screening
   3) Quality Assurance
      ・Ensure proper medication therapy for all patients in clinic
      ・Ensure patients treated according to latest guidelines
      ・Pharmacovigilance

 当院のHIV担当薬剤師の業務と大きく異ならないことが確認できました。
では違いはというと、保険の種類に応じた薬の選択や保険会社との治療についての協議です。日本では国民皆保険制度のため、院内処方では採用薬という制限はあるが、院外処方においては薬価収載薬品であればすべて処方可能である。米国では、一般的には民間の保険会社の保証プランに加入するため、各保険会社が定めたフォーミュラリ薬しか処方できず薬剤師がチェックする必要があるとのことでした。

 UCSF HIV ポジティブクリニックではHIVチームカンファレンスに参加させていただきました。
こちらでは女性を対象とした外来を行っており、診療開始前に約1時間程度、本日来院予定のHIV外来患者の情報交換のためチームミーティングを行っているとのことでした。見学を行った日は21症例提示され、治療の進行状況や薬剤の変更の提案、患者の申告に応じて安易に麻薬の投与量を変更しないこと、患者の治療環境や薬物依存、妊娠について情報交換し、方針についてディスカッションを行っていました。その後臨床薬剤師のオフィスで医師から相談のあった3症例についてレジデントと検討を行いました。内容としては1症例目がダルナビルに耐性の場合のブースター薬剤と投与量・投与回数について、2症例目がラトナビルの副作用と薬剤変更について、3症例目がリトナビルとの相互作用薬剤のチェックと抗うつ剤の選択でした。

 次にカイザーHMO病院でランチミーティングに参加しました。専門医、ナースプラクティショナー(NP)、看護師・臨床薬剤師からなるコーディネーターによって入院患者の治療や経過、退院後にいてのディスカッション、薬剤関係の最新の情報提供、治験についての情報提供が行われているとのことでした。参加当日はT-20(Fusion Inhibitor)の硬結の問題とラルテグラビルへのスイッチスタディやリポアトロフィーの予防目的の新薬と使用制限、リンフォーマとHAARTの早期導入の関係やHPVワクチンについてディスカッションを行っていました。その後HIV専門薬剤師から保険制度やHIVケアでの薬剤師の役割としての予防に関する仕事内容や副作用モニタリング、相互作用チェックや治療のマネージメントについて講義を受けました。

 サンフランシスコ総合病院では入院薬局を見学させていただきました。薬剤師の役割は、医師のオーダはFAXのため臨床薬剤師が処方チェックを行った後オーダ入力を行う。処方権はなくすべてのオーダは医師が行うとのことでした。そしてその情報をもとにテクニシャンが病棟毎に1週間分カートに調剤を臨床薬剤師が鑑査を行っていました。病棟では看護師が配薬を行っているとのことでした。また救急以外は看護師が混注を行うことが許されていないため麻薬を含む注射薬はすべて薬局で無菌調製されていました。時間の関係上今回の目的の一つである感染症専門薬剤師から現状を聞くことができなかったのは非常に残念でした。

サンフランシスコにおける処方状況と新薬情報
初回治療メニューについて

 当院では、TVD+DRVN,TVD+RAL,TVD+EFV,EZC+DRVN,TVD+ATV+RTVの順でよく使われています。UCSFではアドヒアランスがそれほど良くないことからRALはあまり使わない。またTVD+EFVは合剤を使用し、EZC+DRVNよりTVD+ATV+RTVの方がよく使用するとのことでした。カイザーでは比較的アドヒアランスが良いことから当院とほぼ同じ傾向とのことでした。

