国立大阪病院 外科のご案内
〜疾患別の紹介〜
上部消化管疾患(食道がん・胃がん)
■食道疾患

食道疾患では食道がん・食道アカラシア・食道裂孔ヘルニア・特発性食道破裂などが主な対象疾患ですが、当科ではあらゆる食道の外科疾患に対応しています。当院では食道疾患の全ての患者さんの治療方針は、毎週行う消化器内科との合同カンファレンスで綿密に練り、また「日本食道学会編・治療ガイドライン」に基づき、患者さんそれぞれに対応した診療を行っています。

食道がんでは進行度に応じた先進的な取り組みを行っています。進行度stage 0の患者さんには可能な限り内視鏡下粘膜切除術(図1)を、リンパ節転移のないstage Iでは患者さんの希望に基づき外科切除か化学放射線療法を選択し、リンパ節転移のあるstage Iには手術を そしてstage II, III, 一部のIVの進行がん(図2)では最適な術前化学療法と、その後の奏功度判定を行いながら根治切除術を行っています(図3)。また、他臓器浸潤を伴った場合には化学(放射線)療法後の根治術を、他臓器転移を伴った場合にも臨床試験も含めて最新の知見に基づいた化学療法を行い、延命を目指しています。そして、放射線治療が必要な患者さんにたいしても、放射線治療科と密接な関係を保って、最良の治療法を提供することを心がけています。外科手術前後の周術期には嚥下・呼吸のリハビリや早期からの栄養介入を積極的に行い患者さんの合併症の少ない回復に努めています。

最近はどの癌腫においても、高齢化の中で何らかの全身疾患を抱えた癌患者さんが増えてきていますが、脳内科・循環器内科・腎臓内科・糖尿病内科・麻酔科などとの円滑な連携により、積極的に、そして安全な加療を行っています。また、食道がんは咽頭がんなどの頭頸部領域の悪性腫瘍を合併することがよくあります。そのため、食道がんの治療前から当院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科や口腔外科とも密接にタイアップして、患者さんの治療にあたっています。





■胃癌

当科で扱う胃疾患は胃癌・GISTが主な対象疾患ですが、あらゆる上部消化管の外科疾患に対応しています。ここでは当科の胃癌に対する取り組みをご紹介致します。

■胃癌

はじめに

胃癌はあらゆる癌腫の中でその罹患率・死亡率が男女とも上位3位以内に入る国民病とも言える病気です(図1a, b)。胃癌の研究・治療は長年にわたり日本が世界をリードしてきました。2000年以降は日本胃癌学会から胃癌治療ガイドラインが出版され2010年には第3版が出版されており(図2)、患者さんやそのご家族の方も簡単に書店で購入することができます。当科では術前の患者さんに胃癌治療ガイドラインをお貸しし、ご自身の病気への理解を深めて頂いています。

治療の流れと当院での取り組み

ここではご紹介頂いた開業医の先生方や当院の消化器内科で胃癌の診断が既についているものとしてお話をします。

胃癌治療ガイドラインに載っている「日常診療で推奨される治療選択のアルゴリズム」(図3)をご覧下さい。胃癌が胃の壁のどの深さまで及んでいるかを手術前に診断したものをcTステージと言い、粘膜もしくは粘膜下層で留まっている癌をcT1、胃の筋肉まで及んでいる癌をcT2、胃の壁を突き破る寸前まで癌が及んでいるものをcT3、胃の壁を突き破って癌が胃の外に露出しているものをcT4a、胃壁を突き破った癌が胃の周りにある他の臓器にまで浸潤したものをcT4bと言います(図4)。また、胃の周りのリンパ節に転移があるものをcN(+)、リンパ節に転移がないものをcN0と言い、胃より遠く離れた肝臓や骨・腹膜などに癌が既に飛んでしまっているものをM1、遠くには未だ飛んでいないものをM0と言います(図3)。

それでは胃癌を早期胃癌と進行胃癌に分けて、その治療方針と当院での新しい取り組みをご紹介致します。図3と図5をご覧下さい。

早期胃癌cT1a, cT1b

早期胃癌に対しては、胃を切らずに内視鏡で病変を取り除く内視鏡切除(EMR, ESD)が出来る場合と胃切除をしなければならない場合があります。胃癌細胞の顕微鏡で見た顔つきや胃癌病変の大きさ、潰瘍をともなっているかどうか等で内視鏡切除か手術かが決まります。当院では外科と消化器内科の合同カンファレンスで良く相談し治療方針を決めています。

