国立大阪病院 外科のご案内
 

●アルコールと食道癌

夏の暑いときのビールは格別ですが、もしあなたがビール一杯のアルコールで顔が赤くなるタイプなら食道癌の発生にご注意を。

発ガンには、環境因子と体質的因子が関与しています。食道癌の発ガンにはアルコールとたばこの関与が示唆され、食道癌患者に大飲酒家やヘビースモーカーが多いことは経験的によく知られてきました。しかし、すべての大飲酒家が発ガンするのではないので当然発ガンに至る体質的因子が関与していることが推定されます。
食道癌の発ガンに関与する体質的因子として、アルコール代謝関連酵素の遺伝的多型が関与していることが明らかになってきました。
アルコールを飲んでから顔が赤くなるフラッシング反応が引き起こされるのは、アルコールから代謝されたアルデヒドによります。アルコールをアルデヒドに代謝するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)には、ALDH2*1/2*1の正常型と、ヘテロ欠損者(ALDH2*1/2*2)とホモ欠損者(ALDH2*2/2*2)が存在し、アルコール飲酒後の血中アルデヒド濃度がそれぞれ6倍、19倍となりフラッシング反応が引き起こされます。ALDH2*1/2*2の人は、少量飲酒の場合健常人と比較して8.84倍の食道癌発ガンリスクがあり、3合以上飲酒した場合114倍の発ガンリスクがあることが判明しました。アンケート調査によると、過去にフラッシング反応があったケースでALDH2がヘテロである確率は95%であり、以前もしくはお酒を飲み始めた頃にフラッシングを経験した人はADLH2がヘテロタイプで、食道癌のハイリスクと考えられます。さらに、かなりの量を飲まれてきた方は特にハイリスクだと考えられます。当科で手術を行ってきた食道癌の患者さんの多く約80%近くはまさにこのタイプの患者さんでした。

それなら、私は大丈夫だ、顔は赤くならなかったと安心される方もおられるかとおもいますが、安心するのはまだ早く、フラッシング反応のない体質でも発ガンリスクとなるタイプがあります。それは、アルコール脱水素酵素(ADH2)の活性の低いADH2*1/2*1のタイプの方です。このタイプではアルコールからアルデヒドへの代謝が遅いので血中アルデヒド濃度の上昇が起こらずフラッシングが起こりません。しかし、活性の高いADH2*2/2*2やADH2*1/2*2のタイプの人に比較して7.1倍の発ガンリスクが証明されました。また、ALDH2がヘテロでADH2活性の弱い人は40倍の発ガンリスクがあることも判明しました。

これらの結果は、国立久里浜病院の横山先生を班長として当院および国立がんセンター、市立川崎病院が参加している厚生労働省の班会議の結果から判明しました。いずれ最終結果を一流英文誌に発表できると予想しています。

ともかく、フラッシングのあった方は要注意です。でも、どないしたらええね、とお尋ねの方もおられると思います。幸い、ルゴール染色を用いた内視鏡検査で早期の食道癌の発見が可能です。ご心配の方はぜひ内視鏡検査をお受け下さい。食道癌の診断および外科手術は、専門的にある程度以上の症例数を取り扱っている施設とそうでない施設との格差があることが証明されています。また、病院の規模も影響を与える因子です。当科では十分の症例数と経験を有しています。また、病院の規模も大きく手術や術後を支えるスタッフも豊かです。

安心してうまいビールを飲むために、気がかりな方は検査を受けましょう。

(辻仲利政)


●胃癌術後早期経口摂取開始について

従来より幽門側胃切除術後の経口摂取は、術後4−5日たって排ガス確認した後、流動食が開始され続いて分割食(段階食)が提供されてきました。
当院では、1999年5月以後、幽門側胃切除術をうけた早期胃癌患者39例を対象に、術後1日目からの飲水、術後2日目からの流動食の開始、患者決定による三分割粥食の開始を行う摂取スケジュール(自由食スケジュール)を試行して来ました。従来の段階な摂食スケジュールとの栄養学的比較を行ったところ、自由摂取スケジュールは安全に実施可能であり、術後在院日数も有意に自由食群が短かいことがわかりました。また、退院後の食生活について調査したところ、術後6ヵ月目の血清アルブミン値や必須アミノ酸と脂肪酸の摂取量が自由食群で有意に高いことも判明しました。
術後早期からの経口摂取は開腹胃切除後でも十分可能であり、術後在院日数の短縮化や栄養学的指標において早期自由食摂取の有用性が認められました。今後、適応を拡大し、両群の比較臨床試験として当院IRBに申請中であります。また、腹腔鏡補助下胃切除術との比較も行なう予定です。
従来の何の疑いもなく行ってきた医療を、食事スケジュールも含めて見直さなければならない時代になってきています。

(平尾素宏)