副作用について

 当院ではATVによる結石の頻度が上昇しているとのことからサンフランシスコでの現状を確認してみるとあまり聞かないとのことでした。

新薬に関する情報

HIV感染者のリポジストロフィーに注射薬tesamorelin(EgriftaR)が承認された。

研修を終えて

 今回抗HIV薬以外は情報の乏しい私にとって、HIV/AIDSの医療体制や患者支援体制、予防活動、ソーシャルサポートなど学びえることがたくさんありました。また患者自身が健康を取り戻したり維持させるためのサポートプログラムが整備されていることが非常に印象に残りました。HIV/AIDSは慢性疾患となり、患者にとって確実に治療が継続できることが重要であり、アドヒアランスを低下させないために国や医療機関でサポートしていく重要性を学びました。また予防活動が積極的に行われ、コール・ストリート・クリニックで若年層に行われていたピアエデュケーションは印象的であった。ただ、日本の新規HIV感染者をこれ以上増やさないためにも、家庭や学校での性教育や国や医療機関を中心とした予防啓発の推進、検査体制の整備などの必要性を強く感じました。今後は、今回の研修で得たものを消化し、マクロの観点から薬剤師としての職能を発揮できるよう、日々研鑽していきたいと考えています。

謝辞

 今回研修の機会を与えていただきました病院職員の皆様、現地でお世話になりました小林まさみさん、デイブさん、シンディさんをはじめ講義をいただいた皆様に深謝いたします。

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4. 長期療養患者支援に必要なこと
看護師  鈴木成子
 
はじめに

 近年の抗HIV薬の発展により、HIV/AIDSは長期生存が可能となり、慢性疾患と位置づけられるようになった。サンフランシスコでは、多くの患者が地域で生活しており、医療だけでなく様々なソーシャルサポートが陽性患者の生活を支えている。今回の研修を通して、患者との接し方の基本的姿勢、長期療養患者を支える上で必要なことは何かを学ぶことができたので報告する。

◇ 陽性患者との関わる時の基本的姿勢
(1) Maxine Hall Health Center (HIVプライマリケア外来)

@ Jay Sheffield(Social worker)の話から
 この施設ではAIDS/Non AIDSともに扱うが、AIDS患者は差別のために、よりニードが高くなっている。なぜなら、感染によりセクシャリティやSex workerであること、drug使用歴があることを知られるからだ。患者の対応をする時、最も大切なのはNon judgeの姿勢で、患者がどのように返事をするか注意深く観察することである。この時に重要なのは、必要以上に驚かず、感情を出さないこと。たとえdrugの使用やセクシャリティのことであっても、それは特殊なことではないという態度で接すること。そうすることで大事な情報を聞き出すことができる。そしてその情報から、治療の障害となりうるものを取り除く必要がある。
 ハームリダクションという手法を用いて行うが、行動をとめるには物質に対する依存だけでなく、その行動に至る原因の両方を絶たなければならない。

A Dr. Jammes(20年以上HIV/AIDS治療に携わるプライマリケア医)の話から
 治療が進歩するまでは、Dr.は治療のことだけを考えていればよかった。しかし、現在では長期療養が可能になったため、糖尿病や高脂血症などの問題も含めて全身状態を観察しなければならない。また、患者と向き合って話をすることも重要になっている。それは、抗HIV薬を処方しても治療が成功するかは、内服が継続できるかにかかっているからである。内服をしない理由は人それぞれであり、個々に解消する必要がある。その人がわかるように繰り返し説明をしなければばらない。必要であればサポートグループを紹介し改善法を見出す。

Maxine Hall Health Center
Methadone Clinicが併設されている。
SFではIDUやHCVの共感染が深刻な問題と
なっている。

(2) Kaiser Medical Center(会員制Hospital 外来診療)

Ed Chitty(HIV Coordinator)の話から
 患者を受け入れる環境において気をつけているのは、殺風景な室内にならないよう物をおくこと、椅子の高さを調整し患者より低い視線になること、そして自身も白衣は着ない。これは、患者が病院に来たとバリアをはらないようにするためで、決してしないことは、背をむけてパソコンに向かい、データをつけてこうしなさいと言うこと。特にはじめて来院した時はこちらから話をしても、覚えていないためNon judgeの姿勢ですべてを受け入れる。
 こちらの連絡先を教え、もし連絡がなければ2・3日のうちに電話をいれフォローするようにしている。

