抗血小板薬の新しい使い方
―心房細動・弁膜症の抗血小板療法―
 
国立大阪病院 循環器科 安岡良典、是恒之宏
 
1.序論
  心房細動では、洞調律に比し、心房内の血流が鬱滞するために心房内血栓を生じやすく脳梗塞に大きく関与している。正常の血管あるいは心腔内では、血小板凝集抑制因子(一酸化窒素:NO、プロスタサイクリン:PGI2)と凝固抑制因子(へパラン硫酸プロテオグリカン、トロンボモジュリンなど)が備わっており、血栓形成が抑制されている。(図1)前者は血小板血栓、後者はフィブリン血栓の抑制に関わっている。
 
  <血小板血栓>
    血管内皮が傷害を受け内皮下組織が露出すると、血小板は因子を介して傷害血管と接着する。その結果、血小板が活性化され、糖蛋白(glycoprotein;GP) IIb/IIIa複合体がフィブリンを接着因子として凝集し、血小板血栓が形成される。(図2)この血栓は主として流れの速い動脈内に生じ、予防には抗血小板療法が有効である。
  <フィブリン血栓>
    炎症などにより内皮が傷害されると組織因子(tissue factor)が誘導される。組織因子が血液と接触すると外因系の凝固因子が活性化される。その結果、トロンビンが形成され、フィブリノーゲンが限定分解しフィブリンが生成され(図3)最終的にはフィブリン血栓が生じる。この血栓は主として流れの停滞する心房内や静脈内に形成され、予防には抗凝固療法(warfarin)が有効である。
 
  脳梗塞の6〜23%が心原性塞栓症と報告されているがその基礎疾患として心房細動が約半数を占めているとされている。心房細動の基礎疾患として、かつてはリウマチ性心疾患がその代表的疾患であったが、近年リウマチ性の弁膜症は減少し、それにかわって非弁膜症性心房細動( Non Valvular Atrial Fibrillation ; 以下NVAF )が増加してきた。
  心房細動は加齢とともに増加し(文献1)60歳以上になると全人口の2〜4%に認められる。今後益々高齢化する我が国においてNVAFに合併する脳塞栓症の予防はきわめて重要であると考えられる。本稿では海外大規模臨床試験の結果をもとに心房細動の抗凝血療法について概説する。
 
2.海外大規模臨床試験の紹介
  (1) AFASAK
    LANCET 1:175,1989(文献2)
    対象は1985年11月〜1988年6月における1007例のNVAF患者(平均年齢74.2歳)。Warfarin(INR 2.8〜4.2)投与群、aspirin75mg投与群、プラセボ群の3群間において血栓塞栓症(脳梗塞、一過性脳虚血発作、末梢動脈塞栓症)の発症率を2年間追跡調査した初めての前向き大規模臨床試験である。Warfarin投与群は血栓塞栓症および血管イベント死の発症率がaspirin投与群およびプラセボ群に比し有意に低率であり抗凝固療法としてのWarfarin投与の有効性を結論としている。
 
  (2) SPAF
    Circulation 84:527-539,1991(文献3)
    対象は1987年〜1989年における1330例のNVAF患者(平均年齢67.0歳)。Warfarin(INR 2.0〜4.5)投与群、aspirin325mg投与群、プラセボ群の3群間において脳梗塞および末梢動脈塞栓症の発症率を1.3年間追跡調査した前向き大規模臨床試験である。脳梗塞年間発症率はwarfarin投与群は1.3%で、対照群の4.4%に比しリスク低下率は69%と極めて有用であった。warfarin投与群とプラセボ群間では65歳以下で危険因子(高血圧、糖尿病、一過性脳虚血発作または脳卒中の既往)のない場合のみ脳梗塞年間発症率に有意差を認めなかった。一方、aspirin投与群でのリスク低下率は36%でありその有効性は示唆されるもののwarfarinに比し顕著ではなかった。aspirinの脳梗塞予防効果についてAFASAKでは無効、SPAFでは有効と異なる結論が導かれた。両試験はaspirinの投与量、心不全合併例の割合、年齢などに差がみられたが、結果がどういう因子により左右されたかは明らかではなかった。
 
  (3) SPAF-II
    LANCET 343:687,1994(文献4)
    SPAF-IIではこの点を明らかにするため1,100例を対象にAspirin 325mg投与群とwarfarin投与群 ( PT-INR 2.0〜4.5 )での比較検討試験が行われた。75歳以下の症例では脳梗塞年間発症率はaspirin投与群 1.9%、warfarin投与群1.3%でaspirin投与群でも有効との結果を得た。76歳以上の症例では脳梗塞年間発症率はaspirin投与群4.9%、warfarin投与群3.4%でwarfarin投与群の方が30%良好であることが明らかとなった。しかし頭蓋内出血はaspirin投与群0.8%であったのに対し、warfarin投与群は1.8%であった。
    aspirin投与の効果が不十分であった症例(ハイリスク群)の特徴を多変量解析すると、75歳以上の高齢者、中でも女性患者、高血圧症、左室機能不全群、脳梗塞の既往例であった。
 
  (4)SPAF-III
    Lancet 348:633-638,1996(文献5)
    対象は1993年5月〜1995年10月に20施設から登録された危険因子(100日以内のうっ血性心不全の既往または左心室の短縮率25%以下、脳梗塞の既往、収縮期高血圧160mmHg以上、75歳以上の女性)を1つ以上もつハイリスクの1044人のNVAF患者(平均年齢70歳、男性62%、持続性84%)について、低用量のwarfarin(INR1.2〜1.5)とaspirin325mgの併用群(n=521)、適用量のwarfarin(INR 2.0〜3.0)使用群(n=523)の塞栓症に対する予防効果が検討され、虚血性脳梗塞、全身性塞栓症をプライマリーエンドポイントとし、オープン試験により平均1.1年継続施行された。脳出血の既往のあるもの、6ヶ月以内の消化管の出血、最近30日以内に発症した虚血性発作の症例は対象から除外された。
 