●超縮小手術を可能にするセンチネルリンパ節生検の臨床応用に向けて

a )背景
癌に対する外科的治療
本邦においては悪性新生物の罹患率ではもともと胃癌の発生率が高かのが、近年では乳がんや大腸がん、肺がんの罹患率が急速に増加しています。本邦死亡原因の第一位である癌の治療対策の促進は国民的要望であり、また急がれる国家的医療課題でもあり、政策医療の重要な一部門です。
原発性癌に対する外科的治療は治療戦略上最も重要な治療法であり、これら原発性癌症例の約6-7割の症例では外科的切除が行われています。外科的切除は通常原発巣切除とリンパ節廓清を行なうことが基本です。しかし、リンパ節郭清は手術侵襲を大きくするため、術後合併症発生の頻度を増し、患者のQuality of Life (QOL)を著しく損なう原因の一つとされています。原発乳癌症例ではリンパ節転移を伴わない症例は6割であり、不必要な郭清がかなり行われており、乳癌以外の癌疾患でも同様な状況です。癌のリンパ節転移を術前に正確に診断する方法がどの癌腫においても確立されていないために、ほぼ全例にリンパ節廓清は施行されているのが現状です。リンパ節転移を正確に診断できれば、不必要なリンパ節郭清を省略し、術後合併症が少なく、Quality of Life (QOL)の向上した外科的治療戦略を展開することが可能となります。

b)リンパ節転移診断のためのセンチネルリンパ節生検-センチネルリンパ節仮説原発腫瘍から流出するリンパ流が最初に到達するリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。癌のリンパ節転移は、原発巣から癌細胞がリンパ流にのってセンチネルリンパ節に到達し、転移が形成され次々と転移が広がっていくと考えられています。それゆえ、センチネルリンパ節に転移が形成されていなければ、それより下流のリンパ節に転移が広がっていないと判断できます。

-センチネルリンパ節の検出方法
色素や少量のTc-99mコロイド製剤を原発巣周囲に注入するとコロイドはリンパ管に流入し、通常ではセンチネルリンパ節に集積します。色素やガンマカメラやガンマプローブを用いて放射能を検出することによりセンチネルリンパ節を容易に検出でき、それらをガイドに容易に摘出することができます。外科疾患領域では乳癌で最も研究が進んでいます。

c)当科での研究の進捗状況
色素法単独ではセンチネルリンパ節の同定率は70%で、センチネルリンパ節に転移なしと判定されながら非センチネルリンパ節に転移を認めた偽陰性率は20%と極めて憂慮すべき結果でした。この反省から2000年11月よりTc-99mコロイド製剤を併用した研究に取り組んでいます。現時点では30例と検討症例がまだ少ないのですがセンチネルリンパ節の同定率は97%で、偽陰性率は0%と満足いく結果です。これは欧米での報告とほぼ同様であります。

d)臨床応用に向けて
欧米ではすでにセンチネルリンパ節生検を利用したリンパ節郭清の省略の是非に対する大規模無作為比較臨床試験が開始されていますが、標準的治療法に組み込まれるのはまだ数年先になるものと思われます。本邦においては種々の障害からこのような臨床試験が全く計画されていません。むしろ、本邦では欧米のevidenceにただ乗りしてセンチネルリンパ節生検が臨床応用されていくものと思われます。最近、欧米だけではなく本邦においても患者サイドからセンチネルリンパ節生検を利用した非郭清手術の申し出が徐々に多くなっています。しかし、まだ臨床的有用性が比較臨床試験で明らかにされていない段階でなし崩し的に臨床応用されることに憂慮する立場から、当院では臨床試験(自主研究)としてセンチネルリンパ節生検を利用した非郭清手術に取り組む準備をしています。

(増田 慎三)


●膵管胆道合流異常症と発癌

「膵管胆道合流異常症」はあまり聞き慣れない言葉ですが、膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性奇形で、膵胆道系の発癌要因の一つとして、最近注目されてきている病態です。当病院では以前より内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)により診断を行ってきましたが、ERCPより低侵襲に膵管と胆管を描出できるMRCP(MRIにより膵液、胆汁を描出する画像診断法)を発展させ、セクレチン負荷Dynamic-MRCPを施行し、より生理的な状態での総胆管への膵液逆流を検討しています。
 1991年4月より2001年6月まで、過去11年間に当院で施行したERCPは949例で、48例に膵管胆道合流異常症を認めました。これら48例のうち胆道癌13例、膵頭部領域癌6例が発生しています。一方膵管胆道合流異常症には、胆石症が合併することが知られています。当科では腹腔鏡下胆嚢摘出術においても、必ず術中造影を施行し、総胆管の検索を行うとともに、膵管胆道合流異常症の有無を確認しています。その結果膵管胆道合流異常症が疑われる場合は、セクレチン負荷Dynamic-MRCPを施行し、適切な予防手術(胆嚢摘出術または分流手術)を施行するとともに、厳重な経過観察を行っています。
 今後は、セクレチン負荷Dynamic-MRCPの精度および解像度を上げ、日々の臨床に役立てるとともに、豊富な症例数と手術材料から、膵管胆道合流異常症における発癌のメカニズムの解析にも着手する予定です。

(武田 裕)