◇ 患者の立場から長期療養が抱える問題について
The AIDS Healthcare Foundation A氏(4年前から抗HIV薬の内服を開始)の話から

 A氏自身は治療を開始する以前も喫煙やアルコール、drugなどの習慣がなく、精神的な問題も解決していた。安定した仕事に就き、保険がしっかりしている。サンフランシスコはサポートシステムがしっかりしていて、医師の経験もある。AIDSのことを口に出して話すことができる。田舎に行くとそうではなくなる。偏見があるし、人によっては差別的な発言を受けたりした人もいる。誰にも言えない秘密を持って生きることは大きなストレスになる。自分自身特に問題となることはないにも関わらず、いつか悪くなるのではという不安がいつも頭の片隅にある。治療が発達した今、AIDSが身体に影響を及ぼすというのではなく、AIDSが物事を悪く考えてしまうなど、精神的に影響を及ぼしていることが問題だという。

研修を終えて

 長期療養において、内服における障害(物質的依存や経済面の問題)がないこと、主治医などの医療者と信頼関係が築けていることが重要である。また、何より自分がpositiveであることを言える環境、そして差別や偏見がなくありのままの自分を受け入れてくれる「1人のAIDS患者としてではなく、1人の人間として受け入れてくれる」関係が1つでもあることは、長期療養を行う上で強い支えになると感じた。日本においては感染のリスクなどの正しい知識が普及しておらず、未だ差別や偏見が根強い。また、自分には全く関係ないことと考えている無関心も。そして残念なことに、その偏見や無関心は医療従事者の中にも存在している。地域で患者が安心して生活できる環境をつくるためにも、ソーシャルサポートの充実はさることながら、差別や偏見が少ない社会の構築が必要である。そのためにも、自分自身の視野を広げ、後輩の育成を行い、AIDSプロジェクトの一員として、院外・院内の研修で1人でも多くの医療者に病棟看護の実際を知ってもらい、まずは医療従事者への正しい知識の普及を行っていきたい。

おわりに

 今回このような研修に参加させていただける機会を与えてくださった、医院長をはじめとする病院関係者の皆様、研修に参加にご尽力頂いた方々に深く感謝いたします。

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5. HIV陽性者とそのリスクがある若者へのエンパワーメント
救命救急センター 看護師 星寿子

 サンフランシスコの救急診療におけるHIV/AIDS診療とその看護を知るという目的に向かって研修していく中で、とくにエンパワーメントの重要性を感じました。よって今回はエンパワーメントに焦点を絞って報告させていただきます。

 みなさんもご存知の通り、エンパワーメントというのは権限をあたえることによってその人が本来もっている力を引き出す支援のことをいいます。「力をつけること」つまり、自主的に、自律的に行動ができるように力をつける支援活動として看護の世界でも使われることが多くなりました。たとえば、患者様を尊重し、権利を擁護すること、疾病予防への教育や、セルフケアができるように支援することです。

 Bay Young Area Positiveという施設は、20年前に設立された、若者が運営する施設で、14歳〜26歳の若いHIV陽性者が健康な生活をするために支援しています。HIV陽性者は、サンフランシスコ以外の州の若者が多いそうです。覚醒剤などのdrug userが多く、ホームレスやシェルター暮らし、売春しながら宿をとるといった住所不定の若者がいます。また、刑務所に入った後、仕事がなかなかみつからないなどの背景をもつ若者もいます。そのようなHIV陽性者に対してサポートしていきます。

 例えば、カウンセリングを行います。ピアカウンセリングといって「私も同じ経験をしたからあなたの気持ちがわかります」といった仲間としてのカウンセリングは、本音で語り合うことができ、仲間にサポートされているという実感がもて、効果的に援助することができるようです。

 drug userに対しては、Harm reductionといってドラッグの使用頻度を段々と減らしていき、目標設定を低いところから達成させ、まず、使用頻度を減らすようにすすめます。

 また、お酒はおかないパーティを開催することで、お酒がなくても楽しいと実感してもらいます。このように、飲酒やドラッグの使用を避けることで、健康を維持させ、判断力を低下させないことによってSTIの予防や、STIやHIV感染を拡大させる機会を少なくしていきます。

 これらのサポートは、Social learning theoryといって社会で同じような生き方をした人の真似をする傾向を利用しています。

 そして、住居や仕事を探したり、予約なく飛びいりで施設に訪れても受入れています。このような支援を受けることによって自分の居場所をみつけ、自分が変わっていくプロセスを目の当たりにすることで「自分にもできる」という実感につながると思いました。

