●治療
大きく分けて、ホルモン療法、手術療法、放射線療法などがあります。
あと無治療で経過観察をすることもあります。
癌なのになぜ治療しなくてもいい場合があるのか不思議に思われる方もいるかとは思いますが、前立腺癌は一般的に他の癌と比べて進行が緩徐です。
またラテント癌といいまして前立腺癌以外で亡くなられた高齢者の約2割に前立腺癌があるといわれています。
つまり治療してもしなくても命には関係の無い前立腺癌があるということになります。
また高齢者に多い癌なので、合併症などに十分配慮する必要があります。
以下具体的な治療法について説明します。
1)ホルモン療法
前立腺癌の基本となる治療法です。
というのも前立腺癌のほとんどが男性ホルモンによって成長するからです。
男性ホルモンは脳の一部である下垂体というところから産生されるホルモンにより刺激を受けた精巣および副腎から分泌されます(精巣から95%、副腎から5%と言われてます)。
よってこの男性ホルモンの作用を抑えることで前立腺癌を小さくしようという治療法です。
いくつかの方法があります。
両側の精巣を取ることで男性ホルモンの分泌を抑制する方法(去勢術)、注射で男性ホルモンの産生を抑える方法(LH-RHアナログ)、男性ホルモンの働きを抑える女性ホルモンや抗男性ホルモン剤を内服する方法などです。
これらを組み合わせて治療することもあります。
この治療法は短期的に見れば非常に有効ですが、5年以内にその約半分がホルモン不応性といって、前立腺癌が男性ホルモンとは関係なく成長してしまいます。
こうなるとその治療法は非常に厄介で、今のところ有効な治療法はありません。
このため前立腺に癌が限局している場合2),3)に述べる根治的治療法が選択されます。
2)手術療法
癌が前立腺内に限局している場合に、手術により癌を取り除く方法です。
下腹部を切開し、恥骨の裏側にある前立腺を摘除し、膀胱と尿道をつなぎあわせます。
またこの時所属リンパ節に転移があるかどうかも調べます。
手術の前にホルモン療法を行うことの有効性については議論があるところですが、われわれは通常まず1)で述べたホルモン療法を3-6ヵ月行い、癌を小さくしてから手術を行うことにしています。最近は腹腔鏡を用いた手術が推奨される傾向にありますが、この方法は傷が小さいなどのメリットもありますが、開腹手術に比べて摘除範囲が不十分となりがちであり、長期成績などその評価はまだ定まっていないため、われわれはこの方法を今のところは積極的には取り入れていません。
3)放射線療法
放射線を用いて、癌細胞を殺す方法です。
通常1日1回週5日、身体の外から前立腺に放射線を照射します。
5-6週間の治療期間が必要です。
また骨転移による骨の痛みを緩和する目的で骨に照射することもあります。
4)その他
抗癌剤を使用するところもありますが、多くは無効とされています。
※病期による治療法のまとめ
病期A1
一般的には無治療で経過観察することが多いですが、比較的若年者の場合(20年以上の生存が見込まれる場合)手術療法などの根治的治療法が選択されることがあります。
病期A2,B
患者さんの年齢や合併症の有無に応じ手術療法、放射線療法、ホルモン療法などが行われます。
病期C
ホルモン療法を中心に手術療法や放射線療法を行うことがあります。
病期D1
ホルモン療法を中心に放射線療法が追加されることもあります。
病期D2
ホルモン療法が中心になります。
※治療の合併症について
1)ホルモン療法
去勢術は、男性のシンボルがなくなるという心理的な問題はありますが、手術としては安全で副作用はほとんどありません。
注射薬であるLH-RH アナログについてですが、注射後2、3日のあいだ、排尿困難、骨転移部の痛み、全身のほてりや肺炎様の症状が出ることがありますが、多くは一過性です。
しかし、定期的な注射が必要なため、通院困難な患者さんや病識のない患者さんには向かない治療法です。
抗男性ホルモン剤は、悪心、嘔吐、乳房の腫れ、痛み、肝機能障害などが出ることがあります。
多くは対症療法でコントロールできますが、出来ない場合は投薬を中止します。
女性ホルモン剤は抗男性ホルモン剤の副作用に加えて、心機能異常や血栓症などの注意すべき副作用が出ることがあります。
胸部痛や動悸、息切れ、手足のしびれなどの症状が出た場合は直ちに担当医と相談してください。命に関わることがあります。
全てのホルモン療法に言えますが、男性機能の低下、つまりインポテンツになることがあります。
2)手術療法
全身麻酔で手術時間は所属リンパ節郭清術を含めると4-5時間かかるため、それなりの体力が必要です。
また術前術後あわせて約4週間の入院が必要です。
前立腺は血流が多いところで、手術時にかなりの出血をきたすことがあります。
このため術前にあらかじめ患者さん自身の血を献血と同じように採取しておいて、手術時にこの血を返すことでなるべく輸血しないようにします。
術後早期の合併症としては、出血、リンパ液のもれ、炎症、縫合不全などがありますが、バルーン・カテーテル抜去直後に多くの患者さんで尿失禁が生じることが最も辛い合併症です。
尿失禁は通常その後消失しますが、一部の患者さんでは尿失禁が続くこともあります。
後期の合併症としては、尿失禁以外に、インポテンツ、尿道狭窄などがあります。
尿失禁については骨盤底筋群をきたえる体操や薬物療法などで対処します。
インポテンツの予防法としては、通常は前立腺とともに切除する勃起神経(前立腺周囲を走行してます)を温存する手術法があります。
ただこの部分はしばしば癌の浸潤がみられるところで、温存することで癌を取り残すこともありますのでその適応については注意が必要です。
3)放射線療法
主な副作用は膀胱、直腸障害つまり排尿時痛、血尿、直腸からの出血です。
また皮膚の炎症がおこることもあります。
多くは対処療法でコントロール可能ですが、副作用が強いときは治療を中止することもあります。
またこうした副作用が放射線をあててから2、3年後に出てくることもあります。
|