当院での新しい取り組みとしては、
@ガイドラインで定められた病変以外の、もう少し大きな病変・潰瘍を伴った病変・もう少し深い病変・顕微鏡で見た胃癌細胞の顔つきが未分化型の病変に対しても、適応拡大病変として或いは国立がん研究センター等との合同臨床試験として、内視鏡切除を行っています。詳しくは外科もしくは消化器内科でご相談下さい。
A手術になった場合には胃のリンパ節の切除範囲をやや手控えたD1+郭清手術が行われます。私どもはそれに加えて、胃や内臓に分布する迷走神経を積極的に温存し術後の消化管機能の温存や胆石の予防を図ったり、通常は切られてしまう胃から十二指腸への出口である幽門輪を温存する手術を行うことで術後の逆流やダンピング症状を防ぎ良好な体重維持を目指しています。これらの手術は最近では、お腹を大きく切らない腹腔鏡手術で行うようになってきており、痛みの少ない術後の早い回復が得られるようになってきています。
B早期胃癌は治る癌です。腹腔鏡の手術はお腹を切る開腹手術に比べてまだまだ新しい技術ですので、治る癌がきちんと治っていることを確かめながらその適応範囲を広げていくことがとても重要です。やみくもに何でもかんでも腹腔鏡手術と言う考えはとても危険であり、開腹手術と同じくらいの治癒率が得られるかどうかを、私どもや国立がんセンターが加入しているJCOG (Japan Clinical oncology group)と言うグループで現在早期胃癌を対象に臨床試験中です。

進行胃癌cT2/T3/T4a/T4b

内視鏡切除の適応はなく、全例手術が行われます。胃や膵臓の周囲のリンパ節と共に胃が切り取られます(D2郭清手術)。

当院での新しい取り組みとしては、
@進行癌の中にはたとえ根治手術を行っても早期に再発してくる場合があります。これら外科切除だけでは根治が難しい対象として、胃の広範囲に及ぶ癌(大型3型、4型胃癌)・リンパ節が癌の転移で大きく腫れ上がっている胃癌(Bulky N2/N3)・腹膜に癌細胞がこぼれてしまっている胃癌(P1/CY1)などがあります。これらの対象には術前から積極的に最新の化学療法を行い、癌を小さくすることで手術の根治性を高め、肝臓や骨などに潜んでいる癌細胞を死滅させることで再発を抑え治癒することを目指しています(図6)。これらの化学療法の試みの多くは、国立がん研究センターをはじめとした他の癌専門病院との共同臨床試験として、その科学的妥当性・倫理性に十分配慮して、患者さんの不利益にならないよう行っています。
A外科手術の無駄を省き進歩させる試みを行ってきました。胃癌細胞はリンパの流れに乗り最終的には背骨の前にある大動脈の周囲のリンパ節に流れ着きます。それなら先回りして腫れていない大動脈の周囲のリンパ節を掃除(拡大郭清)すれば胃癌の治癒率は上がるのではないかと考えられた時期がありましたが、そうではないこと・無駄な予防的な拡大郭清を行ってはならないことを国立がん研究センターなどと一緒になって証明してきました。
B一方、それら拡大郭清の経験は現在も生きています。癌の転移で大きく腫れ上がっている大動脈の周囲のリンパ節を掃除せざる終えない場合が時にあり、その手術には一般病院にはない拡大郭清手技への習熟が要求されます。
C進行胃癌の場合には、手術後の抗癌剤治療も治癒するためには大切です。ガイドラインに掲載されている標準治療では不十分な場合も多く、術後補助化学療法の開発を積極的に行い、日本のオピニオンリーダーの一つになっています。

切除不能胃癌M1

来院時に既に癌が肝臓や骨・腹膜に広がっている場合には手術は行いません。化学療法や放射線療法が行われます。

当院での新しい取り組みとしては、
@過去10年間にわたり様々な臨床試験を多くの癌専門病院と行い、沢山の新しい抗癌剤治療を世に送り出してきました。手術だけではなく化学療法の分野でも当院の知名度は高く、未だ世に出ていない新薬の国際共同試験なども行われており、患者さんに最新の抗癌剤治療を安全に提供することを心がけています。
A最新の化学療法を駆使することで肝臓や腹膜の転移を小さく限局したものにし、胃と転移臓器を含めた根治切除を可能にすることを目指しており(conversion therapy)、大阪大学消化器外科と共同で臨床試験を行っています(図7)。

高齢者対策

胃癌患者さんは年々高齢化してきています。そのため、何らかの全身疾患を抱えた患者さんが増えてきていますが、脳内科・循環器内科・腎臓内科などとの円滑な連携により、他院で治療が難しいと考えられた患者さんに対しても積極的に加療を行っています。またご高齢の患者さんは手術後の少しの絶食期間ですぐに飲み込むこと(嚥下)が下手になったり、そのために肺炎(誤嚥性肺炎)をおこしたりします。手術の前後には嚥下・呼吸のリハビリや早期からの栄養介入を積極的に行い、患者さんの合併症のない回復に努めています。

以上、当科の胃癌に対する取り組みの概略を述べました。
最新かつ最良の胃癌治療を提供することを目指していますので、どうか安心して当科をご受診下さい。

(文責 藤谷和正 2012/09/14)
















ページのTOPへ