 Cole Street Clinicへ行き、サンフランシスコの若者へ性教育を提供する施設を見学しました。Huckleberry Youth Programという組織の中に含まれるMulti-Service Centerで、主に12歳から24歳の若者に対して、性感染症の予防、性を中心とした教育、将来この仕事に携わりたい人が実際に学ぶ、働く場を提供するといった働きがあります。医師、看護師、NP、educator、心理士などの多職種が働いていました。

 中学や高校に出向いて生徒に性教育を行いますが、SFO以外の州では保守的であることも多く、コンドームのデモンストレーションはできないなどの制限があるようです。

 性教育の実際では性に関する言葉をゲームに使ってアイスブレイキングし、クイズ形式で知識を身につけさせる方法がとられていました。

 また、コンドームを無料で配るだけではなく、その責任として、コンドームの使用方法や注意点を教育し、装着ができるかなどのフィードバックを行っていることが、自己満足ではない教育だと感じました。 若者への「性に対する恥ずかしさ」という氷の殻をこわし、ゲーム感覚で楽しむことで興味をひきつける、それが性教育の動機づけになっていると思いました。

 そして少年院へ行ってカウンセリングをしたり若者の家族への指導・相談を受けたりすることもあります。これは、カウンセリング・相談をうけることで、その人の問題や改善点を明確化できます。また癒しの場でもあると考えました。高校生も教育側に参加します。それは、Peer counselingの効果が得られることや、教育側の高校生自身が「役にたてた」という実感があります。実際に性教育をうけて避妊や感染予防に対する知識が身につくこと、家族という環境を整えることで若者が力を発揮しやすいこと、参加している若者もまた自己肯定感につながっていることは、これもエンパワーメントであると思いました。

 Immune Enhancement Projectは、25年前から活動し、10年前からガンやHIVといった免疫異常の疾患に対して、漢方の処方、鍼治療やアロマ療法、マッサージなどを行い、免疫機能を増進させることを目的としています。低所得者層向けのクリニックです。

 免疫力を高め、心身がリラックスすることにより、潜在能力を高めます。アロマテラピーや、間接照明には癒しが感じられ、裕福層が利用するような空間でした。低所得者向けに癒しの空間をつくり、歓待することで、尊厳をもって治療を施されているという実感につながると思いました。これもひとつのエンパワーメントだと感じました。

 しかし、問題点もあると思います。すべての若者・HIV陽性者がサポートを受入れて改善するわけではありません。また、問題となるような行為が改善しても、繰り返してしまう可能性はあります。そうなると、サポート側のモチベーションも低下します。今の日本では一般市民だけではなく、医療者もHIV/AIDS・MSM・精神疾患患者に対する知識・理解度が高いわけではありません。 私なりに、サンフランシスコで出会った講師の言葉をお借りして、打開策を考えました。

 まず「すべての若者・HIV陽性者がサポートを受入れ改善するわけではない」ということについてですが、診察の予約に来ない若いHIV陽性患者に対して、ハイランド病院の医師は、「予約日にこないから、いつでもきていいと伝えた、これは忙しい医師にとって大変なことだけど必要なことだった。」とおっしゃいました。また、カイザー病院のHIVコーディネーターはアドボケーターとして「私はあなたの権利を守ります。裁くつもりはまったくありません。あなたをユニークでスペシャルな人間と思っています。」と伝えていました。

 あきらめずにサポート体制を多様化することの重要性、患者さまを脅かす存在ではないことのメッセージを送り続けることが大切だと思いました。

 また、Maxine Hall Health CenterのSWは、「麻薬がやめられないならニードルは交換する。麻薬をうてと誘われたら、一番にうつ。なぜならそのニードルは感染してないから。」と指導していたり、カイザー病院のコーディネーターは、「何かあったら電話をしてきてもいいよ。6時から22時の間でね」とユーモアを交えながら伝えていました。これは、正論だけで向き合うのではなく、角度を変えてアプローチすることも必要ということ、そして、患者様が、ふと不安や疑問がわいたときのより所をつくることも大切だと思いました。

 「サポート側のモチベーション維持」については、Bay Young Area Positiveの施設の方にお伺いしました。仕事にひきずられない。そのためには趣味をもってオフを楽しみ、必要なら勤務の調整をするそうです。物事に反省することは大切ですが、必要以上に私達のせいだと思い込まない、みんなで(チームで)サポートしているということを忘れない。そして、私達も人生を楽しむ努力をすることが大切だと思いました。

