心房細動・粗動へのアプローチ
―抗凝固療法の意義と適応―
 
国立大阪病院 循環器科 安岡良典、是恒之宏
 
脳梗塞の6?23%が心原性塞栓症と報告されているがその基礎疾患として心房細動が約半数を占めているとされている。心房細動の基礎疾患として、かつてはリウマチ性心疾患がその代表的疾患であったが、近年リウマチ性の弁膜症は減少し、それにかわって非弁膜症性心房細動( Non Valvular Atrial Fibrillation ; 以下NVAF )が増加してきた。心房細動では、洞調律に比し、心房内の血流が鬱帯するために心房内血栓を生じやすく脳梗塞に大きく関与している。また左心房、特に左心耳に形成される巨大フィブリン血栓による大梗塞が多い。心房細動は加齢とともに増加し60歳以上になると2?4%に認められる。今後益々高齢化する我が国においてNVAFに合併する脳塞栓症の予防はきわめて重要であると考えられる。
本稿では海外大規模臨床試験の結果をもとに脳梗塞の危険因子ならびに予防、治療としての抗凝固療法の実際について述べてみたい。
 
I ) SPAF II ,SPAF IIIの結果
  aspirinの脳梗塞予防効果についてAFASAKでは無効、SPAFでは有効と異なる結論が導かれた。両試験はaspirinの投与量、心不全合併例の割合、年齢などに差がみられたが、結果がどういう因子により左右されたかは明らかでは
  なかった。SPAF-IIではこの点を明らかにするため1,100例を対象にAspirin 325mg投与群とwarfarin投与群 ( PT-INR 2.0?4.5 )での比較検討試験が行われた。75歳以下の症例では脳梗塞年間発症率はaspirin投与群 1.9%、warfarin投与群1.3%でaspirin投与群でも有効との結果を得た。76歳以上の症例では脳梗塞年間発症率はaspirin投与群4.9%、warfarin投与群3.4%でwarfarin投与群の方が30%良好であることが明らかとなった。しかし頭蓋内出血はaspirin投与群0.8%であったのに対し、warfarin投与群は1.8%であった。aspirin投与の効果が不十分であった症例(ハイリスク群)の特徴を多変量解析すると、75歳以上の高齢者、中でも女性患者、高血圧症、左室機能不全群、脳梗塞の既往例であった。SPAF-IIIでは上述のaspirin投与無効群をハイリスクとして1つ以上有するNVAF患者を対象に低用量のwarfarin ( PT-INR 1.2?1.5 )とaspirin 325mgの併用群、適用量のwarfarin ( PT-INR 2.0?3.0 )使用群の2群に分け、塞栓症と出血合併症の発症率について検討した。試験前には、併用群が出血合併も少なくしかも脳梗塞予防にも有効ではないかと期待されたが、結果はこの期待を裏切るものであった。塞栓症発症率は併用群7.9%に対して、適量群では1.9%であり、脳出血の発症率は併用群2.4%、適量群2.1%と差異は認められなかった。またPT-INR 1.5以下になると急激に脳梗塞の発症率が増加しPT-INR3.0?3.5付近で脳出血が生じていることが明らかにされた。以上よりaspirin投与無効群ではPT-INR 2.0?3.0 のwarfarin単独コントロールが出血を増加させることなく脳梗塞の予防に有効であることが示された(図1)。しかし本邦においてそのままあてはまるかどうかについては今後の検討が待たれるところである。
 
II )発作性心房細動の電気的除細動時
  1996年のAHAガイドラインでは48時間以上心房細動が継続した場合、心腔内血栓を生じる可能性があるため経食道心エコーを行い左心耳内血栓がないことを確認してから電気的除細動を行うよう推奨している。血栓を認めた場合には抗凝固療法施行後、再度経食道心エコーによる確認が必要である。また除細動後、洞調律に回復した場合、warfarinによる抗凝固療法を4週間継続することも併せて推奨している。これは洞調律回復後も心房機能が完全に回復するまである程度の時間を要するため(atrial stunning)である。
 