  <warfarinコントロール>
    併用群はINRが平均1.3であり、そのうちの54%がINR 1.2〜1.5、34%が1.2以下であった。一方適量warfarin群では平均INRは2.4であった。全体の61%がINR 2.0〜3.0にコントロールされた。
 
  <年間塞栓症発症率>
    プライマリーイベントは(併用群7.9%vs適量群1.9%)であり、絶対的な危険率を6.0%、血圧の違いを補正しても、適量群は相対的な危険率を併用群に比して74%低下させた。重篤もしくは致死的な脳梗塞の年間発症率に関しては併用群5.6%vs適量群1.7%、プライマリーイベントを含む血管死全体では併用群11.8%vs適量群6.4%といずれも併用群で高かった。併用群では心原性脳梗塞と考えられる症例、原因不明の脳梗塞がそれぞれ15例ずつ認められたのに対し、適量群ではそれぞれ2例、3例と非常に少なかった。
 
  <危険因子に関する検討>
    併用群における検討では、脳梗塞の既往(平均2.4年、全体の14%)のあるものでは11.9%、収縮期高血圧では12.4%、左室機能障害では4.2%、75歳以上の女性では11.5%(ほかの危険因子を持たない75歳以上の女性では5.7%)にプライマリーイベントが発生した。一方適量群では、脳梗塞の既往例でも3.4%、そのほかのハイリスク群で1.1%と有意に低値を示した。
 
  <INRコントロールと塞栓症>
    warfarinコントロールの程度と脳塞栓の発症をレトロスぺクテイブに解析するとINR 1.2以下では11%、1.2〜1.5では7.5%、1.5〜1.9では2.0%、2.0〜2.4で1.6%、2.5以上では1.5%に塞栓症が発症し、最低INR1.5〜2.0のwarfarinコントロールが必要と考えられた。
 
  <脳出血の出現頻度>
    併用群2.4%vs適量群2.1%と両群において差は認められなかった。出血時のINR管理においては、併用群ではINRに無関係であるのに対し、適量群でINR 3.0以上のものが多くを占めた。
 
  <結論>
    試験前には、併用群が出血合併も少なくしかも脳梗塞予防にも有効ではないかと期待されたが、結果はこの期待を裏切るものであった。塞栓症発症率は併用群7.9%に対して、適量群では1.9%であり、脳出血の発症率は併用群2.4%、適量群2.1%と差異は認められなかった。またPT-INR 1.5以下になると急激に脳梗塞の発症率が増加しPT-INR 3.0〜3.5付近で脳出血が生じていることが明らかにされた。(図4)以上よりaspirin投与無効群ではPT-INR 2.0〜3.0 のwarfarin単独コントロールが出血を増加させることなく脳梗塞の予防に有効であることが示された(図5)。
 
3.指針
  我々の施設ではNVAFの塞栓症のハイリスク群(100日以内のうっ血性心不全の既往または左室短縮率25%以下、塞栓症の既往、収縮期高血圧160mmHg以上)また可能な限り経食道心エコーを実施し左房、左心耳に血栓が存在する場合や、もやエコーが強い場合、積極的にwarfarinを使用している。(図6)SPAF-IIIの解析よりINR1.5〜1.9でも脳梗塞の発症はかなり抑制できていること、1.5以下になると急激にその頻度が増すことが明らかとなっている。また山口らの報告(文献6)でもINR1.5〜2.1の低用量warfarinコントロールでも二次予防に有効であることが示された。
  一方、日本人においてはNV-AF患者のwarfarinコントロールをPT-INR 2.5以下にしないと出血の危険性が増加することが明らかとなった。以上のevidenceより我々はINR 2.0を中心値として1.5〜2.5の間でコントロールしている。それ以外のローリスク群については現在のところ一定の見解はない。本施設では無投薬もしくはaspirinを投与している。通常、aspirin100〜200mgを使用しているが、現在本邦においてaspirin 160〜200mgの有効性につき全国臨床試験が行われており( JAST study )、その結果が待たれる。
 
文献
1. William M,Freiberg MD, et al:Prevalence, age distribution, and gender of patients with atrial fibrillation. Arch Intern Med 155:469-473,1995
2. Petersen P et al : Placebo controlled,randomized trial of warfarin and aspirin for prevention of thromboembolic complications in chronic atrial fibrillation -The Copenhagen AFASAK study-. LANCET 1:175,1989
3. Stroke Prevention in Atrial Fibrillation Investigators : Stroke Prevention in Atrial Fibrillation. Final results. Circulation 84:527-539,1991
4. Warfarin versus aspirin for prevention of thromboembolism in atrial fibrillation: Stroke Prevention in Atrial Fibrillation II study. LANCET 343:687,1994
5. Stroke Prevention in Atrial Fibrillation Investigators : Adjusted dose warfarin versus low intensity, fixed-dose warfarin plus aspirin for high-risk patients with atrial fibrillation-Stroke Prevention in Atrial Fibrillation III Randomized Crinical Trial- LANCET 348 : 633,1996
6. Takenori Yamaguti :Optimal Intensity of Warfarin Therapy for Secondary Prevention of Stroke in Patients with Nonvalvular Atrial Fibrillation A Multicenter,Prospective,Randomized Trial Stroke 31:817-821,2000
 
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