 「医療者も知識・理解度が高いわけではない」ことに対しては、まずは、私から発信することが大切で、研修で学んだことを自施設で伝達、家庭、友人にもわかりやすく話していく。救急看護認定看護師のネットワークも利用していこうと考えています。

 看護師としてエンパワーメントができることは、傍にいること、そしてそのひとを認めることだと思います。もちろん、ずっと傍にいることではありません。でも必要なときに傍にいる、マッサージやケアを通してタッチングする、ひとりではないことを、言語的に、非言語的にメッセージを送ることがエンパワーメントにつながるのではないかと考えました。HIV/AIDS診療における患者様のアドボケートとして、エンパワーメントできる看護師をこれからも目指していきたいと思います。

 最後にこの研修に参加させていただく機会を与えてくださり、深く感謝いたします。
 ありがとうございました。

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6. HIV感染症研究者海外研修報告書
リハビリテーション科 作業療法士 村川雄一朗
1.はじめに

 日本において、HIV感染者やAIDS患者は増加傾向であり、中でもAIDS発症して初めてHIV感染に気付く人も少なくない。治療技術の向上により感染しても寿命を全うされる方も増えてきているなど、感染者の高齢化という問題は日本もアメリカも同様である。また、性的知識の未熟な若年者による感染も問題になっている。そのため脳障害等による種々の身体機能低下や日常生活能力の低下に対する医学的リハビリテーションだけでなく、就労等の社会参加促進のための社会的リハビリテーションも重要であるといわれている。当院でもしばしばリハビリテーション(以下リハビリ)の対象として、作業療法士等のリハビリ職種が関わっているという現状がある。今回、研修に参加するにあたって、医療と福祉の双方に関与することの多い作業療法士としてサンフランシスコでの医療・福祉の現状とそれらのつながりを学ぶという目標を立てた。そのため、ここでは、現地でのHIV感染者/AIDS患者に対する作業療法の現状と、就労等の社会参加支援を中心に報告する。

2.医療機関での作業療法

 2011.1.28にSan Francisco General Hospital(SFGH)を、2/2にUniversity of California,San Francisco(UCSF)を見学した。

 SFGHは市民病院であり、保険を持たない低所得者に対するドロップイン(先着順ではあるが無料診療してもらえる)としても機能している。作業療法については専用の部屋があり、そこで上肢・手指の訓練やパソコン操作等の練習が行われているとともに、日常生活の訓練が病棟にて実施されている。特色としては病棟内の配色や談話室の配置等、環境に工夫のされた高齢者病棟の存在が挙げられる。

 UCSFは、急性期の大学付属病院である。セラピスト数は理学療法士30人、作業療法士20人、言語聴覚士8人程度と急性期病院としてはリハビリの規模が大きく、HIVやAIDSに対するリハビリというよりも、それによって生じる合併症に対するリハビリを行っている。ベッドサイドや廊下および階段を利用してリハビリを実施しており、リハビリ室は無いとのこと。さらなるリハビリテーションが必要であれば街のリハセンター(リハビリ病院)へ転院していただくという形をとり連携している。ここでの作業療法はOT practice model(@活動における自立性、Aその人にとって価値が有り精神的安寧を得られる作業の使用)に基づいて行われている。

 これらの機関での作業療法は、対象者の個人や環境を踏まえ、作業遂行能力や社会参加を改善させる役割という役割を担っており、種々の評価法を活用しながら対象者像の把握と介入方法の設定を行っている。また、具体的な介入方法としては、例えば日常生活の問題があれば、身体機能の強化、動作の簡素化や手順の教育、他の方法の提案、福祉用具の適応、環境調整を行い、認知面の問題があれば代償方法や環境面の調整を行う。また、心理社会面の問題があれば、自分で何ができるかの認識を高め、それらをマッチングし、社会資源の活用へとつなげていくという介入がされている。特に、心理的にも不安定になりやすいHIV/AIDS患者さん対しては、意欲や自信をつけることができるような関わりの中で、生活等における動機付けを図ることが寛容であるといわれている。いずれの施設においても、看護師や家族との連携およびリハビリ職種に対する医師の理解が必須であると言われているが、日本と同様にサンフランシスコにおいてもリハビリ職種である理学療法士や作業療法士に対する理解は十分でなく、適切な時期に適切なリハビリが処方されないことがあるとも言われている。そのため、他の医療職種に理解してもらうための広報活動も実施しているということであった。

