膵臓がんの基本的な治療は、他の胃がんや大腸がんといった消化器がんと同様に、周囲の正常と思われる組織を含めたがん病巣の外科的切除です。しかしながら、はじめの「膵臓がんとは」のところで述べたように、膵臓がんと診断された7割から8割は診断時に既に切除手術の対象とならないほど進行しており、その場合は、姑息的な症状改善を目指した手術や処置とともに抗がん剤による治療や放射線による治療、またはその両者が行われます。以下、それぞれの治療法に関してご紹介します。 A. 手術 膵がんの外科的切除が適応となる条件として、 1) 肝臓や肺などの膵臓以外の臓器にがんが転移していない場合。 2) お腹の中(腹膜播種)にがんが広がっていない場合。 3) 重要な臓器を栄養する大きな血管にがんが広がっていない場合です。 膵臓はお腹の中の奥深いところに位置し、重要な血管に近接していると言う特徴があります。胃がんや大腸がんと異なり簡単にその臓器だけを摘出できる部位ではありません。重要な血管として、腹部大動脈、腸を栄養する上腸間膜動脈や肝臓などを栄養する腹腔動脈、総肝動脈、固有肝動脈が挙げられます。しかし、腸で吸収された栄養分を肝臓へ運ぶ血管である門脈へがんが広がる場合は、その部位を切除して血管をつなぎ合わせる事が可能ならば、手術の適応となります。先に述べた1)〜3)のどれか一つでも満たされない場合は、たとえ目に見える範囲で外科的にがんが摘出できても手術後直ぐにがんが再発するために、大きな負担をかける手術の価値が無いと考えられ、手術の適応が無いと判断されます。膵臓がんの切除法は、他のがんの場合と同じように基本的にはがんの部分だけ摘出するのではなく、がんが広がっている可能性のある周辺の臓器やリンパ節を一緒に摘出する必要があります。切除範囲は、がんの存在する部位によって異なり、がんが膵頭部にある場合は、膵頭十二指腸切除術(図7、8)が、体部や尾部に存在する場合は体尾部切除(図9)が行われます。
・図7.膵頭十二指腸切除術の切除範囲 ・図8.膵頭十二指腸切除術後の再建 ・図9.膵体尾部癌の切除範囲
膵臓の解剖学的な位置から、膵頭十二指腸切除術は消化器の手術の中で最も複雑な技術を要する手術であり、胃や大腸の手術や再建の手技と共に、膵切除と再建の手技や場合によっては血管外科の技術が必要です。通常の膵癌に対する膵頭十二指腸切除の場合は、リンパ節の摘出も同時に行うため、手術時間は6〜10時間かかります。体尾部切除の場合は、3から4時間程度の手術時間です。なお、術後の合併症として、早期のものとして膵空腸吻合部の縫合不全などの消化管縫合不全た膵断胆からの膵液漏が、長期的なものとして、糖尿病や消化吸収障害があります。がんの手術、特に膵臓がんの経験が豊富な専門医あるいは専門病院で行う方が、術後の早期の合併症も少なく、治療成績も良好であることが報告されています。当施設での最近の入院期間の目安は、膵頭十二指腸切除をされた場合は、だいたい3〜4週間程度、体尾部切除をされた場合は2週間程度となっています。また、手術後の抗がん剤や放射線による治療(補助療法と言います)は、今のところ、効果が認められたものはなく、どの治療法が最も良いか、現在いくつかの臨床試験が行われているところです。当施設でも、国内の専門施設による全国規模の臨床試験に参加しています。 なお、外科的切除の適応がないと判断した場合は、全身状態が許されれば、病巣の切除をしない姑息的な手術が行われることがあります。がんによって胆道が狭窄して黄疸が生じている場合は、黄疸を解消するため胆管空腸吻合術や胆嚢空腸吻合術が行われます。なお、手術をせずに内視鏡的、あるいは経皮経肝的に閉塞した胆道にチューブを留置する場合もあります。がんが十二指腸に拡がり十二時腸を閉塞して食物の通過障害が生じている場合は、胃空腸吻合などの手術が行われる事があります。また、根治的な手術が可能と判断し開腹しても、肝転移や腹膜播種などの手術前に判定できなかったがんの拡がりが見つかった場合は、切除は行わず、姑息的手術や術中放射線照射、背部痛に対して神経ブロックを行うことがあります。 B.化学療法 化学療法とは、抗がん剤を使った治療のことを言います。根治的な手術が不可能な場合や手術の後に再発が認められた場合は、抗がん剤による治療が行われます。現在、健康保険診療上許可されている抗がん剤として、ジェムシタビンという薬がまず最初に使用されます。ジェムシタビンは、これまで使われていた5-FU、アドリアマイシン、マイトマイシンといった抗がん剤に比べて、膵臓がんによる疼痛などの症状を和らげる効果が優れ、治療成績(生存率)を延長する効果が認められています。通常、外来通院での投与が可能で、1週間に1回30分程度の点滴で投与し、3週続けて投与したら1回休薬するという投与方法が行われています。副作用としては、他の抗がん剤と同様に吐き気や食欲不振があります。また、骨髄抑制といって、免疫機能(防御機能)に関係する白血球や血液の凝固に関係する血小板の減少が見られることがあります。通常、ジェムシタビンを投与する前に血液検査をおこない、副作用の程度を見てから投与を決定します。なお、当施設では、臨床試験として、TS-1という経口抗がん剤とジェムシダビンを用いた新しい治療法も行っています。この他、さまざまな施設でジェムシタビンと様々な抗癌剤を組み合わせた治療法が試みられていますが、現在のところ、副作用のみ増えるだけで、治療効果が改善したという報告は無いのが実情です。 C.放射線療法 手術が不可能でがんが局所のみに広がっている場合は、放射線療法が行われことがあります。従来は入院を必要としましたが、最近では外来通院で行えるようになっています。膵臓がんが存在する部位に対して体外から通常一日一回の少量の放射線照射を行い、総照射量として45〜60Gyの照射を4〜6週間かけて行います。一回の照射にかかる時間は僅か数分です。なお、一度に多くの放射線照射を行いより高い治療効果を得るために、手術で開腹して直接放射線照射を行う術中照射と言う方法を行うこともあります。現在のところ、体外から照射を行う方法と術中照射のどちらが治療効果が高いかは、はっきりしていません。また、放射線療法のみで延命効果が得られとする確立された報告はありませんが、背部痛などの症状を和らげる効果に優れているといことは認められています。 放射線療法は、あくまでも局所の治療なので、切除不能がんや再発がんなど、既に膵臓以外にがんが広がっている場合には、あまり効果が無いと考えられます。したがって、最近では、抗がん剤と放射線療法を組み合わせた治療(放射線化学療法)が行われます。ジェムシタビンや5-FUには、放射線の効果を増強する作用があると言われており、放射線による局所の治療効果の増大と全身に散らばったがんに対しての抗がん剤の効果を期待する治療法です。当施設では、ジェムシタビンと放射線療法を組み合わせた治療を、外来通院で行えるようにしています。 放射線療法の副作用として、体外から照射する場合は、どうしても膵臓がんの周囲にある胃や腸にも放射線が照射されますので、それによる炎症や潰瘍出血などが生じる事があります。術中照射の場合は、開腹して直接がん部のみに照射するので正常組織には影響は少ないと言われています。