III ) warfarinの適応
  我々はいわゆるハイリスク群(100日以内のうっ血性心不全の既往または左室短縮率25%以下、塞栓症の既往、収縮期高血圧160mmHg以上、)であれば高齢者でも積極的にwarfarinコントロールを行っている。また可能な限り経食道心エコーを実施し左房、左心耳に血栓が存在する場合や、もやエコーが強い場合も同様である。(図2)SPAF-IIIの解析よりPT-INR1.5?1.9でも脳梗塞の発症はかなり抑制できていること、1.5以下になると急激にその頻度が増すことが明らかとなっている。また山口らの報告では、日本人においてはNV-AF患者の二次予防におけるwarfarinコントロールをPT-INR 2.5以下にしないと出血の危険性が増加する。以上のevidenceより我々はINR 2.0を中心値として1.5?2.5の間でコントロールしている。このコントロールが果して本邦において妥当であるか否かは今後大規模試験が必要である。日常臨床において、食事、肝機能の変化、併用薬剤(とくに他院や薬局よりの服薬)によるINRの変動を考慮し、INR 1.5以下となった場合にはwarfarin増量を行うようにしている。しかしながら、先日筆者らが経験した症例で徐脈性心房細動にてVVIペースメーカー植え込み後、拡張型心筋症、一過性脳虚血発作(TIA)の既往のある患者が左中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を発症した。INR2.0?2.5の範囲(一年間の平均値は 2.36)でwarfarinコントロールしていたにも関わらずにである。経食道心エコーを実施したところ左心耳内に可動性に富む約30×15mmの外周がhighechoicな血栓(図3)を、また右房内にも激しく浮遊するlowechoicなボール状の血栓を認めた。INR2.5?3.0の範囲でwarfarin再コントロールし、経食道心エコーを再検したところ両心房内血栓は消失していた。塞栓危険因子が重複するような症例ではINR 2.5?3.0といったより厳格なwarfarinコントロールが必要な場合もある。INRの測定は月1回外来受診時緊急検査で必ず行いチェックする。患者にはINRに影響を与える食事や薬剤の冊子を渡し、服薬指導教室を開いている。とくに抜歯などの処置時には3日前よりの休薬と翌日よりの再開を指示する。それ以外のローリスク群ではaspirinを投与する。通常、アスピリン100?200mgを使用しているが、現在アスピリン160?200mgの有効性につき全国臨床試験が行われており( JAST study )、その結果が待たれる。
 
文献
1. Petersen P et al : Placebo controlled, randomized trial of warfarin and aspirin for prevention of thromboembolic complications in chronic atrial fibrillation-The Copenhagen AFASAK study-. LANCET1:175,1989
2. Connolly SJ et al : Canadian Atrial Fibrillation Anticoagulation (CAFA) study. J Am Coll Cardiol 18 : 349,1991
3. Ezekowitz MD et al : warfarin in the Prevention of stroke associated with nonrheumatic atrial Fibrillation. N Engl J Med 327 : 1406,1992
4. William M,Freiberg MD , et al:Prevalence, age distribution, and gender of patients with atrial fibrillation. Arch Intern Med 155:469-473,1995
5. Stroke Prevention in Atrial Fibrillation Investigators : Adjusted dose warfarin versus low intensity,fixed-dose warfarin plus aspirin for high-risk patients with atrial fibrillation-Stroke Prevention in Atrial Fibrillation III Randomized Crinical Trial- LANCET 348 : 633,1996
6. Takenori Yamaguchi :Optimal Intensity of Warfarin Therapy for Secondary Prevention of Stroke in Patients with Nonvalvular Atrial Fibrillation A Multicenter, Prospective, Randomized Trial Stroke 31:817-821,2000
 
 
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