3.社会参加への支援

 社会参加に関わる支援としては、Bay Area Young Positves(BAY Positives)が特徴的である。

 BAY PositivesはHIV positiveである当事者によるNPOであり、主に若年者に対して、HIV/AIDSについての情報提供や学校等へのアウトリーチ(対外広報活動)といった種々の情報発信場所として機能しており、Drug使用者や今後の生活に対する不安を抱く人に対して、ピア(当事者)としてカウンセリングや助言も行われている。また、ホームレスであることや能力面の不安から就職できない人に対して、BAY Positivesのスタッフとして働く場を提供し、就労歴を与えるという活動も行われている。

4.まとめ

 作業療法を含めたリハビリテーションの内容や考え方自体は日本とよく似ており、HIV感染者/AIDS患者に対する介入方法についても、評価方法(検査の種類)にわずかな違いはあるものの概ね同様のものと言える。HIVは日常生活や心理面、認知面、社会面など様々に影響を受ける。リハビリにおいて運動等の訓練を行うことで、血圧等の内科的改善、筋力や持久力等の身体的改善・向上、日常生活能力の改善、気分等精神面の改善などが期待され、結果として患者の生活やQOL向上につながっていくと考えられる。また、リハビリテーション職種に対する他職種の理解の低さにより、適切なタイミングで適切な内容のリハビリテーションが行ない場合があるという現状も、サンフランシスコと日本の間で差異はみられない。加えて、HIV感染者/AIDS患者の高齢化が進んできている状況の中で、日本においてもサンフランシスコにおいても、受け入れ施設の拡充と施設関係者への理解の促進が不可欠である。

 HIV感染者/AIDS患者にとって、職業や学業への復帰はよりよい健康へと繋がる因子の一つではある。しかし、サンフランシスコにおいてもHIVに対する社会の偏見は存在しており、身体能力の問題やホームレスであるという生活状況も相まって就職し辛い状況である。また、感染者にゲイの人が多いHIVにおいて、カリフォルニア以外の29の州でゲイを理由に職場を解雇して良いという州法があるということには驚きである。

 BAY Positivesのように就労支援を行っている機関はサンフランシスコにおいて沢山存在しているものの、個々の機関同士の連携が十分行われているとは言えない。これは日本においても同様であり、支援機関の数の増加と周知徹底およびHIVに関する社会的な理解の促進が、就労支援や復学支援等の社会的リハビリテーションにおいて今後も不可欠であると考えられる。

5.急性期病院で勤務する上での作業療法士としての今後の課題・方針

 以上の内容から、私自身当院にて勤務する上で、HIV感染者やAIDS患者との関わるにあたって今後何ができるのか、何を行っていくべきかを列挙する。

・ 従来通り、患者の能力や生活状況に合わせた機能訓練および日常生活等の動作訓練
・ 患者のニーズや趣向を踏まえた作業の提案と、それによる精神面へのアプローチ
・ 他職種との密な連携や交流による、作業療法に対する理解の促進と治療の円滑化
・ 高齢化しつつあるHIV感染者に対する包括的なリハビリテーションのための知識や技術の拡充
・ 社会参加支援のための各種団体や支援施設についての情報収集および連携

6.最後に

 このような貴重な経験の機会を頂けたことに感謝するとともに、当院関係者の方や現地のコーディネーターの方々、各種見学施設の方々に厚く御礼申し上げます。

 
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7. 平成22年度HIV感染症研究者研修を受けて
企画課医事部門入院係 藤田知宏
1.はじめに

 1月27日から2月11日までサンフランシスコでHIV研修を受けてまいりました入院係の藤田と申します。この16日間で学んだことを報告させていただきます。

 初日にゴールデンゲートパークという広大な公園の中にある、The National AIDS Memorial Groveに行きました。途中、バートやバスの中でHIVのポスターが貼られていて、日常生活ではほとんどHIVのポスターをみたことがない日本との差を実感しました。Memorial Groveにはあらゆるところに記念碑があり、記念碑にはAIDSで亡くなった人達の名前と彼らに対する思いが刻まれていました。また、石床にはエイズで亡くなった人々の名前が円形に広がるように書かれていました。中心には日々尽きることがないという花がたくさん供えられてあり、神聖に感じました。

 病院としては、サンフランシスコ市立総合病院(SFGH)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校付属病院(UCSF Medical Center)、私立のカイザー病院の見学をさせていただきました。

 SFGHは病床数598の急性期病院です。外来受付、救急部門、入院薬局、高齢者病棟、リハビリ病棟、そしてHIV専門外来診療所(ward86)を見学しました。特に印象に残ったのは外来受付での無保険の患者さん達の列でした。アメリカは無保険の患者さんは切り捨てられるのかと個人的に思っていましたが、ここの病院はそういった患者さん達の最後の砦のようになっているそうです。ただしサンフランシスコ市民であるという条件付きだそうですが。

 無保険の患者を診るということもあり金銭的問題で入院薬局での医師のオーダーがFAXで行われていました。コンピューター化されているのは検査、食事、患者背景、過去カルテなど一部だそうです。薬剤師には処方権は全くないそうです。

 高齢者病棟は他の病棟とは異なり高齢者に配慮した色遣いの病棟となっていました。

 Ward86でHIVの診療室の見学やHIVの患者背景やその中での問題に対する取り組みをスライドで学びました。

 UCSFは病床数687の大学付属病院で年間のべ100万人の外来患者さんが来るそうです。ここではHIVに対するリハビリをスライドによる講義で学びました。HIVは日常生活や社会面、心理面、認知面、家庭内での役割など様々に面に影響を与えますが、セラピストはこれらの状態をリハする役割を担っており、HIVにはリハビリテーション科スタッフの役割も重要であると感じました。ところが、サンフランシスコではセラピストの役割を理解していないドクターも結構いるそうで、適切な時期に適切なリハビリを提供できるように多職種の理解も必要だなと感じました。また、この病院ではICUにいる頃から部屋中を歩き回るようにしているそうです。当院でもICUにいる頃からリハビリはするのですが歩き回ることまではしないので差があります。

 サンフランシスコのカイザー病院ではプライマリーケア外来を見学しました。プライマリーケアとは初期医療のことです。ここではHIVの患者でも内科から婦人科などまですべてプライマリーケアで診ることにより患者さんにとってもあちらこちらの病院に行かなくてすむというメリットがあります。SFのカイザー病院全体で15万人の患者を診ていて、今回見学したユニットで2万3千人を13人で診ているそうです。この中にHIV陽性者は2250人いるそうです。

 プライマリーケア外来で13人の医療従事者によるランチミーティングの様子を見学しアジア系男性の薬剤師と白人男性ナースの説明を受けました。

 ランチミーティングは文字通りランチを食べながらHIV患者の現状や最新医療を、分野の違う専門家の意見を参考にしたり、チームの一体感を強めるために、そして勉強会の意味も込めてミーティングをします。ごはんを食べながらミーティングをするというのは日本の病院ではまずお目にかかれないことだと思います。

 アジア系男性の薬剤師からは、HIVケアにおける薬剤師の役割や薬の現状をお聞きしました。

 カイザー病院においては服薬遵守ができていない患者さんが5%だそうです。

 白人男性ナースの面談を、私が患者役になって受けました。診察室は個人対個人で話しやすくできるように狭くなっていました。またHIV関連のパンフレットや、日本の置物や、生殖器に顔のついたマスコット、空気清浄器などが置いてあり、患者さんがリラックスしやすい環境になっていました。また、面談の際、ナースは白衣を着ず、まず最初に患者にお茶を出したり、ナースの椅子は患者より低くするなど患者に目線を向けた配慮となっていました。「何でもいいたいことだけを言いに来るだけでもいい」という言葉が印象的でした。私が本当の患者なら日常のことを言いにこのナースに会いに行くだろうなと思いました。

 カイザー病院の患者はHMOという保険に加入し会員になります。HMOとは、病院や医師、その他の医療サービスの提供者が、ひとつのネットワークを形成して所属し、個人や会社がある一定金額(コーペイ)をそのネットワークに毎月支払うことで、傘下の医療機関から医療サービスを受けられるというプランを提供するものです。つまりカイザー病院のHMOに加入することでカイザー病院のみのサービスをうけることになるのです。他の病院でサービスを受けることができない一方で保険料がかなり低くなります。

アメリカの保険制度を見てみると、日本のような国民皆保険制度はなくて、民間保険がメインです。公的保険では高齢者や障害者向けのメディケア、低所得者向けのメディケイド(サンフランシスコではメディカル)があります。民間保険ではカイザーのようなHMO、PPO、POS、海外旅行者保険などがあります。PPOはHMOとは反対のような保険で、保険料が高くなる分、ネットワーク以外の医師や病院のところでサービスを受けられ、アメリカを訪問する日本人の多くがこの保険に加入しています。POSはHMOとPPOの中間のような保険です。

 以上の病院の他にクリニックや診療所、NGO団体等々に行きました。

 クリニックで印象的だったのはGlide Health Careです。まず、クリニックの入り口がホームレスの人の出入りで激しかったのが印象に残っています。ここは、ホームレスにはシェルターを提供したり1日4000食を無料で提供したり、vanでバーなどの場所に行きHIV検査をしています。事務員が患者の栄養面を考えていたり、薬剤師が処方権を持っていたりして、各職種がそれぞれ連携しあっているチーム医療の印象を持ちました。資金のバックアップも凄くて、UCSFやその他の病院、グライド教会からの資金で活動を行っているそうです。およそ500万円の収入のうちUCSFからが4分の1だそうです。病院とクリニックの連携がうまく取れているなという印象を持ちました。

 一方、NGOでは、14歳から26歳までのHIVポジティヴの若者だけを対象に、そこの施設で遠足をしたりみんなで絵を描いたりして健康な生活ができるように支援していく施設や、中学や高校に出向いて学生に性教育やゲームを行ったり、その両親にも指導したりする施設もありました。実際に行っている性教育の例として、膨らませたコンドームをベビーオイルやゼリーでこすってどちらが破れるかとか、クイズ形式でHIVはもちろん性感染症やホルモン等の知識を定着させるものがありました。

 そして、新規HIV感染者が増加していないサンフランシスコと増加の一方である日本との違いは、こういったNGO団体をはじめする予防活動が違うからではないかと感じました。学校での保守的な性教育だけでは限界があるのでしょう。

 また、ドクターをはじめ7人のボランティアで行っている、Recycled AIDS Medicine Programという団体がありました。この団体は抗HIV薬を飲んでいない患者や薬が変わって不要になった、あるいは亡くなった患者の薬をかき集めてアメリカ国外に配っています。たしかに日本でもかき集めればたくさんの余分な薬は出てきそうですが、それをたった7人でやるという労力がすごいと感じました。しかも、これを完全にボランティアでやるというのが凄いです。

 これらのNGO団体は、みなきまって資金不足です。州や市から補助金を頂いていますが、資金不足のために出来ない事業や補助金申請のために大量の申請書を書いているのが実情です。こういったHIV感染予防活動あるいはHIVポジテヴィブを支援していく団体に資金をいかに回すかが、HIV予防、そしてHIV患者の支援には大事なことだなと感じました。

 以上のように、サンフランシスコでは、HIV予防、HIVケアのためには、病院とクリニック、NGOの連携、さらに薬剤師が保険に関与していたり事務員が栄養面を考えていたりして日本に比べて各職種が柔軟に仕事をしているという印象を受けました。一方でドクターがセラピストの仕事内容を知っていないなどの問題もあります。

事務職員としての私が出来ることは、今回学んだことを情報発信したり、各医療従事者の仕事の範囲を把握し、仕事内容を伝えるなどの調整や、医療従事者や患者さんが居心地良い病院環境を作ることだと2週間の研修を通して感じました。

今回、16日という長い間、このような貴重な体験をさせて頂けましたことを、コーディネータや各施設の方々をはじめ、当院のお世話になった各職員の方々に深くお礼を申し上げます。

 
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